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原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

法の適用と解釈(その1)

2008年01月04日 | 左都子の市民講座
法律は解釈論が面白い。
元々理論派の私は法解釈の“理屈っぽさ”にはまってしまい、学業の中途から経営法学へ方向転換したといういきさつがある。

さて、今回の“左都子の市民講座”では、「法の適用と解釈」を取り上げる。
まずはその前半、「法の適用」から解説しよう。


 Ⅰ 法の適用

  ①法の適用とは
    具体的事実、例えば殺人事件などに 法 をあてはめて、合法的な判断を
    下すこと。

    法的三段論法 
                         具体例:殺人
     大前提 … 具体的事実  : AがBを殺したという事実
     小前提 … あてはめる法 : 刑法第199条 殺人
     結論  … 合法的判断  : Aが死刑または無期懲役もしくは3年
                        以上の懲役に処せられる。
       ※参考 法律用語における「または」「もしくは」の位置づけ
              甲 または (乙 もしくは 丙)

  ②法の適用の方法

   A.事実の確定とは
      法を適用するために、その適用の対象である具体的事実の存否、内容
      を正確に認定すること

     事実の確定の重要性
      例:殺人事件
         事実の内容により適用される刑法規定、刑罰の種類、重さが
         異なってくる。
          殺意をもって殺した場合→刑法第199条(普通殺人罪)
          頼まれて殺した場合  →同第202条(嘱託殺人罪)
           ※過失により死に致した場合 →同第210条(過失致死罪)

   B.事実の確定の種類

    a.立証
      事実の確定は原則として証拠に基づいてなされる。
           = 証拠主義
              刑事訴訟法第317条、民事訴訟法第257条
     ○刑事訴訟:実体的真実発見主義
       被告人の自白がある場合も、事実の認定は証拠によることを要する。
     ○民事訴訟:口頭弁論主義
       当事者が口頭弁論で相手方に主張した事実を争わないときは、
       自白したものとみなされる。
    
     立証責任(挙証責任)
      証拠は原則として事実を主張するものがあげなければならない。
       民事訴訟 →当時者
       刑事訴訟 →検察官

    b.推定 「…ト推定ス」「…と推定する」
      周囲の事情や事物の道理から考えて、一応の事実の存在、または、
      不存在を認めること。
      反証可能。反証がない以上、法が一定の事実の成立を認める。
       例:民法第762条2項(夫婦間の財産の共有の推定)
         民法第772条(嫡出の推定)

    c.擬制 「…ト看做ス」「…とみなす」
      法が事実の存在、または不存在を確定すること。
      反証不可。

       例:民法第1条の3(権利能力の始期)と、
         民法第886条1項(胎児の相続能力)との関係
          私権の共有は出生に始まるのが原則であるが、胎児は相続に
          ついては既に生まれたものとみなす。

       例:民法第85条(物の定義)と、
         刑法第245条(電気)との関係
          民法において物とは有体物をいうが、刑法における窃盗及び
          強盗の罪において電気は財物と看做す。

       例:民法第3条(成年期)と、
         民法第753条(成年者としての能力の取得)の関係
          満20年をもって成年とするのが原則であるが、未成年者が
          婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。
         その根拠
          婚姻とは社会の基本的な一単位をつくる行為であるため、
          人格の成熟が前提である。そのため精神的、社会的成熟、
          経済的能力が必要とされる。ゆえに、未成年者が婚姻を
          すると成年者とみなされる。
          では、離婚した未成年者は成年者とみなされるか?
          民法上学説は分かれているが、成年者とみなすのが有力説

        ※参考 学説とは法律学者の打ちたてた理論
              通説 …おおよそ8割以上の支持を得ている説
              多数説…おおよそ6割以上の支持を得ている説
               有力説…(いい加減で根拠はあまりないらしい…)

         
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近代市民法の基本原理とその修正(その3)

2007年12月20日 | 左都子の市民講座
 “左都子の市民講座”の今回のテーマ「近代市民法の基本原理とその修正」はいよいよ最終回です。本記事においては基本原理の残りのひとつ「過失責任の原則とその修正」について解説します。


