昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

昭和のマロの考察(26)医療(1)

2010-08-29 06:43:38 | 昭和のマロの考察
「大変なんです。足がまったく動かないんです・・・」
 三週間前、心臓の大動脈の手術をして無事成功したと聞いていた先輩の奥さんからふたたび電話が入った。

 手術直後の電話では「さすが著名な先生だけあって、実際に手術する場面を家族に見せながら執刀するんですよ。自信がおありになるんでしょうね」と弾んだ声で無事手術は成功したことを伝えてきたのに。

 86歳という高齢だから手術後はしばらく動けないのは当然だが、リハビリをしても足が動かせるようにならない恐れがあるという。
 執刀した先生ではなく、内科の先生の話では手術の際に血管に異物が混入し、脊椎の部分に引っかかっているためらしい。

 我々は東京の郊外にある三鷹市で大学の同窓会仲間と40人ばかりの麻雀グループを結成、毎月大会を開催している。

 この大先輩は会発足当初からのメンバーで、わざわざ神奈川県の鎌倉から出向いてくる。麻雀が何よりもの生きがいで、都内の事務所にも麻雀ルームを持ち、プライベートゲームも3日と置かずに楽しんでいる。
 自宅から駅までバイクで通っているが、事故を起こしたり、階段で転んで怪我をしたと言いながらも、次の日にはケロリとした顔で現れる。

 大学時代にアイスホッケーや、空手で鍛えた頑強な身体の持ち主で、みんなから不死身の大先輩として尊敬されている。
 そんな彼が時々胸苦しさを覚え、病院で検査したところ心臓の大動脈瘤が発見され、いつ破裂しても不思議がない状態だと診断された。
 しかし、その病院では手術しか方法がないが高齢のため手術できないと断られた。
 たまたま、別な病院のアメリカで経験を積んだ著名な医師が手術を引き受けてくれた。

 検査の結果、他には全く懸念するところはないので高齢だが十分手術に耐えられるという。インターネットで調べてみるとこの医師は赫々たる履歴の持ち主だ。
 82歳が今までの患者の最高齢だが、今回成功すれば記録になると意欲満々だと言っていたそうだ。

 手術することが決まって、大先輩は我々に会うごとに「これが最後だからな」と言った。しかし、心の中では「またお前たちをかわいがってやるからな」という不死身の気持ちだったはずだ。
 しかし、手術した結果は長生きできても寝たきりになる恐れがあるという。
「うわごとで<リーチ>とか<ロン>とかおっしゃっていますが、これってお好きな麻雀用語ですか?」と看護婦さんから言われたそうだ。
 それほど好きな麻雀もできなくなる。

 こんなことになるなら、どうせ残り少ない人生だ、手術をせずにリスクは抱えたままの人生を選んだほうがよかったのではと我々は仲間とつぶやきあった。
 手術自体は成功したので、手術滓が脊椎という下半身の運動機能を左右する箇所に引っかかったのは運が悪かったと、ひと言で片づけることが出来るかもしれない。

 しかし、まだ70歳前の同じ仲間が同様のケースで今度は手術滓が脳に飛び火して、より重大な症状を引き起こすということが起きた。

 ─続く─