伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

やめられない、とまらない ごーつーえびせん

2020年12月12日 | エッセー

 「河童恵美仙」は奇しくも1964東京オリンピックの年に登場した。爾来日本を代表するスナック菓子であり続けてきた。登録商標はひらがなと漢字表記共になされているが、漢字の方が「やめられない、とまらない」には似合っている。小麦粉と海老を主原料とするが、56年間、袋も中身もマイナーチェンジの連続であった。一貫したのは長さ5センチ、刻み10~11。食感への拘りだ。
 実はここに来て、もう一つ「やめられない、とまらない」が現れた。「Go To」キャンペーンである。朝日は今日、以下のように報じた。
 〈分科会、抜本的対策迫る 県境越え自粛など 感染拡大続く地域 新型コロナ
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は11日、流行が沈静化しない場合に備え、対策の強化を迫る提言書を政府に出した。感染拡大が続く地域では、「緊急事態宣言を回避すべく、対策の抜本的な強化」を求めた。地方自治体に「今まで以上にリーダーシップを発揮して先手を打つ」よう促し、政府には地方の意思決定の後押しを求めた。〉
 ところが、ガースー首相(ネット番組に出て、自らこう名乗り、見事にスベった)の反応は次の通り。
 〈GoTo一時停止「まだ考えてない」 首相
 菅義偉首相は11日、インターネット番組に出演し、Go To トラベルで新たに一時停止措置を行うかについて、「まだそこは考えていない」と述べた。一方で、札幌、大阪両市で行われている一時停止や、東京都による65歳以上や基礎疾患がある人への自粛呼びかけなど、現行措置の期間延長を検討する考えを示した。
 首相は「経済を壊したら大変なことになる」として、トラベル事業などを継続する必要性を強調。一時停止の延長などについては「それぞれの首長と2、3日の間に調整する」とした。〉(同上)
 「金もいらなきゃ 女もいらぬ、あたしゃ も少し背がほしい」という玉川カルテットの伝でいけば、「背(せい)もいらなきゃ 女もいらぬ、あたしゃ も少し金がほしい」とでもなろうか。命をとるか、それとも金か、と迫った分科会へのガースー改めスッカスカ君の答がこれだった。
 「大変なことになる」の主語が無い。国民だとしたら、国民の命より大事なものとはなんなのか。経済とは中国古典の「経国済民」を略した言葉で、Economyの訳語である。「 世 ( よ ) を 經 ( をさ ) め、 民 ( たみ ) を 濟 ( すく ) ふ」が経済。ギリシャ語由来で「家族や家畜、食糧、衣服など、生活に関わるものを秩序立てて運営する」ことをEconomyという。ほぼ同義とみていい。主体は国民、国民のために手段として経済はある、そう捉えて間違いはなかろう。どちらからも国民の命は二の次とはどうしても読めぬ。ところがわが宰相はしらっとして手段がファーストプライオリティだと宣った。聞き捨てならぬとは、このことではないか。
 旅行客が落とす金は地元住民の消費額の7倍といわれる。昨年の日本人国内旅行消費額は約22兆。交通機関などの関連を含めると更に増える。ここをターゲットにすれば、手っ取り早くやってる感は出せる。そこが狙いにちがいない。GoToへのアディクションの病因はそこにある。だから、「やめられない、とまらない ごーつーえびせん」だ。
 しかし、忘れてもらっては困る。421万に及ぶ国内企業の内、99.7%は中小企業である。従業者数は7割を占め、GDPの5割は中小企業が稼いでいる。スッカスカ君が「経済を壊したら」と本気で心配するなら、中小企業にこそ主力を傾注すべきだ。大企業はいい。内部留保も約400兆抱えている。すぐ倒れる心配は無い。帝国データバンクの発表によれば、昨日現在新型コロナ関連倒産は793件。業種別上位は「飲食店」(125件)、「ホテル・旅館」(70件)、「建設・工事業」(56件)、「アパレル・雑貨小売店」(51件)、「食品卸」(41件)、「アパレル卸」(28件)など。
 早とちりしないでほしい。「ホテル・旅館」の70件は中小業者だ。桜を見る会前夜祭の会場となったANAインターコンチネンタルホテル東京などの大手は時の政権御用達の大手だ。大船は沈まない。上位の飲食店は軒並み小舟、いや手漕ぎのボートだ。大波を喰らったら一溜まりもない。
 COVID19の蠢動はどうもアンバイ・スッカスカ両政権を嘲笑っているようでならない。盛んに繰り出す朝四暮三政策の裏を掻いているとでもいおうか。
 かっぱえびせんは好物だが、ごーつーえびせんは頂けない。「やめられない、とまらない」のわけをしっかりと見抜いていきたい。
 と、かっぱえびせんを齧りつつ指先に付いた油に気がついてキーボードから離れる。 □