大東亜共栄圏 帝国日本の南方体験 (講談社選書メチエ)の
感想本書で印象に残ったのは、東南アジアの人々を寛大に扱っているつもりの日本側と、現地の人々の感情が齟齬を来す部分。たとえば日本側がイスラム教・ヒンドゥー教など現地の宗教信仰を認める一方で、神社の参拝や皇居遙拝を彼らに求めてその矛盾に気付かなかったり、日本へのフィリピン人留学生が、医学などの専門分野に加えて修身も学ばされることに対して、「私たちは日本精神を学びに来たわけではない」と、英語で不満を示す話などが紹介されている。この手の寛容に見せかけた無理解は、現代の日本にも残っているのではないか。読了日:01月02日 著者:
河西 晃祐
シベリア抑留 - スターリン独裁下、「収容所群島」の実像 (中公新書)の
感想独ソ戦でのドイツ軍の捕虜や、朝鮮人抑留民、同じ日本人でも民間人の抑留と比較のうえでシベリア抑留を描き出す試み。ドイツ人も日本人も抑留体験が共産主義思想というより民主主義の学校になったという側面、「天皇制軍隊」やナチズムが収容所でのスターリン崇拝と同質のものであったという指摘が印象に残った。読了日:01月05日 著者:
富田 武
ゴーレムの生命論 (平凡社新書)の
感想同じ著者の『動物に魂はあるのか』は哲学者などの議論を追ったものだったが、こちらはゴーレム、あるいはゴーレム的な人工生命に関する物語を追ったもので、最終的には現代的な課題として生命倫理の問題に触れる。何となくこの著者に『鋼の錬金術師』の感想を聞きたくなったが…読了日:01月07日 著者:
金森 修
中国再考――その領域・民族・文化 (岩波現代文庫)の
感想内藤湖南以来の唐宋変革論を受け入れつつも、戦前の日本の「支那は国家ではない」というような議論を批判し、中国は特殊な国家であるとしつつも、古代の中国の領土を現代に再現しようとするような態度を批判するといった具合に、複雑な立場からの議論となっている。現在の中国の学界での歴史学の議論の中心は「領域」「エスニックグループ」「宗教」「国家」「アイデンティティ」等ということであり、日本の「支那論」などがのさばる隙はもうないようである。読了日:01月08日 著者:
葛 兆光
デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える (光文社新書)の
感想IT企業のデスマーチの原因を、ソフトウェア開発は通常の製造業とは全く異なる過程で行われるものなのに、それを無視して「ものづくり」の手法を持ち込もうとする点、そして個々のエンジニアが自らの仕事を抱え込むことが美徳とされる業界の特性に求める。個々のエンジニアのインタビューは日本のソフトウェア産業の略史ともなっていて、懐かしさを覚える読者も多いだろうが、パソコンをいじって遊びでプログラミングを身につけた者がいつしかエンジニアとなり、ソフトハウスを興すなんてことはもう過去のことになったのだなあと。読了日:01月10日 著者:
宮地 弘子
パクス・デモクラティア―冷戦後世界への原理の
感想「民主国家同士は戦争をしない」という民主的平和論について検証した論著。素人的な印象だが、「民主制」などの定義をいじって帳尻を合わしている面があるのではないかと感じた。また近現代の事例のみを扱っているのかと思いきや、古代ギリシアや文化人類学的な事例についても検証の対象としている。2017年現在の視点からは、原著が出版された1992年の時点で、「アラブ民主主義」にも民主的平和論があてはまるかと考察している点が光っている。読了日:01月12日 著者:
ブルース ラセット
アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)の
感想『道徳感情論』で展開された議論を基礎に、アダム・スミスのもうひとつの著作『国富論』を読み解いていくという試み。そして『国富論』と、アダム・スミスの同時代の大事件・アメリカ独立革命との関係についても丁寧に追っている。「代表なくして課税なし」という有名な言葉について、「ではイギリス本国議会で議席を得られればアメリカ独立はなかったのか?」と常々疑問に思っていたが、本書によると、やはりそうではなかったようだ。読了日:01月14日 著者:
