原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

再掲載 「突然訪ねてきた男友達」

2019年08月22日 | 雑記
 本日紹介する再掲載ものは、公開後11年が経過した今尚スタンダードに人気のあるエッセイです。

 表題に「男友達」と記載した通り、決して“恋愛もの”ではありません。

 今思い出しても、実に“不思議な物語”です。 
 それでは、本文をお楽しみ下さい。


 私は長い独身時代を通じて基本的にずっと女の一人暮らしだったのだが、時々彼氏以外の男性が自宅に一人で訪ねてくることがあった。 特に20歳代前半の若かりし頃にそういう機会が何度かあった。
 
 例えば水道がポタポタ水漏れしたりする。そういう話を職場ですると、「じゃあ、今日の帰りに寄ってパッキンを替えてあげよう。」と親切な男性が助け舟を出してくれる。
 ある時はオーディオの接続に困惑している話になると、音楽関係の同趣味の友人男性がそれの接続に来てくれる。
 多少迷惑な話では、夜遅い時間に酔っ払って私の部屋のドアをたたく職場の先輩男性もいた。これは即刻お引き取り願ったが、次の日「酔っていたとは言え申し訳ない!」と平謝りだった。

 そんな中で、あの訪問の意図は一体何だったのだろうと未だに不可解で不思議に思う男友達の突然の訪問があった。20歳代前半の頃の話である。

 休日前の夜9時頃のことだった。 一人で部屋でくつろいでいると、職場の同年代の同僚男性が突然一人でやってきた。
 その男性は、普段から何人かのグループで飲みに行ったりカラオケに行ったりドライブに行ったりと、比較的仲良くしている友人の一人だ。 フィアンセのいる男性でこちらとしても恋愛感情は全くないのだが、人柄も人当たりも良く“癒し系”といった感じの好感を持てる人物である。
 その男性を「Aさん」と呼ぶことにする。

 誰かがドアをノックするので出てみると、Aさんだった。 Aさんとは上記のごとく普段よりある程度仲良しであるため、突然我が家を訪ねて来てもさほど違和感はないといった感覚である。 そして「近くで用があったから寄った。」と言って、別に酔っ払っている様子でもなくいつものAさんだ。 「じゃあ、どうぞ。」ということで部屋に入れた。
 おそらくお茶でも飲みながら、まったくいつものようにあれやこれやと結構楽しく話をした。 Aさんのフィアンセの話も出た。(昔は人と人とが実によく語り合ったものである。) 何分もう夜遅い時間であるため、そのうち帰るだろうと思っていたところ、Aさんの口から意表をつく言葉が発せられた。
 「泊まっていってもいい?」 
 
 “妙齢”の独身女性の私としては当然一瞬たじろぐ…。
 ただ、若い頃から“場”や“相手の心情”を読み取れる力のある私の直感ではAさんには“下心”はないと判断した。 どうも、純粋にもっと談話を続けたい様子だ。 多少躊躇はしたが、当時おそらくたまたま彼氏がいなかった私はAさんの宿泊を許可することにした。
 6畳一間とキッチンしかない部屋であるため、6畳の部屋で布団を並べて寝ることになる。 来客用の布団というのを特に用意していなかったので、夏布団から冬布団まですべて引っ張り出して適当に二つに分けて敷いた。(人が宿泊する時はいつもそうしていたのだが。)
 そして、二人で別々に布団に入ってまだ談話は続いた。 特にこれといった話の“テーマ”はないのだが、話はずっと途切れずに続き、そのうち二人共寝たのであろう。
 朝になって、私はサンドイッチを作りコーヒーを入れた。 そして、二人で朝食を食べた後、Aさんは“一夜”のお礼を言って帰っていった。

 未だにAさんの突然の夜の訪問の目的が何であったのか不可解なのだが。 ひとつ手探りで思うのは、あの時Aさんは何らかの理由で“寂しかった”のではないか、ということだ。 純粋に誰かと朝までの時間を共有したかったのではなかろうか。

