竹取翁と万葉集のお勉強

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古今和歌集 原文推定 巻五

2020年01月05日 | 古今和歌集 原文推定 藤原定家伊達本
以川末幾仁安多留未幾
いつまきにあたるまき
巻五

安幾乃宇多之多
秋哥下
秋哥下

歌番号二四九
己礼佐多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
これさたのみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

布无也乃也寸比天
文屋やすひて
文室康秀

原文 布久可良尓安幾乃久左幾乃志本留礼者武部夜万可世遠安良之止以不良武
定家 吹からに秋の草木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらむ
解釈 吹からに秋の草木の萎るればむべ山風を嵐と言ふらむ

歌番号二五〇
原文 久左毛幾毛以呂加者礼止毛和多川宇美乃奈美乃者那尓曽安幾奈可利个留
定家 草も木も色かはれともわたつうみの浪の花にそ秋なかりける
解釈 草も木も色変はれどもわたつ海の浪の花にぞ秋なかりける

歌番号二五一
安幾乃宇多安者世之个留止幾尓与女留
秋の哥合しける時によめる
秋の哥合しける時によめる

幾乃与之毛知
紀よしもち
紀淑望

原文 毛美知世奴止幾者乃夜万者布久可世乃遠止尓也安幾遠幾々和多留良武
定家 紅葉せぬときはの山は吹風のをとにや秋をきゝわたる覧
解釈 紅葉せぬ常盤の山は吹く風の音にや秋を聞き渡るらむ

歌番号二五二
多以之良寸
題しらす
題知らず

与美比止良寸
よみ人らす
詠み人知らず

原文 幾利多知天加利曽久奈留加多遠可乃安之多乃者良者毛美知之奴良武
定家 霧立て雁そなくなる片岡の朝の原は紅葉しぬ覧
解釈 霧立ちて雁ぞ鳴くなる片岡の朝の原は紅葉しぬらむ

歌番号二五三
原文 加美奈川幾志久礼毛以末多布良奈久尓加祢天宇川呂不加美奈比乃毛利
定家 神な月時雨もいまたふらなくにかねてうつろふ神なひのもり
解釈 神無月時雨もいまだ降らなくにかねて移ろふ神奈備の森

歌番号二五四
原文 知者也布留加美奈比夜万乃毛美知者尓於毛日者可个之宇川呂不毛乃遠
定家 ちはやふる神なひ山のもみちはに思ひはかけしうつろふ物を
解釈 ちはやぶる神奈備山のもみぢ葉に思はかけじ移ろふものを

歌番号二五五
志也宇可无乃於保无止幾利世宇幾天无乃末部尓武女乃幾安利个利仁之乃可多尓
貞観御時綾綺殿のまへに梅の木ありけりにしの方に
貞観御時綾綺殿の前に梅の木ありけり西の方に

左世利个留衣多乃毛美知者之女多利个留遠宇部尓左布良不遠乃己止毛乃
させりけるえたのもみちはしめたりけるをうへにさふらふをのこともの
挿せりける枝の紅葉始めたりけるを殿上に候ふ男どもの

与美个留徒以天尓与女留
よみけるついてによめる
詠みけるついでに詠める

布知八良乃加知遠武
藤原かちをむ
藤原勝臣

原文 於奈之衣遠和幾天己乃者乃宇川呂不者尓之己曽安幾乃者之女奈利个礼
定家 おなしえをわきてこのはのうつろふは西こそ秋のはしめなりけれ
解釈 同じ枝をわきて木の葉の移ろふは西こそ秋の始めなりけれ

歌番号二五六
以之也万尓末宇天个留止幾遠止者夜万乃毛美知遠美天与女留
いしやまにまうてける時をとは山のもみちを見てよめる
石山に詣でける時音羽山の紅葉を見て詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 安幾可世乃布幾尓之比与利遠止者夜万三祢乃己寸恵毛以呂川幾尓个利
定家 秋風のふきにし日よりをとは山峯のこすゑも色つきにけり
解釈 秋風の吹きにし日より音羽山峯の梢も色づきにけり

