昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(175)向田邦子の<風立ちぬ>

2013-09-06 04:43:49 | エッセイ
 宮崎駿監督が今回上映中の<風立ちぬ>を最後に引退されるという。
 この映画を見ておかねばと思う一方、ぼくは向田邦子の<風立ちぬ>を思い出していた。
 2001年だからもう10年以上前になる。


 TBSの久世光彦監督演出のテレビ番組だったと思う。
 
 理由の分からないまま小林薫演ずる夫に家出されてしまった、寂しげな中にもかいがいしく家事に精出す田中裕子演ずる長女。
 スマートな海軍将校にプロポーズされ、心は魅かれながらも結論を先延ばしにする憂いを含んだ宮沢りえ演ずる次女。
 明るい高校生の田端智子演ずる三女。
 そして凛としてしっかりした加藤治子演ずる母親。
 山手の静かな住宅街の一軒家、母を中心に仲の良い三人姉妹という女ばかりの普通の生活が淡々と描かれる。
 しかし、ちょっと騒々しい叔父から失踪した長女の夫の情報がもたらされて、平穏な家族に波風が立ち始める。
 
 長女は夫の居場所をつきとめ女と一緒に住んでいることを知る。
 夫は「すべて自分が悪い、離婚してくれ」と言い、「家を出たのは彼女のせいではない」と言うばかりで本当の理由を明かそうとしない。
 そしてついに母からその理由が明かされる時がくる。
 彼女が流産で入院中に次女が彼に恋心を抱いたことを知った母が、家庭の危機を感じて、長女の夫に家を出るように説得した事実が明らかになる。

 長女は次女を責め、次女はそんな自分の心をどうしようもなかったのだと泣き崩れる。母は次女にみあい相手との結婚を奨め、長女には夫を諦めるよう説得する。
 ようやくその気になった次女に悲報がもたらされる。
 見合した相手が海軍と陸軍の内部抗争の責めを負って割腹自殺したというのだ。

 次女は自分がみんなを不幸にしたと慟哭し、長女は優しくその肩を抱き、三女はもらい泣きする。
 宮沢りえの渾身の演技が涙を誘った。
 過労で倒れ入院した母に呼ばれた長女の夫は「あなたにはひと言謝りたかった」と告げられた。
 長女もようやく納得して夫との離婚に応ずる。
 今のようにあけすけと物を言わない、心の炎を燃やした時代を描いた<向田作品>を象徴する秀作だ。
  
 ロシアで開催されているG20首脳会談で、立ち話ながら安倍首相は中韓首脳と直接窓口を開くきっかけができたようだ。
 
 柔軟に終始した姿勢にかたくなな相手も軟化せざるを得なかったようだ。