旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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男だけのふり遊び・ご案内

2008-10-09 14:59:49 | ノンジャンル
★連載NO.361

 「ふり遊びばかりしないで、たまには勉強しなさいッ」
 いまでも親が子どもにかける言葉ではなかろうか。
 私なぞ3日に1度は、おふくろに云われていた。60年近くも前の〔ふり遊び〕とは、悪童が揃ってする「玉小クァーエー=B玉の取りっこ遊び」「パッチー クァーエー=メンコ」、それに海サグイ山サグイと言って、ただうろつくだけではなく、海ではアファケー<貝・蛤>や、イヌジャー<岩溝に棲む小ダコ>を捕り、山ではソーミナー<メジロ>捕りや、イチュビ<野いちご>などを取って食べながら戦争ごっこやターザンになりきってのアウトドアプレイが殆どだったが、〔遊び〕の頭に〔ふり〕が付くと「無駄な」「ばかばかしい」「役に立たない」となり、親の小言の対象になった。
 学校では「よく遊びよく学べ」と、確かに教えられたが、わが仲間は「よく遊びよく遊び」に徹していたから、親に「ふり遊びばかりしてッ」とコーサー<拳骨>を喰らっても反抗はしなかった。コーサーの理由をよく理解しているのは、当の本人だったのである。

 遊び=むだ。しまりのないこと。
 遊ぶ=好きなことをする。仕事や勉強をしない。酒食にふける。
 などと辞書に書いてあり、かの色男光源氏も「夜ふくるまで遊びをしたまふ=桐壺」を楽しんでいる。つまり、洒落っ気を発揮する感性を持ち合わせた〔遊びごころ〕がなければ、遊びの奥義には達し得ない。さらに「遊びに師無し」と言い、遊びは他人から教えられるものではなく、常に自らの努力、切磋琢磨、実践をもって会得するものだそうだ。まあ、一方に「遊びに師無し」は、師を持たない分「悪に染まり易い」ことの戒めとする向きもあるにはある。

 「ふり遊び=あしび」の〔ふり〕はこの場合、接頭語として用いられている。悪霊か何かにとりつかれて「ふれ者」になる。気がふれたように〔遊びほうける〕さまを指していて、大和風に云えば、正気でありながら狸に化かされたか狐つきになったかのように、ふれ者のように遊びまくることを示している。
 2008年10月19日午後7時。沖縄市民小劇場「あしびなぁ」に〔正気・本気のフリムンたち〕が参集する。「男だけのふり遊び」公演がそれだ。
 9年連続で遊び芸を披露する面々は、沖縄芝居の重鎮の一人、八木政男。劇団「真永座」主宰及び芝居や舞踊に欠かせないカツラ、小道具作りの職人仲嶺真永。役者で舞台はもちろん、沖縄関わりの映画「釣りバカ日誌」「深呼吸の必要」「風の舞」など出演の多い北村三郎。八重山民謡の県指定技能保持者であり、全国的に演奏活動をしている大工哲弘。沖縄芸能の後継者で演劇集団「いしなぐの会」の當銘由亮、知名剛史。そして今回は、県立芸術大学に遊び学び、舞踊、組踊の成長株宇座仁一が初参加。構成・演出・司会は、琉球放送ラジオ50年の放送屋上原直彦。総元締はキャンパスレコード社長備瀬善勝。
 演目①日ごろは、沖縄口の表現者がイメージを裏切る大のり歌謡パレード。②女踊り3題。③さんしんによる日本童謡集。④抱腹絶倒の喜劇「年頭御拝」。〔あなたは、この笑いにたえられるか!秋の夜長の遊び芸〕〔今年も大のり小のり!懲りない男たちの名演・迷演〕を謳い文句にしている。おまけに、ポスター・チラシに表示されている門賃<むんちん。入場料>を、最近の物価高に逆らって前期・後期高齢者は2000円。90歳以上は無料にするという遊びつきである。
 鶴田浩二ではないが「いまの世の中、右を向いても左を見ても、真っ暗闇じゃござんせんか」。そこで、まっとうな男だけが恥も外聞も捨て、後ろ指をさされるのもいとわず〔笑い〕でもって〔世直し〕を試みる〔ふり遊び〕である。

稽古風景

♪ふり遊びしちん フリムンやあらん 肝染ま小友ぬ 揃るてぃ居てぃどぅ
 ふり遊びはするが、本物のフリムンではありません。心を許し合った友・仲間が打ち揃って仕組んだ〔ふり遊び〕なのです。
 これである。この文句は、歌者徳原清文の愛唱歌「ゆしよーゆし」の一節。

 「遊び」は、神遊びをはじめとして満作を神に感謝する豊年祭、綱引き、獅子舞、エイサー、海神祭ハーリーなどすべて神につながり、神と向き合っている。旧暦8月十五夜、9月十五夜の月見遊びについて1719年来琉、滞在約8ヶ月間の琉球見聞を記録した尚敬王の冊封副使・中国人徐葆光<じょ ほこう>は、その著書「中山伝信録」に〔神、人共に喜び合う日なり〕と、十五夜遊びを記している。
 「男だけのふり遊び」は、そこまで高尚ではないが、しばしの時間を共にして〔ふり笑い〕をするのも健康のためによろしいのではなかろうか。ご案内申し上げ候。 
◇キャンパス通信。
 「男だけのふり遊び」チケット販売所。那覇=高良レコード店。ナビィ三線店。仲尾次三味線店。沖縄市=照屋楽器店。普久原楽器店。市民小劇場あしびなぁ。キャンパスレコード。うるま市=津波三味線店。名護市=ブックボックス名護店。


次号は2008年10月16日発刊です!

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