原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

楽するのってつまらない

2008年11月24日 | 仕事・就職
 前回の記事「風俗への入り口」と共通点があるのだが、今回は中学生の男の子の「楽にもうけたい」相談を取り上げよう。


 朝日新聞11月21日(金)夕刊の“こころ”のページ「悩みのレッスン」の今回の相談は、男子中学生による「楽にもうけたい」という内容であった。

 早速、この相談内容を以下に要約する。
 学校のHRで将来どんな職業につきたいか、と聞かれたので「楽してもうかる仕事」と答えたら、先生に「ウケねらいか?そんなのはダメだ」と一喝された。でも、僕は本気でそう思っている。仕事は人間にとって単に生活できるお金を稼ぐ手段で、それなら楽な方がいいに決まっている。苦労が多い仕事が貴いとは限らない。「仕事とは苦労を伴うものだ」「やりがいのある仕事を見つけるべき」等のお説教は全然ピンとこない。僕の考え方は間違っているのか?

 この相談に対する今回の回答者は哲学者の森岡正博氏である。では、以下に森岡氏の回答内容を要約してみよう。
 あなたの考えは間違っていない。多くの大人たちも、そういう仕事に就けたらいいなあと思っている。私も自分の書く本がベストセラーになって欲しいなあと、毎日思っている。ただ、注意しておくべき点がいくつかある。
 まず思いつくのは、競馬などのギャンブルだ。ところが、世の中にはギャンブルで人生を狂わせてしまう人がたくさんいる。破産しないようにギャンブル生活を続けるのはとてもしんどいし、楽ではない。
 家がすごくお金持ちで仕事をせずに暮らしていける人もいる。ただお金持ちのまわりには何とかしてそのお金を吸い取ろうとする人々が群がってくる。それに騙されずに資産管理を続けていくのも楽ではない。
 あなたがギャンブラーでも金持ちでもないのなら、楽して儲かる仕事を自分で作り上げていくしかない。誰もそれを与えてくれないから、自分で作って成功させてどんどん稼ごう。でも大もうけして資産を築き上げるまで、結構苦労すると思うよ。楽そうに見える株取引ですらすごくしんどいものだ。
 結局、「楽をするためには少々の苦労を引き受けないといけない」という考え方でやっていくのが一番賢いと思う。


 私が将来の職業について具体的に考えたのは就職試験を受け始めてから、すなわち実際の就職直前であったかもしれない。その点、この男子中学生はたとえ“楽してもうかる仕事”と多少短絡的であるとはいえ、将来の職業像を早くも描いている点、私の上を行っているようにすら感じる。

 そして私も高校生の頃、この相談者の中学生の彼同様の感覚を持った経験がある。
 私は高校生の時に親から将来の職業に関してある“縛り”を課せられた。それは「一生身を助けるような“確か”な職を身につけるべく精進せよ」という“縛り”であったのだが、これが当時の私にとって大きな重荷となってのしかかっていた。
 時代背景的にはまだまだ男尊女卑思想が蔓延っている頃で、周囲の女友達からは“私立の女子大にでも入って花嫁修業をする”等の言葉が普通に発せられる時代だった。片や私は親に命じられた通り“手に確かな職をつける”べく国立理系(理系は元々私自身の希望)を目指す訳なのだが、受験科目数が私立文系希望の彼女達の2、3倍になるため勉強量も自ずとそれに比例する。 私も私立女子大にでも入って“チャラチャラ”したいのに私は貧乏くじを引かされていると、当時どれ程本気で思ったことか…。


 ただ人生経験を経て職業経験を重ねてきた今実感するのは、森岡氏もおっしゃる通り、“楽してもうかる”仕事とは皆無であることである。自分自身がその仕事に感情移入できて没頭できる程、仕事とはハードなものである。
 そういう訳で、私の場合今まで“楽な”仕事の経験がないのであるが、おそらく“楽な”仕事はつまらないのではないかとこの年齢に達すると想像できるのだ。
 仕事に限らず物事すべてに共通であるが、人間が生きていく上で“達成感”が最重要であると私は自分自身の様々な経験から実感する。この“達成感”を得たいがために人間は生き長らえているとも言えるのではなかろうか。そしてその“達成感”とは苦労の大きさに比例して大きくなるものでもあろう。

 前回の「風俗…」の記事のコメント欄でも述べたのだが、たとえ風俗業で働いている女性達であれその仕事にプライドを持ち、真に“達成感”を得ているのならば私は何も申し上げることはない。もしもそれが一切なくただ“高給”のみに釣られ日々流されて暮らすのは何とも悲しい。 


 昨日は“勤労感謝の日”だった。将来何らかの職業に就く若年者に対しては、今回の回答者の森岡氏が書かれている通り、結局は「楽をするためには必然的に少々の苦労を引き受けることになる」と、とりあえずは伝えてあげるのが適切と考える。
 多少の苦労をして“達成感”が得られてこそ、自分自身の勤労に感謝できる日が訪れるのであろう。 
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12 Comments

