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竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌664から集歌668まで

2020年06月30日 | 新訓 万葉集
大伴宿祢像見謌一首
標訓 大伴宿祢像見(かたみ)の謌一首
集歌六六四 
原文 石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言羲之鬼尾
訓読 石上(いそのかみ)降るとも雨に關(つつ)まめや妹に逢はむと言ひてしものを
私訳 石上の布留の里に雨が降ったとして、その雨に降り籠められるでしょうか。貴女に逢いたいと神に誓ったのだから。
注意 原文の「言羲之鬼尾」の「羲之」と「鬼尾」は「てし」と「ものを」の戯訓です。

安倍朝臣蟲麿謌一首
標訓 安倍朝臣蟲麿(むしまろ)の謌一首
集歌六六五 
原文 向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
訓読 向ひ居(ゐ)に見れども飽かぬ吾妹子(わぎもこ)に立ち別れ行かむたづき知らずも
私訳 向かい合って見ていても飽きることのない私の愛しい貴女に、立ち去って別れて行く方法を思いつきません。

大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌六六六 
原文 不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
訓読 相見ぬは幾(いく)久(ひ)さにもあらなくに幾許(ここだ)く吾は恋ひつつもあるか
私訳 貴女に逢えない日々がそれほどたったわけでもないが、どうして、これほどひどく私は貴女を懐かしんでいるのでしょうか。

集歌六六七 
原文 戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
訓読 恋ひ恋ひに逢ひたるものを月しあれば夜は隠(かく)らむ須臾(しまし)はあり待て
私訳 ひどく懐かしんで逢ったのですから、遅い月があるので夜の闇は隠れるように月明かりでやがて明るくなるでしょうから、暫しこうして話しながら待ちましょう。
左注 右、大伴坂上郎女之母石川内命婦、与安部朝臣蟲満之母安曇外命婦、同居姉妹、同氣之親焉。縁此郎女蟲満、相見不踈、相談既密。聊作戯謌以為問答也。
注訓 右の、大伴坂上郎女の母石川内命婦と、安部朝臣蟲満の母安曇外命婦とは、同居の姉妹にして、同氣の親あり。これによりて郎女と蟲満と、相見ること踈からず、相談ふこと既に密なり。聊か戯れの歌を作りて問答をなせり。

厚見王謌一首
標訓 厚見王(あつみのおほきみ)の謌一首
集歌六六八 
原文 朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
訓読 朝(あさ)に日(け)に色づく山の白雲し思ひ過ぐべき君にあらなくに
私訳 朝ごとに日一日ごとに色付いていく山に懸かる白雲が流れ去るように、人々の思い出の中に過ぎ去るような貴方ではありません。
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万葉集 集歌659から集歌663まで

2020年06月29日 | 新訓 万葉集
集歌六五九 
原文 豫 人事繁 如是有者 四恵也吾背子 奥裳何如荒海藻
訓読 あらかじめ人(ひと)事(こと)繁(しげ)しかくしあらばしゑや吾が背子(せこ)奥(おく)もいかにあらめ
私訳 最初からこれほど忙しくしているのでしたら、私の愛しい貴方。将来は、どうなるのでしょう。
注意 原文の「荒海藻」を「あらめ」と訓じています。

集歌六六〇 
原文 汝乎与吾乎 人曽離奈流 乞吾君 人之中言 聞起名湯目
訓読 汝(な)をと吾(あ)を人ぞ離(さ)くなるいで吾(あが)君(ひと)人し中言(なかこと)聞きこすなゆめ
私訳 貴方と私とを、人は引き離そうとしている。ねえ私の愛しい貴方。人の中傷をお聞きにならいで。きっと。

集歌六六一 
原文 戀々而 相有時谷 愛寸 事盡手四 長常念者
訓読 恋ひ恋ひに逢へる時だに愛(うるは)しき事(こと)尽(つく)してよ長くと念(おも)はば
私訳 お慕いし続けてやっと逢い抱き合う時には、嬉しい愛撫を尽くして下さい。この二人の仲が長く続くと想いでしたら。

