代役アンドロイド 水本爽涼
(第44回)
店は保が思ったよりは空(す)いていて、客は数人の客がひと塊(かたま)りで隅のテーブルにいるだけだった。カウンター席には誰もいなかった。
「いらっしゃい! …なんだ、岸田さんじゃないですか、さっ! どうぞ」
冷麦(ひやむぎ)の主人、室川(むろかわ)が保を見て、すぐ声をかけた。
「ああ、ありがとう…」
保は室川に勧められるまま、カウンター椅子に座った。店員はニ名で、室川と若い板前が調理していた。
「親父さん、ひとり増えたね」
「ああ、こいつですか。まだ、半年ばかりですがね、よく、やってくれます」
その若い板前は水コップを置きながら、照れて軽く頭を下げた。大学を卒業するまではよく店に通った保だったが、ここ一年以上、遠ざかっていた。そんなことを思って水を口に含むと、室川が箸と突き出しを置いた。前と同じ料理だ…と、保は過去を振り返った。
「ビールにしますか? 酒で?」
「ああ・・取りあえず、生を小で…。連れが来るんで・・」
「さよでしたか…」
話しながらも室川の手は小忙しく動いている。職人だ・・と、保は思った。出されたジョッキをひと口飲み、突き出しの鶏ささ身の味噌焼きを頬張ったとき戸がガラッ! と開いて、中林が入ってきた。