京都最古の禅寺 建仁寺「方丈」
インターネット情報です。イギリスの状況から公的な医療体制、公的病院の果たした役割の大きさが分かります。日本は、コロナ感染での死亡者を本気で減らそうとせず、医療崩壊をさせない対策をしていないことに怒りがわきます。イギリスも問題が本当に多くありますが、日本政府と比べ懸命さが伝わる記事です。コロナ危機を乗り越える過程で、少しでも安心して過ごせる政治にしたいものです。ひどすぎます、この国は。
「一日の感染者5万人」でも英国が「医療崩壊の心配ゼロ」の理由 黒木 亮 (作家)2021/08/22 10:00n>の要約です。共感できる内容があります。
ワクチン接種が十分でないところにデルタ株が猛威をふるっている日本の現状は、筆者が住む英国の去年の秋から冬にかけての状況を彷彿させる。ただ違う点が1つある。英国では医療が崩壊する懸念はほとんどなかった。理由は、昨年3月中にコロナ患者用の十分な病床と医療スタッフを確保し、それを厳しいロックダウンで支えたからだ。
●昨年3月中に感染ピークの準備を完了
昨年3月17日、英国の人口の84%を占めるイングランドのNHS(無料の国営医療サービス)のCEOサイモン・スティーブンス卿は、NHSの約10万の病床のうち3万床以上をコロナ患者向けに用意するよう全NHS病院に命令を発した。
具体的には、4月15日以降、急を要しない手術を、最低3カ月間延期し(救急治療、がん治療、その他緊急の対応を要するケースは除く)、退院が可能な健康状態の患者は退院させることとした。この命令にもとづき、不急部門の診療科を次々と閉鎖・縮小させ、退院できる患者もどんどん退院させ、3月末までに約10万あった病床のほぼ半分を空けさせた。これにより、ピークだった今年1月のコロナ入院患者数3万4336人は十分カバーされた。
一方、医師や看護師の確保も機動的に行われた。新型コロナの入院患者数は3月20日の時点で1580人だったのが、3月末には1万1154人まで急増していた。スタッフ不足が懸念されたので、これを補うため、3月22日には、医療現場を離れていた4500人の医師と看護師に復帰に同意してもらい、その後、医学生や看護学生も動員した。免許が切れていた医師や看護師には、特例で更新を認めた。またNHSでは、通常は異動に本人の同意が必要だが、この時は同意は不要とされ、大量のスタッフがコロナ部門に強制的に異動になった。
その後は、コロナ患者の増減によって一般患者数をコントロールしていった。
毎月末の入院患者数を見ると、ロックダウンの効果が出た昨年7月末にはコロナの入院患者は870人まで減り、一般の入院患者は10万1062人まで増えた。
その後、感染拡大でコロナ患者が2万8112人まで増えた今年1月末には、一般患者数を8万3947人まで減らし、ワクチンとロックダウンの効果が出た5月末にはコロナ患者数が773人だったのに対し、一般患者数を11万1489人まで増やした。
こういうことができたのは、①英国の病院の約9割が国営のNHS傘下にあるので、中央集権的に号令を下すことができること、②元々日本に比べて入院日数が短いことがあげられる。
後者については、2017年のデータによると、OECD加盟の38カ国の中で日本は韓国(18.5日)に次いで平均入院日数が長く16.2日である。これに対し、英国は6.9日、米国は6.1日、ドイツは8.9日にすぎない。
欧米では、入院させると病院側の採算が悪くなるので、できる限り早く退院させ、手術台の回転数を上げようとする。筆者は18年前に重い肺炎にかかったことがあるが、そのときも通院治療で、「肺炎くらいじゃ入院させてくれないのか」と思ったものである。
「ブロック・バイ」と仮設病院で約1万1000の追加病床も確保
同時にNHSは昨年3月21日にスパイア・ヘルスケアやケアUKなど複数の民間病院グループと、8000の病床、約1200の人工呼吸器、700人の医師、1万人の看護師、8000人のその他の医療スタッフの提供を受けるブロック・バイ(塊の購入)契約を締結した。これらは新型コロナの患者だけでなく、がんなど緊急の治療を要する患者にも使用された。非常事態に鑑み、民間グループも協力し、購入価格は原価(コスト・ベース)だった。
また4月3日から5月5日にかけて、クリミア戦争(1853~56年)の野戦病院で活躍した英国人看護師ナイチンゲールの名を冠したコロナ患者用の臨時の「ナイチンゲール病院」をロンドン、バーミンガム、マンチェスターなど6都市に開設した。6つの病院の病床数は当初3006人で、10960床まで拡大可能だった。場所は国際会議場などの大規模施設を利用し、陸軍が協力して設置した、まさにコロナの野戦病院だった。