○過失責任の原則とその修正

   まず、法律用語の意味から説明しよう。

    ①故意…自己の行為が違法な結果を生ずるであろうことを認識しながら
          あえてその行為にでる場合の心理状態。
    ②過失…不注意のため、違法な結果が生ずるであろうことを認識しない
          場合の心理状態
    ③無過失…故意も過失もないこと

   さらに、現在注目されている法律用語に“未必の故意”という概念がある。
     未必の故意…自分の行為からある結果が「発生するかもしれない」と
              知りながら、「発生してもしかたがない」と認めていた
              場合の心理状態
      例: 子どもが病気で寝ている。このまま放置しておくと死ぬかも
         しれないと認識しながら、死んでもしかたがないと思って何の
         手立てもせず放置しておいた結果死んでしまったような場合

         近年では、飲酒運転による事故がこの“未必の故意”に準ずる
         とされる場合もある。

  近代市民法は、個人の“自由な意思”を法律関係の前提とする。
              ↓
  故意、過失により他人に損害を与えた場合のみ、加害者に損害賠償責任を
  負わせる。    →    民法第709条(不法行為)
  
   ※参考※ 刑事においては… 
      例:刑法第38条(故意・過失)
         故意犯を原則とし、過失犯は例外としている

  「過失なければ責任なし」   =  “過失責任の原則”
    すなわち、非難されるべき者に対してのみ責任を負わせるという原則

  これに対し、アンシャンレジウムの時代は 
      「結果責任主義」  無過失でも責任を負わせた

  過失責任の原則により人々は自由に行動できるようになり、これにより
  資本主義経済が今日のように発展した。

  しかし、例えば、
   公害をもたらしている企業が、公害を出すことにより地域住民に損害を
   与えているにもかかわらず、企業の経営者には故意も過失もないという
   理由で責任が問われなくて済むのか。

       ↓  正義と公平の観念に反し、それで済むはずはない

  「無過失責任論」の登場
     特定の加害者と被害者間の法律関係においては、過失がなくても
     加害者に責任を負わせるべき、とする考え方

   経済高度成長期には、企業の公害により多くの人々の尊い命や健康が犠牲に
   なった。

    例:「イタイイタイ病事件」(富山)1971年
        企業から流れ出た鉱毒によるカドミウム中毒により123名が
        死亡
      「新潟水俣病事件」1971年
        企業が排出した有機水銀による中毒により55名が死亡

        両者共、原告(患者、遺族)側の勝訴が確定した。

     1972年に、大気汚染防止法
             水質汚濁防止法 が改正され、
              事業所の無過失責任が認められるようになった。

       
        

近代市民法の基本原理とその修正(その2)

2007年12月18日 | 左都子の市民講座
 前回「近代市民法の基本原理とその修正(その1)」において、近代市民法とは何か? 及び その基本原理のひとつである“所有権絶対の原則とその修正”について既述しました。
 今回(その2)においては基本原理の二つ目“契約自由の原則とその修正”について解説しましょう。

 ○契約自由の原則とその修正

   契約とは何か?
    売買契約を例に説明してみよう。

         商品を売りたい
     売主     →     買主
             ←
         商品を買いたい

    通常、両者は利害対立関係にある。(あなたの得は私の損)

    このような、方向の異なる複数の意思が“合致”することにより成立する
    法律行為のことを “契約” という。

    法律上の契約には上記の“売買契約”の他、“賃貸借契約”“婚姻契約”
    (判例上、“婚姻予約”という用語が使用されている。) “雇用契約”
     等がある。

   「身分から契約へ」
     アンシャンレジウムの時代
      人の権利、義務は人の“身分”から発生していた。
       (※アンシャンレジウムとは
          1789年のフランス革命前の絶対王政を中心とする
          封建的な旧体制のこと)
     市民社会
      人の権利、義務は個々人の“自由な意思”により発生する。

    近代市民法の根本理念  = “自由と平等” であるならば
               ↓
    個人の経済活動は自由に行われるべき
         = “自由放任主義”  “自由競争”
               ↓
        契約自由の原則
          ①契約締結の自由
          ②契約相手方選択の自由
          ③契約内容の自由
          ④契約方式の自由