堂目 卓生
はじめての中国キリスト教史 (アジアキリスト教史叢書3)の
感想景教から現代の「家庭教会」まで、中国のキリスト教布教・信仰の歴史をたどる。個人的には、第二章の宣教師の目から見た太平天国の部分を面白く読んだが、民国期のキリスト教の展開や日本のキリスト教会との関係は、これまでの概説では手薄だったところではないかと思う。読了日:01月17日 著者:
石川照子・桐藤薫・倉田明子・松谷曄介・渡辺祐子
韓国の世界遺産 宗廟――王位の正統性をめぐる歴史 (京大人文研東方学叢書)の
感想廟制からたどる朝鮮王朝史。純祖などの祖号が、本人の業績に基づいたものというよりは外戚に地位を与えるための措置であったこと、日本の統治時代にも廟制の議論があったことなどは勉強になった。本書でたびたび現れる傍系から即位した君主の実父の扱いについては、朝鮮や中国だけでなく、儒教的な文脈でというわけでもないにしろ、日本の天皇家でも問題とされたことではないかと思うが…読了日:01月20日 著者:
矢木 毅
<軍>の中国史 (講談社現代新書)の
感想「中国史」とあるが、本書の読みどころとなるのは第3章の清末以後の部分。第4章は軍閥の親玉の銘々伝的な感じとなっている。「軍閥」という呼称が敵対者による批判のレッテルになっているという指摘や、晩年の孫文が国共合作と馮玉祥ら「軍閥」との連合の二股をかけていたという指摘は面白い。ただ、「国家の軍隊ではない人民解放軍」にこだわるなら、中国史上での義勇軍や義勇兵の位置づけを軸にしても良かったのではないか。読了日:01月22日 著者:
澁谷 由里
復元 白沢図: 古代中国の妖怪と辟邪文化の
感想中国の鬼神に関する知識をまとめた書物『白沢図』の本文輯校と解説が主内容だが、妖怪白沢の図像についても論じている。『白沢図』については著者も言及しているように、やたらと「これを食べれば××の効能がある」「〇〇の味がする」という記述が見られるのが印象的。『山海経』の時代から現代中国の間を埋める妖怪文化のテキストとして、もっと知られてもよいと思った。読了日:01月24日 著者:
佐々木 聡
入門 東南アジア近現代史 (講談社現代新書)の
感想「多様性の中の統一」をキーワードに読み解く東南アジア史。各国史の寄せ集めではなく、土着国家→欧米の植民地化→日本の占領→独立と開発主義→民主化とASEANの結成といった具合に、ちゃんと地域史としてまとまっている。華人の土着化が進行し、もはや中国を「外国」と見ているという指摘や、ASEANが東南アジア諸国の「自称」と化しているという指摘が面白い。読了日:01月26日 著者:
岩崎 育夫
トルコ現代史 - オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書 2415)の
感想主に第二次大戦後の状況が中心となっている。建国の祖ケマル・アタテュルクや第2代大統領イノニュが軍人出身であることもあり、常に軍部が政治への介入を図ってきたこと(これが昨年のクーデタ未遂事件の背景であるようだ)、そして親イスラムの立場からの世俗主義への反発が今に始まったことではないことが読み取れる。エルドアンの所で出てくる「ブラック・テュルク」(貧困層)と「ホワイト・テュルク」(エリート層)についは、どこの国でもこういう区分があるものなのかと思ってしまったが…読了日:01月28日 著者:
今井 宏平
沖縄問題―リアリズムの視点から (中公新書)の
感想同じく中公新書から出た『沖縄現代史』と何が違うのかと思ったら、こちらは沖縄県の行政に携わる「中の人」たちによる共著。どうしても「お役人」としての立場が見え隠れするものの、沖縄が公的支出や基地経済に依存しているという意見への批判など、最低限言うべきことは言っているという印象。読了日:01月31日 著者:
高良 倉吉
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