ステージおきたま

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やっぱり忠臣蔵!『最後の忠臣蔵』

2010-12-31 18:20:19 | 映画

 切々と胸を打つ。赤穂浪士の義挙に連なりながら、土壇場で義士たちから離れた二人の武士の16年。生き証人として、残る家族の世話を命じられた寺坂吉右衛門(佐藤浩市)は、吉良の首級を上げた直後に義士たちと行動を別にした。脇坂孫左右衛門(役所広司)は大石の忘れ形見可音を守るべく討ち入り前夜逐電する。いずれも大石内蔵助の命による。

 武士として義挙に殉ずる願いを押し殺してひたむきに己の使命を全うせんとする二人の誠。仲間に遅れたことを恥じつつ裏切り者の汚名にさえ耐えねばならぬ脇坂の義。役所広司と佐藤浩市どちらも本当に素晴らしい。16年という歳月の重みを二人の表情や動作が見事に物語っている。

 目的を遂げ切腹して果てた者たちの晴れがましさよりも、二人の苦渋に満ち苦難に耐えた人生こそが心を打つ。今の世、義であれ善であれ真であれ、その命ずるままに命を投げ出すことなどできはしない。二人のようなぎりぎりのせめぎ合いを耐えているわけではないが、どこかで思いを抑えつつ現実を生きる私たちだ。

 圧倒的な二人の生き様に加え、可音の脇坂へ思慕とも言える恋情が切なく絡まる。16歳の娘が50近い育ての親に恋するなど無理な設定と言えなくもないのだが、これもまた役所広司の魅力が自然のものにしてくれる。今どきのイケメンの薄っぺらさとは正反対の男の美しさだ。可音の桜庭ななみもいい。娘から女へ揺らぐその危うさ、甘えと気品を兼ね備えた清冽な美しさが、隠れ住むやんごとなき姫君の身の上と一人町家に嫁ぐ身の心細さを切なく訴える。

 シーンも随所に目を見張る美しさに溢れていて見応えがあった。人形浄瑠璃の小屋で茶屋家の跡継ぎが可音を見初める場面。画面は舞台の『曾根崎心中』と行きつ戻りつしながら、登場人物の心を表現していく。その後も人形浄瑠璃はしばしば現れて、心中に上り詰める張りつめた心情が、可音と孫左右衛門の許されぬ恋、孫左右衛門のひた隠す過去と使命を暗示して効果的だった。

 風に晒してある友禅染の反物を間にしての若い二人の相聞シーン。誤解した寺坂が孫左右衛門を追いつめ、小川にかかる橋の上と下でやりとりする場面。風に揺らぐ竹林。紅葉を背に悩み歩む孫左右衛門。一つ一つが存分に吟味された美しさと意味合いを担っていた。

 これはきっと凄い作品になるぞ!きっと大評判になるに違いないと半ば興奮しつつ見つ続けた作品だったが、あれ?そうか、そうなるかとだんだんと鼻白んで行った後半が残念だった。

 一つは、可音の輿入れのシーンだ。ひっそりと出立した二人に寺坂が加わり、かつての赤穂臣下が次々にはせ参じてついには立派な行列となって豪商茶屋家に到着する。一見感動的なシーンだ。それまでの苦労が報われた孫左右衛門の心の内を思い涙が溢れる。でも待てよ。それは安易じゃないか。義士たちに遅れを取った多くの淺野家旧家臣にとって、大石たちの存在ははなはだ複雑なもものがあったのではないだろうか。一方は、義士よ、忠臣よと褒めそやされ、残った者たちは臆病者、不忠の者と誹られ後ろ指を指されて生きてきたのではないか。だから、彼ら旧家臣たちが駆けつけたのは、大石の恩義に報いるためなどではなく、この際、大石の人気に乗って自分たちへの不評を覆そうとしたのではないか?と、まあ、こんな不埒な思いを抱いてしまったのだ。だからしらけた。

 さらに気持ちが離れたのは、ラストシーンだ。可音の嫁入りを見届けた孫左右衛門は一人家に帰り、長らく慕い続けてきたゆうの捨て身の誘惑も振り切って自害して果てる。そう、そうなることはわかっていた。あそこでゆうと新しい人生に踏み出すなど、武士道精神ではあり得ない。観客だって許しはしない。義に殉ずる男の美しさ、みずからの人生もすべて注ぎ込み、16年の歳月の果てにあっても先に行った義士たちや主君への忠を死を持って全うする。その武士道精神の潔さ、凛とした美しさ、それこそがこの映画の狙いなのだから。

 何が不満なのか?結局は忠臣蔵を出ないってことなのだ。当たり前だ、だって忠臣蔵なのだから、最後の忠臣蔵なのだから。それはそうなのだ。だが、男二人の生き様に圧倒され、可音の数奇な一生に引き回されながら、どこか別の着地点を知らず知らず期待していたということなのだ。どう決着が付けばいいのか、それは私にはわからない。だが、この映画が本当に時代を画する作品となるには、これまで描き尽くされた「武士道とは死ぬことと見つけたり」であってはならない、これだけは感じていた。馴染みの美味は確かに観客を満足させる。でも、それは厳しく言えば阿るってことではないのか。マンネリの満足ではないのか。

 やっぱり忠臣蔵!これが良くも悪くもこの作品のワンフレーズコメントだ。 

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