博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『おおかみこどもの雨と雪』

2012年08月19日 | 映画
ブログなどで感想を見てると、色々不穏な要素に満ちているらしいということで、細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』を見てきました。

東京で一人暮らしをしていた女子大生の花は、もぐりで大学の講義を受けていた狼男と出会って同棲生活を開始し、雪と雨の二人の「おおかみこども」に恵まれますが、狼男の方が花や子供たちを残して急死。狼男と人間とのハーフをどう育てたものか戸惑い、子供たちの正体が露見するのを恐れた花は、意を決して人気の少ない田舎に引っ越すことにしますが……

「花と狼男との恋愛話はメインじゃないんで!」ということで、二人の出会いから田舎に引っ越すまでが90年代の香港映画並みのスピード展開でワロタw (褒めてます) しかし狼男の遺体がポリ袋に放り込まれてゴミ収集車に回収されていくシーンは軽くトラウマになりそうでしたが……

で、人目に触れにくい一軒家で農業をやりつつ三人で暮らしていくと決めたものの、畑仕事のやり方がわからず、かと言って雪と雨のこともあるのであんまり人には頼りたくないということで、移動図書館で借りた本を頼りに野良仕事に励む花。こちらのブログ(『おおかみこどもの雨と雪』におけるヒロインの怖さ:愛書婦人会)を参照しつつこの場面に注目すると、いわゆる「意識の高い」お母さんが自然食品とかロハス生活にハマっていくメカニズムが何となく見えくるような気がします。

そして物語の後半では、雪と雨の姉弟が自然界の中で狼として生きるか、それとも狼に変身できるという秘密を抱えつつ人間として生きていくのかという決断を迫られていくわけですが、弟の雪が自分の見込んだ「先生」に弟子入りするという武侠的展開(どういう事情で何に弟子入りするかは見てのお楽しみ)も見所のひとつです。

この作品、例えば舞台がアメリカであれば「狼に変身できるのも個性のひとつだよ」という展開になったと思われ、欧米に限らずタイやインドなどが舞台でもまた違った展開になったはずですが、今の日本を舞台とする限り、残念ながら「狼に変身できることを隠して生きる」という本作の展開がごく自然なものに感じられます。

いろんな方面で物議を醸しそうな不穏な要素に満ちた本作ですが、心のモヤモヤを喚起するという意味では同じ監督の作品の『サマーウォーズ』よりずっといい作品だと思いましたよ?

しかし本作の最大の謎は、狼男がどうして大学のギリシア哲学だか古代ギリシア史だかの講義にもぐりこんでいたのかですが、労働に励みつつ何かのはずみで学問の面白さに目覚め、独学の手段を探っていたのだと考えると何だか泣けてきました(´;ω;`) 大学って一般に開かれているように見えて、本作で触れられていたように図書館の利用制限とか、意外と部外者に冷たい面があるんですよね……
コメント
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