竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

古今和歌集 原文推定 巻八

2020年01月26日 | 古今和歌集 原文推定 藤原定家伊達本
也末幾仁安多留未幾
やまきにあたるまき
巻八

可礼可礼乃宇多
離別哥
離別哥

歌番号三六五
多以之良寸
題しらす
題知らず

安利八良乃由幾比良安曽无
在原行平朝臣
在原行平朝臣

原文 多知和可礼以奈者乃夜万乃三祢尓於不留末川止之幾可者以万加部利己武
定家 立わかれいなはの山の峯におふる松としきかは今かへりこむ
解釈 立ち別れ因幡の山の峰に生ふる松とし聞かば今帰り来む

歌番号三六六
与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 寸可累奈久安幾乃者幾八良安左多知天多比由久比止遠以川止可万多武
定家 すかるなく秋のはきはらあさたちて旅行人をいつとかまたむ
解釈 すがる鳴く秋の萩原朝立ちて旅行く人をいつとか待たむ

歌番号三六七
原文 加幾利奈幾久毛井乃与曽尓和可留止毛比止遠己々呂尓遠久良左武也八
定家 限なき雲ゐのよそにわかるとも人を心におくらさむやは
解釈 限りなき雲居のよそに別るとも人を心に遅らさむやは

歌番号三六八
遠乃々知不留可美知乃久乃寸个尓万可利个留止幾尓者々乃与女留
をのゝちふるかみちのくのすけにまかりける時にはゝのよめる
小野千古が陸奥个に任かりける時に母の詠める

原文 堂良知祢乃於也乃万毛利止安日曽不留己々呂者可利者世幾奈止々女曽
定家 たらちねのおやのまもりとあひそふる心許はせきなとゝめそ
解釈 たらちねの親の守りとあひ添ふる心ばかりは塞きな留めそ

歌番号三六九
左多止幾乃美己乃以部尓天布知八良乃幾与不可安不三乃寸个尓
さたときのみこの家にてふちはらのきよふかあふみのすけに
貞辰親王の家にて藤原清生が近江个に

万可利个留止幾尓武万乃者奈武計之个留与与女留
まかりける時にむまのはなむけしける夜よめる
任かりける時に餞別しける夜詠める

幾乃止之佐多
きのとしさた
紀利貞

原文 遣不和可礼安寸者安不美止於毛部止毛与也布遣奴良武曽天乃川由个幾
定家 けふわかれあすはあふみとおもへとも夜やふけぬ覧袖のつゆけき
解釈 今日別れ明日は近江と思へども夜や更けぬらむ袖の露けき

歌番号三七〇
己之部万可利个留比止尓与美天川可八之个留
こしへまかりける人によみてつかはしける
越へ任かりける人に詠みて遣はしける

原文 加部累夜万安利止者幾計止者留可寸美多知和可礼奈者己飛之可留部之
定家 かへる山ありとはきけと春霞立別なはこひしかるへし
解釈 かへる山ありとは聞けど春霞立ち別れなば恋しかるべし

歌番号三七一
比止乃武万乃者奈武計尓天与女留
人のむまのはなむけにてよめる
人の餞別にて詠める

幾乃徒良由幾
きのつらゆき
紀貫之

原文 於之武可良己比之幾毛乃遠之良久毛乃多知奈武乃知者奈尓己々知世武
定家 おしむからこひしき物を白雲のたちなむのちはなに心地せむ
解釈 惜しむから恋しきものを白雲の立ちなむ後は何心地せむ

歌番号三七二
止毛多知乃比止乃久尓部万可利个留尓与女留
ともたちの人のくにへまかりけるによめる
友だちの人の国へ任かりけるに詠める

安利八良乃之計者留
在原しけはる
在原滋春

原文 和可礼天者本止遠部多川止於毛部者也加川美奈可良尓加祢天己日之幾
定家 わかれてはほとをへたつとおもへはやかつ見なからにかねてこひしき
解釈 別れてはほどを隔つと思へばやかつ見ながらにかねて恋しき

歌番号三七三
安徒万乃可多部万可利个留比止尓与美天川可八之个留
あつまの方へまかりける人によみてつかはしける
東の方へ任かりける人に詠みて遣はしける

以可己乃安川由幾
いかこのあつゆき
伊香子淳行

原文 於毛部止毛三遠之和个祢者女尓美衣奴己々呂遠幾三尓多久部天曽也留
定家 おもへとも身をしわけねはめに見えぬ心を君にたくへてそやる
解釈 思へども身をし分けねば目に見えぬ心を君にたぐへてぞやる

歌番号三七四
安不左可尓天比止遠和可礼个留止幾尓与女留
あふさかにて人をわかれける時によめる
逢坂にて人を別れける時に詠める

奈尓者乃与呂徒遠
なにはのよろつを
難波万雄

原文 安不佐可乃世幾之末左之幾毛乃奈良者安可寸和可留々幾三遠止々女与
定家 相坂の関しまさしき物ならはあかすわかるゝ君をとゝめよ
解釈 逢坂の関し正しき物ならばあかず別るる君を留めよ