市原王謌一首
標訓 市原王(いちはらのおほきみ)の謌一首
集歌六六二 
原文 網兒之山 五百重隠有 佐堤乃埼 左手蝿師子之 夢二四所見
訓読 網児(あご)し山五百重(いほへ)隠せる佐堤(さて)の崎(さき)小網(さて)延(は)へし子し夢にしそ見ゆ
私訳 私の愛しい貴女。網兒の山を幾重にも隠す佐堤の岬、どうしたことか、小網を張るように床で左手を横に寝る私へと延ばした娘子が夢に現れた。

安部宿祢年足謌一首
標訓 安部宿祢年足(としたり)の謌一首
集歌六六三 
原文 佐穂度 吾家之上二 鳴鳥之 音夏可思吉 愛妻之兒
訓読 佐保(さほ)渡り吾家(わぎへ)し上に鳴く鳥し声なつかしき愛(は)しき妻し子
私訳 佐保の川辺を渡り私の家のほとりで啼く鳥の声のような、その声に心を引かれる愛しい妻である貴女。
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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻三

2020年06月28日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
美末幾仁安多留未幾
巻三

者留乃宇多之毛
春歌下

歌番号八一
於久留於本幾於本以万宇知幾三安比王可礼天乃知
安留止己呂尓天曽乃己恵遠幾々天徒可者之个留
贈太政大臣安比王可礼天乃知
安留所尓天曽乃己恵遠幾々天徒可者之个留
贈太政大臣あひ別れてのち、
ある所にてその声を聞きてつかはしける

布知八良乃安幾多々安曾无乃者々
藤原顕忠朝臣母
藤原顕忠朝臣の母

原文 宇久比須乃奈久奈留己恵者无可之尓天和可三飛止川乃安良寸毛安留可奈
定家 鴬乃奈久奈留声者昔尓天和可身飛止川乃安良寸毛安留哉
和歌 うくひすのなくなるこゑはむかしにてわかみひとつのあらすもあるかな
解釈 鴬の鳴くなる声は昔にて我が身一つのあらずもあるかな


歌番号八二
佐久良乃者奈乃加免尓左世利个留可知利个留遠
三天奈加川可佐尓川可者之个留
佐久良乃花乃加免尓左世利个留可知利个留遠
見天中務尓川可者之个留
桜の花の瓶に挿せりけるが散りけるを
見て、中務につかはしける

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 飛佐之加礼安多尓知留奈止佐久良者奈加女尓左世礼止宇川呂比尓个利
定家 飛佐之加礼安多尓知留奈止佐久良花加女尓左世礼止宇川呂比尓个利
和歌 ひさしかれあたにちるなとさくらはなかめにさせれとうつろひにけり
解釈 久しかれあだに散るなと桜花瓶に挿せれど移ろひにけり

歌番号八三
可部之
返し
返し

奈加川可佐
中務
中務

原文 千世布部幾加女尓佐世礼止佐久良者奈止満良武己止八川祢尓也八安良奴
定家 千世布部幾加女尓佐世礼止桜花止満良武事八常尓也八安良奴
和歌 ちよふへきかめにさせれとさくらはなとまらむことはつねにやはあらぬ
解釈 千世ふべき瓶に挿せれど桜花とまらむ事は常にやはあらぬ


歌番号八四
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 知利奴部幾者奈乃可幾利者遠之奈部天以徒礼止毛奈久於之幾者留可奈
定家 知利奴部幾花乃限者遠之奈部天以徒礼止毛奈久於之幾春哉
和歌 ちりぬへきはなのかきりはおしなへていつれともなくをしきはるかな
解釈 散りぬべき花の限りはおしなべていづれともなく惜しき春かな


歌番号八五
安佐多々安曾无止奈利尓者部利个留尓佐久良乃
以多宇知利遣礼者以比川加者之个留
朝忠朝臣止奈利尓侍个留尓佐久良乃
以多宇知利遣礼者以比川加者之个留
朝忠朝臣隣に侍りけるに、桜の
いたう散りければ、言ひつかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 加幾己之尓知利久留者奈遠三留与利者祢己女尓可世乃布幾毛己左奈无
定家 加幾己之尓知利久留花遠見留与利者祢己女尓風乃吹毛己左奈无
和歌 かきこしにちりくるはなをみるよりはねこめにかせのふきもこさなむ
解釈 垣越しに散り来る花を見るよりは根込めに風の吹きも越さなん


