竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

再読、今日のみそひと謌 木

2019年01月31日 | 再読、今日のみそひと...
再読、今日のみそひと謌 木

集歌3217 荒津海 吾幣奉 将齊 早速座 面變不為
訓読 荒津(あらつ)し海(み)吾(われ)幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ひてむ早(とく)く速(いき)ませ面(おも)変(かは)りせず
私訳 荒津の海に私は幣をささげて、貴方の無事をお祈りしましょう。障害なく早く行き着きなさい。旅でやつれることなく。
注意 原文の「早速座」の「速」は、一般に「還」の誤字とします。ここでは原文のままに訓んでいます。

集歌3218 且〃 筑紫乃方乎 出見乍 哭耳吾泣 痛毛為便無三
試訓 行きし行く筑紫の方(かた)を出で見つつ哭(ね)のみぞ吾が泣くいたもすべ無(な)み
試訳 ただ船はまっすぐに航行していく。筑紫の方角を船室から出て眺めながら声を挙げて泣くばかりです。そんな私がこのように泣いてもどうしようもありません。
注意 原文の「且〃」は、一般に「旦〃」の誤字とし「朝(あさ)な朝(さ)な」と訓みます。ここでは「且」の漢字の意味を尊重して原文のままに訓んでいます。
右二首

集歌3219 豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念
訓読 豊国(とよくに)の企救(きく)し長浜行き暮(くら)し日し暮(く)れゆけば妹をしぞ思ふ
私訳 豊国の名高い企救にある長浜へ行き日々を過ごし、そのような侘しい日が暮れ行くと愛しい貴女のことばかりが思い出されます。

集歌3220 豊國能 聞乃高濱 高々二 君待夜等者 左夜深来
訓読 豊国(とよくに)の企救(きく)の高浜高々(たかだか)に君待つ夜らはさ夜更けにけり
私訳 豊国の名高い企救にある高浜、その名のように背を伸ばし遥か彼方を望みながら愛しい貴方の帰りを待つ夜は、次第に更けて行きました。

集歌3224 獨耳 見者戀染 神名火乃 山黄葉 手折来君
訓読 ひとりのみ見れば恋しみ神名火(かむなび)の山し黄葉(もみちは)手折(たを)りけり君
私訳 一人だけで黄葉の枝を見ると貴女が恋しくて、昔、甘橿の丘の黄葉を手折った貴女。
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再読、今日のみそひと謌 水

2019年01月30日 | 再読、今日のみそひと...
再読、今日のみそひと謌 水

集歌3212 八十梶懸 嶋隠去者 吾妹兒之 留登将振 袖不所見可聞
訓読 八十(やそ)梶(か)懸(か)け島(しま)隠(かく)りなば吾妹子し留(と)まれと振らむ袖そ見えじかも
私訳 たくさんの梶を艫に下げて船が出て行き島に隠れてしまうと、私の愛しい貴女がここに居て下さいと魂を呼び戻す振る袖が見えなくなるでしょう。
右二首

集歌3213 十月 鍾礼乃雨丹 沾乍哉 君之行疑 宿可借疑
訓読 十月(かむなつき)時雨(しぐれ)の雨に濡れつつや君し行くらむ宿(やど)か借(か)るらむ
私訳 神無月の時雨の雨に濡れながら愛しい貴方は、ここから帰って行くのでしょうか。途中で雨宿りの宿を借りることがあるのでしょうか。

集歌3214 十月雨 〃間毛不置 零尓西者 誰里之間 宿可借益
訓読 十月(そつき)雨(あめ)雨(あま)間(ま)も置かず降りにしば誰(た)が里し間(ま)し宿(やど)か借らまし
私訳 突然の神無月の時雨の雨があちらこちらで間も置かずに降ったならば、だれの郷の所(他の女性の家の意味)で雨宿りの宿を借りましょうか。
注意 原文の「十月雨 〃間毛不置」は、一般に「十月 雨間毛不置」と表記します。ここでは原文表記のままに訓んでいます。
右二首