歌番号二五七
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世尓与女留
これさたのみこの家の哥合によめる
是貞親王の家の哥合に詠める

止之由幾乃安曽无
としゆきの朝臣
藤原敏行朝臣

原文 之良川由乃以呂者飛止川遠以可尓之天安幾乃己乃者遠知々尓曽武良武
定家 白露の色はひとつをいかにして秋のこのはをちゝにそむ覧
解釈 白露の色は一つをいかにして秋の木の葉を千々に染むらん

歌番号二五八
美不乃多々三祢
壬生忠岑
壬生忠岑

原文 安幾乃与乃川由遠者川由止遠幾奈可良加利乃奈美多也乃部遠曽武良武
定家 秋の夜のつゆをはつゆとをきなからかりの涙やのへをそむらむ
解釈 秋の夜の露をば露と置きながら雁の涙や野辺を染むらむ

歌番号二五九
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 安幾乃徒由以呂/\己止尓遠个者己曽夜万乃己乃者乃知久左奈留良女
定家 あきのつゆいろ/\ことにをけはこそ山のこのはのちくさなるらめ
解釈 秋の露色々ことに置けばこそ山の木の葉の千草なるらめ

歌番号二六〇
毛留夜万乃保止利尓天与女留
もる山のほとりにてよめる
守山の辺にて詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 志良川由毛志久礼毛以多久毛留夜万者志多八乃己良寸以呂川幾尓个利
定家 しらつゆも時雨もいたくもる山はしたはのこらす色つきにけり
解釈 白露も時雨もいたく漏る山は下葉残らず色づきにけり

歌番号二六一
安幾乃宇多止天与女留
秋のうたとてよめる
秋の哥とて詠める

安利八良乃毛止可多
在原元方
在原元方

原文 安免布礼止川由毛々良志遠加左止利乃夜万者以可天可毛美知曽女个武
定家 雨ふれとつゆもゝらしをかさとりの山はいかてかもみちそめけむ
解釈 雨降れど露も漏らじを笠取の山はいかでか紅葉染めけむ

歌番号二六二
加美乃也之呂乃安多利遠万可利个留止幾尓以可幾乃宇知乃
神のやしろのあたりをまかりける時にいかきのうちの
神の社の辺りを参かりける時に斎垣の内の

毛三地遠美天与女留
もみちを見てよめる
紅葉を見て詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 知者也不留加美乃以可幾尓者不久寸毛安幾尓者安部寸宇川呂日尓个利
定家 ちはやふる神のいかきにはふくすも秋にはあへすうつろひにけり
解釈 ちはやぶる神の斎垣に這ふ葛も秋にはあへず移ろひにけり

歌番号二六三
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世尓与女留
これさたのみこの家の哥合によめる
是貞親王の家の哥合に詠める

堂々美祢
たゝみね
壬生忠岑

原文 安免布礼者加左止利夜万乃毛美知者々由幾可不比止乃曽天左部曽天留
定家 あめふれはかさとり山のもみちはゝゆきかふ人のそてさへそてる
解釈 雨降れば笠取山のもみぢ葉は行き交ふ人の袖さへぞ照る

歌番号二六四
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 知良祢止毛可祢天曽於之幾毛美知者々以万八加幾利乃以呂止美川礼八
定家 ちらねともかねてそおしきもみちはゝ今は限の色と見つれは
解釈 散らねどもかねてぞ惜しきもみぢ葉は今は限りの色と見つれば

歌番号二六五
也末止乃久尓々万可利个留止幾左本夜万尓幾利乃多天利个留遠美天与女留
やまとのくにゝまかりける時さほ山にきりのたてりけるを見てよめる
大和国に参りける時佐保山に霧の立てりけるを見て詠める