    しかし…
     経済的強者は経済的弱者に対し、その権力を利用して自分にとって
     有利な契約を結ぶようになった。
      例: 企業 対 労働者 の雇用契約
          労働者は、低賃金、長時間労働等、不利な条件で雇用契約を
          締結しなければならない場合が多い。(今なお…)
               ↓
     契約自由の原則も、“経済的弱者の保護”“公共の福祉”の観点から
     一定の制限を受ける。
      例: 労働基準法第13条
          この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約
          は、その部分については無効とする。…

   ★契約締結の自由の制限

     例: 電気、ガス、水道等、公共性の高い事業
         会社側に一定限度、契約締結の拒否権はない。
         一方で、利用者側は契約内容が気に入らなくても、(例えば
         東京に住むと㈱東京電力と)契約するしかない。
     例: 医師
         医師法第19条1項
          正当な事由がない場合、診察の拒否権はない。
          (人命にかかわるため)
     例外: NHKの受診料契約
          放送法第32条1項により、
           受信者は、NHKを見たくなくても契約を締結しなければ
           いけない。  → (情報選択の自由に反する……。)

   ★契約内容の自由の制限

    「附合契約」とは
      当事者の一方が決めた契約内容に、相手方が事実上従わなければ
      ならない契約
       例: JRやその他私鉄との運送契約
           料金につき利用者は議論の余地がない。
      一応、一般利用者が不利にならないよう国家が介入し、
      公益事業法等の法律により、契約内容をチェックしている。

    「普通取引約款(普通契約約款)」とは
      ある特定種類の取引を画一的に処理するためのあらかじめ定められた
      型の一定した契約条項のこと(各種契約書の裏面に細かい字で書かれ
      ている契約条項のこと)
        
       利点:同時に多数の人と契約することが可能 → コスト低減
                                     不公平解消
       問題点:拘束力はあるのか?
           契約した以上、約款の内容を知らなくても拘束されるのか
           (商法上、学説は分かれる。)
      ( 皆さん、面倒でも約款はよく読んで、もしも不服があるならば
        クーリングオフ期間内に対処した方が無難だと私は思います。)

  



 さて、いよいよ次回は「近代市民法の基本原理とその修正(その3)」において残りの“過失責任の原則”を取り上げ解説します。引き続きお楽しみに!

近代市民法の基本原理とその修正(その1)

2007年12月16日 | 左都子の市民講座
 近代市民法とは何か?
  近代市民社会において施行されている法のこと

   近代っていつ?  → 市民革命以降の時代
   市民社会って何? → 資本主義社会が市民社会
              (社会主義社会は市民社会とは言わない。
               生産手段の社会的所有により横並び社会では
               あるが、反面、自由が制約されているため。)


 我が国における近代市民法とは?
   私権を確立するために制定された私法の基本法である「民法」のこと
     これに対し、「憲法」とは、国家統治のあり方を定めた根本規範
            政治指針であり、具体的な権利義務は表れない

  近代市民法の根本理念 = “自由と平等”
    ここから、次の3つの基本原理が導き出される。
            ↓

        近代市民法の基本原理
          ○所有権絶対の原則
          ○契約自由の原則
          ○過失責任の原則



 ○所有権絶対の原則とその修正

   所有権絶対の原則とは
    近代市民法の根本理念 = “自由と平等” であるならば、
    個人が自由な意思で、平等な地位において手に入れた財産権、特に
    その代表的な所有権は何人によっても侵害されない、という原則
                ↓
    この財産権をどのように行使しようが、これまた自由
               = “権利行使自由の原則”
    権利を行使する過程において他人に損害を与えようと、法に触れない
    範囲内でならば責任は問われない。

    資本主義経済の高度発展は、この原則に負うところが大きい。

   しかし…
    資本主義の発展 → 貧富の格差の拡大
     一握りの独占企業がみずからの財産権を行使することにより
     他人に損害を与えてもよいのか?多くの人が不幸になってもよいのか?
       例: 公害問題、現在多発中の賞味期限偽造問題、etc…

    20世紀に入ってから、この基本原理に歯止めがかかった。
     「公共の福祉」 = 社会全体の共同の幸福  の思想の導入
       この枠を超える権利の行使は 「権利の濫用」となる。

        ワイマール憲法153条3項「所有権は義務を伴う」
         (「公共の福祉」を世界に先駆けて明文化した。)

    このように、「所有権絶対の原則」に制限を設けた。
     
      ところが、この「公共の福祉」概念は抽象的かつ曖昧であり、
      “諸刃の剣”の側面もあるという弱点を抱えている。
        個人の自由が制限される。
        権力者がこのような尺度を利用して、私権を恣意的に侵害する
        危険性もある。

      両者の整合性を取ることは、今なお困難な課題である…


 


 次回の“左都子の市民講座”において、「近代市民法の基本原理とその修正(その2)」と題して「契約自由の原則」を、次々回「同(その3)」と題して「過失責任の原則」について解説します。お楽しみに! 



