歌番号 1065
詞書 返し
詠人 公任朝臣
原文 由幾可部留 者留於毛志良寸 者奈左可奴 三也万可久礼乃 宇久比寸乃己恵
和歌 ゆきかへる はるをもしらす はなさかぬ みやまかくれの うくひすのこゑ
読下 ゆきかへる春をもしらす花さかぬみ山かくれのうくひすのこゑ
解釈 季節が行き返る、その春の訪れを知らないで花も咲かない奥深い山に隠れていている、鶯は声を上げて鳴きません。
注意 除目で遅れを取った公任が、不貞腐れて山に籠り、私には春が来ないと詠った歌と伝えられています。
歌番号 1066
詞書 四月朔日よみ侍りける
詠人 もとすけ
原文 者留波於之 本止々幾須者多 幾可万本之 於毛飛和川良不 志徒己々呂可奈
和歌 はるはをし ほとときすはた きかまほし おもひわつらふ しつこころかな
読下 春はをし郭公はたきかまほし思ひわつらふしつ心かな
解釈 春が過ぎ行くのは残念だが、ホトトギスの鳴き声をまた聞きたいと思う、そのように季節の移ろいに心が揺れる、風流の気持ちです。
歌番号 1067
詞書 延長四年九月廿八日、法皇六十賀、京極のみやす所のつかうまつりける、屏風の歌、ふちのはな
詠人 つらゆき
原文 万川可世乃 布可武可幾利者 宇知波部天 堂由部久毛安良寸 左个留布知奈三
和歌 まつかせの ふかむかきりは うちはへて たゆへくもあらす さけるふちなみ
読下 松風のふかむ限はうちはへてたゆへくもあらすさけるふちなみ
解釈 松風が吹いている限りは、当たり一面に途切れることもなく、咲いている藤波です。
歌番号 1068 拾遺抄記載
詞書 延喜御時、藤壷の藤の花宴せさせ給ひけるに、殿上のをのこともうたつかうまつりけるに
詠人 皇太后宮権大夫国章
原文 布知乃者奈 美也乃宇知尓者 武良左幾乃 久毛加止乃美曽 安也万多礼个留
和歌 ふちのはな みやのうちには むらさきの くもかとのみそ あやまたれける
読下 ふちの花宮の内には紫のくもかとのみそあやまたれける
解釈 藤の花、宮の内では紫の雲かとばかり、見間違えました。
注意 藤原氏に対する、よいしょの歌です。なお、詠人は藤原国章となっていますが、詞書の年代とは合わないので、別人の作品と推定されています。
歌番号 1069 拾遺抄記載
詞書 左大臣むすめの中宮のれうにてうし侍りける屏風に
詠人 右衛門督公任
原文 武良左幾乃 久毛止曽美由留 不知乃者奈 以可奈留也止乃 志留之奈留良无
和歌 むらさきの くもとそみゆる ふちのはな いかなるやとの しるしなるらむ
読下 紫の雲とそ見ゆる藤の花いかなるやとのしるしなるらん
解釈 紫の雲のように見える藤の花、どのようなお屋敷への瑞祥の予告なのでしょうか。