日々草

「つれづれなるままに・・」日々の事を記す。

散歩がすき  いちばん好き

2014-10-06 | Weblog
買おうかやめようかと考えながら思いきって買ってしまうときが、買い物の本当の面白さだと思うし、流行というのは買わせかたのうまさの変化なんだと考えるようになった。


何か買って帰らないと、その晩は原稿を書く元気がなくなってしまうのである。



カルダンのスマートな化粧瓶のアフター・シェーブ液
ウンガロやバルマンのスカーフ
ギー・ラローシュのボールペン



ほしくなるからこそファッションは生まれるのではないかと考えはじめるのであった。
そして合間にはトルストイの『戦争と平和』・ドフトエスキーの『カラマーゾフの兄弟』、ジョイス・メイナード。
池波正太郎の『鬼平犯科帳』を語らせれば、ヒッチコックやらチャールズ・ディゲインズにまで話が及んでくるんだから読む方はそれなりに心してとりかからねばならない。



植草甚一。




いつかは手に取るだろうと思っていたけど、この時までなぜか表紙を開くことがなかった植草甚一の本、 はじめての一冊『いつも夢中になってしまったり飽きてしまったり』。

伊丹十三や開高健のように洒脱さのなかに確固として存在する特有の美意識とそれを伝えきるだけの博識ぶりで本を読む愉しみというのはこういうことだろうと感じ入るのだ。
まだ見たこともないNYの古本屋の情景が浮かび、聴いたこともないJAZZが頭の中でグルーヴを生み出す。


文章は踊る。


踊る文章に掴まれて、揺さぶられてこの雨の中、植草甚一にようにブラつき、買物いやいや散歩をする。
時間をかけ、お気に入りをゆっくりと見定める愉しみ。
植草甚一の言葉でいうとこういうことである。


このあいだから散歩するのに、とてもいい季節になってきた。
ぼくは散歩がいちばん好きだから、ついこんな書きだしになってしまったけれど、
僕の散歩は何かしら買って帰らないと散歩したことにはならない。
ああくたびれちゃったと帰ったとたんに両足を投げだして、がっかりしたように言うのはなんの収穫もなかった日だけだ。たいてい帰るとすぐに買ったものを包装紙から出して机の上に置き、そうして見とれているので、そのあいだに疲労感はどこかへいってしまっている。



あたしの言葉ではない。
植草甚一が言っているのである!
あたしの心を声を文章にしたんじゃないかと思うのである。
あたしも植草甚一と同じく散歩が好き。




散歩がいちばん好き。




そして机の上、エルメスの香水。