旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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鷹渡り・おきなわの秋

2008-10-30 14:06:18 | ノンジャンル
連載NO.364

 ♪秋の夕日に照る山もみじ 濃いも薄いも 数ある中に
   松を彩る楓や蔦は 山の麓の裾模様
 小学校4、5年生のころ教わった唱歌「もみじ」が口をついて出た。群馬県在の知人らの絵はがきには、紅葉狩りへの誘いとその写真がある。頃はよし、旅ごころを刺激してやまない。

 沖縄の気温もようやく30度と29度、28度あたりを行ったり来たりして、だいぶしのぎやすくなった。でも、スーツを常着するにはまだ早い。
 秋の使者サシバの渡りも無事すんだようだ。今年、宮古島や伊良部島で確認されたサシバは、13年ぶりに3万羽を超えた。鷹の仲間のサシバは、毎年10月「寒露」の日に北の繁殖地からやってくる。大きな群れが日ごとにその数を増やしたのは、時を違わず今年も「寒露」の日だった。越冬地の東南アジアへの旅の途中、一夜の羽を宮古島、伊良部島に休める彼たち。10月8日<寒露>から21日まで実施された飛来調査では、3万2000余羽を確認している。この数字は、2004年を除く過去10年間の平均飛来数の約2倍。3万羽を超えたのは13年ぶりということだ。増加の要因は「日本列島のサシバの繁殖地に台風の直撃が少なく、子育ての気象条件がよかったことや、調査期間中の宮古島上空の気流がよく、サシバの渡りに必要な条件が揃っていた」と関係者は分析している。
 かつては沖縄本島各地でもこの「秋の風物詩」に接することが容易だったが開発、都市化の時流の中には、彼らが宿とする樹木や食料のアタビー<蛙>アンダチャー<トカゲ>などが激減、戦前ほどの数は見ることができなくなった。と言うことは宮古島や伊良部島は、サシバの休息地としての条件を満たしていることになる。サシバの群れが島の上空を舞うさまは実に壮観、自然の中の生命の神秘と荘厳さを覚えずにはいられない。
 しかし、今年の3万2000余羽のサシバが1羽残らず、南の越冬地に渡れるとは限らない。沖縄に飛来してくるまでに傷ついたり、体力を消耗しきったものは、次なる飛行叶わず、群れと行動をともにすることはできない。一般的にこれらのサシバを「落てぃ鷹=うてぃ だが」と称するが、宮古の人びとは彼らを神の使いと位置づけて「スマバン タカ・島番鷹」と敬称する。島に残ったサシバは飛翔能力がなくなったのではなく、神様から〔おまえ達は島に滞在して、この島に邪悪なものが侵入しないように番をせよ。島を守護せよ〕との使命を受けた鷹としているのである。このことは宮古の古謡にもある。ここにも小さな島、いや、それだからこそ自然を敬い、自然と同化して生きてきた島びとの観念をみることができる。

 一方、沖縄本島で言う「落てぃ鷹」はどうだろう。
 首里那覇の童たちは、市内の奥武山や末吉の森などで落てぃ鷹を捕獲。サシバの足に麻製の穀物袋や畳制作に使用する太めの通称4号糸・シンゴーイーチュを適当な長さで結わえて、頭上高く飛ばして遊んだ。そのあとは森へ放ってやった例もあるが、たいていはタカジューシュー<鷹雑炊>なる炊き込み飯の主役になって人間の胃袋に納まった。けれども、それはかつてのこと、現在は保護鳥の指定を受けているから、サシバの捕獲は法律で禁じられている。まして食するなどもっての外である。
 俗語にある「落てぃ鷹」は、彼らを擬人化して用いる。つまり、大空をわがもののように飛ぶ鷹のように権力、地位、身分を誇示していた人間がそれらのすべてを失い、尾羽打ち枯らしたさまを揶揄している。
 日本が明治政府を樹立。琉球王国が沖縄県になった際、身分制度が崩壊して野に下った首里士族の例が「落てぃ鷹」。地方に暮らしを求めた彼らを「廃藩のさむらい」と言い、
 ♪大和世になりば 鷹ん地に降りて 鶏とぅ共の 芋小掘ゆさ
 と、狂歌に詠まれて囃し立てられた。つまり、日本国に組み入れられたとたん、首里貴族<鷹>も田舎に下りて、慣れない農耕に従事。芋を作り百姓<鶏>と共に芋掘りをしているさまの〔なんと哀れなことよ!〕と、かつての農民・平民は皮肉っている。
 巷間「猿は木から落ちても猿だが、選挙で落ちたモノはただのヒト以下」と言われているが、それはあんまり・・・・だ。猿と同一にしては失礼にあたる。豊かな国造り、平和な都道府県、暮らしよい市町村創成のために高邁な理想と深淵をもって出馬、しかもわれわれが選ぶ・・・・方々なのだから。

 撮影は見えないが、飛行機がふたすじの長く白い雲を生んでいる。沖縄の秋空の青にそのすじはよく似合う。
 待てよ。飛行機雲は排気ガス中の微粒子を核として、水蒸気が凝縮してできるものと聞いているが、季節とも関係があるのだろうか。このことを気にしながら、知人がよこした絵はがきに目をやり、唱歌「もみじ」の2番目を思いだし思いだし歌ってみる。
 ♪渓の流れに 散り行くもみじ 波にゆられて 離れて寄って
  赤や黄色の色さまざまに 水の上にも 織る錦


次号は2008年11月6日発刊です!

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