20世紀アメリカの夢: 世紀転換期から1970年代 (岩波新書)の感想
変わった時代の区切り方だなと一瞬思ったが、南北戦争以後の黒人・女性の権利拡大を求める動きとその帰結、ニューディール連合の成立と瓦解を内包した区切りということで納得。ルシタニア号事件と米国の大戦参戦が直接結びつくのか、大戦が女性の社会進出をもたらしたと手放しで評価できるのかという問題や、恐慌を国際問題ととらえたフーバーに対し、国内問題ととらえたローズヴェルトという対比を面白く読んだ。
読了日:02月03日 著者:中野 耕太郎
荀子 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)の感想
篇ごとではなく、性悪説、天人の分、礼治など、トピックごとに読みどころと思想の特色を示すという手法で、構成がよく工夫されている。第二部では『孟子』の性善説や『韓非子』の説く法治との比較、新出資料による再評価も盛り込まれている。荀子の主張は「性悪説」と呼ぶべきなのか、最終的には善に至ると人間の可能性を認めているという点では、孟子とそれほど違いはないのではないかとする点が面白い。
読了日:02月05日 著者:湯浅 邦弘
漢語の謎: 日本語と中国語のあいだ (ちくま新書 (1478))の感想
漢語の中で近代用語は、従来日本→中国の一方通行で広まったとされてきたが、中国で成立した漢訳洋書に注目することで、中国→日本→中国といったように日中間の相互作用によって成立するという具合に複雑な様相を呈していることを示す。取り上げている漢語も、この手の話で取り上げられやすい「自由」「経済」「科学」といったベタなものではなく、「電池」「化石」「半島」「熱帯」「空気」といった少々変わったものが多い。具体的なものの方が意味の幅が小さく扱いやすいからだというが、これはこれで面白い。
読了日:02月10日 著者:荒川 清秀
世界哲学史2 (ちくま新書)の感想
今回印象に残ったのはゾロアスター教とマニ教の位置づけの話。執筆者が対象をdisり気味に書いているが、ゾロアスター教は元来一神教的二元論を採っていた、マニ教はキリスト教のペルシア的変種として捉えた方がよいという指摘を面白く読んだ。後者の指摘はアウグスティヌスがキリスト教に回心する以前はマニ教徒であったという話とも響き合う。
読了日:02月12日 著者:
歴史人口学事始め: 記録と記憶の九〇年 (ちくま新書 (1475))の感想
先頃亡くなられた速水融の学問の歩み。メインとなる歴史人口学との出会いのほか、1944・1946年の東南海・南海大地震、スペイン・インフルエンザ、日本の高齢化社会への視点に惹きつけられる。歴史人口学との出会いは偶然の重なりによるものだったようだが、研究者と研究テーマとの出会いはそういうものかもしれない。
読了日:02月17日 著者:速水 融
天変地異はどう語られてきたか (東方選書)の感想
日本と中国に限らず、朝鮮・琉球・東南アジア、時代も近現代まで射程に入れ、幅広くアジアの天変地異を語る。天変地異が宗教信仰や怪異だけでなく、環境問題、(天変地異としての疫病に対して)医療、(天変地異をもたらす外界の者への)排外意識、トラウマやデマ、(沖縄での米軍や自衛隊の位置づけをめぐって)政治や軍事など、様々な問題と関わることが示されている。
読了日:02月19日 著者:
南朝全史 大覚寺統から後南朝へ (講談社学術文庫)の感想
大覚寺統の血筋の恒明が北朝に身を投じつつ、その子息が南朝の護持僧になっているという現象、南朝が小規模ながらも朝廷としての要件を十分に備えていたという評価、南北朝の合一を成し遂げたとされる足利義満も、鎌倉時代以来の両統迭立の原則から完全に解放されているとは言い難いのではないかという指摘、後南朝が説話の世界では意外に長い寿命を保っていたという指摘などを面白く読んだ。
読了日:02月23日 著者:森 茂暁
律令国家と隋唐文明 (岩波新書 新赤版 1827)の感想
古代の日本が隋唐からいかにして律令制を受け入れ、国家としての体裁を整えていったのかを追う。律令制の受容は土俗的な社会に接ぎ木したような状況だったと言うが、租庸調の税制が名称は唐風だが実態は律令以前の慣行を基礎としていたとか、近代に皇室の「伝統」となった籍田が、実は古代天皇制になじむものではなかったという話が面白い。最後に日本の「古典的国制」について議論しているが、中国史でも「古典中国」「古典国制」が議論されているのを連想させる。
読了日:02月24日 著者:大津 透
台湾の歴史と文化-六つの時代が織りなす「美麗島」 (中公新書 (2581))の感想
植民地統治時代に台湾で生まれ育った日本人の目を通して見る台湾の歴史と文化。歴史よりは、主に台湾南方の街並み、信仰、先住民との交流など、文化面に重点を置いている。個人的には植民地統治時代よりも、終盤の戦後の「外省人」の視点からの話、「外省人」の学校教員も日本人教員と同様に青少年の教育に熱意を持って当たったというような話が新鮮で面白く感じた。
読了日:02月25日 著者:大東 和重
エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)の感想
序盤の「王冠を賭けた恋」と終盤のハリー王子の結婚、夫の叔父の暗殺指令者かもしれないマーティン・マクギネスとの握手など、長い在位期間を誇るだけあって、対比的に時の流れによる変化を感じさせるエピソードが多い。変化といえば、もてあましていたダイアナのやり方に倣って慈善活動のアピールを重視するなど、王室のあり方を変えていくという話も印象的である。「おわりに」で紹介されている、ヨーロッパの君主制を滅ぼしてきた者は誰かという夫のエディンバラ公の言葉が、時代に合わせて変えていくことの重要性を示している。
