代役アンドロイド 水本爽涼
(第82回)
保にすれば沙耶と出かける車が欲しかったから、車で通勤する教授が羨(うらや)ましかった。だが保のマンションは生憎(あいにく)、駐車スペースがなく、バイクを考えていた矢先だった。雨の日は厄介だが、沙耶を後ろに乗せてバリバリ飛ばすのもいいか…と思えた。
保が研究室へ入るドアを開けると、予想どおり但馬の姿はなく、室内は無人だった。
「教授、思ったとおり、講師は来てませんよ」
「そうだな。少し早いからな」
教授は腕時計を見ながらそう呟き、保の後から入ろうとした。そのとき、教授の肩を後ろから男が突っついた。
「誰だっ!」
ギクッとして、山盛教授は後ろを振り向いた。保も教授の声に驚いて、振り返った。そこには、ステッキをつき和服姿も凛凛しい長左衛門が立っていた。
「あ、あなたは、どちらで?」
教授は恐る恐る訊(たず)ねた。
「じいちゃん!!」
長左衛門が答える前に、保が叫んでいた。
「えっ!? 岸田君のお身内?」
「はあ、いつも孫がお世話になっとります。ちょっと、ご挨拶だけして帰ろうと思いまして、待っとりました」
長左衛門は山高帽を脱ぐと、丁寧な挨拶を教授にして軽くお辞儀をした。