歌番号三七五
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 加良己呂毛堂川比者幾可之安左川由乃遠幾天之由个者計奴部幾毛乃遠
定家 唐衣たつ日はきかしあさつゆのをきてしゆけはけぬへき物を
解釈 唐衣たつ日は聞かじ朝露の置きてし行けば消ぬべきものを

歌番号三七六
己乃宇多者安留比止徒可左遠多万者利天安多良之幾女尓川幾天止之部天
このうたはある人つかさをたまはりてあたらしきめにつきてとしへて
この歌はある人官を賜りて新しき妻に付きて年経て

寸三个留比止遠寸天々多々安寸奈武多川止者可利以部利个留止幾尓
すみける人をすてゝたゝあすなむたつと許いへりける時に
住みける人を捨ててただ明日なむ立つとばかり言へりける時に

止毛可宇毛以者天与美天川可八之个留飛多知部万可利个留止幾尓
ともかうもいはてよみてつかはしけるひたちへまかりける時に
ともかうも言はで詠みて遣はしける常陸へ罷りける時に

布知八良乃幾美止之尓与美天川可八之个累
ふちはらのきみとしによみてつかはしける
藤原公利に詠みて遣はしける

宇川久



原文 安佐奈个尓美部幾々美止之多乃万祢八於毛日多知奴留久左末久良奈利
定家 あさなけに見へきゝみとしたのまねは思ひたちぬる草枕なり
解釈 朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬる草枕なり

歌番号三七七
幾乃武祢左多可安徒末部万可利个留止幾尓比止乃以部尓也止利天安可川幾以天
きのむねさたかあつまへまかりける時に人の家にやとりて暁いて
紀宗定が東へ罷りける時に人の家に宿りて暁出で

多天止天万加利毛布之个礼者遠无奈乃与美天以多世利个留
たつとてまかり申しけれは女のよみていたせりける
立つとて罷り申しければ、女の詠みて出だせりける

与三比止之良須
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 衣曽志良奴以万己々呂美与以乃知安良者和礼也和寸留々比止也止八奴止
定家 えそしらぬ今心見よいのちあらは我やわするゝ人やとはぬと
解釈 えぞ知らぬ今心見よ命あらば我や忘るる人や訪はぬと

歌番号三七八
安飛之里天者部利个留比止乃安川万乃可多部万可利个留遠々久留止天与女留
あひしりて侍ける人のあつまの方へまかりけるをゝくるとてよめる
相知りて侍ける人の東の方へ罷りけるを送るとて詠める

布可也不
ふかやふ
清原深養父

原文 久毛為尓毛加与不己々呂乃遠久礼子八和可留止比止尓美由者可利奈利
定家 雲井にもかよふ心のをくれねはわかると人に見ゆ許也
解釈 雲居にも通ふ心の遅れねば別ると人に見ゆばかりなり

歌番号三七九
止毛乃安徒末部万可利个留止幾尓与女留
とものあつまへまかりける時によめる
友の東へ罷りける時に詠める

与之三祢乃飛天遠可
よしみねのひてをか
良岑秀崇

原文 之良久毛乃己奈多可奈多尓多知和可礼己々呂遠奴左止久多久多日可奈
定家 白雲のこなたかなたに立わかれ心をぬさとくたくたひかな
解釈 白雲のこなたかなたに立ち別れ心を幣とくだく旅かな

歌番号三八〇
美知乃久尓部万可利个留比止尓与美天川可八之个累
みちのくにへまかりける人によみてつかはしける
陸奥へ罷りける人に詠みて遣はしける

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 志良久毛能也部尓可左奈留遠知尓天毛於毛者武比止尓己々呂部多川奈
定家 しらくものやへにかさなるをちにてもおもはむ人に心へたつな
解釈 白雲の八重に重なる遠方にても思はむ人に心隔つな

歌番号三八一
比止遠和可礼个留止幾尓与美个留
人をわかれける時によみける
人を別れける時に詠みける

原文 和可礼天不己止者以呂尓毛安良奈久尓己々呂尓之美天和日之可留良武
定家 わかれてふ事はいろにもあらなくに心にしみてわひしかるらむ
解釈 別れてふ事は色にもあらなくに心に染みて侘びしかるらむ

歌番号三八二
安比之礼利个留比止乃己之乃久尓々万可利天止之部天美也己尓万宇天幾天
あひしれりける人のこしのくにゝまかりてとしへて京にまうてきて
相知れりける人の越国に罷りて年経て京に参うで来て

万多可部利个留止幾尓与女留
又かへりける時によめる
また帰りける時に詠める

於保可宇知乃美川祢
凡河内みつね
凡河内躬恒

原文 加部留夜万奈尓曽者安利天安留可比八幾天毛止万良奴奈尓己曽安利个礼
定家 かへる山なにそはありてあるかひはきてもとまらぬ名にこそありけれ
解釈 かへる山何ぞはありてあるかひも来てもとまらぬ名にこそありけれ

歌番号三八三
己之乃久尓部万可利个留比止尓与美天川可八之个留
こしのくにへまかりける人によみてつかはしける
越国へ罷りける人に詠みて遣はしける

原文 与曽尓能美己比也和多良武之良夜万乃由幾美留部久毛安良奴和可三者
定家 よそにのみこひやわたらむしら山の雪見るへくもあらぬわか身は
解釈 よそにのみ恋ひやわたらむ白山の雪見るべくもあらぬ我が身は