幾乃止毛乃利
きのとものり
紀友則

原文 堂可多女乃尓之幾奈礼者可安幾幾利乃左本乃夜万部遠多知可久寸良武
定家 たかための錦なれはか秋きりのさほの山辺をたちかくす覧
解釈 誰がための錦なればか秋霧の佐保の山辺を立ち隠すらむ

歌番号二六六
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
是貞のみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

与美比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 安幾幾利者計左者奈多知曽左本夜万乃者々曽乃毛美知与曽尓天毛美武
定家 秋きりはけさはなたちそさほ山のはゝそのもみちよそにても見む
解釈 秋霧は今朝はな立ちそ佐保山の柞の紅葉よそにても見む

歌番号二六七
安幾乃宇多止天与女留
秋のうたとてよめる
秋の哥とて詠める

佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上是則
坂上是則

原文 佐保夜万乃者々曽乃以呂者宇寸个礼止安幾者布可久毛奈利尓个留可奈
定家 佐保山のはゝその色はうすけれと秋は深くもなりにける哉
解釈 佐保山の柞の色は薄けれど秋は深くもなりにけるかな

歌番号二六八
比止乃世无左以尓幾久尓武寸日川个天宇部尓留宇多
人のせんさいにきくにむすひつけてうへけるうた
人の前栽に菊に結び付けて植へける歌

安利八良乃奈利比良乃安曽无
在原なりひらの朝臣
在原業平朝臣

原文 宇恵之宇部者安幾奈幾止幾也左可左良武者那己曽知良女祢左部可礼女也
定家 うへしうへは秋なき時やさかさらむ花こそちらめねさへかれめや
解釈 植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや

歌番号二六九
可无部以乃於保无止幾々久乃者那遠与万世多万宇个留
寛平御時きくの花をよませたまうける
寛平御時菊の花を詠ませ給ひける

止之由幾乃安曽无
としゆきの朝臣
藤原敏行朝臣

原文 比左可多乃久毛乃宇部尓天美留幾久者安末可川本之止曽安也万多礼个留
定家 久方の雲のうへにて見る菊はあまかつほしとそあやまたれける
解釈 久方の雲の上にて見る菊は天つ星とぞ過たれける

己乃宇多者末多宇部由留左礼左利个留止幾尓女之安遣良礼天川可宇万川礼留止奈武
この哥はまた殿上ゆるされさりける時にめしあけられてつかうまつれるとなむ
この歌はまた殿上許されざりける時に、召し上げられて仕う奉れるとなむ

歌番号二七〇
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
これさたのみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

幾乃止毛乃利
きのとものり
紀友則

原文 川由奈可良於里天加左々武幾久乃者那於以世奴安幾乃比左之可留部久
定家 露なからおりてかさゝむきくの花おいせぬ秋のひさしかるへく
解釈 露ながら折りてかざさむ菊の花老いせぬ秋の久しかるべく

歌番号二七一
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

於保衣乃知左止
大江千里
大江千里

原文 宇部之止幾者那万知止遠尓安利之幾久宇川呂不安幾尓安者武止也美之
定家 うへし時花まちとをにありしきくうつろふ秋にあはむとや見し
解釈 植ゑし時花待ち遠にありし菊移ろふ秋に逢むとや見し

歌番号二七二
於奈之於保无止幾世良礼个留幾久安八世尓寸者万遠川久利天幾久乃者那
おなし御時せられけるきくあはせにすはまをつくりて菊の花
同じ御時せられける菊合せに洲浜を作りて菊の花

宇部多利个留尓久波部多利个留宇多布幾安个乃者万乃加多尓
うへたりけるにくはへたりけるうたふきあけのはまのかたに
植へたりけるに加へたりける哥、吹上の浜の方に

宇部多利个留尓与女留
うへたりけるによめる
植へたりけるによめる

寸可波良乃安曽无
すかはらの朝臣
菅原朝臣

原文 安幾可世乃布機安計尓多天留之良幾久者者那可安良奴可奈美乃与留可
定家 秋風の吹あけにたてる白菊は花かあらぬか浪のよるか
解釈 秋風の吹上げに立てる白菊は花かあらぬか浪の寄するか

