水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第56回

2012年12月20日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第56回)
警報を出さなければならない場合だと、沙耶の最終試験は不合格だし再度、プログラムの組み直しが必要になる。話に釘を刺すくらいのことは世間によくある話で、とり分けて変ということではない。
 幸い、沙耶はそれ以上、但馬を追及しなかった。まあ、ともかく、よかったと、保は、ほっとした。しかし、そのほっとした安心感は束の間のものだった。
「教授、電磁コイルの電圧を上げます」
「ああ…」
 後藤がこのとき単純ミスを犯さなければ、何のトラブルもならなかったのだが、浮かれた後藤はポカをやった。電圧の目盛を読み違え、つまみを回し過ぎたのだ。瞬間、過剰電流が流れ、ローラーのコイルが焼け切れるきな臭い煙が立ち昇った。慌てたのは後藤だけではない。教授もパニックである。
「後藤君!! な、何をやっとるんだっ! 早く、切れっ!!」
「は…はいっ!!」
 もちろん、後藤もうろたえている。彼はすぐに電源を落とした。電圧の目盛は針が焼け切れ、上がったままである。しばらくすると、煙は小さくなり、そして消えた。後藤も教授も、やれやれである。これで正常に戻ったと、研究室員全員が安心したその矢先である。沙耶が急に立ち上がり、保の机へ近づいた。
『保…キ、キブンガワルイ…』
 保は身体中から血の気が引いた。


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