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楽は自分で決めるもの (ドカドン)
2008-11-24 20:33:45
天職に当ったら、その職は楽だと感じる事が多いと思いますね!
多分、勉強を頑張った人には、職の選択肢が増えますから、天職に当る確率が、勉強しない奴よりも高いと言えます。
選択肢を多く持ちたければ、勉強するのがいいし、社会的な常識も身に付けたい。
そして、働いていて天職と感じたらハードでも楽な仕事と感じるでしょう。
楽をするためには少々の苦労を引き受けなければならないは、その通りだと思います。
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Unknown (田舎人)
2008-11-24 22:14:17
コメント有難うございます。当方のネット環境が悪く風俗の入口、そして今回もコメントを書いたんですが投稿できずでした。
楽して稼ぐのか、稼いで楽するのか、似ていて非なりですね。中学生の言うことに何の反論もありませんし誰でもその時期には思いがちかと思います。蟻のイラストを見て私の息子と友達の会話を思い出し、コメントいたしました。息子は、いわゆる高校球児でした。しかし、練習終了後夜11時位まで学校に残り勉強をしておりました。何とか、クラブを引退するまで2年半毎日続けておりました。現在息子は公務員として頑張っております。友達は言うそうです「お前は将来安定してるからいいよな」と。息子は曰く「お前らが遊んでいる時、俺は苦労してたんだ」今も、仕事の為に帰宅時間は9時過ぎです。でも、彼の今の努力が将来の安定であったり、彼なりの幸福に結びつくものだと信じております。最後、息子自慢になってしまったような気がしますが、親の、腹を見せて育てた息子です。反面教師かな。
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これも教育の問題に帰結しますね。 (ガイア)
2008-11-25 02:20:07
男子中学生の発想は素晴らしいと思います。

短絡的な発想と言えばそれまでですが、寧ろそれに対して「ウケねらいか?そんなのはダメだ」と一喝する中学校の先生に問題を感じます。

一喝するだけではそれ以上の発展的な指導が出来ないです。この先生の指導力に限界を感じます。

盛岡正博氏のコメントは適切であり、中学生も納得できると思います。

原さんの論理展開も的を得ている事は勿論です。

余談ですが、日本の学校教育は何故奇麗事や建て前で指導するのでしょうか。楽をして稼ぐ事を肯定した上で、その背景に在るものを確りと教えれば良いのではないでしょうか。

「子供が小さい時からお金の大切さや稼ぎ方、それらの背景を教えない、だから安直且つ短絡的な思考や行動に走る若者が増える。家庭内教育に於いても学校教育に於いてもこれらの教育の視点が欠落している」と私は考えます。

世界の人口の2割がとてつもないお金持ちで、後の8割が2割の人々に支配されていると言われます。所謂ニッパチ(2:8)の法則です。サシミ(3:4:3)の法則もあります。これが現代社会の姿だと思います。環境・エネルギーの諸問題も行き着くところはこれらです。

小学校や中学校の先生に望みたいのは、もっと多面的な観点から指導して頂きたいと言う事です。先生自身の価値観を述べる事も大切ですが、それのみに止まる事なく、時には子供たちが目を輝かす様なカルチャーショックを与えて頂きたいと思います。無理な要望でしょうか。
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Unknown (江古田のヨッシー)
2008-11-25 14:45:06
一番幸せなのは天職が儲かるということなのですが、天職を見つけるのも難しいことですし、いつまでも通づけられるかも解らない、スポーツや芸術などで,続けられる人は,かなりうらやましく思いますが、傍から見るほど持続するのは難しいのかもしれないし、
人間の永遠の課題ですね。生命を全うする時によかったと思える人は、やはりこれも2割くらいしかいないのでしょうね。
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Unknown (モックンモーガンフィールド)
2008-11-25 17:51:26
何か、イイお話です!?
それにしても、ラクしたい・・・
何か純粋で単純で根源的なオハナシのような気がします。
村上龍氏の作品【69】のあとがきで”楽しく生きるにはパワーが必要だ。私は自分を落ち込ませてきたあの時代の教師たちに、私の笑い声をずっと聞かせ続けてやりたい”と書いてありました。
”ラク”というより”楽しめる”かどうかっていうことにたどりついてくれたらと思えます。
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Unknown (右の脳しかない館長)
2008-11-25 23:58:05
名前の通り、右の脳しかない格闘技道場を主宰して
その業界で何とか飯を食ってます。
みなさんのコメントを読むとごもっともと納得させられることが書いてありますね。

そう言う僕は好きなことをして生きてますが理論は苦手なので皆さんのコメントに感心させれれるだけです。



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若いうちは、苦労は買ってでもしろ (さん)
2008-11-26 07:02:08
「楽して儲けたい」という発想自体を中学生が持つのは素晴らしいことだと思いますよ。持ち続けて、大人になって成功してほしいです。
でも、それは、大人になってから。
「若いうちは、苦労は買ってでもしろ」という言葉が大好きです。ぜひ、中学生のうちはいろいろな経験をしてほしいです。
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ドカドンさん、田舎人さん、ガイアさん、ヨッシーさん、モックンさん、館長さん、さんさん、それぞれのご意見をありがとうございました。 (原左都子)
2008-11-26 08:36:20
ここのところ慌しい日々を送っておりまして、いただきましたコメントを溜め込んでしまい申し訳ございません。
まとめて返答申し上げます。