読了日:02月29日 著者:君塚 直隆
変わった時代の区切り方だなと一瞬思ったが、南北戦争以後の黒人・女性の権利拡大を求める動きとその帰結、ニューディール連合の成立と瓦解を内包した区切りということで納得。ルシタニア号事件と米国の大戦参戦が直接結びつくのか、大戦が女性の社会進出をもたらしたと手放しで評価できるのかという問題や、恐慌を国際問題ととらえたフーバーに対し、国内問題ととらえたローズヴェルトという対比を面白く読んだ。
読了日:02月03日 著者:中野 耕太郎
荀子 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)の感想
篇ごとではなく、性悪説、天人の分、礼治など、トピックごとに読みどころと思想の特色を示すという手法で、構成がよく工夫されている。第二部では『孟子』の性善説や『韓非子』の説く法治との比較、新出資料による再評価も盛り込まれている。荀子の主張は「性悪説」と呼ぶべきなのか、最終的には善に至ると人間の可能性を認めているという点では、孟子とそれほど違いはないのではないかとする点が面白い。
読了日:02月05日 著者:湯浅 邦弘
漢語の謎: 日本語と中国語のあいだ (ちくま新書 (1478))の感想
漢語の中で近代用語は、従来日本→中国の一方通行で広まったとされてきたが、中国で成立した漢訳洋書に注目することで、中国→日本→中国といったように日中間の相互作用によって成立するという具合に複雑な様相を呈していることを示す。取り上げている漢語も、この手の話で取り上げられやすい「自由」「経済」「科学」といったベタなものではなく、「電池」「化石」「半島」「熱帯」「空気」といった少々変わったものが多い。具体的なものの方が意味の幅が小さく扱いやすいからだというが、これはこれで面白い。
読了日:02月10日 著者:荒川 清秀
世界哲学史2 (ちくま新書)の感想
今回印象に残ったのはゾロアスター教とマニ教の位置づけの話。執筆者が対象をdisり気味に書いているが、ゾロアスター教は元来一神教的二元論を採っていた、マニ教はキリスト教のペルシア的変種として捉えた方がよいという指摘を面白く読んだ。後者の指摘はアウグスティヌスがキリスト教に回心する以前はマニ教徒であったという話とも響き合う。
読了日:02月12日 著者:
歴史人口学事始め: 記録と記憶の九〇年 (ちくま新書 (1475))の感想
先頃亡くなられた速水融の学問の歩み。メインとなる歴史人口学との出会いのほか、1944・1946年の東南海・南海大地震、スペイン・インフルエンザ、日本の高齢化社会への視点に惹きつけられる。歴史人口学との出会いは偶然の重なりによるものだったようだが、研究者と研究テーマとの出会いはそういうものかもしれない。
読了日:02月17日 著者:速水 融
天変地異はどう語られてきたか (東方選書)の感想
日本と中国に限らず、朝鮮・琉球・東南アジア、時代も近現代まで射程に入れ、幅広くアジアの天変地異を語る。天変地異が宗教信仰や怪異だけでなく、環境問題、(天変地異としての疫病に対して)医療、(天変地異をもたらす外界の者への)排外意識、トラウマやデマ、(沖縄での米軍や自衛隊の位置づけをめぐって)政治や軍事など、様々な問題と関わることが示されている。
読了日:02月19日 著者:
南朝全史 大覚寺統から後南朝へ (講談社学術文庫)の感想
大覚寺統の血筋の恒明が北朝に身を投じつつ、その子息が南朝の護持僧になっているという現象、南朝が小規模ながらも朝廷としての要件を十分に備えていたという評価、南北朝の合一を成し遂げたとされる足利義満も、鎌倉時代以来の両統迭立の原則から完全に解放されているとは言い難いのではないかという指摘、後南朝が説話の世界では意外に長い寿命を保っていたという指摘などを面白く読んだ。
読了日:02月23日 著者:森 茂暁
律令国家と隋唐文明 (岩波新書 新赤版 1827)の感想
古代の日本が隋唐からいかにして律令制を受け入れ、国家としての体裁を整えていったのかを追う。律令制の受容は土俗的な社会に接ぎ木したような状況だったと言うが、租庸調の税制が名称は唐風だが実態は律令以前の慣行を基礎としていたとか、近代に皇室の「伝統」となった籍田が、実は古代天皇制になじむものではなかったという話が面白い。最後に日本の「古典的国制」について議論しているが、中国史でも「古典中国」「古典国制」が議論されているのを連想させる。
読了日:02月24日 著者:大津 透
台湾の歴史と文化-六つの時代が織りなす「美麗島」 (中公新書 (2581))の感想
植民地統治時代に台湾で生まれ育った日本人の目を通して見る台湾の歴史と文化。歴史よりは、主に台湾南方の街並み、信仰、先住民との交流など、文化面に重点を置いている。個人的には植民地統治時代よりも、終盤の戦後の「外省人」の視点からの話、「外省人」の学校教員も日本人教員と同様に青少年の教育に熱意を持って当たったというような話が新鮮で面白く感じた。
読了日:02月25日 著者:大東 和重
エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)の感想
序盤の「王冠を賭けた恋」と終盤のハリー王子の結婚、夫の叔父の暗殺指令者かもしれないマーティン・マクギネスとの握手など、長い在位期間を誇るだけあって、対比的に時の流れによる変化を感じさせるエピソードが多い。変化といえば、もてあましていたダイアナのやり方に倣って慈善活動のアピールを重視するなど、王室のあり方を変えていくという話も印象的である。「おわりに」で紹介されている、ヨーロッパの君主制を滅ぼしてきた者は誰かという夫のエディンバラ公の言葉が、時代に合わせて変えていくことの重要性を示している。
読了日:02月29日 著者:君塚 直隆