集歌3215 白妙乃 袖之別乎 難見為而 荒津之濱 屋取為鴨
訓読 白栲の袖し別れを難(かた)みしに荒津(あらつ)し浜し屋(や)取(と)りするかも
私訳 貴女と夜を共にした白栲の袖の別れは互いの想いの中では難しいとして、荒津の浜に旅の泊まりをしましょう。

集歌3216 草枕 羈行君乎 荒津左右 送来 飽不足社
訓読 草枕旅行く君を荒津(あらつ)さへ送りぞ来ぬる飽(あ)き足(た)らねこそ
私訳 草を枕にするような苦しい旅を行く貴方を荒津のところまで送るとして、ここまでやって来ました。旅の別れが心残りだからこそ。
右二首
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再読、今日のみそひと謌 火

2019年01月29日 | 再読、今日のみそひと...
再読、今日のみそひと謌 火

集歌3207 荒玉乃 年緒永 照月 不厭君八 明日別南
訓読 あらたまの年し緒長く照る月し飽かざる君や明日別れなむ
私訳 年の御霊が改まり新たな年に、その毎年、夜を照らす月のように、久しくお逢いしても飽きることない愛しい旅立つ貴方と、明日、別れるのでしょうか。

集歌3208 久将在 君念尓 久堅乃 清月夜毛 闇夜耳見
訓読 久(ひさ)あらむ君し思ふにひさかたの清き月夜(つくよ)も闇(やみ)し夜に見ゆ
私訳 御無事で長久でしょう、その愛しい貴方を恋い焦がれるとき、遥か彼方にある清らかな月夜も闇の夜のように眺めることでしょう。

集歌3209 春日在 三笠乃山尓 居雲乎 出見毎 君乎之曽念
訓読 春日なる三笠の山に居(ゐ)る雲を出(い)で見るごとし君をしぞ思ふ
私訳 春日にある三笠の山に懸かる雲を、家から出て見るたびに愛しい貴方を慕います。

集歌3210 足桧木乃 片山雉 立徃牟 君尓後而 打四鶏目八方
訓読 あしひきの片山(かたやま)雉(きぎし)立ち行かむ君に後れにうつしけめやも
私訳 葦や檜の生い茂る片山に住む雉、その雉が飛び出して行くように、旅立って行く愛しい貴方に残されて、どうして、心穏やかで居られるでしょうか。

問答
標訓 問答(もんどう)
集歌3211 玉緒乃 徒心哉 八十梶懸 水手出牟船尓 後而将居
訓読 玉し緒の徒(いた)し心や八十(やそ)梶(か)懸(か)け水手(かこ)出(で)む船に後れに居(を)らむ
私訳 玉を貫く緒が垂れるように、むなしい気持ちです。たくさんの梶を艫に下げ水夫が立ち働く船に、私は後に残されて、ここに居るのでしょう。

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再読、今日のみそひと謌 月

2019年01月28日 | 再読、今日のみそひと...
再読、今日のみそひと謌 月

集歌3202 柔田津尓 舟乗時為跡 聞之苗 如何毛君之所 見不来将者
訓読 柔田津(にぎたつ)に舟乗る時と聞きしなへ何そも君しそ見え来(こ)ざるらむは
私訳 今はもう、柔田津で船に乗り込む時分だと聞きましたが、どうして貴方の姿が見えてこないのでしょうか。

集歌3203 三沙呉居 渚尓居舟之 榜出去者 裏戀監 後者會宿友
訓読 みさご居(ゐ)る渚(す)に居(ゐ)る舟し榜(こ)ぎ出(で)なばうら恋しけむ後は逢ひぬとも
私訳 みさごが棲む洲に留まっている船のように、潮が満ち、やがて帆を操り出航したら、きっと恋しいでしょう。後に共寝が出来るとしても。

