水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-92- 癖(くせ)

2018年05月07日 00時00分00秒 | #小説

 本人が無意識で知らず知らずにやってしまうことを癖(くせ)という。無くて七癖、あって四十八癖・・とかいわれるが、コレだけは本人が自覚しないと直(なお)らないが、中には病的に治(なお)らず、ぅぅぅ…と泣ける性質のものもある。
 尾焦下(おこげ)は以前から治らない心理的な癖で悩(なや)んでいた。というのは、見た女性を委細(いさい)なく、すべて好きになる・・という癖である。好色魔にすっかり魅入(みい)られた格好だが、これだけはどうしようもなく、成るに任(まか)せる他はなかった。その妙な癖は十日(とおか)もすれば、ケロッ! と消え去る性質のものだったから、他人のみならず、尾焦下自身にも理解できなかった。
 世の中とは広いようで狭(せま)いものである。あるとき、尾焦下が買物で街を歩いていると、十字路で一人の女性と出会い頭(がしら)に接触した。尾焦下もその女性も他意がない偶然の接触だったのだが、尾焦下は接触の瞬間、かつて感じたことのないビリッ! と身体に走る電流のようなものを感じた。相手の女性もそのようで、どちらからともなく謝(あやま)っていた。
「どうも、すいません…」
「いえ、私こそ…」
 のちのち分かったことだが、その女性にも以前から治らない似通(にかよ)った心理的な癖があった。それは、見た男性がすべて嫌いになる心理的な癖だった。ところが、尾焦下との接触以降、その妙な癖は跡形(あとかた)もなく消え去ったのである。むろん、尾焦下の方も同じで、二人は妙なところで±[プラスマイナス]が中和し、妙なことに離れられなくなり結婚したのだった。
 癖は、泣けること以外に、こうした慶事も起こすのである。めでたし、めでたし。^^

                               完


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