歌番号八六
遠无奈尓徒可者之个留
女尓徒可者之个留
女につかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 者留乃比乃奈可幾於毛日者和寸礼之遠比止乃己々呂尓安幾也多川良无
定家 春乃日乃奈可幾思日者和寸礼之遠人乃心尓秋也多川良无
和歌 はるのひのなかきおもひはわすれしをひとのこころにあきやたつらむ
解釈 春の日の永き思ひは忘れじを人の心に秋や立つらん


歌番号八七
多以之良寸
題之良寸
題しらず

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 与曽尓天毛者奈三留己止尓祢遠曽奈久和可身尓宇止幾者留乃川良左尓
定家 与曽尓天毛花見留己止尓祢遠曽奈久和可身尓宇止幾春乃川良左尓
和歌 よそにてもはなみることにねをそなくわかみにうときはるのつらさに
解釈 よそにても花見るごとに音をぞ泣く我が身にうとき春のつらさに


歌番号八八
多以之良寸
題しらす
題しらず

徒良由幾
貫之
紀貫之

原文 可世遠多尓満知天曽者奈乃知利奈末之己々呂川可良尓宇川呂不可宇左
定家 風遠多尓満知天曽花乃知利奈末之心川可良尓宇川呂不可宇左
和歌 かせをたにまちてそはなのちりなましこころつからにうつろふかうさ
解釈 風をだに待ちてぞ花の散りなまし心づからに移ろふがうさ


歌番号八九
安礼多留止己呂尓春美者部利个留遠无奈徒礼/\尓
於毛保衣者部礼遣連者尓和尓安留寸三礼乃者奈遠
徒美天以比徒可者之个留
安礼多留所尓春美侍个留女徒礼/\尓
於毛保衣侍遣連者庭尓安留寸三礼乃花遠
徒美天以比徒可者之个留
荒れたる所に住み侍りける女、つれづれに
思ほえ侍りければ、庭にある菫の花を
摘みて、言ひつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 和可也止尓寸美礼乃者奈乃於本可礼者幾也止留比止也安留止満川可那
定家 和可也止尓寸美礼乃花乃於本可礼者幾也止留人也安留止満川可那
和歌 わかやとにすみれのはなのおほけれはきやとるひとやあるとまつかな
解釈 我が宿に菫の花の多かれば来宿る人やあると待つかな


歌番号九〇
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 也満多可美可寸美遠和遣天知留者奈遠由幾止也与曽乃比止者三留良无
定家 山高美霞遠和遣天知留花遠雪止也与曽乃人者見留良无
和歌 やまたかみかすみをわけてちるはなをゆきとやよそのひとはみるらむ
解釈 山高み霞をわけて散る花を雪とやよその人は見るらん


歌番号九一
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 布久可世乃佐曽不毛乃止者志利奈可良知利奴留者奈乃志日天己比之幾
定家 吹風乃佐曽不物止者志利奈可良知利奴留花乃志日天己比之幾
和歌 ふくかせのさそふものとはしりなからちりぬるはなのしひてこひしき
解釈 吹く風の誘ふ物とは知りながら散りぬる花のしひて恋しき


歌番号九二
多以之良寸
題之良寸
題知らず

幾与八良乃布可也不
幾与八良乃布可也不
きよはらのふかやふ(清原深養父)

原文 宇知者部天者留者左者可利乃止个幾遠者奈乃己々呂也奈尓以曽久良无
定家 宇知者部天者留者左者可利乃止个幾遠花乃心也奈尓以曽久良无
和歌 うちはへてはるはさはかりのとけきをはなのこころやなにいそくらむ
解釈 うちはへて春はさばかりのどけきを花の心やなに急ぐらん


歌番号九三
徒祢尓世宇曽己徒可者之个留女止毛多知乃毛止与利
佐久良乃者奈乃於毛之呂可利个留遠々利天己礼曽己
乃者奈尓三久良部与止安利个礼者
徒祢尓世宇曽己徒可者之个留女止毛多知乃毛止与利
佐久良乃花乃(乃+以止<朱>)於毛之呂可利个留遠々利天己礼曽己
乃花尓見久良部与止安利个礼者
常に消息つかはしける女ともだちのもとより、
桜の花のおもしろかりけるを折りて、これ、そこ
の花に見比べよとありければ

己和可幾美
己和可幾美
こわかきみ(小若君)