集歌3204 玉葛 無怠行核 山菅乃 思乱而 戀乍将待
試訓 玉葛(たまかづら)怠(たゆ)まず行かさね山菅(やますげ)の思ひ乱れに恋ひつつ待たむ
試訳 美しい葛の蔓が絶(た)えない(=切れない)ように、怠(た)えずに(=気を引き締めて)出かけて行って下さい。山菅の根のように心を乱して貴方を慕ってお帰りを待っていましょう。
注意 原文の「無怠行核」の「怠」は、一般に「恙」の誤字として「さきく行かさね」と訓みます。ここでは原文のままに訓んでいます。

集歌3205 後居而 戀乍不有者 田籠之浦乃 海部有申尾 珠藻苅々
訓読 後れ居(ゐ)に恋ひつつあらずは田子(たご)し浦の海部(あま)ならましを玉藻(たまも)刈る刈る
私訳 旅立つ貴方に里に残され、こうして恋い焦がれていないで田子の浦の漁師であったならば、(物思いすることなく)玉藻をただ刈るばかりです。

集歌3206 筑紫道之 荒礒乃玉藻 苅鴨 君久 待不来
訓読 筑紫(つくし)道(ぢ)し荒礒(ありそ)の玉藻刈るとかも君し久しく待てど来まさぬ
私訳 筑紫への道中の荒磯の玉藻、その美しい藻を刈っているのでしょうか、愛しい貴方が永くまっているのに、いっこうに還ってきません。
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万葉雑記 色眼鏡 番外編 難訓歌を鑑賞する

2019年01月27日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 番外編 難訓歌を鑑賞する

 番外編として万葉集で難訓歌と称される歌を鑑賞しています。この方面では有名なHP「ポリネシア語で解く日本の地名・日本の古典・日本語の語源」で示す万葉集難訓歌は次のもの35首ですが、弊ブログでは万葉集には難訓歌は存在しないと云う立場がありますので、それぞれの歌に弊ブログの訓じとその解釈を示す意訳を付けて紹介します。ただし、集歌3791の有名な竹取翁歌の長歌については意訳文の紹介は省略します。また、難訓歌35首の鑑賞に加えて幣ブログで訓じに工夫を凝らした歌五首を紹介しています。
 なお、難訓歌の訓じは万葉集本来の姿に近いとされる西本願寺万葉集の原文表記に対して行っており、近代に校訂された校本万葉集のものではありません。一部の歌では西本願寺万葉集の原文を校訂したことで集歌3898の歌のように反って難訓になったものもあります。
 ここでは訓じの背景を紹介していませんが、弊ブログでは色々とこれらの訓じについて触れていますので御興味がありましたら歌番号で検索をしてみてください。
 最後に、いつものようですが、弊ブログは正統な教育を受けたものが行うものではありませんので内容は眉唾ものであり、与太ですので、読み物以外には推薦致しません。

集歌1
原文 籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑 名告沙根
虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師告名倍手 吾己曽座 我許者背齒 告目 家呼毛名雄母
試訓 籠(こ)もと 御籠(みこ)持ち 布(ふ)奇(くし)もと 美夫君(みふきみ)し持ち この岳(をか)に 菜採(つ)ます児 家聞かむ 名 宣(の)らさね
空見つ 大和の国は 押し靡びて 吾こそ居(を)れ 撓(し)なら靡(な)びて 吾こそ座(ま)せ 吾が乞(こ)はせし 宣(の)らめ 家をも名をも
試訳 貴女と夜を共にする塗籠(ぬりごめ)と 夜御殿(よんのおとど)を持ち 妻問いの贈物の布を掛けた奇(めずら)しい犬とを 貴女の夫となる私の主(あるじ)は持っています。この丘で 春菜を採むお嬢さん 貴女はどこの家のお嬢さんですか。名前を告げてください。そして、私の主人の求婚を受け入れてください。
仏教が広まるこの大和の国は 豪族を押し靡かせて私がこの国を支配し、歯向かう者を倒し靡かせて私がこの国を統率している。その大王である私が求めている。さあ、私の結婚の申し込みを受け入れて、告げなさい。貴女の家柄と貴女の本当の立派な名前も。

