水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (52)程度

2019年11月17日 00時00分00秒 | #小説

 楽しいことも、あり過ぎれば、楽しいというより負担となって、返って楽しい気分が遠退(とおの)く。これは妙な話だが、事実、そうなのだから仕方がない。^^ その逆で、楽しいことがなければ、当然、楽しい訳がない。最(もっと)も楽しいのは、あり過ぎず、かといってないということもなく、ほんの少しある・・という状態だ。要は、程度ということだ。
 とある裕福な家庭の一齣(ひとこま)である。
「いや、その日はゴルフ・コンペだっ! とてもラスベガスで遊んじゃいられない。ははは…」
 大財閥の射張(いばる)が欠伸(あくび)をしながら応接セットから立った。年老いた執事(しつじ)の的矢(まとや)は、ゴルフだって遊びでしょ! …とは思ったが、そんなことはとても言えず、笑って流した。
「少し動き疲れたよ。楽しいことがあり過ぎるのも程度ものだなっ!」
「はい、さようで…」
 的矢は、贅沢(ぜいたく)言ってりゃ世話がないっ! …と少し怒れてきたが、やはりそんなことは、とても言えず、ふたたび愛想笑いをして暈(ぼか)した。そこへ令嬢(れいじょう)の真弓(まゆみ)が現れた。
「お父様、買って下さると言ってらした一億のダイヤのネックレス、いつになりますの?」
「ああ、アレか…。アレならいつでもいいぞ。今度、私のスケジュールが開いた時にでも出かけようか」
「はい! 楽しみにしておりますわっ!」
 聞いていた的矢は、私ら1万程度だっ! …と、少し羨(うらや)みが出た。
「お父様、アレ、私に似合うかしら?」
「ああ、お前によく似合ってるよ!」
 的矢は、似合ってるっ? 馬鹿も休み休みに…。程度程度、顔の程度! 豚に真珠!! ったくっ! と、完全に怒れたが、もちろんそんなことは言える訳もなく、笑顔で合わせるのが関の山だった。
 本人は楽しいのだろうが、程度が合わないと周囲の者は、少しも楽しくないのである。^^

                                


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