歌番号三八四
遠止八乃夜万乃保止利尓天比止遠和可留止天与女留
をとはの山のほとりにて人をわかるとてよめる
音羽の山の辺にて人を別るとて詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 遠止者夜万己多可久奈幾天保止々幾須幾三可和可礼遠於之武部良奈利
定家 をとは山こたかくなきて郭公君か別をおしむへら也
解釈 音羽山木高く鳴きて郭公君が別れを惜しむべらなり

歌番号三八五
布知八良乃乃々知加个可加良毛乃々川可日尓奈可川幾乃徒己毛利可多尓万可利
藤原のゝちかけかからものゝつかひになか月のつこもりかたにまかり
藤原後蔭が唐物使に長月の晦方に罷り

个留仁宇部乃遠乃己止毛左个多宇日个留川以天尓与女留
けるにうへのをのこともさけたうひけるついてによめる
けるに殿上の男ども酒食うびけるついでに詠める

布知八良乃可祢毛知
ふちはらのかねもち
藤原兼茂

原文 毛呂止毛尓奈幾天止々女与幾利/\寸安幾乃和可礼者於之久也八安良奴
定家 もろともになきてとゝめよ蛬秋のわかれはおしくやはあらぬ
解釈 もろともに鳴きて留めよきりぎりす秋の別れは惜しくやはあらぬ

歌番号三八六
多比良乃毛止乃利
平もとのり
平元規

原文 安幾々利乃止毛尓多知以天々和可礼奈者波礼奴於毛日尓己比也和多良武
定家 秋霧のともにたちいてゝわかれなははれぬ思ひに恋や渡む
解釈 秋霧の友に立ち出でて別れなば晴れぬ思ひに恋ひやわたらむ

歌番号三八七
美奈毛堂乃左祢可徒久之部由安美武止天万可利个留尓夜万左幾尓天
源のさねかつくしへゆあみむとてまかりけるに山さきにて
源実が筑紫へ湯浴みむとて罷りけるに山崎にて

和可礼於之美个留止己呂尓天与女留
わかれおしみける所にてよめる
別れ惜しみける所にて詠める

志呂女
しろめ
白女

原文 伊乃知多尓己々呂尓加奈不毛乃奈良者奈尓可和加礼乃加奈之可良末之
定家 いのちたに心にかなふ物ならはなにか別のかなしからまし
解釈 命だに心にかなふ物ならば何か別れの悲しからまし

歌番号三八八
夜万左幾与利加美奈比乃毛利万天遠久利尓比止/\万可利天
山さきより神なひのもりまてをくりに人/\まかりて
山崎より神奈備の森まで送りに人びと参りて

加部利可天尓之天和可礼於之三个留尓与女留
かへりかてにしてわかれおしみけるによめる
帰りがてにして別れ惜しみけるに詠める

美奈毛堂乃左祢
源さね
源実

原文 比止也利乃美知奈良奈久尓於保可多者以幾宇之止以日天以左可部利奈武
定家 人やりの道ならなくにおほかたはいきうしといひていさ帰なむ
解釈 人やりの道ならなくにおほかたは行き憂しと言ひていざ帰りなむ

歌番号三八九
以万者己礼与利加部利祢止左祢可以比个留於利尓与三个留
今はこれよりかへりねとさねかいひけるおりによみける
今はこれより帰りねと、実が言ひける折に詠みける

布知八良乃加祢毛知
藤原かねもち
藤原兼茂

原文 志多者礼天幾尓之己々呂乃三尓之安礼者可部留左万尓八美知毛之良礼寸
定家 したはれてきにし心の身にしあれは帰さまには道もしられす
解釈 慕はれて来にし心の身にしあれば帰るさまには道も知られず

歌番号三九〇
布知八良乃乃己礼遠可々武左之乃寸个尓万可利个留止幾尓遠久利尓
藤原のこれをかゝむさしのすけにまかりける時にをくりに
藤原惟岳が武蔵个に任りける時に送りに

安不左可遠己由止天与三遣留
あふさかをこゆとてよみける
逢坂を越ゆとて詠みける

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 加徒己衣天和可礼毛由久可安不佐可者比止多乃女奈留奈尓己曽安利个礼
定家 かつこえてわかれもゆくかあふさかは人たのめなる名にこそありけれ
解釈 かつ越えて別れも行くか逢坂は人頼めなる名にこそありけれ

歌番号三九一
於保衣乃知不留可己之部万可利个留武万乃者奈武計尓与女留
おほえのちふるかこしへまかりけるむまのはなむけによめる
大江千古が越へ任りける餞別によめる

布知八良乃加祢寸个乃安曽无
藤原かねすけの朝臣
藤原兼輔朝臣

原文 幾三可由久己之乃志良夜万之良祢止毛由幾乃万尓/\安止者多川祢武
定家 君かゆくこしのしら山しらねとも雪のまに/\あとはたつねむ
解釈 君が行く越の白山知らねども雪のまにまに跡は尋ねむ

