あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百八十九回
国会が閉会中に、世界では私が予想だにしない事態が起ころうとしていた。折りしも、わが国では食料安定化法の施行直前だったのだが、アジアの一角で飼われていた家畜に蔓延(まんえん)した耐性ウイルスが世界を席巻(せっけん)しようとしていたのである。この多剤耐性ウイルスを止める手立てはなく、世界の生物学者が警告を発していたパンデミックスが現実に起ころうとしていたのである。むろん、この事態は人類の生命を脅(おびや)かすだけでなく、人類が生存するために必要な動物性食糧の危機を招いた。国連は緊急措置を余儀なくされ、ウイルスの蔓延を阻止すべく、世界の輸出入を全面禁止する非常事態決議を採択した。WHOも全世界へ向け緊急対応措置を発信、特別部局を設置した。国会閉会中の小菅(こすが)内閣は緊急閣僚会議を開き、食料安定化法の施行日の前送りとパンデミックスへの特別措置を専決処分した。総理は各大臣へ国民生活に万端、抜かりない措置を指示した。
「偉いことになってきたな、塩山」
「はい、まったく…。明日はどうなることやら…」
煮付(につけ)先輩は会議終了後、各大臣が総理の指示で散っていく中、官邸出口へと歩きながら私にそう云った。私の文科省は、学校や父兄への混乱防止の徹底を全国の教育委員会へ周知させることにあった。煮付先輩は、国家戦略局の新たな局長として、各大臣の報告を一手に受けて対処するため、どっしり構えるということだった。