集歌9
原文 莫囂圓隣之 大相七兄爪謁氣 吾瀬子之 射立為兼 五可新何本
訓読 染(そ)まりなし御備(おそな)え副(そ)えき吾(あ)が背子し致(いた)ちししけむ厳橿(いつかし)が本(もと)
私訳 一点の穢れなき白栲の布を奉幣に副えました。吾らがお慕いする君が、梓弓が立てる音の中、その奉幣をいたしました。大和の橿原宮の元宮であります、この熊野速玉大社を建てられた大王(=神武天皇)よ。

集歌67
原文 旅尓之而 物戀尓 鳴毛 不所聞有世者 孤悲而死萬思
訓読 旅にしにもの恋しきに鳴(さえづる)もそ聞こずありせば恋ひに死なまし
私訳 旅路にあってなんとなく恋しさが募り、鳥の囀りさえも聞こえないようであれば、大和に残してきた貴女への想いによって死んでしまうことでしょう。

集歌156
原文 三諸之 神之神須疑 已具耳矣 自得見監乍共 不寝夜叙多
試訓 三(み)つ諸(もろ)し神し神杉(かむすぎ)過(す)ぐのみを蔀(しとみ)し見つつ共(とも)寝(ね)ぬ夜(よ)そ多(まね)
試訳 三つの甕を据えると云う三諸の三輪山、その神への口噛みの酒を据える、神山の神杉、その言葉の響きではないが、貴女が過ぎ去ってしまったのを貴女の部屋の蔀の動きを見守りながら、その貴女が恋人と共寝をしない夜が多いことです。

集歌160
原文 燃火物 取而裹而 福路庭 入澄不言八 面智男雲
訓読 燃ゆる火も取りに包みに袋には入(い)ると言はずやも面(をも)智(し)る男雲(をくも)
私訳 あの燃え盛る火とて取って包んで袋に入れると云うではないか。御姿を知っているものを。雲よ。

集歌249
原文 三津埼 浪牟恐 隠江乃 舟公宣 奴嶋尓
訓読 御津し崎波を恐(かしこ)み隠り江の舟公(ふなきみ)し宣(の)る奴(ぬ)し島(しま)へに
私訳 住江の御津の崎よ。沖の波を尊重して隠もる入江で船頭が宣言する。奴の島へと。

集歌655
原文 不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變
訓読 念(おも)はぬを思ふと云はば天地し神祇(かみ)も知るさむ邑(さと)し礼(いや)さへ
私訳 愛してもいないのに慕っていると云うと、天地の神々にもばれるでしょう。愛していると云うのが里の習いとしても。

集歌970
原文 指進乃 粟栖乃小野之 芽花 将落時尓之 行而手向六
訓読 指進(さしづみ)の栗栖(くるす)の小野(をの)し萩し花落(おつ)らむ時にし行きに手向(たむけ)けむ
私訳 指進の栗栖の小野に萩の花が盛りを過ぎて散る頃に、神名火山の辺の淵を見にいって神名火山に手向けをしよう。

集歌1205
原文 奥津梶 漸々志夫乎 欲見 吾為里乃 隠久惜毛
訓読 沖つ梶(かぢ)漸々(やくやく)強(し)ふを見まく欲(ほ)り吾がする里の隠(かく)らく惜しも
私訳 沖に向かう船の梶がしだいしだいに流れに逆らい船を操るのだが、私が眺めたいと思う里が浪間に隠れていくのが残念なことです。

集歌1689
原文 在衣邊 着而榜尼 杏人 濱過者 戀布在奈利
訓読 在(あ)り衣辺(いへ)し着つに漕がさね杏人(ありひと)し浜し過ぎれば恋しく在(あ)りなり
私訳 そこに在る家、その言葉の響きのような衣、粗末な衣を纏って船を漕ぎなさい。人が居なくても杏人(有り人)の浜を漕ぎゆくと、人が恋しくなります。