さらに全国に500以上あるコミュニティ・ホスピタル(地域の住民のための小規模病院)と介護施設に1万床の病床を空けてくれるよう要請した。
かたや日本はどうだったか。病床確保のために昨年度1兆円以上の補助金を投じたが、事前協議で決めた病床数を提供できない病院が続出し、実際には病床の確保ができていなかった。
1つ気になるのは、日本では日々の感染者数が英国よりも少ないのに、入院患者数が英国の約3倍の1万8611人もいることだ。新型コロナ対策分科会の尾身会長も先日国会で「発表されている数字より実際の感染者数は多いと思う」と述べており、表面的な数字よりも事態は深刻だと考えるべきだろう。
データサイエンスを活用した戦略的兵站
英国が、昨年春からマイルストーン・ペイメントなどベンチャー投資の手法を使って開発中のコロナワクチンを青田買いし、約1万人の注射打ちのボランティアと約2万人の医療ボランティアを養成し、接種のロジスティクスも入念に整えた上で、昨年12月9日から一気呵成にワクチン接種を進めたことは、以前「感染者激減、なぜ英国はワクチン接種で先行することができたのか」で書いた通りである。
【参考】感染者激減、なぜ英国はワクチン接種で先行することができたのか (https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65104)
病床確保においても戦略的な「兵站」の成果が如何なく発揮された。
NHSには「NHSデジタル」(本部・西ヨークシャー州リーズ市)という約6000人が働く情報・IT部門があり、そこが患者との最初の窓口になるGP(家庭医)から患者個々人の情報を吸い上げている。これが医療体制の効果的運用を可能にした。
多数のデータサイエンティストがGP経由で送られてくる情報をもとに、地域ごとの将来のコロナ患者数の予測などを行い、経営陣がどの病院のどの部門を閉鎖・縮小し、どの設備と医療スタッフをコロナ病床やICUに振り向けるか、あるいは逆にどのコロナ病床を元の部門に戻すかといった決定や勧告をしている。的確で詳細な予測と指示によって、ごく短期間で必要な病床と医療スタッフの確保を実行しているのである。
厳しいロックダウンでNHSの活動を下支え
コロナとの共生開始
英国は18歳以上の成人の75%超がワクチンを2回接種しており、7月19日にロックダウンの行動規制をほぼすべて撤廃し、レストランや商店も通常営業に戻った。新型コロナの1日の感染者数は、7月17日に5万4183人に達したが、その後、2万8000人程度まで減った。医療崩壊の懸念はないが、一時期待が高まった集団免疫の成立はデルタ株の蔓延で遠のいた。
行動規制が撤廃されたと言っても、公共交通機関や商店内ではマスク着用がサービス提供者側から求められ、半分以上の人たちがそれに従っている。高齢者のマスク着用率は今もほぼ100%である。
コロナ・シフトで一時しわ寄せが行き、手術待ちの患者が増えたNHSも、状況が落ち着いてきている。元々NHSは、どんな疾患でもまずGPに診てもらい、紹介状をもらい、アポイントメントをとって専門医のところに行かなくてはならない。時間がかかるので、疾患が慢性化してしまうこともある(大けが、心臓や脳の発作、網膜剥離といった緊急事態は例外で、救急車を呼び、病院の救急外来に搬送してもらう)。
評判が悪いNHSではあるが、コロナ禍のような非常事態では前述のとおり威力を発揮する。コロナ・シフトだけでなく、個々人の健康状態をGPが把握しているので、高齢者とともに最優先された基礎疾患がある人たちへのワクチン接種の案内も確実に行われた。
筆者は昨年上梓した『カラ売り屋、日本上陸』(KADOKAWA刊)の中の一編「病院買収王」の取材で、日本のある病院グループの経営者をインタビューした際「英国の制度が羨ましい。GPが最初に患者さんを仕分けしてくれて、必要な人だけが専門医にかかる。日本は大した疾患でなくてもいきなり高度医療を提供する大病院や大学病院に患者がやって来るのでかなわん。もっとけしからんのは、医者が少なくて大変な土日に、空いてるだろうと思ってやって来る患者で、こういうのはもう来るなと言いたい」と嘆いていたので、医師の視点と患者の視点は180度違うのだなと思わされた。
日本では特に勤務医が安い給料で酷使され、彼らの献身的な自己犠牲によってコロナ禍の医療も支えられている。サステイナビリティという観点からは、限界に達しつつあり、やはり抜本的な対策が必要だろう。「日本は民間病院が多いから、英国のようにはいかない」ではもはやすまされない。現に英国は6つのナイチンゲール病院を設置し、民間の病院から病床や医療スタッフの提供を受ける契約をしっかり結んでいる。要は本気度の問題だ。