昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(91)第9回読書ミーティング

2014-09-21 06:03:38 | 三鷹通信
 先ず、現役編集者である講師から。
 ─今月のベストセラー─
 <銀翼のイカロス>
 
 池井戸潤による、おなじみ半沢直樹シリーズの第4弾。
 初版で25万部は全出版書の最高!
 発売3日目で4刷り55万部。
 目下発売週から6週連続1位!

 なぜ売れるのか?
 *勧善懲悪で、善が危機→悪に倍返しのものすごいカタルシス
 *ドラマと連動、「史上最大の倍返し」というキャッチフレーズとともに、読みながら堺雅人の顔が浮かぶ。
 
 
 ─ベストセラーニュース①─
 「半沢直樹、就活戦線に反響多し」
 *半沢直樹でメガバンク志望者増加中
 *一方、「銀行ってそんなに大変なんですか?」と不安の声も
  「あんなに悪い上司は普通いません」三菱東京UFJ銀行の広報担当者
  「経営者とも本気で付き合う気概を持っている」暴力団融資問題があった直後のみずほ銀   行の広報担当者
 *「半沢直樹で経済がわかる」2014年文芸春秋
   (金融業界の仕組みや用語がわかる) 

 ─ベストセラーニュース②─
 「去年と今年のベストセラーのキーワードは<長生き>と<猫>」
  1位「長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい」 93万部
    
  2位「人生はニャンとかなる! 明日に幸福をまねく<68の方法>」70万部
    
     『日本出版販売(出版取次大手)による今年上半期の数字』
 
 他にも、
 
 
 など・・・。

 去年は「医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法」が200万部売り上げた。
     

 ─ベストセラーニュース③─
  「国際電子出版セミナー」
 *日本のE-book市場規模は1000億を超えた。
  2018年には3300億の予測。
  

 アメリカは紙の落ち込みをE-BOOKが埋めている。2013年で30%
 2017年には紙と売り上げが同じになる。
  
 注目すべきは、売れているのはセルフパブリッシング(インディーズ、自主出版)時代へ。
 製作費が安く500~1000ドル(編集、デザイン)販売促進500~1000ドル。
 印税が35~70%。

 ─ロングセラー─
 カミュ<異邦人>
 
 新潮文庫累計407万部で歴代5位。外国文学では<老人と海>に続く不動の2位。

 1942年ドイツ占領下でアルジェリアを舞台に、人生や社会に何の意味もない、とする不条理をテーマに描かれた小説。46歳の若さでカミュはノーベル文学賞を受賞。
 母親の死んだ直後に不謹慎な行動を取ったこと、異邦人だったことなど、不条理な理由で死刑になった不安定な若者は現代にも通じるものがある。

 続いて参加者からの推薦本。
 
 上橋菜穂子の<夢の守り人>
 
 今年、児童文学のノーベル賞といわれる「国際アンデルセン賞・作家賞」を受賞。 
 「ファンタジーの世界をつくり出す秀でた才能の持ち主で、その作品は、自然やあらゆる生き物への優しさと敬意にあふれている」と評価された。
「精霊の守り人」「獣の奏者」シリーズで知られるベストセラー作家だ。
 推薦者は「幻想的なファンタジーでありながら、現実的な自分を重ね合わせることができる」と感銘。
(女性の生き方、母と子どもの関係、親の思い通りにならない子ども。その他職場などの人間関係)

 水戸岡鋭治<電車をデザインする仕事>
 
 超豪華寝台列車<ななつ星in九州>で話題のデザイナーの名著。
 話題の豪華寝台車を生み出すまでの、彼なりの流儀、哲学、デザインに賭ける思いが満載。
 鉄道フアンならずともビジネス書としても目から鱗の一冊。

 推薦者によれば「水戸岡さんとJR九州との出会いが鉄道デザインへのみんなの認識を変えた。機能的な鉄道から乗る人がワクワクするように。
 超豪華列車へは予約が3年先まで埋まっているそうだし、簡単には乗れないが、同じ水戸岡さんがデザインした<ゆふいんの森電車>を体験してみよう。

 コリン・サブロン<ロシア民族紀行>
 
 まだペレストロイカ以前のソ連を、イギリス人で紀行作家である著者が、単身、車で旅した旅行記。
 世界地図で見るロシアは広大で、まるでツンドラ地帯が世界の半分を凍りつかせているように見える。ひたすら黙して語らず、どこか不完全な印象を与えたと著者は書いている。
 そんな単身旅行者に国からあてがわれた案内人は、つい先ごろ外国語大学を卒業したばかりで、ガイドとして6か月の訓練を終えて、その該博な学識と統計を、意気揚々と旅行者に語る。
「第4次五か年計画期間中、400万平方メートルの住宅建設がなされました・・・」
 彼は崖のようにそそり立つぶざまな建物の一群を指さした。・・・
 ソ連の人々は建築物を美的基準ではなく、象徴的な意味あいで見ているのだ。・・・
 その美はそれらの内包する進歩の観念のなかに存在しているのだ。それは有用性というスクリーンに投影された国家の誇りのイデアなのだ。・・・
 彼を通して初めて、ソ連の公務員の率直な精神をうかがい知ることになった。
 ある種の言葉や言いまわしは、彼の口から発せられたとたんほとんど神聖な輝きをおび、また時としてその語りには、こうした崇敬おくあたわざる合言葉が炎となって燃えたった。

 しかしそのガイドは実はユダヤ人だったのだ。
 著者は探りを入れる。
 ガイドは共産党の路線通りシオニズムを批判したが、そこにはためらいのようなものを感じた著者はユダヤ人のガイドが傷つくような探りを入れる。
 彼はぼそりと口を開いた。
「ユダヤ人も国を持つべきだと思う」
 
 推薦者(実はボクなのだが)曰く「人間の考え出したイデオロギーは、いかに立派に見えても限界がある。一部のエリートが支配する国は長続きするはずがない。結局その土地に代々根ざした民族の素朴さや善良さが打ち破ることになる。(事実このあとソ連は崩壊する)

 ボクは寺田寅彦の言葉を思い出した。 「人間の動きを人間の力でとめたりそらしたりするのは天体の運行を勝手にしようとするよりもいっそう難儀なこと」