伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

私家版「CM天気図」

2021年08月24日 | エッセー

 天野祐吉さんが生者の列を離れて8年。その1年前のロンドンオリンピックを「地球村の大運動会」と評したことが懐かしい。爾来「CM天気図」、別けてもTVCMは気圧配置がまったく変わった。リアルな天気図も同じように様変わりしたが、コロナが追い打ちを掛けてまさに異常気象が常態化しつつある。
 先月21日の「プレジデントオンライン」は次のように報じた。
〈「毎日テレビを見る人」は8割切る
毎日テレビを見る人は8割を切り、10代20代の半数がテレビを見なくなった――。コロナ禍で広告収入が落ち込んでいる放送界に激震が走っている。しばらく前から若者の「テレビ離れ」は言われてきたものの放送界はタカをくくっていた節があるが、テレビライフが激変している実態を突きつけられて、にわかにざわついてきた。1960年の調査開始以来、初めて8割を切った。年齢別にみると、50代以下は軒並み減少。今や10代や20代の若者は、2人に1人がテレビを見ないということになる。
 2010年までは、9割の人がテレビ漬けの日々を過ごし、若者世代も8割以上が毎日テレビを見ていただけに、この5年間の「テレビ離れ」のスピードは半端ではない。
 一方、平日にインターネットを利用する人は、全体で45%。「テレビ離れ」が激しい若者ほどネットの利用率が高くなった。ネットの動画配信サービスが普及する中、若者世代はテレビからネットに急速に移行している。60代以上でもネットの利用者は急増している。今回の調査結果について、当のNHK放送文化研究所が「衝撃的」と驚くように、若者にとってテレビは毎日見る「日常メディア」ではなくなりつつある、といえそうだ。
 民放キー局は軒並み大幅減収
この数字に、もっとも衝撃を受けているのが民放各局だ。2020年度の決算は、全社とも売上高が前年を大きく割り込み、連結決算でみると、全社とも減益減収だった。こうなったのも、売り上げの大半を占める広告収入が、コロナ禍の直撃を受けて激減、軒並み2ケタの減収になったからだ。番組制作費の大幅削減などで、かろうじて赤字は免れたものの、かつてない厳しい事態に直面している。〉〈抄録〉
 加えると、ネットによるプル型の広告、連動するネットショッピングの急速な普及でTVの宣伝効果は著しく減殺されている。
 何度か指摘してきたように、Y本興業を筆頭にお笑い芸人をコストカットの切り札に使い安手の番組を粗製濫造してきた報いである。職業に貴賤はないが、立ち位置は弁えねばならぬ。プロ・アマ、専門・門外の垣根を踏み倒して芸人風情に闖入を許した付けが回ってきたのだ。
 観ていて苛立たしいのは、CMがやたら長いこと。刹那にメッセージを繰り返し送り潜在意識に働きかけるサブリミナルはご法度だが、こうも繰り返されるとほぼそれに近い。おまけに、ほとんどが同時であること。申し合わせたように寸時も違わず同時刻にCMを流す。稿者のようにしょっちゅうチャンネルを切り替えて複数の番組を同時並行で観ようとする者にとっては、まことに都合が悪い。同じ幕間がこちらの頭の都合とズレるからだ。
 そんな「CM天気図」の中でも、珠の快晴が広がったり鮮やかな虹も架かる。いくつかを挙げてみる。
▽大和ハウス、松坂桃李による自給自足への挑戦。──妻が妊娠、井戸を掘り、牛を飼い、稲を植え、石を削り、布を織った。秋、一掬(イッキク)の米を見詰めて力尽きる。……電気を自給自足する家、大和ハウス──これをイケメンがやる。このミスマッチがなんとも魅せる。
▽千鳥の大悟による「ホンマにオヤジかー?」。考え落ちのおもしろさ。6月本稿で取り上げた。
▽アイフルの大地真央「そこに愛はあるんか」シリーズ。大料亭の女将が様々にメタモルしていく。中でも、コロナ事情を象徴する“デリバリー女将”が目を引く。巧い! 
▽藤原竜也「金鳥蚊取り線香」。130年の歴史をもつが、今時特殊な野外作業以外使う人がいるのか? 確かに『蚊取りブタ』は夏の風物で、美空ひばりのCMも懐かしい。しかし郷愁とあの痛み、痒みとは相殺できまいl。藤原本人は大のファンらしいが、今ではこのCMそのものが夏の風物となっている。因みにわが家では『蚊刺されブタ』はいるが(住人2人の内、攻撃目標はすべてあちら。実に不思議!)、『蚊取りブタ』は姿を消して久しい。
▽サカイ引越センター「仕事きっちり」。長く脇役を続けてきた徳井 優の珍妙で絶妙できっちりとした踊りと関西弁のセリフ。是非とも「仕事きっちり」しない政権の要路に見せてやりたいCMだ。
▽日立グループ「この木なんの木」がなんといっても『気になる』。作詞の伊藤アキラ氏が今年5月15日亡くなり、作曲の小林亜星氏がわずか15日後の同月30日に亡くなった。なんという因縁! 両氏ともCMソングに果たした貢献は際立って大きい。これからもずーっと気になるにちがいない。
 といったところで私家版「CM天気図」、お粗末でした。 □