集歌1817
原文 今朝去而 明日者来牟等 云子鹿丹 旦妻山丹 霞霏微
訓読 今朝(けさ)去(い)きに明日は来(き)なむと云(い)ひし子鹿(こ)に朝妻山(あさづまやま)に霞たなびく
私訳 今朝はこのように貴方は帰って行っても、明日はかならず来てくださいと云った、かわいい貴女の朝妻山に霞が棚引く。

集歌2033
原文 天漢 安川原 定而 神競者 磨待無
訓読 天つ川八湍(やす)し川原し定まりに神(かみ)競(きそは)へば磨(まろ)し待たなく
私訳 天の八湍の川原で約束をして天照大御神と建速須佐之男命とが大切な誓約(うけひ)をされていると、それが終わるまで天の川を渡って棚機女(たなはたつめ)に逢いに行くのを待たなくてはいけませんが、年に一度の今宵はそれを待つことが出来ません。

集歌2522
原文 恨登 思狭名磐 在之者 外耳見之 心者雖念
訓読 恨(うら)めしと思ふさな磐(いは)ありしかば外(よそ)のみし見し心は念(も)へど
私訳 恨めしいと思えるような大きな岩(障害)があるので、他人として貴方のことを見つめていました。心の底では慕っていますが。

集歌2556
原文 玉垂之 小簀之垂簾乎 徃褐 寐者不眠友 君者通速為
訓読 玉垂し小簾(をす)し垂簾(たれす)を行き褐(かち)む寝(い)は寝(な)さずとも君は通はせ
私訳 美しく垂らすかわいい簾の内がだんだん暗くなります。私を抱くために床で安眠することが出来なくても、貴方は私の許に通って来てください。

集歌2647
原文 東細布 従空延越 遠見社 目言踈良米 絶跡間也
訓読 東(あづま)細布(たへ)空ゆ延(ひ)き越(こ)し遠(とほ)みこそ目言(めこと)離(か)るらめ絶(た)ゆと隔(へだ)てや
私訳 東国の栲のような布雲が大空から端を延ばし、山を越す。その雲を遠くから眺めるように、遠くから拝見していて、貴女に直接に逢っての会話も途絶えるでしょう。だからと云って貴女との仲を絶とうとして、疎遠になっているのではありません。

集歌2830
原文 梓弓 弓束巻易 中見刺 更雖引 君之随意
訓読 梓(あづさ)弓(ゆみ)弓束(ゆつか)巻き易(か)へ中見さし更(さら)し引くとも君しまにまに
私訳 梓の弓、その古びた弓束を新しく巻き易え矢ごろの印をつけ、再び、弓を引くように、愛人を替えた後に、再び貴方が私の気を引いたとしても、それは、貴方のお気に召すまま。

集歌2842
原文 我心 等望使 念新夜 一夜不落 夢見
訓読 我が心もの望(の)む使(つかひ)思(も)ふ新(あら)夜(よ)一夜もおちず夢(いめ)し見えこそ
私訳 私の思いの貴方からの妻問ひを告げる文をもたらす使い。妻問ひを焦がれる夜ごと夜ごとの、その一夜も欠けることなく夢の中に貴方の姿を見せてください。
注意 『說文解字注』より「等畫物也」とあります。

集歌3221
原文 冬不成 春去来者 朝尓波 白露置 夕尓波 霞多奈妣久 汗瑞能振 樹奴礼我之多尓 鴬鳴母
訓読 冬ならず 春さり来れば 朝には 白露置き 夕には 霞たなびく 汗瑞(あせたま)の降る 木末(こぬれ)が下に 鴬鳴くも
私訳 冬が勢いを増さずに代わりに春がやって来ると、朝には白露が降り、夕べには霞が棚引く、甘葛の切り口からにじみでた甘い樹液の珠が滴る、その枝先の周りには鶯が鳴くよ。

