代役アンドロイド 水本爽涼
(第80回)
『借りものの猫? …』
沙耶の言語システムが調べ出した。
「分かるだろ? それは」
『ええ…。おとなしく従順である』
「ああ…。ははは…硬いっ! まあ、間違ってはいないけどな」
保は笑った。沙耶も表情システムの笑いで付き合った。その後、二人? は、あれやこれやと長左衛門対策を立てたが、その当の長左衛門がマンションを襲来するのは、かなり先だった。機械工学のエリートをしても、そこまでは予測できなかった。保ではなく、沙耶が直接、長左衛門と話していれば、沙耶の予測システムにより、そんな心配をしなくてよかったかも知れないのだが…。
次の日は晴れていた。保はいつものように沙耶によって起こされ、沙耶によって送り出された。朝食を含め、その間の全ても沙耶によってコントロールされているのだから、これはもう、世の亭主族と同じだった。もちろんメリットとしての安らぎはあったが、自活する男のワイルドさは少しずつだが削(そ)がれていくように保には感じられた。地下鉄が揺れていた。今日は珍しく座れた…と思い、ふと顔を上げると、山盛教授が立っていた。
「あっ! おはようございます。ど、どうぞ…」
保は思わず立って、席を勧めていた。
「そうかい? …すまないね」
教授は保の善意に甘えて、席へ座った。