歌番号二七三
世武幾宇尓幾久遠和計天比止乃以多礼留可多遠与女留
仙宮に菊をわけて人のいたれるかたをよめる
仙宮に菊を分けて人の至れる方をよめる

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 奴礼天保寸夜万知乃幾久乃川由乃末尓以川可知止世遠和礼八部尓个武
定家 ぬれてほす山地の菊のつゆのまにいつかちとせを我はへにけむ
解釈 濡れて干す山路の菊の露の間にいつか千歳を我は経にけむ

歌番号二七四
幾久乃者那乃毛止尓天比止乃比止末天留可多遠与女留
菊の花のもとにて人の人まてるかたをよめる
菊の花の許にて人の人待てるかたを詠める

止毛乃利
とものり
紀友則

原文 者那美川々比止末川止幾者之呂多部乃曽天可止乃美曽安也万多礼个留
定家 花見つゝ人まつ時はしろたへの袖かとのみそあやまたれける
解釈 花見つつ人待つ時は白妙の袖かとのみぞ過たれける

歌番号二七五
於保左者乃以个乃加多尓幾久宇部多留遠与女留
おほさはの池のかたにきくうへたるをよめる
大沢の池の方に菊植へたるを詠める

原文 飛止毛止々於毛之幾久遠於保左者乃以个乃曽己尓毛多礼可宇部个武
定家 ひともとゝ思しきくをおほさはの池のそこにもたれかうへけむ
解釈 一本と思ひし菊を大沢の池の底にも誰れか植ゑけむ

歌番号二七六
与乃奈可乃者可那幾己止遠於毛日个留於利尓幾久乃者那遠美天与美計留
世中のはかなきことを思ひけるおりにきくの花を見てよみける
世の中のはかなき事を思ひける折に菊の花を見て詠みける

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 安幾乃幾久尓保不可幾利者加左之天武者那与利左幾止之良奴和可三遠
定家 秋の菊にほふかきりはかさしてむ花よりさきとしらぬわか身を
解釈 秋の菊匂ふ限りはかざしてむ花より先と知らぬ我が身を

歌番号二七七
志良幾久乃者那遠与女留
しらきくの花をよめる
白菊の花を詠める

於保可宇知乃美川祢
凡河内みつね
凡河内躬恒

原文 己々呂安天尓於良者也於良武者川之毛乃遠幾万止者世留之良幾久乃者那
定家 心あてにおらはやおらむはつしものをきまとはせる白菊の花
解釈 心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

歌番号二七八
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
これさたのみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

与美比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 以呂可者留安幾乃幾久遠者比止々世尓布多々比尓保不者那止己曽美礼
定家 いろかはる秋のきくをはひとゝせにふたゝひにほふ花とこそ見れ
解釈 色変はる秋の菊をば一年に再び匂ふ花とこそ見れ

歌番号二七九
尓无奈乃天良尓幾久乃者那女之个留止幾尓宇多曽部天多天末川礼止
仁和寺にきくのはなめしける時にうたそへてたてまつれと
仁和寺に菊の花召しける時に歌添へて奉れと

於保世良礼个礼者与美天多天万川利个留
おほせられけれはよみてたてまつりける
仰せられければ詠みて奉りける

平左多不无
平さたふん
平貞文

原文 安幾遠々幾天止幾己曽安利个礼幾久乃者那宇川呂不可良尓以呂乃万佐礼者
定家 秋をゝきて時こそ有けれ菊の花うつろふからに色のまされは
解釈 秋をおきて時こそありけれ菊の花移ろふからに色のまされば

歌番号二八〇
比止乃以部奈利个留幾久乃者那遠宇徒之宇部多利个留遠与女留
人の家なりけるきくの花をうつしうへたりけるをよめる
人の家なりけるき菊の花を移し植へたりけるを詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 佐幾曽免之也止之加者礼者幾久乃者那以呂佐部尓己曽宇川呂日尓个礼
定家 さきそめしやとしかはれは菊の花色さへにこそうつろひにけれ
解釈 咲き初めし宿し変はれば菊の花色さへにこそ移ろひにけれ

