歌番号 827
詞書 題しらす
詠人 人まろ
原文 比止己止波 奈川乃々久左乃 志計久止毛 幾美止和礼止之 堂川左八利奈八
和歌 ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは
読下 人ことは夏野の草のしけくとも君と我としたつさはりなは
解釈 人の噂話は夏の野の草が茂るように繁くとも、貴方と私、共に連れ添っているなら構わない。
歌番号 828
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 乃毛也万毛 志个利安比奴留 奈川奈礼止 比止乃川良佐者 己止乃波毛奈之
和歌 のもやまも しけりあひぬる なつなれと ひとのつらさは ことのはもなし
読下 野も山もしけりあひぬる夏なれと人のつらさは事のはもなし
解釈 野も山も草木が茂り合っている夏ではありますが、あの人のあのつれない素振りでは、私との噂話もありません。
歌番号 829
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 奈川久左乃 志計美尓於不留 万呂己寸計 万呂可万呂祢与 以久与部奴良无
和歌 なつくさの しけみにおふる まろこすけ まろかまろねよ いくよへぬらむ
読下 夏草のしけみにおふるまろこすけまろかまろねよいくよへぬらん
解釈 夏草の茂みに生えている「まろ小菅」、その言葉の響きではありませんが、私と丸寝しなさい、さて、そうしたら、幾夜、貴女と共寝をしましょうか。
注意 「まろ小菅」は「ウキヤガラ」と言う草の名です。
歌番号 830
詞書 天暦の御時、ひろはたの宮す所ひさしくまゐらさりけれは、御ふみつかはしけるに
詠人 御製
原文 也万可川乃 加幾本尓於不留 奈天之己尓 於毛飛与曽部奴 止幾乃万曽奈幾
和歌 やまかつの かきほにおふる なてしこに おもひよそへぬ ときのまそなき
読下 山かつのかきほにおふるなてしこに思ひよそへぬ時のまそなき
解釈 山人の家の垣根に生える撫子に貴女への思いを寄せます、貴女を思わない時の間なんて、ありませんよ。
歌番号 831
詞書 廉義公家の障子のゑに、なてしこおひたる家の心ほそけなるを
詠人 清原元輔
原文 於毛飛志累 比止尓美世者也 与毛寸可良 和可止己奈川尓 於幾為多留川由
和歌 おもひしる ひとにみせはや よもすから わかとこなつに おきゐたるつゆ
読下 思ひしる人に見せはやよもすからわかとこ夏におきゐたるつゆ
解釈 風流を理解する貴方に見せましょう、一晩中、私の屋敷に咲く常夏(なでしこ)に置きたる露の風情を。