水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (46)快適

2019年11月11日 00時00分00秒 | #小説

 何の問題も起こらず快適に過ごせれば、それはそれは楽しいことだろう。だが、そんなユートピアのような楽しい場所が私達の暮らす世界にある訳がない。いくら巨万の富を持つ成金者でさえ必ず何らかの苦があり、快適な暮らしを阻害(そがい)されているのである。もちろん、普通の暮らししか出来ないそれ以下の私達は当然、苦だらけで、世の柵(しがらみ)がこれでもかっ! これでもかっ! と、手を変え品を変え、地獄の鬼のように責め苛(さいな)むのである。これは少し言い過ぎかも知れないが…。^^
 とある財閥の豪邸である。中の一室では、財閥の総帥(そうすい)、金有(かねあり)会長が室内ゴルフに余念がない。
「か、会長! 偉(えら)いことですっ!!」
 束(つか)の間(ま)の楽しい時間を害された金有は、まったく面白くない。
「なんだね君はっ! いつもいつも偉いことだらけじゃないかっ!」
「も、申し訳ございません…」
 第一秘書の桶螺(おけら)は、這(は)い蹲(つくば)うように謝(あやま)った。
「でっ! どうだと言うんだっ?」
「実は…アノ話なんですが…」
「楽しい話じゃないんだなっ!」
「いや、それが楽しい話なんですっ!」
「楽しいのか? だったら、ちっとも偉いこっちゃないだろ? 君」
「それが偉いことなんですっ!」
「君の言ってることは、まったく要領を得んっ! 怒るよっ!!」
「実は、総理に要請されていた大統領との話が本決まりにっ!」
「なにっ! 大統領と超一流の寿司屋で寿司を摘(つま)む話かっ! アソコは快適に美味いそうだからなっ!」
「はいっ! なにせ各国の迎賓(げいひん)専門店ですから、美食家の会長でもお入りになれなかった店ですっ!」
「ああ! そりゃ、願ったり叶(かな)ったりの、いい話じゃないかっ! 君もようやく、秘書室長に昇格、濃厚だなっ! わっはっはっはっ!」
 楽しい気分が戻(もど)り、金有は豪快に笑い飛ばした。
 財閥の総帥の快適で楽しいひと時は、なかなか入れない寿司屋にあったようだ。^^

                                


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