集歌3242
原文 百岐年 三野之國之 高北之 八十一隣之宮尓 日向尓 行靡闕矣 有登聞而 吾通道之 奥十山 野之山 靡得 人雖跡 如此依等 人雖衝 無意山之 奥礒山 三野之山
訓読 ももきねし 美濃し国し 高北(たかきた)し 八十一隣(くくり)し宮に 日向(ひむか)ひに 行(い)き靡(な)び闕(か)かふ ありと聞きに 吾が通ひ道(ぢ)し 奥(おきや)十山(そやま) 野し山 靡けと 人し踏(ふ)めども かく寄れと 人し突けども 心なき山し 奥十山 美濃し山
私訳 沢山の年を経た立派な木が根を生やす美濃の国の高北の泳宮(くくりのみや)のある場所に、日に向きあう処に人が行き靡びく大門を欠いた大宮があると聞いて、私が通って行く道の山奥の多くの山、その野の山よ。優しく招き寄せよと、人は山路を踏み行くが、このようにやって来いと、人は山路に胸を衝くように行くのだが、歩くのに優しさがない険しい山たる山奥の多くの山よ、美濃の山は。

集歌3401
原文 中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波
訓読 中(なか)真砂(まな)に浮き居(を)る舟の漕ぎて去(な)ば逢ふこと難(かた)し今日(けふ)にしあらずは
私訳 川の真ん中の砂地の傍に浮いて泊まる舟が漕ぎ去る。そのように私が去って行ったなら、もう逢うことは難しい。今日、貴女に逢えなかったら。

集歌3419
原文 伊可保世欲 奈可中吹下 於毛比度路 久麻許曽之都等 和須礼西奈布母
訓読 伊香保(いかほ)背(せ)よなかなか伏しも思(お)も人(ひと)ろ隅(くま)こそ為(し)つと忘れせなふも
私訳 伊香保の愛しい貴方。中途半端に抱かれたけれど、私が恋い焦がれる貴方。人目を避けた隠れ家で貴方に抱かれたこの体をお忘れにならないでください。

集歌3754
原文 過所奈之尓 世伎等婢古由流 保等登藝須 多我子尓毛 夜麻受可欲波牟
訓読 過所(くわそ)なしに堰飛び越ゆる霍公鳥(ほととぎす)髣髴(おほ)しが子にも止まず通はむ
私訳 遣り過ごすことなく、身分や場所を越えての弓削皇子と額田王との吉野の相聞歌や人麻呂の吉備津采女死時の歌にも、そんな万葉集に絶えることなく心を通わせます。