歌番号二八一
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 佐保夜万乃者々曽乃毛美知々利奴部美与留左部美与止天良寸川幾可計
定家 佐保山のはゝそのもみちゝりぬへみよるさへ見よとてらす月影
解釈 佐保山の柞の紅葉散りぬべみ夜さへ見よと照らす月影

歌番号二八二
美也徒可部比左之宇川可宇万川良天夜万左止尓己毛利者部利个留尓与女留
みやつかへひさしうつかうまつらて山さとにこもり侍けるによめる
宮仕へ久しうつかうまつらで山里に籠もり侍けるに詠める

布知八良乃世幾遠
藤原関雄
藤原関雄

原文 於久夜万乃以者可幾毛美地々里奴部之天留比乃比可利美留止幾奈久天
定家 おく山のいはかきもみちゝりぬへしてる日のひかり見る時なくて
解釈 奥山の岩垣紅葉散りぬべし照る日の光見る時なくて

歌番号二八三
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 堂川多加者毛美地美多礼天奈加留女利和多留波尓之幾奈可也多衣奈武
定家 龍田河もみちみたれて流めりわたらは錦なかやたえなむ
解釈 龍田河紅葉乱れて流るめり渡らば錦仲や絶えなむ

己乃宇多八安留比止奈良乃美可止乃於保武宇多奈利止奈武毛布寸
この哥はある人ならのみかとの御哥也となむ申す
この歌はある人奈良帝の御哥也となむ申す

歌番号二八四
原文 堂川多加者毛美知者奈加留加美奈日乃美武呂乃夜万尓志久礼不留良之
定家 たつた河もみちは流神なひのみむろの山に時雨ふるらし
解釈 龍田河もみぢ葉流る神奈備の三室の山に時雨降るらし

万多者安寸可々波毛美知八奈可留
又はあすかゝはもみちはなかる
または飛鳥河もみぢ葉流る

歌番号二八五
原文 己飛之久者美天毛志乃者武毛美知八遠布幾奈知良之曽夜万於呂之乃可世
定家 こひしくは見てもしのはむもみちはを吹なちらしそ山おろしのかせ
解釈 恋しくは見てもしのばむもみぢ葉を吹きな散らしそ山おろしの風

歌番号二八六
原文 安幾可世尓安部寸知利奴留毛美知者乃由久恵左多女奴和礼曽可奈之幾
定家 秋風にあへすちりぬるもみちはのゆくゑさためぬ我そかなしき
解釈 秋風にあへず散りぬるもみぢ葉の行方定めぬ我ぞ悲しき

歌番号二八七
原文 安幾者幾奴毛美知者也止尓布利之幾奴美知布三和計天止不比止者奈之
定家 あきはきぬ紅葉はやとにふりしきぬ道ふみわけてとふ人はなし
解釈 秋は来ぬ紅葉は宿に降り敷きぬ道踏み分けて訪ふ人はなし

歌番号二八八
原文 布美和計天佐良尓也止者武毛美知八乃布利可久之天之身知止美奈可良
定家 ふみわけてさらにやとはむもみちはのふりかくしてしみちとみなから
解釈 踏み分けて更にや訪はむもみぢ葉の降り隠してし道と見ながら

歌番号二八九
原文 安幾乃川幾夜万部左也可天良世留八於川留毛美知乃加寸遠美与止可
定家 秋の月山辺さやかてらせるはおつるもみちのかすを見よとか
解釈 秋の月山辺さやかに照らせるは落つる紅葉の数を見よとか

歌番号二九〇
原文 布久可世乃以呂乃知久左尓美衣川留八安幾乃己乃八乃知礼八奈利个利
定家 吹風の色のちくさに見えつるは秋のこのはのちれはなりけり
解釈 吹く風の色の千草に見えつるは秋の木の葉の散ればなりけり