原文 和可也止乃奈个幾者々留毛志良奈久尓奈尓々可者奈遠久良部天毛三武
定家 和可也止乃歎者々留毛志良奈久尓何尓可花遠久良部天毛見武
和歌 わかやとのなけきははるもしらなくになににかはなをくらへてもみむ
解釈 我が宿の歎きは春も知らなくに何にか花を比べても見む

知々乃美己乃己々呂左世留也宇尓毛安良天
徒祢尓毛乃於毛比个留比止尓天奈无安利个留
知々乃美己乃心左世留也宇尓毛安良天
徒祢尓物思个留人尓天奈无安利个留
父の親王の心ざせるやうにもあらで、
常に物思ひける人にてなんありける


歌番号九四
春乃池乃本止利尓天
春乃池乃本止利尓天
春の池のほとりにて

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知れず

原文 者累乃比乃可个曽不以个乃加々美尓者也奈幾乃万由曽末川者三衣个留
定家 者累乃日乃影曽不池乃加々美尓者柳乃万由曽末川者見衣个留
和歌 はるのひのかけそふいけのかかみにはやなきのまゆそまつはみえける
解釈 春の日の影そふ池の鏡には柳の眉ぞまづは見えける


歌番号九五
者留乃久礼尓加礼己礼者奈於之美个留止呂尓天
者留乃久礼尓加礼己礼花於之美个留所尓天
春の暮れにかれこれ花惜しみける所にて

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知れず

原文 加久奈可良知良天世遠也八徒久之天奴者奈乃止幾者毛安利止三留部久
定家 加久奈可良知良天世遠也八徒久之天奴花乃止幾者毛安利止見留部久
和歌 かくなからちらてよをやはつくしてぬはなのときはもありとみるへく
解釈 かくながら散らで世をやは尽くしてぬ花の常盤もありと見るべく


歌番号九六
衣无幾乃於本止幾宇部乃遠乃己止毛乃奈可尓女之安計良
礼天遠乃/\加左之佐之者部利个留川以天尓
延喜御時殿上乃遠乃己止毛乃奈可尓女之安計良
礼天遠乃/\加左之佐之侍个留川以天尓
延喜御時、殿上の男どもの中に、召し上げ
られて、おのおのかざしさし侍りけるついでに

於保可宇知乃美川祢
凡河内躬恒
凡河内躬恒

原文 加左世止毛於以毛加久礼奴己乃者留曽者奈乃於毛天者布世徒部良奈留
定家 加左世止毛老毛加久礼奴己乃春曽花乃於毛天者布世徒部良奈留
和歌 かさせともおいもかくれぬこのはるそはなのおもてはふせつへらなる
解釈 かざせども老いも隠れぬこの春ぞ花の面は伏せつべらなる


歌番号九七
多以之良春
題之良春
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 飛止々世尓加左奈留者留乃安良者己曽布多々比者奈遠三武止多乃万女
定家 飛止々世尓加左奈留春乃安良者己曽布多々比花遠見武止多乃万女
和歌 ひととせにかさなるはるのあらはこそふたたひはなをみむとたのまめ
解釈 一年に重なる春のあらばこそふたたび花を見むと頼まめ


歌番号九八
者奈乃毛止尓天加礼己連本止毛奈久知留己止奈止
毛宇之个留川以天尓
花乃毛止尓天加礼己連本止毛奈久知留己止奈止
申个留川以天尓
花のもとにて、かれこれほどもなく散ることなど
申しけるついでに

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 者留久礼者佐久天不己止遠奴礼幾奴尓幾寸留者可利乃者奈尓曽安利个留
定家 春久礼者佐久天不己止遠奴礼幾奴尓幾寸留許乃花尓曽安利个留
和歌 はるくれはさくてふことをぬれきぬにきするはかりのはなにそありける
解釈 春来れば咲くてふことを濡衣に着するばかりの花にぞありける


