日々草

「つれづれなるままに・・」日々の事を記す。

石のとれたブローチ

2017-10-29 | ドレステリア
さらさらと鉛筆が動いている。
迷いなく描かれる線から生まれてきたのは、目に星をもった女の子。
小首をかしげながら、大きな目であたしをみている。

あたしの知っている限りすべての可愛いさを、詰め込んだ女の子が生み出される指先が不思議でしかたなかった。キラキラを振りまくディズニーの魔法みたい。
もっともっと描いてとせがむと、どんどんでてくる可愛い女の子たち。
なぜ、その人は飽きもせず何枚も、幾人もの女の子を描いてくれたんだろう。


友だちと呼ぶには年の離れた妹みたいなHちゃんの家に遊びに行く。
彼女はHちゃんのママであって、母の友人でもあったから、いつだって何人かの大人と子供がいたはずなんだけど、思い出すのは小さな部屋に彼女とあたしの2人。
静かな光景。
飽きもせず、絵を描いて、飽きもせず、その指先を見ていた。
しんとして、鉛筆の走るさらさらという音が、聞こえるのみ。


可愛いものが好きで、描く絵のように華があった彼女はあの時、何歳であったのだろう。
今のあたしよりもうんと若く、憧れの姉のようで、Hちゃんのママという存在より確固としている。友達のママというより、自分の友達のような親近感があったのだ。
もうHちゃんと遊んだ記憶は曖昧だけど、その人の柔らかなパーマがかかった髪とピンクのセーターは、はっきりと思い出すことができる。
彼女と呼ぶにはおこがましいけど、あたしとHちゃんの年の差より、あたしと彼女の方が年の差が近くなってなっているから許していただこう。

彼女からもらった青いトルコ石とクオーツのブローチ
おもちゃではない初めてのブローチ。
今では石もとれてしまっているし、アンティークにもなりきれていない古いだけのブローチだけど、とっておき。



「使って」と渡されたブローチは宝箱に入れられて、今でもあたしのジュエリーBOXのなかにひっそりと眠っている。
宝箱経由のジュエリーボックス行き。
いつだって大事な物入れのなかでも特別扱い。


強い雨、週末、暗く寒い日曜日の揃い踏みでうんざりしながら、少女漫画な妄想世界に浸かって生きている三浦しおんの抱腹絶倒なはずのエッセイを読んでいて、そういえばあたしの少ない少女漫画の記憶の半分が彼女の絵だったことを思い出して、笑いどころではなく、古いブローチをしみじみと思い出したのだ。
Hちゃんも大きくなり疎遠となって、もちろんママである彼女とも顔を合わせる機会なんて皆無で、お互いがお互いの存在を思い出さなくなった頃、彼女の訃報をきく。
なにかと苦労の多い人生だったようであると伝え聞いた。

こんな日に少女漫画ときくと、まっすぐに正面をむいて微笑む女の子の絵を思い出す。
目には大きな星がひとつ、小さな星がふたつ。
そして、そっとあのブローチをおもうと、悲しみに鬱々とするより、深閑とした透明な何も描かれていない白い画用紙のような気持ちになる。
彼女の描く乙女の瞳のようなクオーツにトルコ石。


嬉々と貰って帰ってきたあの絵は、いまどこにいってしまったのだろうか。
月曜日の空はこんなトルコ石の空の台風一過になるだろう。



コメント
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