歌番号二九一
世幾遠
せきを
藤原関雄

原文 之毛乃堂天川由乃奴幾己曽与者可良之夜万乃尓之幾乃遠礼八可川知留
定家 霜のたてつゆのぬきこそよはからし山の錦のをれはかつちる
解釈 霜のたて露のぬきこそ弱からじ山の錦の織ればかつ散る

歌番号二九二
宇里武為无幾乃可个尓多々寸美天与三个留
うりむゐんの木のかけにたゝすみてよみける
雲林院の木の蔭にたたずみて詠みける

原文 和比比止乃和幾天多知与留己乃毛止八多乃武可个奈久毛美知知利个利
定家 わひ人のわきてたちよるこの本はたのむかけなくもみちちりけり
解釈 侘び人のわきて立ち寄る木の下は頼む影なく紅葉散りけり

歌番号二九三
尓天宇乃后乃春宮乃美也寸止己呂止毛布之个留止幾尓美飛也宇布尓
二条の后の春宮のみやす所と申ける時に御屏風に
二条后の春宮の御息所と申ける時に御屏風に

堂川多加者尓毛美知奈可礼多留可多遠加个利个留遠多以尓天与女留
たつた河にもみちなかれたるかたをかけりけるを題にてよめる
龍田河に紅葉流れたる方を描けりけるを題にて詠める

曽世以
そせい
素性法師

原文 毛美知者乃奈可礼天止万留美奈止尓八久礼奈為布加幾奈美也多川良武
定家 もみちはのなかれてとまるみなとには紅深き浪や立らむ
解釈 もみぢ葉の流れて止まる港には紅深き浪や立つらむ

歌番号二九四
奈利比良乃安曽无
なりひらの朝臣
在原業平朝臣

原文 知者也布留加美世毛幾可須堂川多加者加良久礼奈為尓美川久々留止者
定家 ちはやふる神世もきかす龍田河唐紅に水くゝるとは
解釈 ちはやぶる神代も聞かず龍田河唐紅に水くくるとは

歌番号二九五
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
これさたのみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

止之由幾乃安曽无
としゆきの朝臣
藤原敏行朝臣

原文 和可幾川留可多毛志良礼寸久良不夜万幾々乃己乃者乃知留止万可不尓
定家 わかきつる方もしられすくらふ山木ゝのこのはのちるとまかふに
解釈 我が来つる方も知られず暗部山木々の木の葉の散るとまがふに

歌番号二九六
堂々美子
たゝみね
壬生忠岑

原文 加美奈比乃美武呂乃夜万遠安幾由計者尓幾多知幾留己々知己曽寸礼
定家 神なひのみむろの山を秋ゆけは錦たちきる己々知こそすれ
解釈 神奈備の三室の山を秋行けば錦裁ち着る心地こそすれ

歌番号二九七
幾多夜万尓毛美知於良武止天万可礼利个留止幾尓与女留
北山に紅葉おらむとてまかれりける時によめる
北山に紅葉折らむとて参れりける時に詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 美留比止毛奈久天知利奴留於久夜万乃毛美知八与留乃尓之幾奈利个利
定家 見る人もなくてちりぬるおく山の紅葉はよるのにしきなりけり
解釈 見る人もなくて散りぬる奥山の紅葉は夜の錦なりけり

歌番号二九八
安幾乃宇多
秋のうた
秋の哥

加祢美乃於保幾三
かねみの王
兼覧王

原文 堂川多比免多武久留加美乃安礼者己曽安幾乃己乃波乃奴左止知留良女
定家 龍田ひめたむくる神のあれはこそ秋のこのはのぬさとちるらめ
解釈 龍田姫手向くる神のあればこそ秋の木の葉の幣と散るらめ

