博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2016年12月に読んだ本

2017年01月01日 | 読書メーター
本年もどうぞよろしくお願い致します。

欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)感想
ユーロ危機・難民・イギリスのEU離脱などの問題を扱いつつ、これらの危機が複合化することで、例えばユーロ問題では対立し合うドイツとギリシアが、難民問題では利害が一致するという具合に対立が避けられるという側面があること、EU崩壊の危機と言いつつその実EUは常に危機にさらされていたこと、統合の進展は今日の危機の原因というより、そもそも統合は危機を避けるための措置であり、その価値は現在も失われていないことなど、EUのしぶとさを強調する議論が印象に残った。
読了日:12月3日 著者:遠藤乾

松陰の本棚: 幕末志士たちの読書ネットワーク (歴史文化ライブラリー)松陰の本棚: 幕末志士たちの読書ネットワーク (歴史文化ライブラリー)感想
吉田松陰の読書歴を思想遍歴とリンクさせようという試み。会沢正志斎の『新論』が題簽すら勝手な名前に変えられて好き勝手に読まれていたという現実、書籍を仲介として形成された人間関係など、前田勉『江戸の読書会』の続編的な書として読んだ。また「あとがき」にある、著者の研究のきっかけがWindows95パソコンの購入であったという話も、今となっては20年前の空気を伝えるようで面白い。
読了日:12月5日 著者:桐原健真

わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)感想
史料批判、先行研究の探し方、時代区分、「民族」「漢代の豪族」などの概念の問題、そしてゼミ発表と卒論等々、大学での歴史学の学習や研究はどんなものかをまとめたもの。史学科の1年生用の教科書として作られたものだろうが、史学科への進学を考えている高校生にも読んで欲しい本。従来史学概論にあたるものや分野別の研究入門は多く出版されてきたが、こういう形でそれ以前の段階の入門書が出版されることはなかったのではないか。
読了日:12月7日 著者:

日本と中国経済: 相互交流と衝突の100年 (ちくま新書1223)日本と中国経済: 相互交流と衝突の100年 (ちくま新書1223)感想
似たようなコンセプトの本は岡本隆司先生のものなどいくつか存在するが、本書では特に日中間の経済的な結びつきに注目。労使間の対立がナショナリズムに結びつく点や、日本側が中国政府の実力を軽視して対応を誤るといった現象が戦前から見られることを指摘。よく話題に上げられる中国のGDP統計に対する疑念についても、地道な研究によって代替的な推計がはじき出されており、実際の数字との誤差がどこから生じるかという問題についてもおおよそのコンセンサスが形成されているというが、その部分をもう少し詳しく説明して欲しかった。
読了日:12月10日 著者:梶谷懐

竹簡学入門―楚簡冊を中心として竹簡学入門―楚簡冊を中心として感想
楚簡と一口に言っても、文書類・卜筮祭禱簡、そして『老子』などの書籍類を同列に論じられるものかと思っていたが、竹簡の書式など、まとめて取り扱える部分は多いのだなと認識。特に読みどころとなるのは、具体的な文字や文章の釈読、竹簡の綴合や編連などの成果を例示する第3章。原著は中国の大学で入門書として講義で使用されているということだが、本書日本語版も戦国竹簡のスタンダードな入門書になるのではないかと思う。
読了日:12月13日 著者:陳偉

ここまで変わった日本史教科書ここまで変わった日本史教科書感想
小・中・高校で使われる日本史の教科書の内容はここ数十年でどう変わったのか。類似の本はたくさんあるが、文科省で教科書調査官を務めた研究者が執筆しているというのがミソ。教科書の内容と検定制度・学習指導要領との関わりについても触れている。個人的に興味を持ったのは、中・高の学習指導要領では平成の時代に関しては取り上げるべき具体的な事項がほとんど示されていないということと、教科書の記述の訂正や統計データの更新、最新の出来事の追記などは、検定制度を経ずに訂正申請制度で修正・増補が可能という点。
読了日:12月15日 著者:高橋秀樹,三谷芳幸,村瀬信一

毛沢東の対日戦犯裁判 - 中国共産党の思惑と1526名の日本人 (中公新書)毛沢東の対日戦犯裁判 - 中国共産党の思惑と1526名の日本人 (中公新書)感想
一般に「寛大」な処置を受けたとされる中国の日本人戦犯。中国での「思想改造」の過程のほか、彼らの政治利用を図っていた当時の中国側の動きや、帰国後の「戦犯」たちの後半生についても触れる。特に「戦犯」たちが帰国当初から中国に「洗脳」されたと見られがちだったことや、彼らの団体である中帰連が文革や改革開放といった中国側の政治状況に翻弄されたさまを興味深く読んだ。
読了日:12月17日 著者:大澤武司