歌番号九九
者留者留三尓以天多利个留尓布美遠川可者之多利遣累
曽乃可部之己止毛奈可利遣礼者安久留安之多幾乃不乃
可部之己止々己比尓満宇天幾多利个礼者以比川可者之多利遣流
者留花見尓以天多利个留尓布美遠川可者之多利遣累
曽乃返事毛奈可利遣礼者安久留安之多幾乃不乃
返事止己比尓満宇天幾多利个礼者以比川可者之多利遣流
春、花見に出でたりけるに、文をつかはしたりける、
その返事もなかりければ、あくる朝、昨日の
返事と乞ひにまうで来たりければ、言ひつかはしたりける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 者留可寸美堂知奈可良三之者奈由部尓布美止女天个留安止乃久也之左
定家 春霞堂知奈可良見之花由部尓布美止女天个留安止乃久也之左
和歌 はるかすみたちなからみしはなゆゑにふみとめてけるあとのくやしさ
解釈 春霞立ちながら見し花ゆゑに文とめてけるあとの悔しさ


歌番号一〇〇
於止己乃毛止与利堂乃女遠己世天者部利遣礼者
於止己乃毛止与利堂乃女遠己世天侍遣礼者
男のもとより頼めおこせて侍りければ

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 者累比佐春布知乃宇良波乃宇良止个天幾美之於毛者々和礼毛多乃万武
定家 者累日佐春藤乃宇良波乃宇良止个天君之於毛者々我毛多乃万武
和歌 はるひさすふちのうらはのうらとけてきみしおもははわれもたのまむ
解釈 春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ


歌番号一〇一
多以之良寸
題之良寸
題知らず

以世
伊勢
伊勢

原文 宇久比須尓三遠安比可部八知留万天毛和可毛乃尓之天者奈者三天末之
定家 鴬尓身遠安比可部八知留万天毛和可物尓之天花者見天末之
和歌 うくひすにみをあひかへはちるまてもわかものにしてはなはみてまし
解釈 鴬に身をあひかへば散るまでも我が物にして花は見てまし


歌番号一〇二
毛止与之乃美己可祢之个安曾无乃武寸女尓春美者部利个留遠
本宇己宇乃女之天加乃為无尓左布良比个礼者安不己止
毛者部良左利个礼者安久留止之乃者留佐久良乃衣多尓
佐之天加乃左宇之尓左之遠可世者部利个留
元良乃美己兼茂朝臣乃武寸女尓春美侍个留遠
法皇乃女之天加乃院尓左布良比个礼者安不己止
毛侍良左利个礼者安久留年乃春佐久良乃衣多尓
佐之天加乃左宇之尓左之遠可世侍个留
元良の親王、兼茂朝臣の女に住み侍りけるを、
法皇の召して、かの院にさぶらひければ、え逢ふこと
もはべらざりければ、あくる年の春、桜の枝に
挿して、かの曹司に挿し置かせ侍りける

毛止与之乃美己
毛止与之乃美己
もとよしのみこ(元良親王)

原文 者奈乃以呂者无可之奈可良尓三之比止乃己々呂能美己曽宇川呂日尓个礼
定家 花乃色者昔奈可良尓見之人乃心能美己曽宇川呂日尓个礼
和歌 はなのいろはむかしなからにみしひとのこころのみこそうつろひにけれ
解釈 花の色は昔ながらに見し人の心のみこそ移ろひにけれ


歌番号一〇三
川幾乃於毛之呂加利个留与者那遠三天
月乃於毛之呂加利个留夜者那遠見天
月のおもしろかりける夜、花を見て

美奈毛堂乃左祢安幾良
源左祢安幾良
源さねあきら(源信明)

原文 安多良与乃川幾止者奈止遠於奈之久者安者礼志礼覧比止尓三世八也
定家 安多良夜乃月止花止遠於奈之久者安者礼志礼覧人尓見世八也
和歌 あたらよのつきとはなとをおなしくはこころしれらむひとにみせはや
解釈 あたら夜の月と花とを同じくはあはれし知れらん人に見せばや


歌番号一〇四
安可多乃為止々以不以部与利布知八良乃者留可多尓川可者之个留
安可多乃為止々以不家与利藤原治方尓川可者之个留
県の井戸といふ家より、藤原治方につかはしける

多知者奈乃幾武比良可无須目
橘乃幾武比良可女
橘のきんひらか女(橘公平女)

原文 美也己比止幾天毛於良奈无加者川奈久安可多乃為止乃也満布幾乃者奈
定家 宮己人幾天毛於良奈无加者川奈久安可多乃為止乃山吹乃花
和歌 みやこひときてもをらなむかはつなくあかたのゐとのやまふきのはな
解釈 都人来ても折らなんかはづ鳴く県の井戸の山吹の花