 人間関係が希薄ではなかった、若かりし青春時代の“一夜”の出来事である。



 このエッセイには数多くのコメントを頂いているため、引き続き紹介しよう。
 


成熟した人格? (don-tracy)
2008-09-20 11:37:07
それは、相手を「人として」尊重できる度量の広い人物である証左ですね。
素晴らしい人だと思います。

逆に言えば男と同じ土俵で話のできる、知性を感じさせる女性はさほど多くありません。
そんな左都子さんの魅力をわかってくれた人だったんでしょうね。



充実感が想い出を甦らせる (ガイア)
2008-09-20 11:53:28
若かりし青春時代の出来事ですね。

映画のシーンを観ているようです。
これだけで十分、素晴らしい映画が撮れるとイメージを膨らませました。
一寸違いますけど、秋吉久美子さん主演の映画の数々を思い出しました。

私も若い頃は狭い下宿部屋で一緒に寝ました。
その頃は、女性か男性かを意識しませんでしたから、いや、一寸していたが、とに角、夜を徹して語るのがお互いに好きでした。話し込んでいる内にお互いに眠ってしまいました。
布団には女性の甘酸っぱい香りが残っていました。朝の太陽が眩し過ぎました。

若かりし頃の想い出は、あたかも列車の後部から風景を眺める如く遠近感を伴って遠ざかってゆきます。そして又、フラッシュバックスして近寄ってきます。

想い出は綺麗に浄化され、今も甦るわけですが、私のみならず、原さんの充実された生き方の結果の想い出である、と思います。

今の充実感が遠い想い出を甦らせます。



突然訪ねてきた男友達 (江古田のヨッシー)
2008-09-20 15:39:46
面白い出来事ですね
私は女性の部屋に行ったときは、最初から約束しているか、お酒やお茶の後で、話が終わらないときでしたね。でもうちあけ損ねたときもあるから、わかるような、全然、人種が違うような。いつか会ったら正解がわかるかも知れませんね。



don tracyさん、その頃の私はまだキャピキャピしていました… (原左都子)
2008-09-20 16:25:56
don tracyさん、Aさんは本当にいい人だったのです。でなければ、いくら若くてキャピづいていて判断能力が完璧でない私といえども絶対に部屋には入れません。
そして、二人で寛ぎの時間を共有できました。
Aさんは私を訪ねた理由を明かさないし、そんなAさんの心情も理解できた私は「何で来たの?」などと騒ぎ立てることもなく、時間が経過しました。

その頃の私はまだ若すぎて、don tracyさんがおっしゃって下さるような力量は何もなかった私ですが、確かに“場”を感じて相手に対応出来る力がその頃からあったように思います。



ガイアさん、男と女の違いはあるかと思います。 (原左都子)
2008-09-20 16:40:20
私の場合こう見えて一応女ですので、特に若かりし頃は男性に対する警戒心はいつも抱いていました。
ですので今回の記事内容は、男性でいらっしゃるガイアさんが青春時代を堪能されたのとは若干ニュアンスが異なるかもしれません。

恋愛中の彼氏以外は原則として部屋に入れる訳にはいきません。そういう女性としての護身的ともいえる背景の中、このAさんの訪問は本当に印象に残っているのです。(その内容に関しましては、上のdon tracyさんへの返答をご参照下さいますように。)

それにしましても、ガイアさんがおっしゃるように当時は本当に古き良き時代でした。
“会話”だけで、何も要らないのです。それだけで充実した時間が過ぎ去るのです。
そんな時代を堪能してきている私は今でも人との“会話”を尊重しつつ生きています。何よりも充実するひと時だと感じます。



ヨッシーさん、彼の深層心理が未だにわからないので印象的なのです。 (原左都子)
2008-09-20 16:55:06
ヨッシーさん、普通異性の部屋を訪ねる時はヨッシーさんのおっしゃるような背景がありますよね。私もそうでした。