歌番号二九九
遠乃止以不止己呂尓寸見者部利个留止幾毛見知遠美天与女留
をのといふ所にすみ侍ける時もみちを見てよめる
小野といふ所に住み侍るりける時紅葉を見て詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 安幾乃夜万毛美知遠奴左止多武久礼八寸武和礼左部曽多比己々知寸留
定家 秋の山紅葉をぬさとたむくれはすむ我さへそたひ心ちする
解釈 秋の山紅葉を幣と手向くれば住む我さへぞ旅心地する

歌番号三〇〇
加美奈比乃夜万遠寸幾天堂川多加者遠和多利个留止幾尓毛美知乃
神なひの山をすきて龍田河をわたりける時にもみちの
神奈備の山を過ぎて龍田河を渡りける時に紅葉の

奈可礼个留遠与女留
なかれけるをよめる
流れけるを見てよめる

幾与八良乃布可也不
きよはらのふかやふ
清原深養父

原文 加美奈比乃夜万遠寸幾由久安幾奈礼者堂川多加者尓曽奴左者多武久留
定家 神なひの山をすき行秋なれはたつた河にそぬさはたむくる
解釈 神奈備の山を過ぎ行く秋なれば龍田河にぞ幣は手向くる

歌番号三〇一
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

布知八良乃於幾可世
ふちはらのおきかせ
藤原興風

原文 之良奈美尓安幾乃己乃者乃宇可部留遠安万乃奈可世留布祢可止曽美留
定家 白浪に秋のこのはのうかへるをあまのなかせる舟かとそ見る
解釈 白浪に秋の木の葉の浮かべるを海人の流せる舟かとぞ見る

歌番号三〇二
堂川多加者乃本止利尓天与女留
たつた河のほとりにてよめる
龍田河の辺にて詠める

佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上これのり
坂上是則

原文 毛美知八乃奈可礼左利世八堂川多加者美川乃安幾遠八多礼可之良末之
定家 もみちはのなかれさりせは龍田河水の秋をはたれかしらまし
解釈 もみぢ葉の流れざりせば龍田河水の秋をば誰れか知らまし

歌番号三〇三
志可乃夜万己衣尓天与女留
しかの山こえにてよめる
志賀の山越えにて詠める

者留美知乃川良幾
はるみちのつらき
春道列樹

原文 夜万加者尓可世乃可計多留志可良美八奈加礼毛安部奴毛美知奈利个利
定家 山河に風のかけたるしからみは流もあへぬ紅葉なりけり
解釈 山河に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり

歌番号三〇四
以个乃本止利尓天毛美知乃知留遠与女留
池のほとりにてもみちのちるをよめる
池の辺にて紅葉の散るを詠める

美川祢
みつね
凡河内躬恒

原文 可世布个者於川留毛美知者美川幾与美知良奴可計左部曽己尓美衣川々
定家 風ふけはおつるもみちは水きよみちらぬかけさへそこに見えつゝ
解釈 風吹けば落つるもみぢ葉水清み散らぬ影さへ底に見えつつ

歌番号三〇五
天以之為无乃美飛也宇布乃恵尓加者和多良武止寸留比止乃毛美知乃知留
亭子院の御屏風のゑに河わたらむとする人のもみちのちる
亭子院の御屏風の絵に、河渡らむとする人の、紅葉の散る

幾乃毛止尓武万遠比可部天多天留遠与万世多万日个礼八川可宇万川利个留
木のもとにむまをひかへてたてるをよませたまひけれはつかうまつりける
木の下に馬を控へて立てるを詠ませ給ひければ、仕う奉りける

原文 多知止万利美天遠和多良武毛美知者々安免止布留止毛美川者万佐良之
定家 立とまり見てをわたらむもみちはゝ雨とふるとも水はまさらし
解釈 立ち止まり見てを渡らむもみぢ葉は雨と降るとも水はまさらじ

