寝苦しい熱帯夜となったある夏の日、若鳥(わかどり)は生ビールを飲みながら、寝られないひとときを過ごしていた。録画しておいたプロ野球を観ていると、応援チームと相手チームが、きわどい接戦になっていた。最初は、ふ~ん、そうか…と、ビールをグビッ! とやりながら、無関心で鳥の串カツを頬(ほお)張っていた若鳥だったが、回が進むごとに次第にボルテージが上がってきた。審判が出したアウトのジャッジに若鳥は、ぶち切れた。画面では監督もぶち切れ、マウンドへ飛び出していた。
「馬鹿野郎! なにがアウトだっ! …そらそうだ! 監督、いけいけっ!」
しばらく画面では審判と監督の、あ~でもない、こ~でもない論争が続いたが、やがて終息し、監督は不承不承(ふしょうぶしょう)ダッグアウトへ引き揚げた。治(おさ)まらないのは若鳥である。酔いも手伝い、「ミスジャッジだっ!」と叫びながらフラフラと立ち上がった。そのときだった。若鳥は目眩(めまい)がした。
気づくと、応援チームのユニホームを着て審判に抗議している自分がいた。若鳥は監督だった。見馴れた応援するチームや相手チ-ムの選手がいた。審判は「退場!」と処分を与えた。若鳥は、怒りながらダッグアウトへ引き上げようとした。そのとき、また目眩が若鳥を襲(おそ)った。
ふたたび気づくと、若鳥は部屋の机に突っ伏(ぷ)して寝ていた。若鳥の前にはすでに録画再生が終わったテレビ画面があった。
「アウト! あなた、もう…」
妻の優子が出てきて、食器とジョッキを片づけながら若鳥にアウト宣告をした。
完