男性の場合は、そういう時に“打ち明け損ね”ということもあるのですね。なるほど。

私が今回綴ったAさんはそうではなかったと思います。決して私に“打ち明けたかった”訳ではないと当初から感じました。そういった思いよりもむしろ、上のdon tracyさんがコメントに書いて下さったような、もう少し大きな何かを私から感じ取りたいために訪問してくれたような気もします。(ずい分、うぬぼれた話で大変失礼致しました。)



Unknown (ドカドン)
2008-09-21 04:37:48
おはようございます
私も婚約者がいた時、この婚約を破棄してもらいたい、と思った女性のところで中途半端なプロポーズをした覚えがありますね!
結婚は、ある種のギャンブルですから、ここで強く止めてくれれば、止めた女性とくっ付くかもと、期待していました。
でも、結局は、婚約者のところに戻りますね。
例え、結婚を止めてくれた女性と一夜を共にしても・・・。



ドカドンさん、Aさんもフィアンセと結婚しました。 (原左都子)
2008-09-21 06:44:05
私もその時Aさんに少し感じたのは、フィアンセとの結婚に対して何らかの迷いがあるのではないか、ということです。結婚は人生の一大事ですから迷いがあって当然なのですが。

ただAさんはフィアンセの話はしても、そういう事は一切口に出さないので、私も詮索することは控えました。

ドカドンさんの場合は一夜を共にした女性にプロポーズをしたのですね。Aさんに関してはそういった話も素振も一切なかったです。ただ穏やかな時間が過ぎました。Aさんが朝帰るときはさわやかな表情でしたので、一夜でおそらく自分なりの何らかの結論を出したのではないかと思います。



感想 (taka)
2008-09-22 00:03:56
好きな女の家に遊びに行きたい。
嫌いな女の家には絶対に行かない。

シンプルですよ、答えなんか。



takaさん、好きにも色々ですね。 (原左都子)
2008-09-22 09:25:20
端的に要約しますと、takaさんのおっしゃる通りなのです。
部屋に入れる側の女の立場からも、好きな男なら部屋に入れる、嫌いな男は門前払いですね。
ただし、宿泊まで許可する場合の“好き”は、私の場合は“恋愛感情”に基づいて“好き”な場合のみです。
そういう意味では、今回のAさんに対しては恋愛感情は抱いておりませんでしたので、この宿泊許可は例外中の例外でした。
そして、訪問した方のAさんも私に対して恋愛感情は抱いていなかった点で、少し不思議な経験だったのです。



そんな事もあるんですね・・ (まるにじこ)
2008-09-24 14:02:42
原左都子さんこんにちは*

私も読ませていただいていて
きっとAさんは何かに悩んでいて
フィアンセとは別の女性と話がしたかったんだろうなって思いました。

何があったかとは語らず、
その後フィアンセの方とご結婚されたのなら
その時、原左都子さんと一晩語り合えて
いろんな心のもやもや(が、あったのなら)
を整理出来た事に原さんの存在は大きなものだったと思いますよ~!

きっと原左都子さんだからこそ
だったんでしょうね。
きっぱりくっきり性別関係なくわりきって
、でも同性では駄目な時、
とっても頼りになる存在だったんだと思います。

その後はそのご夫婦とはおつきあいはないのですか?



まるにじこさんはこんなご経験はないですか? (原左都子)
2008-09-25 07:27:23
私本人にとりましても、恋愛感情が一切ない相手とこんなことってあるんだなあ、という感覚で印象に残っている出来事なのです。