歌番号三九二
比止乃者那夜万尓末宇天幾天由不左利川可多加部利奈無止
人の花山にまうてきてゆふさりつかたかへりなむと
人の花山に参うで来て夕さりつかた帰りなむと

之个留止幾尓与女留
しける時によめる
しける時に詠める

曽宇志也宇部无世宇
僧正遍昭
僧正遍昭

原文 由不久礼乃末可幾者夜万止美衣奈々武与留者己衣之止也止利止留部久
定家 ゆふくれのまかきは山と見えなゝむよるはこえしとやとりとるへく
解釈 夕暮れの籬は山と見えななむ夜は越えじと宿りとるべく

歌番号三九三
夜万尓乃保利天加部利末宇天幾天比止/\和可礼个留
山にのほりてかへりまうてきて人/\わかれける
山に登りて帰りまうで来て人びと別れける

川以天尓与女留
ついてによめる
ついでに詠める

以宇世无保宇之
幽仙法師
幽仙法師

原文 和可礼遠者夜万乃佐久良尓万可世天武止女武止女之八者那乃万尓/\
定家 別をは山のさくらにまかせてむとめむとめしは花のまに/\
解釈 別れをば山の桜に任せてむ止めむ止めじは花のまにまに

歌番号三九四
宇里武為无乃美己乃之也利恵尓夜万尓乃本利天加部利个留尓
うりむゐんのみこの舎利会に山にのほりてかへりけるに
雲林院親王の舎利会に山に登りて帰りけるに

佐久良乃者那乃毛止尓天与女留
さくらの花のもとにてよめる
桜の花の下にて詠める

曽宇志也宇部无世宇
僧正へんせう
僧正遍昭

原文 夜万可世尓佐久良布幾万幾美多礼奈武者那乃万幾礼尓堂知止万留部久
定家 山かせにさくらふきまきみたれなむ花のまきれにたちとまるへく
解釈 山風に桜吹きまき乱れなむ花の紛れに立ち止るべく

歌番号三九五
以宇世无保宇之
幽仙法師
幽仙法師

原文 己止奈良波幾三止万留部久尓本者奈无加部寸八者那乃宇幾尓也八安良奴
定家 ことならは君とまるへくにほは南かへすは花のうきにやはあらぬ
解釈 ことならば君止るべく匂はなん帰すは花の憂きにやはあらぬ

歌番号三九六
尓无奈乃美可止美己尓於者之末之个留止幾尓布留乃多幾於保武美波之尓
仁和のみかとみこにおはしましける時にふるのたき御覧しに
仁和帝親王におはしましける時に布留の滝御覧じに

於波之万之天可部利多万日个留尓与女留
おはしましてかへりたまひけるによめる
おはしまして帰り給ひけるに詠める

遣武計以保宇之
兼芸法し
兼芸法師

原文 安可寸之天和可留々奈美多多幾尓曽不美川万左留止也之毛者美留良武
定家 あかすしてわかるゝ涙瀧にそふ水まさるとやしもは見る覧
解釈 あかずして別るる涙滝にそふ水まさるとや下は見るらん

歌番号三九七
加武奈利乃川保尓女之多利个留比於保美幾奈止多宇部天安女乃以多久
かむなりのつほにめしたりける日おほみきなとたうへてあめのいたく
雷の局に召したりける日大御酒など食うべて雨のいたく

布利个礼者由不左利万天者部利利天以天个留於里尓左可川幾遠止利天
ふりけれはゆふさりまて侍りていてけるおりにさか月をとりて
降りければ夕さりまで侍りて出でける折に盃を取りて

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 安幾者幾乃者那遠者安免尓奴良世止毛幾三遠者万之天於之止己曽於毛部
定家 秋はきの花をは雨にぬらせとも君をはましておしとこそおもへ
解釈 秋萩の花をば雨に濡らせども君をばまして惜しとこそ思へ

歌番号三九八
止与免利个留可部之
とよめりけるかへし
と詠めりける返し

加祢三乃於保幾三
兼覧王
兼覧王

原文 於之武良武比止乃己々呂遠志良奴万尓安幾乃志久礼止三曽布利尓个留
定家 おしむらむ人の心をしらぬまに秋の時雨と身そふりにける
解釈 惜しむらむ人の心を知らぬ間に秋の時雨と身ぞふりにける

歌番号三九九
加祢美乃於保幾三尓者之女天毛乃可多利之天和可礼个留止幾尓与女留
かねみのおほきみにはしめて物かたりしてわかれける時によめる
兼覧王に初めて物語りして別れける時に詠める

美川祢
みつね
凡河内躬恒

原文 和可留礼止宇礼之久毛安留可己与日与利安比美奴左幾尓奈尓遠己日末之
定家 わかるれとうれしくもあるかこよひよりあひ見ぬさきになにをこひまし
解釈 別るれどうれしくもあるか今宵よりあひ見ぬさきに何を恋ひまし

歌番号四〇〇
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 安可須之天和可留々曽天乃志良多万遠幾三可々多三止川々美天曽由久
定家 あかすしてわかるゝそてのしらたまを君かゝたみとつゝみてそ行
解釈 あかずして別るる袖の白玉を君が形見と包みてぞ行く

