靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第十八回
「…父は半身不随で、車椅子の生活をしていたんです…」
少しだが、早智子は、あらましの経緯(いきさつ)を話し始めた。
「はあ、それはそれは、ご不自由なことで…」
若者らしからぬ語り口調で慰めてしまい、しまった! と直助は後悔した。
「…その父が、煙に巻かれて…」
ふと、早智子の目頭を一筋の泪が伝った。ハンカチを取り出し、早智子は顔を背けながら頬を拭った。それを目にし、直助はそれ以上の言葉を持たなかった。たった、そのひと言で、話のあらましの全てが分かった気がした。分け入り過ぎたんだ…と、思えた。
しばらく空白の時が流れ、直助は、ふたたび口を開いた。
「お父様が好まれて読まれていたんですか?」
「…ええ」
図星だった。やはり、本屋より探偵の才覚がありそうに思えた。そのとき、直助は、もう早智子を意識しなくなっている自分に気づいた。