そして、本文では触れていませんが、その後もまったく同様の友人関係が続きました。

フィアンセの女性とも何度か一緒にグループで飲みに行ったりカラオケに行ったりした記憶もあります。とても庶民的で可愛らしい雰囲気の女性だったように記憶しています。

確か在職中に子どもさんも産まれたように思いますが、残念ながら、私が職場を離れてからはご一家とはまったくお会いしておりません。



Unknown (まるにじこ)
2008-10-12 08:37:41
原左都子さま、おはようございます!
ご無沙汰をしてしまいました。

ご質問を頂戴していて失礼致しました*
私は、
原左都子さんの様な経験は。。という事で
読ませて頂いていた時にちょっと思い出したのですが
会社勤めをしていた20代まだ前半の頃に一人暮らしをしていました。
その時に同じ様に夜遅くに2つ歳上の会社の先輩から
携帯に電話があり(私はその頃では割と早くに携帯を持ちました)、「車で近所通りかかるからちょっと寄っていい?」と。当時は会社員の傍らまだデザイン学校時代の友人達と組んでオリジナルブランドを作りよくファッションショーやイベントに参加していた頃で一人暮らしの家は週末は友達でにぎわっている事も多かったのです。いつもワイワイやっている中でたまに会社の同僚や先輩後輩が混じって食事にいったりスノーボードに出かける事がありました。そのかかってきた携帯に「今日は誰も来てませんよ~!?」って返事したんですが「いいよ、君一人でも」と。っていうか本来、私の一人暮らしの家なんですけど?ですが夜分にやってきてひらすらしゃべり「ほんじゃ、遅いから帰るわ!」って1、2時間程帰って行きました。
「遅いからって・・最初からこんな時間ですやん!」って心の中で突っ込んだ記憶があります。
ふとこんな出来事を思い出しました。
原左都子さんのお話とは似てる様でなんだかちょっと違いますけどね・・・(笑)
またオジャマさせていただきます*☆・.*。



まるにじこさん、やっぱりこういう事ってありますよね。 (原左都子)
2008-10-14 15:59:08
まるにじこさん、ご自身の経験を語って下さってありがとうございます!

やっぱり、こういう事ってありますよね。
でも、普通はこの男性のように帰りますよね。
私も“帰る”ことと当然思っていたのに「泊まっていい?」には一瞬本当に仰天しました。

女性って比較的計画的で、実行までの時間を楽しむような部分もあると思うのですが、男の人って発想が急と言いますか、今やりたい事を今やる、ようなところがあるのかな、とも思います。



なるほど、 (まるにじこ)
2008-10-18 22:25:44
そうですよね、やはり女性と男性では思考回路的なものが違うんだと思います。

それが面白いのかもしれませんが。

夫婦の場合は理解し難くってケンカになる事も・・。

原左都子さんの場合はきっと性別も乗り越えて付き合えるご友人としてだったのでしょうか?
それはそれでステキな事ですよね* 

いいお話をありがとうございました♪


 (以上、2008.09.20公開バックナンバー及び頂戴下コメント群を再掲載したもの。)



 2019年8月時点での私見を述べよう。

 本文中にも記したが、この事件の詳細を現在尚よく覚えている。

 Aさんと私は同い年だったが、私が新卒入社だったのに対しAさんは中途入社で私の方が少しだけ職場の先輩だった記憶がある。
 とにかく“癒し系”というのか“おっとり系”の人物で、目元がクリっとした(失礼を承知で表現するならば)危険感の欠片も感じられない“可愛らしい系”の男性だった。
 
 この料理嫌いな私がAさんのために朝サンドイッチを作ってあげようと思わせてくれるような、そして“下手なサンドイッチ”を作って出しても喜んで素直に食べてくれることが想像できるがごとくの男性だった。

 今思うに、Aさんにとっては我が家への“突然の訪問”とは、コメンテイターの皆さんがお書き下さっているような“大袈裟”な意味や動機ある業ではなく、実際至って“素直で自然な”行動だったのではなかろうか?

 そうだとして、狭きアパートの我が家にて“一夜を共にする”とのサプライズを提供してくれたAさんに、再度感謝申し上げよう。


 それにしても、上京後初めて住んだ“6畳一室に台所付き”のあのアパート空間が懐かしいなあ。
 我が東京生活の原点であるあの狭き空間から、現在に至るまでの我が東京人生のすべてがスタートした。

 その後幾度もの引越を経験しつつ、あれから40年以上が経過した今尚、東京暮らしを堪能する私がここに確かに存在する。

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