水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第十八回)

2012年05月13日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第十八回
「…父は半身不随で、車椅子の生活をしていたんです…」
 少しだが、早智子は、あらましの経緯(いきさつ)を話し始めた。
「はあ、それはそれは、ご不自由なことで…」
 若者らしからぬ語り口調で慰めてしまい、しまった! と直助は後悔した。
「…その父が、煙に巻かれて…」
 ふと、早智子の目頭を一筋の泪が伝った。ハンカチを取り出し、早智子は顔を背けながら頬を拭った。それを目にし、直助はそれ以上の言葉を持たなかった。たった、そのひと言で、話のあらましの全てが分かった気がした。分け入り過ぎたんだ…と、思えた。
 しばらく空白の時が流れ、直助は、ふたたび口を開いた。
「お父様が好まれて読まれていたんですか?」
「…ええ」
 図星だった。やはり、本屋より探偵の才覚がありそうに思えた。そのとき、直助は、もう早智子を意識しなくなっている自分に気づいた。


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