歌番号四〇一
原文 加幾利奈久於毛不奈美多尓曽本知奴留曽天者可和波可之安八武比万天尓
定家 限なく思ふ涙にそほちぬる袖はかははかしあはむ日まてに
解釈 限りなく思ふ涙にそほちぬる袖は乾かじ逢はむ日までに

歌番号四〇二
原文 加幾久良之己止八布良奈无者留佐女尓奴礼幾奴幾世天幾三遠止々女武
定家 かきくらしことはふら南春雨にぬれきぬきせて君をとゝめむ
解釈 かきくらしことは降らなん春雨に濡衣着せて君を留めむ

歌番号四〇三
原文 志為天由久比止遠止々女武佐久良者那以川礼遠美知止迷万天知礼
定家 しゐて行人をとゝめむ桜花いつれを道と迷まてちれ
解釈 しひて行く人を留めむ桜花いづれを道とまどふまで散れ

歌番号四〇四
志可乃夜万己衣尓天以之為乃毛止尓天毛乃以日个累比止乃
しかの山こえにていしゐのもとにてものいひける人の
志賀の山越えにて石井の本にて物言ひける人の

和可礼个留於利尓与女留
わかれけるおりによめる
別れける折に詠める

徒良由幾
つらゆき
貫之

原文 武寸不天乃志川久尓々己留夜万乃為乃安可天毛比止尓和可礼奴留可奈
定家 むすふてのしつくにゝこる山の井のあかても人にわかれぬるかな
解釈 結ぶ手の滴に濁る山の井のあかでも人に別れぬるかな

歌番号四〇五
美知尓安部利个留比止乃久留万尓毛乃遠以比川幾天
みちにあへりける人のくるまにものをいひつきて
道に逢へりける人の車に物を言ひ付きて

和可礼个留止己呂尓天与女留
わかれける所にてよめる
別れける所にて詠める

止毛乃利
とものり
紀友則

原文 志多乃於飛乃美知者可多/\和可留止毛由幾女久利天毛安者武止曽於毛不
定家 したのおひのみちはかた/\わかるとも行めくりてもあはむとそ思
解釈 下の帯の道は方々別るとも行き巡りても逢はむとぞ思ふ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌101から集歌105

2020年01月24日 | 新訓 万葉集
大伴宿祢娉巨勢郎女時謌一首
大伴宿祢、諱曰安麻呂也。難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子。平城朝任大納言兼大将軍薨也
標訓 大伴宿祢の巨勢(こせの)郎女(いらつめ)を娉(よば)ひし時の歌一首
大伴宿祢、諱(いみな)を曰はく「安麻呂」といへり。難波の朝(みかど)の右大臣(みぎのおほまえつきみ)大紫(だいし)大伴長徳(ながとこ)卿(まえつきみ)の第六子なり。平城の朝(みかど)に大納言兼(あはせて)大将軍に任けられ薨(みまか)れり。
集歌一〇一 
原文 玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常云 不成樹別尓
訓読 玉(たま)葛(かづら)実(み)成(な)らぬ木にはちはやぶる神ぞ着(つ)くといふならぬ樹ごとに
私訳 美しい藤蔓の花の実の成らない木には恐ろしい神が取り付いていると言いますよ。実の成らない木にはどれも。それと同じように、貴女を抱きたいと云う私の思いを成就させないと貴女に恐ろしい神が取り付きますよ。

巨勢郎女報贈謌一首 即近江朝大納言巨勢人卿之女也
標訓 巨勢郎女の報(こた)へ贈りたる歌一首
即ち近江朝の大納言巨勢(こせの)人(ひとの)卿(まへつきみ)の女(むすめ)なり
集歌一〇二 
原文 玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎
訓読 玉(たま)葛(かづら)花のみ咲きに成らざるは誰が恋にあらめ吾(わ)が恋ひ念(も)ふを
私訳 美しい藤蔓の花のような言葉の花だけがたくさんに咲いただけで、実際に恋の実が実らなかったのは誰の恋心でしょうか。私は貴方の私への恋心を感じていましたが。

明日香清御原宮御宇天皇代 天渟名原瀛真人天皇、謚曰天武天皇
標訓 明日香清御原宮に御宇天皇の代(みよ)
天渟名原瀛真人天皇、謚(おくりな)して曰はく天武天皇

天皇賜藤原夫人御謌一首
標訓 天皇(すめらみこと)の藤原(ふじわらの)夫人(ぶにん)に賜(たま)へる御(かた)りし謌一首
集歌一〇三 
原文 吾里尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後
訓読 吾(わ)が里に大雪降(ふ)れり大原の古(ふ)りにし里に降らまくは後(のち)
私訳 わが明日香の里に大雪が降っている、遠く離れたお前の里の(明日香の)大原の古びた里に雪が降るのはもっと後だね。
注意 「大原」は現在の明日香村小原一帯の野です。

藤原夫人奉和謌一首
標訓 藤原夫人の和(こた)へ奉(たてまつ)れる謌一首
集歌一〇四 
原文 吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武
訓読 吾(わ)が岡し御神(をかみ)に言ひに落(ふ)らしめし雪し摧(くだ)けし其処(そこ)に散りけむ
私訳 私の里にある丘に祭られる御神である竜神に言いつけた、その降らせた雪のかけらが、そちらに散ったのでしょう。

