『水曜日のダウンタウン』 TBSで毎週水曜日の10時から1時間放送される、ダウンタウンの冠番組である。パネラーの松本人志が「いつ終わってもおかしくない番組」と言う割には4年を超えて続いている。
『天龍源一郎以上のハスキーいない説』『すき家築地店でまぐろ丼頼むヤツ マジで0人説』などを掲げて徹底調査に乗り出す。
「くだらない」。当然、「この世から処分すべき」TV番組の筆頭に挙げる人は数多いるはずだ。もっともそういう人は最後まで観ないであろうが。
TV情報バラエティー番組とやらの「コンテンツの絶望的な劣化」は凄まじい。病膏肓に入る、である。当番組は「劣化」の成れの果て、つまりはその究極形を先取りするものだ。因みに、稿者は当番組の結構なファンでありつづけている。
以上、旧稿「刻下、究極のテレビ番組」(18年6月)を抄録した。今も続行中だから7年になる。当番組で筆頭の実験台はなんといってもクロちゃんである。罰で檻に入れられる、ほとんど虐待に等しい仕打ちを受けた企画もあった。倫理上半歩は確実に超えたシリーズもあった。非難囂々、警察が出動する騒ぎもあった。しかしきわどい実験に限っていつもクロちゃんに白羽の矢が当たる。だが本人は逃げず、怯まず真っ正面にその矢を受ける。顔面血だらけ、まことに甲斐甲斐しい。
そのクロちゃんが先週今週と、二度にわたって登場。「クロちゃん部屋ごと無人島生活」のミッションに挑んだ。「挑んだ」といってもハメられたのだが……。
大阪でギャルに囲まれ鯨飲、爆睡。目が覚めたら東京の自室。しかしその部屋は東京から500キロも離れた無人島(名前がなんと「黒島」)に再現したもの。東京の自室にある全てのものを運び出し、まったく同じように“雑然と”配置し復元した。見事なプロの仕事といえなくもないが、すげー「くだらない」仕込みに掛けるただならぬ熱意は狂気ですらある。
さて泥酔からやっと目が覚めたクロちゃん、「おはおはギュルリン、クルクルパーーーン」とSNSで投稿し、トイレに行くためドアを開ける。と、目の前には海。島、島、海、海。
「え~、どういうこと? でも、うちんちだし。でも、うちんちじゃないし」
と、自問すること10分。やっと『水曜日のダウンタウン』だと気がつく。
スタッフは姿を見せない(海中シーンで瞬間映り込むがのはお愛嬌として)。代わりにドローンと島内十数カ所に設置された監視カメラが行動を追う。セキュリティは十全になされている。島のあちこちに隠されたドラゴンボールを7つ集めるとエスケープが叶う。
果たして脱出できるか?
崖をよじ登り、海底へ潜水、ジャングルへ分け入り、砂を掘り回し、一つづつ玉を揃えていく。一歩まちがえば大事に直結する苛酷なアドベンチャーである。そしてさらに次の難題が……。
1週目の終わり、松本人志が一言。
「けど、感動はまったくないね」
意外なクロちゃんの健闘に興が冷めたか。
なにはともあれ、クロちゃんとはいったい何者なのだろう? 黒川明人(アキヒト)が纏う着ぐるみではないか。頭を剃り、髭を蓄え、声を変え、肚の中まで黒くし、自堕落で、幾つもの生活習慣病を抱え込み、コロナにも感染し、キモい醜男(ブオトコ)にメタモルするための着ぐるみではないのか。
……それにしても、なんのために?
世を風靡するイケメンへの果たし状、高学歴高収入天下御免のITビジネスマンへのアンチテーゼ、MC・俳優・シンガー・ものまね、なんでもござれのマルチ芸人への意趣返し、とまあそんなところか。謹厳実直、品行方正、清廉潔白、自尊、名誉、忠誠などなど、伝来の支配的価値観を卓袱台返しにするクロちゃん。それでもいざという時、生き延びるのはどちらか。レジリエンスはどちらが勝るか。それを醜男の極みが見せつける。……そうとでもしないと、クロちゃんはやってらんないだろう。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」である。
以上、勝手な義憤に駆られてエールを送ってみた。 □