昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

なるほど!と思う日々(252)日本三分割の危機(1)

2013-09-23 04:58:10 | なるほどと思う日々
 福島原発事故は大変な事故だった。
 現象的な面で見れば、今もって汚染水の問題で安倍首相はコントロールの下にあると言ったが、必ずしもまだまだ安心のできる状況ではないようだ。
 さらに、核汚染物質の処理については目途さへ立っていない。
 今、門田隆将氏の「死の淵を見た男」を読み返しながら、技術的な問題はともかく、大事故の処理に立ち向かった人たちの人間模様に痛く惹きつけられた。

 菅は、のちに「現場を混乱させた」として、この訪問について厳しい非難を受けた。事故から1年7か月経過した2012年10月、菅は筆者にこう語った。
「東電はあの時、窓口として武黒氏(東京電力の武黒一郎フェロー)を官邸に送ってきていた。武黒氏は東電の副社長原子力・立地本部長まで務めた原子力の専門家、プロでしょう。だから来ている。当然、こちらは、原発の状況についていろいろ聞く。しかし、彼は説明が出来ないんですよ。一方で、ある段階で、このままいくと格納容器の圧力が上昇して爆発する危険がある、そのためにベントをおこないたい、そう説明し、了承を求めてきた。・・・
しかし、自らベントをやると言っているのに、それが進まない。その理由を聞いても答えられない。それは彼自身が情報を伝えられていなくて、情報そのものがないんだ。・・・
”おい、どうなってる”っていうのは当たり前じゃないの。だから、(現地で)武藤氏に会った時に、直接どうなってんだ?って聞いたわけなんです。だからごく自然なんですよ、私からすると」
 

 というわけで、急遽菅首相はヘリコプターで現地に向かった。
 到着する前により詳しいことを聞きたいからということで、原子力安全委員会の斑目春樹が同行を要請された。

 「まず一番問題なのは、崩壊熱であって・・・そこから話そうとしたんです。・・・でも、そんなことはわかっているという感じで、”俺の質問にだけ答えてくれ”とピシャッと言われました」・・・そして菅の質問が始まった。・・・斑目は答えながら、菅が原子力の知識をある程度、持っていることを感じた。 

 現地では武藤栄東電副社長たちが出迎えた。
 

「東京電力の武藤でございます。ご苦労様でございます」
 そう挨拶した武藤に、菅は、いきなり声を上げた。
「なんでベントをやらないんだ!」
「えっ?」
 驚いたのは、武藤だけではない。挨拶もないまま、いきなり菅が声を上げたことで、周囲の人間が仰天したのだ。菅は激昂していた。やっと怒りをぶつける対象が「目の前に現れた」ということだった。・・・武藤は、こう回想する。
「いきなり、なんでベントをやらないんだとおっしゃって、あとは、なんで早くやらないんだ、いつになったらできるんだ、という繰り返しでした。何が問題なんだ、ということばかりおっしゃっていたように記憶しています。聞くという感じではなく、おまえら何やってるんだって怒鳴りつける感じでした」・・・
 同席していた斑目は、こんな印象を持った。
「最初、菅さんに聞かれていた武藤さんが一生懸命、話そうとしたんですが、”そんなこと聞きにきたんじゃない!”と、菅さんが怒ったんです。そのあとを(部屋に入ってきた)吉田さんが引き取ったと思うんですよ。それから、菅さんと吉田さんとのやりとりになったと思います。菅さんは吉田さんの言うことは、きちんと聞いていましたね」
 菅は、武藤に何度もぶつけた同じ質問を吉田に発した。
「ベントはどうなってるんだ」吉田が答える。
「ずっとチャレンジをしています。しかし、電源がないため電動弁があかないもんですから、大変難しい状態がつづいています、バブルを手であけるべく、現場ではいま作業をおこなっております」・・・
「とにかく早くベントをしてくれ」・・・
「もちろん、努力しております。決死隊をつくってやっておりますので」
 吉田がそう語ると、菅はやっと落ち着いたようだ。


 ─続く─