博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2021年5月に読んだ本

2021年06月01日 | 読書メーター
万暦十五年―1587「文明」の悲劇万暦十五年―1587「文明」の悲劇感想
為政者たる万暦帝、官僚の申時行、海瑞、軍人の戚継光、思想家の李贄、そして彼らの背後で存在感を示す張居正。万暦十五年(1587年)当時の政官軍学の代表である彼らの動きを通して、伝統中国の政治・社会にそびえる「徳治主義」の壁を描き出す。本書の内容を現在に引きつけて見ることに、自序に否定的な文言があるが、やはり現在の日本を含めて「失敗」を迎えつつある社会に対して鑑となるのではないか。
読了日:05月01日 著者:黄 仁宇

明末清初中国と東アジア近世明末清初中国と東アジア近世感想
「近世」を中心とする時代区分論に関係する議論+中国像・国家観をめぐる議論+経済史に関係する議論という構成。中国史の時代区分は結局のところ日本史との調整を図るか、世界史との調整を図るかで揺れてきたということになるのだろうか。「中国」という呼称について、梁啓超が「吾国に国名なし」と評価したのは、中国の歴史に対する過度の単純化ではないかという批判が面白い。
読了日:05月07日 著者:岸本 美緒

近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ)近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ)感想
幕末から三島由紀夫まで、近代日本の陽明学的心性、あるいは水戸学の系譜を追っていく。両者は一見無関係のキリスト教や社会主義の受容にも大きく影響していく。そして水戸あるいは水戸学を媒介に三島由紀夫と山川菊栄とがつながっていく。特に水戸学は今年の大河の重要な要素にもなっており、陽明学・水戸学のサガは出版から15年を経てなお過去のものとはなっていないようである。
読了日:05月09日 著者:小島 毅

血の日本思想史 ――穢れから生命力の象徴へ (ちくま新書)血の日本思想史 ――穢れから生命力の象徴へ (ちくま新書)感想
「血筋」「血縁」「血統」という文脈での「血」という表現が生まれるまでの流れと、生まれてからの展開。単なる思想のうえでの問題にとどまらず、「輸血」「混血」など医学上、生物学上の問題にまで発展していく。ただ、親子関係を判別するための「血合わせ」を江戸時代に日本で生まれた俗信としているが、中国時代劇でもこの種の風習が頻出するところを見ると、おそらくは中国に由来するものではないか。
読了日:05月12日 著者:西田 知己

実力も運のうち 能力主義は正義か?実力も運のうち 能力主義は正義か?感想
学歴社会の問題を中心に、メリトクラシーは果たして正当なものと言えるのかという疑問をつきつける。実は今のアメリカはヨーロッパや中国と比べて社会的流動性が低くチャンスに恵まれないという話が面白い。アメリカの状況は、程度の違いはあっても日本の問題でもある。本書で議論されているのは地域、時代(中国の科挙など)を越えた普遍的な問題と見るべきである。著者が提示する大学入試をめぐる解決案は、古代ギリシアの公職抽選制を連想させる。議論の前提として「選別」をめぐる世界史も整理されるべきだろう。
読了日:05月13日 著者:マイケル サンデル

陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)感想
『新青年』と北京大学時代、五四運動、中国共産党建党、トロツキー派への転向、晩年、そしてその時々の交友関係、近年の再評価と、知りたいポイントはあらかた押さえられている。また新文化運動についての簡潔なまとめともなっている。
読了日:05月14日 著者:長堀 祐造

中国の歴史11 巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平 (講談社学術文庫)中国の歴史11 巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平 (講談社学術文庫)感想
軍事芸術家としての毛沢東と政治芸術家としての鄧小平との対比を軸に描く中国現代史。毛沢東の「三つの世界論」、中国は28の国に分かれているという地方分権論的な発想など、毛沢東の世界観に触れるような議論が面白い。第9章でハードカバー版刊行後の状況を加筆し、第10章は完全書き下ろし。毛沢東への回帰を目指す習近平時代について描く。「毛沢東vs.鄧小平」を副題とする本書としてはそれなりにオチがついたということになるだろうか。
読了日:05月17日 著者:天児 慧

中国vs.世界 呑まれる国、抗う国 (PHP新書)中国vs.世界 呑まれる国、抗う国 (PHP新書)感想
イスラエル、ナイジェリア、カザフスタン等々、各国の対中諸相。中国側から見てみると、アフリカ地域への関心の高さや「巴鉄」ことパキスタンとの堅い結びつきなど変わらない部分もあれば、「諍友」オーストラリアへの態度の変化のように変わってしまった部分もあり。そこから変わらない中国、変わった中国の姿が見えてくる。マライ・メントライン氏とのインタビューで現代中国とナチスとの比較が話題に上っているが、その前段となるドイツ帝国との類似性にはたと膝を打った。
読了日:05月19日 著者:安田 峰俊

「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本感想
東アジア規模での巨大な合成の誤謬と評価する技能実習生、偽装留学生などの「低度」外国人材問題。自分が被害者となれば、力を尽くして対抗手段を取ろうとする中国人に対して、本書で取り上げられているベトナム人女性の例などはどうしょうもないという印象を抱いてしまうが、我々日本人が労働問題で困難に陥った時には中国人よりベトナム人女性のような態度を取ってしまうのではないかとも思う。ダメな点も込みで日本人的に感情移入しやすいのは、案外彼女のような存在ではないか。
読了日:05月21日 著者:安田 峰俊

〈武家の王〉足利氏: 戦国大名と足利的秩序〈武家の王〉足利氏: 戦国大名と足利的秩序感想
山田康弘『戦国時代の足利将軍』への批判という側面が強く、同書が否定的に評価した足利氏の将軍権威、共通価値に着目。足利氏と同様に権威を確立し、数百年存続しながらも滅亡した王家は世界史上に数多く、それらと比較するのも一興だろう。最後に日本史の時代区分について言及するが、「足利時代」なる呼称を採用するなら、いっそ「足利朝」、すなわち王朝として評価した方がよいのではないか。
読了日:05月25日 著者:谷口 雄太

三体3 死神永生 上三体3 死神永生 上感想
上下巻通しての感想。時系列的には第2部の「面壁計画」と同じ頃から始まり、これと並行して「階梯計画」が進められていたことが語られるが、そこから目まぐるしく時が過ぎ去り、何度も舞台が変化していく。そして最後には…… 第1部が文革から始まったことを思うと途方もない所まで行き着いたなという感想しかない。全作中今作が最もSFらしいと言えるかもしれない。第1部、第2部、第3部とそれぞれ異なった顔を持つ作品。
読了日:05月28日 著者:劉 慈欣

チャリティの帝国――もうひとつのイギリス近現代史 (岩波新書, 新赤版 1880)チャリティの帝国――もうひとつのイギリス近現代史 (岩波新書, 新赤版 1880)感想
昨今の日本でもよく見られる「本当に困っている人だけ助けたい」という発想が近代イギリスでも見られたこと、それが「無用な弱者」撲滅という発想につながっていったこと、チャリティの受給者を決めるための選挙が存在したこと、そして特に海外へのチャリティ活動が、奴隷貿易、植民地での先住民の虐待など、大英帝国が引き起こした問題への対応策という性質を持っていたことなど、近代イギリスのチャリティの裏面史を描く。「善意」という側面からの大英帝国史として読むと面白い。
読了日:05月30日 著者:金澤 周作

コメント
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