P.S.

  本エッセイ集の著者である原左都子が 2007年公開 「原左都子エッセイ集」内に綴った当該文書が、数年後の年月日の日付にて 見知らぬ人物により yahooに於いて丸ごと無断転載され、 “yahoo 知恵袋”内某質問事項の“ベストアンサー”として公開され続けております。 
 この案件に対し、私どもより yahoo相手に善処を要求したものの、なしのつぶての有様です。
 yahoo には、一なる大手企業として「著作権」侵害に対する更なる認識をお持ち頂きたい思いですが、それが叶わない現状に即し、読者の皆様にお願いがございます。
 我がエッセイ集より、ネット上の別サイトへ転載・引用する場合には、必ず 「原左都子エッセイ集より転載・引用」 の一言を末尾に記載して頂けますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
                 「原左都子エッセイ集」  著者  原左都子
     
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権利とは何か?

2007年12月05日 | 左都子の市民講座
今回の「左都子の市民講座」では、“権利”について考えてみましょう。


 ○権利と利益との違い

   権利とは、人が単に自分の利益を主張することであろうか?
   例えば、誘拐犯が人質と引き換えにお金を要求することが権利であろうか?
   そんな訳はない。
      ↓
   相手方がその要求の“社会的妥当性”を承認し、その要求に応じる義務を
   認めた場合に初めてその利益は権利となる。

   要するに、権利とは
   “私的利益”や“生活要求”を基礎とするが、それにとどまらず
   “社会的正義”としての“公的性質”をおびたものとして
   “普遍的”に承認された利益内容のことをいう。


 ○権利成立の条件

   権利が成立するための基礎的条件、前提は何か?

    ①平等性
      個人対個人の関係が平等な社会であること
       例:戦前の日本は身分制社会であったため権利が成立する
         社会的基盤は存在しなかった。
             ↓
         戦後、日本国憲法が“法の下の平等”をうたい身分制社会は
         解体された。
             ↓
         しかし、例えば、男女差別、外国人差別等深刻な差別問題は
         社会の中に根強く残っている。
             ↓
         真の権利社会を成立させるためには、まず差別をなくし、
         平等についての基礎観念を確立する必要がある。

     ②対立性

       権利は、個人対個人、あるいは個人対国家の関係が対立関係に
       あることを前提とする。
       法的な対立関係がない場合、もともと権利を問題にする必要がない
        例 : 夫婦間で財産の所有権の帰属が問題となるのは
            離婚など、夫婦に利害の対立が生じた場合である。

     ③社会的正当性についての合意
       
       当事者の一方の利益の正当性が相手方によって承認され
       両者の間に合意が成立することが前提となる。
             ↓
       権利を主張する人は、その正当性を相手にわかってもらうように
       説得する必要がある。
             ↓
       その結果、対立している両者の“平和的共存”のルールとしての
       権利が確立する。
        例 : 嫌煙権問題
             喫煙者には煙草を吸う権利がある。
             しかし、他人に害を与えることは許されない。
                   ↓
             他人に害を与えないように喫煙者を義務付けること
             により、嫌煙権は成立する。
           (ただこの問題は、実際上解決策が困難な問題である。)

     ④利益の範囲の確定

       誰が誰に対し、どのような利益を、なぜ、どの範囲まで主張する
       ことが正当であるのかが、論理的に確定されることが前提となる。
        日本の社会はもともと義理人情の世界だった。
            ↓
        近年、急激に日本の社会は移り変わり、
        人と人とのかかわりが希薄化していく中・・・
            ↓
        日本経済や政治をめぐる資本と権力との癒着、汚職は
        相変わらずはびこり…
       
 残念ではあるが、日本の社会はいまだ“権利社会”と言えるには程遠い… 
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