図書館で借りた「ルポ 貧困大国アメリカ」という本を読んだ。世界最大の経済大国であり、先進国でありながらも力強い経済成長を続けるアメリカは、実は国内に膨大な貧民を抱えており、相当に深刻な状況になっている、という内容のルポタージュだ。アメリカは格差が激しい国だということは知っていたが、ここまでひどいとは思っていなかった。アメリカは「努力をすれば誰でも夢を実現できるチャンスのある国」というようなイメージがあるが、やっぱりそんなのはおとぎ話に過ぎず、金の無い者にとっては非常に残酷な社会なのだ。
例えば、2005年にアメリカで飢餓状態を経験した人は3510万人であり、全人口の12%を占めるそうだ。これを日本の人口に当てはめると、1500万人以上が飢餓状態を経験した、ということになる。今の日本も貧困が問題となりつつあるが、ここまではひどくない。それから、2006年度の時点で6000万人のアメリカ国民が1日7ドル以下の収入で暮らしているそうである。7ドルといえば1000円程度じゃないのか。日本のワーキング・プアもここまで悲惨じゃないだろう。もはやアメリカは、先進国と呼ぶことさえ躊躇される。
もっと悲惨なのは、医療だ。アメリカでは盲腸で手術して一日入院するだけで、1万2000ドル(132万円)を請求されるらしい。日本なら(保険に入っていれば)せいぜい数万円程度だろう。入院して出産しようものなら1万5000ドルもかかってしまうので、病院で出産してその日のうちに帰ってしまう妊婦も多いのだそうだ。国民皆保険ではないので、民間の保険に入る金のない貧乏人は悲惨である。病気になって入院するようなことになれば、完全に破滅だ。保険に入ることのできる中流階級であっても、儲け主義の民間保険では十分な保険金が下りることなく、入院することによって貧民に転落してしまう。日本の医療はいろいろと問題が指摘されているが、アメリカに比べればものすごく優秀なのだと分かった。
結局、福祉も医療も教育も何でもかんでも民営化して競争させればよい、という「新自由主義」の単純極まりない発想と、それを強力に推し進め、本来政府が責任を持たなければいけない分野を放棄したブッシュ政権こそが、この惨状の原因である、というのがこの本の主旨だ。もしそうであれば、日本も少しずつその後を追っていることになる。これは将来の日本の姿なのかもしれない。しかし、国民の命を守る医療制度、及びそれを支える国民皆保険制度は、何があっても堅持していかなければならない、と私は思う。この先、その維持は大変に難しいことではあるが。