藤原宮御宇天皇
天皇謚曰持統天皇。元年丁亥、十一年譲位軽太子。尊号曰太上天皇也
標訓 藤原宮に御宇天皇の代(みよ)
天皇、謚(おくりな)して曰はく持統天皇。元年丁亥、十一年に位を軽太子に譲りたまへり。尊号を曰はく太上天皇なり。

大津皇子竊下於伊勢神宮上来時、大伯皇女御作謌二首
標訓 大津皇子の竊(ひそ)かに伊勢の神宮に下りて上り来ましし時に、大伯(おおくの)皇女(ひめみこ)の御(かた)りて作(つく)らしし歌二首
集歌一〇五 
原文 吾勢枯乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之
訓読 吾が背子を大和へ遣るとさ夜更けに鷄(かけ)鳴(な)く露に吾(われ)立ちそ濡れし
私訳 私の愛しい貴方を大和へと見送ろうと思うと、二人の夜はいつしか深けてしまった、その鶏が鳴く早朝に去って往く貴方を見送る私は朝露にも立ち濡れてしまいました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌96から集歌100

2020年01月23日 | 新訓 万葉集
久米禅師、娉石川郎女時謌五首
標訓 久米(くめの)禅師(ぜんじ)の、石川(いしかはの)郎女(いらつめ)を娉(よば)ひし時の歌五首
集歌九六 
原文 水薦苅 信濃乃真弓 吾引者 宇真人作備而 不欲常将言可聞 (禅師)
訓読 御薦(みこも)刈り信濃(しなの)の真弓(まゆみ)吾が引かば貴人(うまひと)さびに否(いな)と言はむかも
私訳 あの木梨の軽太子が御薦(軽大郎女)を刈られたように、信濃の真弓を引くように私が貴女の手を取り、体を引き寄せても、お嬢様に相応しい態度で「だめよ」といわれますか。
注意 表題の「娉石川郎女時」の「娉」は訪問を意味する「聘」の丁寧語で、三位以上の高官の子女を示す「郎女」に対応するものです。漢字「娉」に「呼ぶ逢う」や「娶る」の意味合いはありません。

集歌九七 
原文 三薦苅 信濃乃真弓 不引為而 強作留行事乎 知跡言莫君二 (郎女)
訓読 御薦(みこも)刈り信濃(しなの)の真弓(まゆみ)引かずせに強(し)ひさる行事(わさ)を知ると言はなくに
私訳 あの木梨の軽太子は御薦(軽大郎女)を刈られたが、貴方は強弓の信濃の真弓を引きはしないように、無理やりに私を引き寄せて何かを為されてもいませんのに、貴方が無理やりに私になされたいことを、私は貴方がしたいことを知っているとは云へないでしょう。

集歌九八 
原文 梓弓 引者随意 依目友 後心乎 知勝奴鴨 (郎女)
訓読 梓(あずさ)弓(ゆみ)引かばまにまに依(よ)らめども後(のち)し心を知りかてぬかも
私訳 梓巫女が梓弓を引くによって神依せしたとしても、貴方が私を抱いた後の貴方の心根を私は確かめるができないでしょうよ。

集歌九九 
原文 梓弓 都良絃取波氣 引人者 後心乎 知人曽引 (禅師)
訓読 梓(あずさ)弓(ゆみ)弦(つら)緒(を)取りはけ引く人は後(のち)し心を知る人ぞ引く
私訳 梓弓に弦を付け弾き鳴らして神を引き寄せる梓巫女は、貴女を抱いた後の私の真心を知る巫女だから神の梓弓を引いて神託(私の真心)を告げるのです。

集歌一〇〇 
原文 東人之 荷向篋乃 荷之緒尓毛 妹情尓 乗尓家留香問 (禅師)
訓読 東人(あずまひと)し荷前(のさき)し篋(はこ)の荷し緒にも妹し心に乗りにけるかも
私訳 東人が都へと運んできた荷物の入った箱を縛る荷紐の緒にも名前を示す名札を付けるように、貴女への想いに私は名乗りを上げるでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌91から集歌95

2020年01月22日 | 新訓 万葉集
近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇 謚曰天智天皇
標訓 近江大津宮に御宇天皇の代(みよ)
天命開別天皇 謚(おくりな)して曰はく天智天皇

天皇賜鏡王女御謌一首
標訓 天皇の鏡(かがみの)王女(おほきみ)に賜はる御(かた)りしし謌一首
集歌九一 
原文 妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺尓 家母有猿尾
訓読 妹し家(へ)も継(つ)ぎに見ましを大和なる大島(おほしま)嶺(みね)に家(へ)もあらましを
私訳 愛しい貴女の家をいつも見ていたい(=いつも妻問いをしたい)から、大和の国にある大島の嶺に、その貴女の家のすぐそばに私の家があれば良いのですが。
左注 一云 妹之當継而毛見武尓
注訓 一(ある)は云はく、妹しあたり継ぎにも見むに
左注 一云 家居麻之乎
注訓 一(ある)は云はく、家(いへ)居(を)らましを
注意 「大嶋嶺」は奈良県生駒郡平群町の信貴山西方の高安山

