水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-9- 色

2018年05月24日 00時00分00秒 | #小説

 色は場面や出来事など、さまざまな分野で使われる言葉である。あるときは艶(なまめ)かしい意味で、またあるときは、『あんたっ! もうちっと色気を出しなよっ!』のように、欲の意味で使われる。またあるときは、現在と過去を使い分ける意味となる。モノトーンと呼ばれる色のない映像は過去を暗に示す訳だ。欲に溺(おぼ)れるのは戴(いただ)けないが、かといって欲がなければ、物事はなんの進歩も発展も見せない
 とある会社の、とある課である。。
「最近、色気が出てきましたね、高達(たかだち)さん」
「高達君か? …ああ、そうだね。随分、仕事熱心だからな」
「いやですよ、課長! 僕の言ってるのは綺麗(きれい)に、ってことですよ。いやだなっ! ははは…」
「おお、そういや、そうだな…」
 課長の角野(かどの)は係長の飛沼(とびぬま)にダメ出しされ、慌(あわ)てて追随(ついづい)した。
 若手OLの高達は課内で評判もよく、男性社員からマドンナ的存在として持て囃(はや)される存在だった。
「いい人でも、できましたかね?」
「ああ、かもな…」
 ところが、次の雨の日から、すっかり高達の色気がなくなった。それがちょうど、桜の落花と重なったから堪(たま)らない。いつしか高達は、桜色の女・・と渾名(あだな)されるようになったという。この話は私の聞いた話だから、本当かどうかは定かではない。
 ただ、色はいろいろ、不思議な姿を私達の暮らしに現すようだ。

                                完


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