第5章 浴血邠陽(前編)
ある日、太宗皇帝はふと思い立って、五台山にお参りに行きたくなりました。八賢王が言うには、「五台山は遼国の国境と近く、今行かれるのは危険でございます。やはり何年かしてから行かれた方がよいでしょう。」太宗は忠告を聞き入れず、楊継業の子の楊延平を護駕大将軍に任命し、二万の禁軍を引き連れて五台山へと向かいました。
この時はまさに秋空が高く空気が爽やかな頃合いで、一行が五台山までやって来ると、住持の智聡方丈が既に僧侶たちを引き連れて山の外で出迎えに来ていました。太宗皇帝が仏殿に至り、読経が終わると、元和宮で精進料理がふるまわれて宿泊しました。
二日目、大臣たちが太宗皇帝に都に戻るように奏上しました。しかし皇帝は日頃皇宮に籠もりっきりで、外に出る機会が滅多にないものですから、どうしてたやすく戻ることを承知したりするでしょうか。大臣たちは太宗とともに物見遊山をするほかありませんでした。
太宗が山頂に上ると、数え切れないほどの美しい峰々が目に入ります。彼は野草が地の果てまで連なる所を指さして群臣に尋ねました。「あれはどこだ?」潘仁美が言うには、「あれこそが幽州で、風景がたいへん美しうございます。」太宗はこれを聞くと、幽州に遊覧に行きたいという考えがおこり、「さようか、ならば文武百官は朕とともに幽州を遊覧せよ。」と言いました。八賢王は慌てて諫めて言いました。「断じてなりません!幽州は遼主蕭太后の縄張りでございます。陛下が行かれるのは、自分から罠に飛び込むようなものですぞ。」
太宗はそうは考えずに言いました。「朕には千軍万馬の護衛がおる。蕭太后が何をしようと恐れることはない!」大臣たちはもう諫めようとはせず、太宗とともに幽州へと出発するばかりです。一行は幽州からほど近い邠陽までやって来ましたが、前方には砂ぼこりが飛び散るのが見えるのみ。そこへ遼将の耶律奇が兵を率いて行く手を阻みます。楊延平が槍を突き出し馬を鞭打って突進すると、数合も槍を交えないうちに馬首を巡らせて逃走してしまいました。楊延平は太宗を邠陽城まで護送します。
蕭太后は太宗皇帝がやって来たと聞くと、冷笑して言いました。「いい度胸だ!もともとこちらが出兵してやつを討伐しようと思っていたのに、自分からこちらにやって来てくれるとは!」言い終わると、天慶王耶律尚に一万の精兵を率いて邠陽に向かい、宋の太宗を生け捕りにするよう命令を下しました。
耶律尚は兵を引き連れて邠陽城下までやって来ると、水も漏らさぬほど厳重に城を取り囲んでしまいます。太宗はその様子を見てたいへん後悔しました。
ある日、太宗皇帝はふと思い立って、五台山にお参りに行きたくなりました。八賢王が言うには、「五台山は遼国の国境と近く、今行かれるのは危険でございます。やはり何年かしてから行かれた方がよいでしょう。」太宗は忠告を聞き入れず、楊継業の子の楊延平を護駕大将軍に任命し、二万の禁軍を引き連れて五台山へと向かいました。
この時はまさに秋空が高く空気が爽やかな頃合いで、一行が五台山までやって来ると、住持の智聡方丈が既に僧侶たちを引き連れて山の外で出迎えに来ていました。太宗皇帝が仏殿に至り、読経が終わると、元和宮で精進料理がふるまわれて宿泊しました。
二日目、大臣たちが太宗皇帝に都に戻るように奏上しました。しかし皇帝は日頃皇宮に籠もりっきりで、外に出る機会が滅多にないものですから、どうしてたやすく戻ることを承知したりするでしょうか。大臣たちは太宗とともに物見遊山をするほかありませんでした。
太宗が山頂に上ると、数え切れないほどの美しい峰々が目に入ります。彼は野草が地の果てまで連なる所を指さして群臣に尋ねました。「あれはどこだ?」潘仁美が言うには、「あれこそが幽州で、風景がたいへん美しうございます。」太宗はこれを聞くと、幽州に遊覧に行きたいという考えがおこり、「さようか、ならば文武百官は朕とともに幽州を遊覧せよ。」と言いました。八賢王は慌てて諫めて言いました。「断じてなりません!幽州は遼主蕭太后の縄張りでございます。陛下が行かれるのは、自分から罠に飛び込むようなものですぞ。」
太宗はそうは考えずに言いました。「朕には千軍万馬の護衛がおる。蕭太后が何をしようと恐れることはない!」大臣たちはもう諫めようとはせず、太宗とともに幽州へと出発するばかりです。一行は幽州からほど近い邠陽までやって来ましたが、前方には砂ぼこりが飛び散るのが見えるのみ。そこへ遼将の耶律奇が兵を率いて行く手を阻みます。楊延平が槍を突き出し馬を鞭打って突進すると、数合も槍を交えないうちに馬首を巡らせて逃走してしまいました。楊延平は太宗を邠陽城まで護送します。
蕭太后は太宗皇帝がやって来たと聞くと、冷笑して言いました。「いい度胸だ!もともとこちらが出兵してやつを討伐しようと思っていたのに、自分からこちらにやって来てくれるとは!」言い終わると、天慶王耶律尚に一万の精兵を率いて邠陽に向かい、宋の太宗を生け捕りにするよう命令を下しました。
耶律尚は兵を引き連れて邠陽城下までやって来ると、水も漏らさぬほど厳重に城を取り囲んでしまいます。太宗はその様子を見てたいへん後悔しました。