鏡王女奉和御謌一首
標訓 鏡王女の奉和(こた)へたる御謌一首
集歌九二 
原文 秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念従者
訓読 秋山し樹(こ)し下(した)隠(かく)り逝(ゆ)く水の吾(われ)こそ益(ま)さめ御(おほ)念(も)ひよりは
私訳 秋山の木の下の枯葉に隠れ流れ行く水のように、密やかに思う心は、私の方が勝っています。貴方が私を慕いなされているより。

内大臣藤原卿娉鏡王女時、鏡王女贈内大臣謌一首
標訓 内大臣(うちのおほまえつきみ)藤原(ふじわらの)卿(まえつきみ)の鏡王女を娉(よば)ひし時に、鏡王女の内大臣に贈れる歌一首
集歌九三 
原文 玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜裳
訓読 玉(たま)匣(くしげ)覆ふを安(やす)み開けに行(い)ば君し名はあれど吾(わ)が名し惜しも
私訳 美しい玉のような櫛を寝るときに納める函を覆うように私の心を硬くしていましたが、覆いを取るように貴方に気を許してこの身を開き、その朝が明けきってしまってから貴方が帰って行くと、貴方の評判は良いかもしれませんが、私は貴方とのものとの評判が立つのが嫌です。

内大臣藤原卿報贈鏡王女謌一首
標訓 内大臣藤原卿の鏡王女に報(こた)へ贈れる歌一首
集歌九四 
原文 玉匣 将見圓山乃 狭名葛 佐不寐者遂尓 有勝麻之目
訓読 玉(たま)匣(くしげ)見(み)む円山(まどやま)の狭名(さな)葛(かづら)さ寝(ね)ずはつひに有りかつましめ
私訳 美しい玉のような櫛を寝るときに納める函を開けて見るように貴女の体を開いて抱く、その丸い形の山の狭名葛の名のような丸いお尻の間の翳り。そんな貴女と共寝をしないでいることはあり得ないでしょう。
左注 或本歌曰、玉匣 三室戸山乃
注訓 或る本の歌に曰はく、玉(たま)匣(くしげ)三室戸(みむろと)山の
注意 「圓山」は丸い山体から三輪山を、また「三室戸山」は神奈備山の三室として三輪山を指します。

内大臣藤原卿娶釆女安見望時作謌一首
標訓 内大臣藤原卿の娶(ま)きし釆女(うねめ)安見(やすみ)を望(なが)めし時に作る歌一首
集歌九五 
原文 吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難尓為云 安見兒衣多利
訓読 吾はもや安見児(やすみこ)得たり皆人(みなひと)の得(え)難(か)てに為(す)とふ安見児得たり
私訳 今、私は、本当は安見の名で呼ばれる貴女を抱いて自分のものにすることが出来ました。誰もが恋人にすることが出来ないと云われた貴女は私の愛を受け入れて、本名を教えてくれるような、閨を共にする恋人にすることができました。
注意 標題の原文「娶釆女安見望時」は、標準解釈では「娶釆女安見児時」と校訂します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌85から集歌90

2020年01月21日 | 新訓 万葉集
万葉集巻二

相聞
標訓 相聞

難波高津宮御宇天皇代 大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇
標訓 難波高津宮に御宇天皇の代(みよ)
大鷦鷯(おほさざきの)天皇(すめらみこと) 謚(おくりな)して曰はく仁徳天皇

磐姫皇后思天皇御作謌四首
標訓 磐姫(いはひめの)皇后(おほきさき)の天皇(すめらみこと)を思(しの)ひて御(かた)りて作(つく)らしし謌四首
集歌八五 
原文 君之行 氣長成奴 山多都祢 迎加将行尓 待可将待
訓読 君し行き日(け)長くなりぬ山尋ね迎へか行かに待ちか待たらむ
私訳 貴方が帰って往かれてからずいぶん日が経ちました。山路を越えて訪ねて迎えにいきましょうか、それともここでずっと待っていましょうか。
注意 原文の「迎加将行尓 待可将待」は、標準解釈では「迎加将行 待尓可将待」と校訂し、句切れの位置を変えて「迎へか行かむ待ちにか待たむ」と訓じます。
左注 右一首謌、山上憶良臣類聚歌林載焉。
注訓 右の一首の謌は、山上憶良臣の類聚歌林に載す。

集歌八六 
原文 如此許 戀乍不有者 高山之 磐根四巻手 死奈麻死物乎
訓読 かくばかり恋ひつつあらずは高山(かくやま)し磐(いは)根(ね)し枕(ま)きて死なましものを
私訳 このように貴方の訪れを恋焦がれているよりは、故郷の傍の香具山の麓で死んでしまいたい。

集歌八七 
原文 在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尓 霜乃置萬代日
訓読 ありつつも君をば待たむ打ち靡く吾が黒髪に霜の置くまでに
私訳 このまま貴方の訪れを待っていましょう。豊かに流れる私の黒髪が霜を置いたように白髪になるまで。