集歌3791
原文 緑子之 若子蚊見庭 垂乳為母所懐 褨襁 平生蚊見庭 結經方衣 水津裏丹縫服 頚著之 童子蚊見庭 結幡之 袂著衣 服我矣 丹因 子等何四千庭 三名之綿 蚊黒為髪尾 信櫛持 於是蚊寸垂 取束 擧而裳纒見 解乱 童兒丹成見 羅丹津蚊經 色丹名著来 紫之 大綾之衣 墨江之 遠里小野之 真榛持 丹穂之為衣丹 狛錦 紐丹縫著 刺部重部 波累服 打十八為 麻續兒等 蟻衣之 寶之子等蚊 打栲者 經而織布 日曝之 朝手作尾 信巾裳成 者之寸丹取 為支屋所經 稲寸丁女蚊 妻問迹 我丹所来為 彼方之 二綾裏沓 飛鳥 飛鳥壮蚊 霖禁 縫為黒沓 刺佩而 庭立住 退莫立 禁尾迹女蚊 髣髴聞而 我丹所来為 水縹 絹帶尾 引帶成 韓帶丹取為 海神之 殿盖丹 飛翔 為軽如来 腰細丹 取餝氷 真十鏡 取雙懸而 己蚊杲 還氷見乍 春避而 野邊尾廻者 面白見 我矣思經蚊 狭野津鳥 来鳴翔經 秋僻而 山邊尾徃者 名津蚊為迹 我矣思經蚊 天雲裳 行田菜引 還立 路尾所来者 打氷刺 宮尾見名 刺竹之 舎人壮裳 忍經等氷 還等氷見乍 誰子其迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部 狭々寸為我哉 端寸八為 今日八方子等丹 五十狭邇迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部之 賢人藻 後之世之 堅監将為迹 老人矣 送為車 持還来 持還来
訓読 緑子し 若子し時(かみ)には たらちしも懐(なつか)し 褨(すき)を襁(か)け 平生(ひらお)し時(かみ)には 木綿(ゆふ)し肩衣(かたきぬ) ひつらに縫ひ着 頚(うな)つきし 童(わらは)の時(かみ)には 結幡(けつはん)し 袖つけ衣(ころも) 着し我れを 丹(に)よれる 子らが同年輩(よち)には 蜷(みな)し腸(わた) か黒し髪を ま櫛持ち ここにかき垂れ 取り束(たか)ね 上げても巻きみ 解き乱り 童に為(な)しみ 薄絹(うすもの)似つかふ 色に相応(なつか)しき 紫し 大綾(おほあや)し衣(きぬ) 住吉し 遠里小野し ま榛(はり)持ち にほほし衣(きぬ)に 高麗錦 紐に縫ひつけ 刺(さ)さへ重(かさ)なへ 浪累(し)き 賭博為し 麻続(をみ)し子ら あり衣(きぬ)し 宝(たから)し子らか 未必(うつたへ)は 延(は)へて織る布(ぬの) 日晒(ひさら)しし 麻手(あさて)作りを 食薦(しきむも)なす 脛裳(はばき)に取らし 醜屋(しきや)に経(ふ)る 否(いな)き娘子(をとめ)か 妻問ふに 我れに来なせと 彼方(をちかた)し 挿鞋(ふたあやうらくつ) 飛ぶ鳥し 明日香壮士(をとこ)か 眺め禁(い)み 烏皮履(くりかわのくつ) 差(さ)し佩(は)きし 庭たつすみ 甚(いた)な立ち 禁(いさ)め娘子(をとめ)か 髣髴(ほの)聞きて 我れに来なせと 水縹(みなはだ)の 絹の帯を 引き帯(び)なし 韓(から)を帶に取らし 海若(わたつみ)し 殿(あらか)し盖(うへ)に 飛び翔ける すがるしごとき 腰細(こしほそ)に 取り装ほひ 真十鏡(まそかがみ) 取り並(な)め懸けて 己(おの)か欲(ほ)し 返へらひ見つつ 春さりて 野辺を廻(めぐ)れば おもしろみ 我れを思へか 背の千鳥(つとり) 来鳴き翔らふ 秋さりて 山辺を行けば 懐かしと 我れを思へか 天雲も 行き棚引く 還へり立ち 道を来れば 打日刺す 宮女(みやをみな) さす竹し 舎人(とねり)壮士(をとこ)も 忍ぶらひ 返らひ見つつ 誰が子ぞとや 思はえてある かくしごと 為(せ)し故(ゆへ)し 古(いにしへ)し 狭幸(ささき)し我れや 愛(は)しきやし 今日(けふ)やも子らに 不知(いさ)にとや そ思(も)へにある かくしごと 為(せ)し故(ゆへ)し 古(いにしへ)し 賢(さか)しき人も 後し世し 語らむせむと 老人(おひひと)を 送りし車 持ち帰りけり 持ち帰りけり
注意 この歌は万葉集最大の難訓を持つ難解歌のため、現在においても適切な解釈が得られていません。訓じ文が大きく異なることが示すように伊藤博氏の解釈と弊ブログの解釈は全くに違います。弊ブログでは、歌は万葉集を構成する重要な歌々を紹介する「もじり歌」で構成されていると解釈しているため、この意訳文は万葉集の主要歌を紹介するのに等しくなります。そのためここでは私訳の紹介を省略しています。私訳は弊ブログ「竹取翁の歌を鑑賞する」を参照願います。