歌番号三〇六
己礼左多乃美己乃以部乃宇多安者世乃宇多
是貞のみこの家の哥合のうた
是貞親王の家の哥合の哥

堂々美祢
たゝみね
壬生忠岑

原文 夜万多毛留安幾乃加利以本尓遠久川由八伊奈於保世止利乃奈美多奈利个利
定家 山田もる秋のかりいほにをくつゆはいなおほせ鳥の涙なりけり
解釈 山田守る秋の仮庵に置く露は稲負ほせ鳥の涙なりけり

歌番号三〇七
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 保尓毛以天奴夜万多遠毛留止布知己呂毛以奈八乃川由尓奴礼奴比曽奈幾
定家 ほにもいてぬ山田をもると藤衣いなはのつゆにぬれぬ日そなき
解釈 穂にも出でぬ山田を守ると藤衣稲葉の露に濡れぬ日はなし

歌番号三〇八
原文 加礼累多尓於不留飛川知乃保尓以天奴八世遠以万左良尓尓安幾八天奴止可
定家 かれる田におふるひつちのほにいてぬは世を今更に秋はてぬとか
解釈 刈れる田に生ふるひつちの穂に出でぬは世を今更に秋果てぬとか

歌番号三〇九
幾多夜万尓曽宇志也宇部无世宇止多計可利尓万可礼利个留尓与女留
北山に僧正へんせうとたけかりにまかれりけるによめる
北山に僧正遍昭と茸狩りに参れりけるに詠める

曽世以保宇之
そせい法し
素性法師

原文 毛美地者々曽天尓己幾以礼天毛天以天奈武安幾八加幾利止美武比止乃多女
定家 もみちはゝ袖にこきいれてもていてなむ秋は限と見む人のため
解釈 もみぢ葉は袖にこき入れて持て出でなむ秋は限りと見む人のため

歌番号三一〇
可无部以乃於保无止幾布留幾宇多々天万川礼止於保世良礼个礼八堂川多加者
寛平御時ふるきうたゝてまつれとおほせられけれはたつた河
寛平御時古き歌奉れと仰せられければ龍田河

毛美知八奈可留止以不宇多遠加幾天曽乃於奈之己々呂遠与女利个留
もみちはなかるといふ哥をかきてそのおなし心をよめりける
もみぢ葉流るといふ歌を書きてその同じ心を詠めりける

於幾可世
おきかせ
藤原興風

原文 美夜万与利於知久留美川乃以呂美天曽安幾者加幾利止於毛之利奴留
定家 み山よりおちくる水の色見てそ秋は限と思しりぬる
解釈 深山より落ち来る水の色見てぞ秋は限りと思ひ知りぬる

歌番号三一一
安幾乃者川留己々呂遠堂川多加者尓於毛日也利天与女留
秋のはつる心をたつた河に思ひやりてよめる
秋の果つる心を龍田河に思ひやりて詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 止之己止尓毛美知者奈可寸堂川多加者美奈止也安幾乃止万利奈留良武
定家 年ことにもみちはなかす龍田河みなとや秋のとまりなる覧
解釈 年ごとにもみぢ葉流す龍田河湊や秋の泊りなるらむ

歌番号三一二
奈可川幾乃川己毛利乃比多保為尓天与女留
なか月のつこもりの日大井にてよめる
長月の晦の日大井にて詠める

原文 由不川久与遠久良乃夜万尓奈久之可乃己恵乃宇知尓也安幾者久留良武
定家 ゆふつく夜をくらの山になくしかのこゑの内にや秋はくるらむ
解釈 夕づく夜小倉の山に鳴く鹿の声のうちにや秋は暮るらむ

歌番号三一三
於奈之徒己毛利乃比与女留
おなしつこもりの日よめる
同じ晦の日詠める

美川祢
みつね
凡河内躬恒

原文 美知志良波多川祢毛由可武毛美者遠奴左止多武計天安幾者以尓个利
定家 道しらはたつねもゆかむもみはをぬさとたむけて秋はいにけり
解釈 道知らば訪ねも行かむもみぢ葉を幣と手向けて秋は往にけり
コメント
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