集歌八八 
原文 秋田之 穂上尓霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀将息
訓読 秋し田し穂し上(へ)に霧(き)らふ朝霞(あさかすみ)何処(いつ)辺(へ)の方(かた)に我が恋やまむ
私訳 秋の田の稲穂の上に霧が流れ、朝霞が立つ。その朝霞がどこへ流れて行くのか、おぼつかない。そのようなおぼつかない私の恋。いついつも私の貴方を慕う気持ちには休まる場所もありません。

或本謌曰
標訓 或る本の謌に曰はく
集歌八九 
原文 居明而 君乎者将待 奴婆珠乃 吾黒髪尓 霜者零騰文
訓読 居(い)明(あか)しに君をば待たむぬばたまの吾(あ)が黒髪に霜は降るとも
私訳 貴方がいらっしゃるというので、貴方がいらっしゃるまで夜を明かして、いつまでも貴方を待ちましょう。その貴方を待ち続けた私の黒髪が霜を置いたように白髪になったとしても。
左注 右一首古謌集中出。
注訓 右の一首は、古き謌の集(しふ)の中(うち)に出(い)づ

古事記曰、軽太子、奸軽太郎女。故其太子流於伊豫湯也。此時衣通王、不堪戀暮而追徃時謌曰
標訓 古事記に曰はく「軽(かるの)太子(ひつぎのみこ)、軽(かるの)太郎女(おほいらつめ)に奸(たは)く。故(かれ)、その太子を伊豫の湯に流す」といへり。此の時に衣通(そとほしの)王(おほきみ)、戀ひ暮らすことに堪(あ)えずして追ひ徃く時の謌に曰はく、
集歌九〇 
原文 君之行 氣長久成奴 山多豆乃 迎乎将徃 待尓者不待
訓読 君し行き日(け)長くなりぬ山たづの迎へを往(ゆ)かむ待つには待たじ
私訳 貴方の旅を行く日々は久しく長くなりました。山たづの枝葉が向い会うように、貴方を迎えに行きましょう。いつまでもここで待つことは、もう待ちません。
左注 此云山多豆者、是今造木者也
注訓 ここに、やまたづと云ふは、今の造木(みやつこぎ)なり
左注 右一首謌、古事記与類聚歌所説不同。謌主亦異焉。因檢日本紀曰、難波高津宮御宇大鷦鷯天皇廿二年春正月、天皇、語皇后、納八田皇女将為妃。時皇后不聴。爰天皇謌以乞於皇后云々。卅年秋九月乙卯朔乙丑、皇后遊行紀伊國到熊野岬取其處之御綱葉而還。於是天皇、伺皇后不在而娶八田皇女納於宮中。時皇后、到難波濟、聞天皇合八田皇女、大恨之云々。亦曰、遠飛鳥宮御宇雄朝嬬稚子宿祢天皇廿三年春正月甲午朔庚子、木梨軽皇子為太子。容姿佳麗、見者自感。同母妹軽太娘皇女亦艶妙也。云々。遂竊通、乃悒懐少息。廿四年夏六月、御羮汁凝以作氷。天皇異之、卜其所由、卜者曰、有内乱。盖親々相奸乎云々。仍移太娘皇女於伊与者。今案二代二時不見此謌也。
注訓 右の一首の謌は、古事記と類聚歌と説く所同じからず。謌の主もまた異なれり。因りて日本紀を檢(かむが)みて曰はく「難波高津宮に御宇大鷦鷯天皇の廿二年春正月、天皇、皇后に語りて『八田皇女を納(めしい)れて将に妃と為(な)さむ』といへり。時に皇后、聴(ゆる)さず。ここに天皇、謌を以つて皇后に乞ひたまひしく。云々。卅年秋九月乙卯の朔の乙丑、皇后の紀伊國に遊行(いで)まして熊野の岬に到りて、その處の御綱葉(みつなかしは)を取りて還りたまひき。ここに天皇、皇后の在(おは)しまさざるを伺ひて八田皇女を娶(まき)きて宮の中(うち)に納(い)れたまひき。時に皇后、難波の濟(ほとり)に到りて、天皇の八田皇女を合(ま)きしつと聞かして、大(いた)くこれを恨みたまひ。云々」といへり。また曰はく「遠飛鳥宮に御宇雄朝嬬稚子宿祢天皇の廿三年春正月甲午の朔の庚子、木梨軽皇子を太子(ひつぎのみこ)と為したまひき。容姿(かほ)佳麗(きらきら)しく、見る者自ら感(め)でき。同母妹(いろも)軽太娘皇女もまた艶妙(いみじ)。云々。遂に竊かに通(たは)け、すなはち悒(おほ)しき懐(こころ)少しく息(や)みぬ。廿四年夏六月、御羮(みあつもの)の汁凝(こ)りて以ちて氷と作(な)す。天皇の之を異(あや)しびて、その所由(ゆゑ)を卜(うらな)へしむるに、卜者(うらへ)の曰(もう)さく『内に乱れ有り。盖し親々(しんしん)相(あひ)奸(たは)けたるか。云々』といへり。よりて太娘(おほいらつめ)皇女(ひめみこ)を伊与(いよ)に移す」といへる。今案(かむが)ふるに二代二時(ふたとき)にこの謌を見ず。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする