靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第二十五回
しかし、野菜は萎(しお)れて捨てられる一歩前のものだし、肉類といってもスジ肉、これはご馳走だから滅多とないのだが…。まあ、売れ残りのコロッケやミンチカツも時折り口に出来た。直助の母は、彼が小さい頃、亡くなり、家事については自分なりの才覚で切り盛りしてきたから、家事はそれほど苦にはならなかった。寝たきりの父親の看病には些(いささ)か困ったが、その父も今はもう亡くなり、直助には憚(はばか)られる存在は、すでに何一つなかった。だが、凡々と日が流れ、老いだけが遠くから忍び寄ってくる気配を感じる五十路にかかっていた。このままでは…と思うのだが、今のところ、これといった打開策は見出せず、如何(いかん)ともし難かった。
カタカタカタ…と何やら物音がする。直助は机から、ふと視線を上げたが、その音がどこから響くのかが分からない。耳を澄ますと、どうも金属音のようだが、今一つ得体が知れない。人間とは妙なもので、分からないとなると、それを知りたいと思う深層心理が働く。直助もご多分に漏れなかった。
「いったい、何や…」と、独り言を吐いて椅子から立ち上がり、右往左往するが、まったく要領を得ない。すると妙なもので、余計、気になりだして、書き始めた原稿を放っぽらかして直立のまま腕組みした。
そうなのだ。直助はこの歳になっても、小説家への夢は捨て切れていなかった。