あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百九十七回
その二日後、外は小雪が舞っていた。私は正月の残り餅を焼きながら、久々にマンションでのんびりしていた。正月返上の忙しさで、ようやく休めた二日間だった。むろん、大臣だから、何か不測の事態があれば緊急出動を余儀なくされる立場なのだが、耐性ウイルスの免疫が発見された安堵(あんど)感からか、余り心は乱れていなかった。餅を食べ終えかけたとき、急に電話が鳴った。携帯ではなかった。
「おお塩山か、喜べ。耐性ウイルスの免疫ワクチンの製造認可が下りたぞ。しかも、世界にその製造法が配信され、各国でも製造がはじまるようだ。これで、パンデミックは食い止められるぞ」
「そうですか! そりゃ、よかった」
私は煮付(につけ)先輩の朗報に歓喜した。
「ただひとつ、拙(まず)いことができた」
「えっ? どうしたんです、先輩」
「実は、小菅(こすが)総理がメディアの前でついうっかり、失言されてしまったんだよ」
「何を、ですか?」
官房長官の先輩だから、内閣の情報は逐一、手に取るように伝わっていた。
「君のことを、だ。報道陣の質問の中で、なぜ土壌菌がウイルスに有効だと分かったのか、という質問が飛んだようだ。総理の性格だから、ありのままを包み隠さずおっしゃったようだ」
「私の記事が報道される、ということですか?」
「ああ、恐らく明朝の新聞には大きく載るだろう」
「ええっ! こりゃ、参りましたね…」
私は偉い大ごとになったぞ…と、心配になっていた。