ドカドンさん、まさに私は若い頃親に負荷をかけられたお陰で人よりも勉強に励んだ方の人間かもしれません。当時は本当に何だか貧乏臭いし地味だしほとほと嫌で、親を恨んだものですが、確かにその学が後々の私の人生の身を助けてくれていることは事実です。そして若かりし日々の学習習慣のお陰で努力が達成感をもたらすことも学び、学ぶ喜びも学んだように思います。

田舎人さん、初コメントをありがとうございます。
おっしゃる通り、楽に稼ぐのと稼いで楽するのとは対極ですね。
おそらく田舎人さんのお考えは私の親の考えに似ていますし、そして息子さんの人生は私に似ているのかもしれません。蟻の人生って馬鹿にしたものではなく、充実感があって結構楽しいものですよね。

ガイアさん、教員に多くを望むのは元々無理な話です。教員採用の実態を考慮しても万能な教員が採用できているはずもありませんし、研修制度も不十分です。もっと様々な分野で人生経験を積んだ人格者でも雇えばいいのですが、民間人だからいいという訳でもなく、例えば某和田中の元校長のように、自分の野心で学校を利用したあげく自分の知名度だけ上げて、とっとと学校を去ってしたり顔でマスコミに出まくっているしたたか者もいますよね。
とにかく、生徒や保護者側が学校や教員に頼り過ぎずに主体性を持つことだと思います。
また教育論になってしまい申し訳ありません。

ヨッシーさん、私も天職といえるものに巡り会えてはいないように思うのですが、私はもし今死が訪れても「いい人生だった」と思える自信が少しあります。(十何年か前に癌に罹患して死を意識した時にもそう思えました。幸い、まだ生き長らえていますが。)それは、自分なりの達成感が得られるように日々自分をプロデュースしつつ生きているつもりだからです。単に自己満足の世界に過ぎないですけどね。

モックンさん、初コメントをありがとうございます。
手短な文章なのですが、モックンのコメントは多くを語って下さっているように私は感じます。
「楽」と「楽しむ」は字は同じなれど、全く異なる意味合いがあると私も考えております。「楽」という言葉には主体性がなくエネルギーが感じられないのです。私は元々好きな言葉ではありません。「楽しむ」ことはもちろん私も大好きです!

何をおっしゃる館長さん。館長さんほどエネルギーに満ち溢れご自身のお仕事を愛し、前向きに生きていらっしゃる方も珍しいのではないでしょうか?
私もいつも館長さんのパワーをいただいています。

さんさん、こういう相談を綴って新聞に投書できるこの中学生は決して道を踏み外さないと私は思います。きっと、努力する青年になり大人になって充実して生きていくことでしょう。

皆さん、貴重なご意見をありがとうございました。
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too late? (issei)
2008-11-26 16:28:35
遅くなりました。「楽をして報酬を得たい」と言う事だと思いますが、働き始めたなら自然に理解して行くものと思います。傍目には楽な仕事と思っても「そうじゃない」事が殆んどだと思います。楽して儲けていると思われた堀江さんでも違法行為までしなければ資金を調達できなかったし、出来ても犯罪者になろうとしています。
 若い頃、新着任した上司が「苦しみを避けて通るな」と言う指導方針を示したとき、皆で「嫌な奴が来た」と反発しましたが、要領ばかり良くて身体を動かさない人の評価は決して良いものではないように、どんな仕事でも与えられた任務を淡々と忍耐強くこなす事の重要性を後になって感じました。
 「楽して儲かる」と言うのは往々にしてギャンブル性の高いものに多いようです。従ってリスクも大きいと考えられます。一般的に「楽をして」と言うとホワイトカラーのイメージだと思いますが、工業立国の日本はブルーカラーの理工系重視を真剣に考える時機なんだと思います。必ずしもブルーカラーがキツイ仕事だとは思いませんが。
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isseiさん、やはり“達成感”ですね。 (原左都子)
2008-11-28 09:25:50
私も長い独身時代に散々いろいろな職種を経験してきております(あえて自分の専門外の職種にも好き好んでチャレンジしてきています。)が、仕事の充実感は職種ではなく自分自身の“達成感”ですね。
世間の評価が高い職種だから満足というものでもありません。この私とて間接的に多少そういう空気は感じるのですが、そういう上っ面の満足感というのは一過性です。どういう訳かその一過性の満足感に一生すがりつこうとする人種が少なからずいるものですが、きっと心の中は満たされず空虚感が漂っていることでしょう。

何度も既述しましたが、風俗だっていいのです。本人がプロ意識を持ってその仕事に臨み“達成感”を得て、人生が充実しているのならば。多くの風俗業の人がそうではなさそうなところが困りものです。
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