老子と上天: 神観念のダイナミズム老子と上天: 神観念のダイナミズム感想
古代中国の宗教史、あるいは神観念の推移を、為政者側の「唯一神」的な上帝・上天信仰と、民衆の側の鬼神信仰との闘いとして読み解き、『老子』の思想を鬼神の側に位置づける。専門柄、殷周期の上帝と天との関係を、天を上帝の統治機関とする考え方、また皇帝の号が絶対神である「煌煌たる上帝」に由来するものではなく、あくまでも人間の君主の号である帝号に由来するものであり、天子号のような宗教性ではなく、あくまでも天下を統治する君主としての実力・実質性に裏付けられたものであるという議論を面白く読んだ。
読了日:12月19日 著者:浅野裕一

ガリバルディ - イタリア建国の英雄 (中公新書)ガリバルディ - イタリア建国の英雄 (中公新書)感想
イタリア統一三傑の一人ガリバルディの生涯を、ダメな部分やゴシップ、栄光の両シチリア王国征服後の後半生、没後の評価も含めて描き出す。三傑の残る二人、ガリバルディが敬愛し、後に批判したマッツィーニと、「イタリア性にめぐまれていない」というカヴールとの対比も面白い。また、同時代の日本で西郷隆盛とも比較されたと言うが、ガリバルディが幕末の日本に生まれたとしたら、存分に生きられただろうか?
読了日:12月21日 著者:藤澤房俊

難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書)難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書)感想
特にEU絡みの話は通り一遍の話に終始しており、同じく中公新書から出た『欧州複合危機』の方が「難民」と「移民」を切り分ける恣意性など、有意な論点を提示できていたように思う。本書ではシェンゲン協定・ダブリン規則、あるいは難民条約にも否定的な見方を示すが、中東などでの政治危機が「難民」を生み出すとすれば、そのような「難民」として受け入れてもらうための合法的手段があろうとなかろうと、多くの「難民」が押し寄せることには何の変わりもないのではないだろうか。
読了日:12月23日 著者:墓田桂

通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
中国との「歴史戦」の絡みで注目されるようになった通州事件を、事件の背景とその後の処理、日本側による事件の反中プロパガンダ化などと合わせて論じる。なぜ現地の保安隊が虐殺を行ったのかについては明確な結論を下しているわけではなく、今回はその外堀を埋めたというか、今後の議論の叩き台を提供するものとなっている。また、事件によって日本人だけでなく、現地の中国人や朝鮮人も多く犠牲になっている点や、当初日本側が事件の隠蔽に走った点などは、今までの議論ではスルーされてきたのではないだろうか。
読了日:12月25日 著者:広中一成

通論考古学 (岩波文庫)通論考古学 (岩波文庫)感想
考古学の大家による古典的名著ということだが、銘文・紋様等の拓本はあくまでも写真の補助であるべき、弁偽にこだわるあまり、本物を偽物と誤って判断して排除することがあってはならないといった意見や、文献と遺物の内容に衝突がおこった場合の考え方、遺跡をどこまで「復元」するかという問題など、今日にも通用する視点が多く盛り込まれているのに驚かされる。
読了日:12月26日 著者:濱田耕作

動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学 (中公新書)動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学 (中公新書)感想
標題のテーマに関する西洋での古今の議論、特に「動物霊魂論」と「動物機械論」をめぐる論争を読み解いた哲学入門。動物に魂はあるのかという議論は、必然的に肉食の問題や、動物と人間との違い、更には人間の霊魂や生命科学の問題と結びついていく。人間の霊魂については同じ著者の『ゴーレムの生命論』で詳しく論じられているようである。本書では最後の締めがやや投げやり気味になってしまっているのが残念。
読了日:12月28日 著者:金森修

悟浄出立 (新潮文庫 ま 48-1)悟浄出立 (新潮文庫 ま 48-1)感想
中島敦の作品を取っ掛かりにした中国歴史短編集だが、私が印象に残ったのは竹簡が重要な役割を果たす「法家孤憤」と「父司馬遷」の二編。巻末の著者解題と併せ読むと面白さが倍増する。「法家孤憤」は、主役の京科あるいは荊軻の立場が、秦簡が出たことで知られる雲夢睡虎地秦墓の被葬者とも重なる。「父司馬遷」の解題で、司馬遷は『史記』において「話を盛る」という行為をしていたのではないかという想定はなかなか面白い。著者がどこまで今の中国古代史研究を踏まえたうえで書かれたのかはわからないが、なかなかのセンスを感じる。
読了日:12月30日 著者:万城目学
コメント
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