大伴宿祢像見謌一首
標訓 大伴宿祢像見(かたみ)の謌一首
集歌六六四
原文 石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言羲之鬼尾
訓読 石上(いそのかみ)降るとも雨に關(つつ)まめや妹に逢はむと言ひてしものを
私訳 石上の布留の里に雨が降ったとして、その雨に降り籠められるでしょうか。貴女に逢いたいと神に誓ったのだから。
注意 原文の「言羲之鬼尾」の「羲之」と「鬼尾」は「てし」と「ものを」の戯訓です。
安倍朝臣蟲麿謌一首
標訓 安倍朝臣蟲麿(むしまろ)の謌一首
集歌六六五
原文 向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
訓読 向ひ居(ゐ)に見れども飽かぬ吾妹子(わぎもこ)に立ち別れ行かむたづき知らずも
私訳 向かい合って見ていても飽きることのない私の愛しい貴女に、立ち去って別れて行く方法を思いつきません。
大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌六六六
原文 不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
訓読 相見ぬは幾(いく)久(ひ)さにもあらなくに幾許(ここだ)く吾は恋ひつつもあるか
私訳 貴女に逢えない日々がそれほどたったわけでもないが、どうして、これほどひどく私は貴女を懐かしんでいるのでしょうか。
集歌六六七
原文 戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
訓読 恋ひ恋ひに逢ひたるものを月しあれば夜は隠(かく)らむ須臾(しまし)はあり待て
私訳 ひどく懐かしんで逢ったのですから、遅い月があるので夜の闇は隠れるように月明かりでやがて明るくなるでしょうから、暫しこうして話しながら待ちましょう。
左注 右、大伴坂上郎女之母石川内命婦、与安部朝臣蟲満之母安曇外命婦、同居姉妹、同氣之親焉。縁此郎女蟲満、相見不踈、相談既密。聊作戯謌以為問答也。
注訓 右の、大伴坂上郎女の母石川内命婦と、安部朝臣蟲満の母安曇外命婦とは、同居の姉妹にして、同氣の親あり。これによりて郎女と蟲満と、相見ること踈からず、相談ふこと既に密なり。聊か戯れの歌を作りて問答をなせり。
厚見王謌一首
標訓 厚見王(あつみのおほきみ)の謌一首
集歌六六八
原文 朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
訓読 朝(あさ)に日(け)に色づく山の白雲し思ひ過ぐべき君にあらなくに
私訳 朝ごとに日一日ごとに色付いていく山に懸かる白雲が流れ去るように、人々の思い出の中に過ぎ去るような貴方ではありません。
標訓 大伴宿祢像見(かたみ)の謌一首
集歌六六四
原文 石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言羲之鬼尾
訓読 石上(いそのかみ)降るとも雨に關(つつ)まめや妹に逢はむと言ひてしものを
私訳 石上の布留の里に雨が降ったとして、その雨に降り籠められるでしょうか。貴女に逢いたいと神に誓ったのだから。
注意 原文の「言羲之鬼尾」の「羲之」と「鬼尾」は「てし」と「ものを」の戯訓です。
安倍朝臣蟲麿謌一首
標訓 安倍朝臣蟲麿(むしまろ)の謌一首
集歌六六五
原文 向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
訓読 向ひ居(ゐ)に見れども飽かぬ吾妹子(わぎもこ)に立ち別れ行かむたづき知らずも
私訳 向かい合って見ていても飽きることのない私の愛しい貴女に、立ち去って別れて行く方法を思いつきません。
大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌六六六
原文 不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
訓読 相見ぬは幾(いく)久(ひ)さにもあらなくに幾許(ここだ)く吾は恋ひつつもあるか
私訳 貴女に逢えない日々がそれほどたったわけでもないが、どうして、これほどひどく私は貴女を懐かしんでいるのでしょうか。
集歌六六七
原文 戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
訓読 恋ひ恋ひに逢ひたるものを月しあれば夜は隠(かく)らむ須臾(しまし)はあり待て
私訳 ひどく懐かしんで逢ったのですから、遅い月があるので夜の闇は隠れるように月明かりでやがて明るくなるでしょうから、暫しこうして話しながら待ちましょう。
左注 右、大伴坂上郎女之母石川内命婦、与安部朝臣蟲満之母安曇外命婦、同居姉妹、同氣之親焉。縁此郎女蟲満、相見不踈、相談既密。聊作戯謌以為問答也。
注訓 右の、大伴坂上郎女の母石川内命婦と、安部朝臣蟲満の母安曇外命婦とは、同居の姉妹にして、同氣の親あり。これによりて郎女と蟲満と、相見ること踈からず、相談ふこと既に密なり。聊か戯れの歌を作りて問答をなせり。
厚見王謌一首
標訓 厚見王(あつみのおほきみ)の謌一首
集歌六六八
原文 朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
訓読 朝(あさ)に日(け)に色づく山の白雲し思ひ過ぐべき君にあらなくに
私訳 朝ごとに日一日ごとに色付いていく山に懸かる白雲が流れ去るように、人々の思い出の中に過ぎ去るような貴方ではありません。