集歌3809
原文 商變 領為跡之御法 有者許曽 吾下衣 反賜米
訓読 商(あき)変(かは)り領(し)すとし御法(みのり)あらばこそ我が下衣返し給はめ
私訳 買った品物を返して商売がなかったとすることを許す法律があるのだから、貴方が抱いた私の想いとその体を元のようにして返してください。

集歌3889
原文 人魂乃 佐青有君之 但獨 相有之雨夜 葉非左思所念
訓読 人魂(ひとたま)のさ青(を)なる君しただ独り逢へりし雨夜(あまよ)枝(え)の左思(さし)そ念(も)ゆ
私訳 人の心を持つと云う青面金剛童子像を、私がただ独りで寺に拝んだ雨の夜。左思が「鬱鬱」と詠いだす「詠史」の一節を思い出します。
注意 左思は中国西晋の詩人です。

集歌3898
原文 大船乃 宇倍尓之居婆 安麻久毛乃 多度伎毛思良受 謌乞和我世
訓読 大船の上にし居(を)れば天雲のたどきも知らず歌(うた)乞(こ)ふ吾(わ)が背
私訳 大船の上に乗って居ると、空の雲の行方も気にせず和歌を創ることを求める貴方よ。

集歌4105
原文 思良多麻能 伊保都追度比乎 手尓牟須妣 於許世牟安麻波 牟賀思久母安流香
訓読 白玉の五百箇(いほつ)集(つど)ひを手にむすび遣(おこ)せむ海人(あま)は昔(むかし)くもあるか
私訳 真珠をたくさんたくさん集めて手に掬い取って、私に贈ってくれる海人は古くからの友人とも感じられるでしょう。


弊ブログでの追加した難訓歌
集歌3407 
原文 可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆
試訓 髪(かみ)付(つ)けぬ目交(まぐ)はし間門(まと)に朝日さしまきらはしもなありつつ見れば
試訳 私の黒髪を貴方に添える、その貴方に抱かれた部屋の入口に朝日が射し、お顔がきらきらとまぶしい。こうして貴方に抱かれていると。

集歌3409 
原文 伊香保呂尓 安麻久母伊都藝 可奴麻豆久 比等登於多波布 伊射祢志米刀羅
試訓 伊香保(いかほ)ろに天(あま)雲(くも)い継(つ)ぎ予(か)ぬま付(つ)く人とお給(たは)ふいざ寝(ね)しめ刀羅(とら)
試訳 伊香保にある峰に空の雲がつぎつぎと懸かるように、先々のことをしっかり考える人間だとお褒めになる。さあ、そんなしっかりした私に、お前を抱かせてくれ。刀羅よ。

集歌3450 
原文 乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敝弖美礼婆 乎具佐可利馬利
訓読 乎久佐(をくさ)壮子(を)と乎具佐(をぐさ)つけ壮士(を)と潮舟(しほふね)の並べて見れば乎具佐かりめり
私訳 乎久佐の男と小草(をぐさ)を着けた男とを潮舟のように並べてみると、五月祭りの菖蒲の小草を身に付けた男に利がある。

集歌3459 
原文 伊祢都氣波 可加流安我乎乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武
試訓 稲(いね)搗(つ)けば皹(かか)る吾(あ)が緒を今夜(こよひ)もか殿の若子(わくこ)が取りて嘆かむ
試訳 稲を搗くと手足がざらざらになる私、その私の下着の紐の緒を、今夜もでしょう、殿の若殿が取り解き、私の体の荒れようを見て嘆くでしょう。

集歌3888 
原文 奥國 領君之 染屋形 黄染乃屋形 神之門涙
訓読 奥(おき)つ国(くに)領(うる)はく君し染め屋形(やかた)黄染(にそめ)の屋形(やかた)神し門(と)涙(なか)る
私訳 死者の国を頂戴した者が乗る染め布の屋形、黄色く染めた布の屋形、神の国への門が開くのに涙が流れる。
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