歌番号 502 拾遺抄記載
詞書 神明寺の辺に無常所まうけて侍りけるか、いとおもしろく侍りけれは
詠人 もとすけ
原文 於之可良奴 以乃知也佐良尓 乃飛奴良无 遠者利乃遣布利 志武留乃部尓天
和歌 をしからぬ いのちやさらに のひぬらむ をはりのけふり しむるのへにて
読下 をしからぬいのちやさらにのひぬらんをはりの煙しむるのへにて
解釈 惜しいとは思わない我が命がさらに伸びるのでしょうか、命の終わりの荼毘の煙が身に染みる野辺にあって。
注意 荼毘の煙を護摩供養の煙と見立てての歌です。
歌番号 503 拾遺抄記載
詞書 二条右大臣、左近番長佐伯清忠をめしてうたよませ侍りけるを、のそむこと侍りけるかかなひ侍らさりけるころにて、よみ侍りける
詠人 佐伯清忠
原文 可幾利奈幾 奈美堂乃川由尓 武寸者礼天 比止乃志毛止八 奈留尓也安留良无
和歌 かきりなき なみたのつゆに むすはれて ひとのしもとは なるにやあるらむ
読下 限なき涙のつゆにむすはれて人のしもとはなるにやあるらん
解釈 限りなく流す涙が露となって結ばれて、それがひとつの霜の姿になるのでしょうか。(いつまでもの不遇を嘆く涙、ほんの僅かに我が期待が結ばれて、貴方の庇護の下に入れていただいたのでしょうか。)
注意 新日本古典文学大系本とは二句目の「つゆ」の意味の取り方が違うので、比喩する内容が真反対です。
歌番号 504
詞書 かかいし侍へかりけるとし、えし侍らて、雪のふりけるを見て
詠人 もとすけ
原文 宇幾世尓者 由幾加久礼奈天 加幾久毛利 布留者遠毛日乃 本可尓毛安留可奈
和歌 うきよには ゆきかくれなて かきくもり ふるはおもひの ほかにもあるかな
読下 うき世には行きかくれなてかきくもりふるは思ひのほかにもあるかな
解釈 憂き世にあって、もう死んでしまいたいと思っても出来ないが、空一面を撫でるように掻き曇りして降る雪、まったくに予想外の風情です。(なぜ、私は加階して身分が上がらなかったのだろうか。全くに恥ずかしく予想外の出来事です。)
歌番号 505 拾遺抄記載
詞書 つかさ申すにたまはらさりけるころ、人のとふらひにおこせたりける返事に
詠人 源景明
原文 和飛比止者 宇幾与乃奈可尓 以遣良之止 於毛飛己止佐部 加奈者佐利个利
和歌 わひひとは うきよのなかに いけらしと おもふことさへ かなはさりけり
読下 わひ人はうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはさりけり
解釈 役職を得られない失意の人は、この憂き世の中に生きて行きたくはないと思う事すら、なにもかも適わないようです。
歌番号 506
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 与乃奈可尓 安良奴堂己呂毛 恵天之可奈 止之布利尓多留 可多知加久左武
和歌 よのなかに あらぬところも えてしかな としふりにたる かたちかくさむ
読下 世の中にあらぬ所もえてしかな年ふりにたるかたちかくさむ
解釈 この世の中とは違う別な世界を得たいものです、歳を取ってしまった、この容姿を人目から隠したいので。