今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

「コンビニ人間」を読んで

2016年08月14日 | 作品・作家評

155回芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の「コンビニ人間」を読んだ(雑誌『文芸春秋』所収版)。

コンビニは我々にとってほぼ毎日利用する、とても便利な”定型化された空間”。
その定型性がやや不満でもあるが、その不満を打ち消すほどの圧倒的な安心感を与えている。

その安心できる定型空間を演出しているコンビニ店員を描いたというのだから、それだけで読みたくなる(書かれるべくして書かれた現代小説だ)。

内容は、ネタバレになるから語らないが、

”普通”であることへの距離感をいだきながら、それをやっとなんとか、コンビニという定型的空間においてのみ(おいてこそ)演じることができる、われわれの仲間を描いている。
少なくとも私自身は、普通の人よりこの主人公に共感できると断言できる。
私が社会心理学を研究し、また作法を学んだのも、自分とは異質の”普通”の人の”適切な”行動を学びたいと思ったからだ。
すなわち、私もそちら側の人間なのだ。 

問題は、そうやってなんとか普通の境界付近にへばりついている側の人間に対する、周囲の”普通”の人々の態度(私にも主人公と同じような質問が浴びせられる)。 

コンビニできちんとバイトをしている36歳独身女性の主人公に、「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」と言い放った相手役である白羽という男のセリフは思わず筆き写してしまった。
だが、深刻ぶった純文学ではないのでご安心を。 

読んでいて、笑い声もあげてしまった。
つまり、 楽しく読める。

小説に入り込むと、今自分が文字を追っているということを忘れて、文字が自動的に映像変換され、まるで映画を観ている状態になる(音声はドルビーサラウンドではないが)。
こうなったら読書という本来的にはとても不自然な行動も苦痛ではなくなる(読者をここまでもっていくのがプロの作家としての力量だ)。

この作品も、読み終わって、一編の映画を見終った感覚が残った。

ちなみに、私の映像で白羽を演じたのは、アンガールズの田中卓志だった。
作者がもともと彼を想定していたかと思うほど、ハマっていた。