水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第80回

2013年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第80回)
『借りものの猫? …』
 沙耶の言語システムが調べ出した。
「分かるだろ? それは」
『ええ…。おとなしく従順である』
「ああ…。ははは…硬いっ! まあ、間違ってはいないけどな」
 保は笑った。沙耶も表情システムの笑いで付き合った。その後、二人? は、あれやこれやと長左衛門対策を立てたが、その当の長左衛門がマンションを襲来するのは、かなり先だった。機械工学のエリートをしても、そこまでは予測できなかった。保ではなく、沙耶が直接、長左衛門と話していれば、沙耶の予測システムに
より、そんな心配をしなくてよかったかも知れないのだが…。
 次の日は晴れていた。保はいつものように沙耶によって起こされ、沙耶によって送り出された。朝食を含め、その間の全ても沙耶によってコントロールされているのだから、これはもう、世の亭主族と同じだった。もちろんメリットとしての安らぎはあったが、自活する男のワイルドさは少しずつだが削(そ)がれていくように保には感じられた。地下鉄が揺れていた。今日は珍しく座れた…と思い、ふと顔を上げると、山盛教授が立っていた。
「あっ! おはようございます。ど、どうぞ…」
 保は思わず立って、席を勧めていた。
「そうかい? …すまないね」
 教授は保の善意に甘えて、席へ座った。


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