歌番号一〇五
春个乃不可者々身万可利天乃知加乃以部尓安徒多々乃
安曾无乃満可利加与比个留尓佐久良乃者奈乃知利个留
於里尓満可利天幾乃毛止尓者部利个礼者以部乃比止乃
以比以多之个留
春个乃不可母身万可利天乃知加乃家尓敦忠
朝臣乃満可利加与比个留尓佐久良乃花乃知利个留
於里尓満可利天木乃毛止尓侍个礼者家乃人乃
以比以多之个留
助信が母身まかりてのち、かの家に敦忠
朝臣のまかりかよひけるに、桜の花の散りける
折にまかりて、木のもとに侍りければ、家の人の
言ひ出だしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 以末与利者可世尓満可世武佐久良者奈知留己乃毛止尓幾美止万利个利
定家 今与利者風尓満可世武桜花知留己乃毛止尓君止万利个利
和歌 いまよりはかせにまかせむさくらはな ちるこのもとにきみとまりけり
解釈 今よりは風にまかせむ桜花散る木のもとに君止まりけり


歌番号一〇六
可部之
返之
返し

安徒多々乃安曾无
安徒多々乃朝臣
あつたたの朝臣(藤原敦忠朝臣)

原文 可世尓之毛奈尓可万可世无佐久良者奈尓本比安可奴尓知留八宇可利幾
定家 風尓之毛何可万可世无佐久良花匂安可奴尓知留八宇可利幾
和歌 かせにしもなにかまかせむさくらはなにほひあかぬにちるはうかりき
解釈 風にしも何かまかせん桜花匂ひあかぬに散るは憂かりき


歌番号一〇七
佐久良可者止以不止己呂安利止幾々天
佐久良河止以不所安利止幾々天
桜河といふ所ありと聞きて

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 徒祢与利毛者奈部尓奈礼者佐久良可者者奈乃奈美己曽万奈久与寸良女
定家 常与利毛春部尓奈礼者佐久良河花乃浪己曽万奈久与寸良女
和歌 つねよりもはるへになれはさくらかははなのなみこそまなくよすらめ
解釈 常よりも春べになれば桜河花の浪こそ間なく寄すらめ


歌番号一〇八
世无佐為尓也満布幾安留止己呂尓天
前栽尓山吹安留所尓天
前栽に山吹ある所にて

加祢寸个乃安曾无
加祢寸个乃朝臣
かねすけの朝臣(藤原兼輔朝臣)

原文 和可幾多留飛止部己呂毛者也万布幾乃也部乃以呂尓毛於止良佐利个利
定家 和可幾多留飛止部衣者山吹乃也部乃色尓毛於止良佐利个利
和歌 わかきたるひとへころもはやまふきのやへのいろにもおとらさりけり
解釈 我が着たる一重衣は山吹の八重の色にも劣らざりけり


歌番号一〇九
多以之良寸
題之良寸
題知らず

安利八良乃毛止可多
在原元方
在原元方

原文 飛止々世尓布多々比左可奴者奈々礼者武部知留己止遠比止者以日个利
定家 飛止々世尓布多々比左可奴花奈礼者武部知留己止遠人者以日个利
和歌 ひととせにふたたひさかぬはななれはうへちることをひとはいひけり
解釈 一年に再び咲かぬ花なればむべ散ることを人はいひけり


歌番号一一〇
可无者為乃於本无止幾佐久良乃者奈乃宇多計安利个留尓
安女乃布利者部利个礼八
寛平御時桜乃花乃宴安利个留尓
雨乃布利侍个礼八
寛平御時、桜の花の宴ありけるに
雨の降り侍りければ

布知八良乃止之由幾安曾无
藤原敏行朝臣
藤原敏行朝臣

原文 者留佐免乃者奈乃衣多与利奈可礼己者奈本己曽奴礼女加毛也宇川留止
定家 春佐免乃花乃枝与利流己者猶己曽奴礼女加毛也宇川留止
和歌 はるさめのはなのえたよりなかれこはなほこそぬれめかもやうつると
解釈 春雨の花の枝より流れ来ばなほこそ濡れめ香もや移ると


歌番号一一一
以徒美乃久尓々満可利个留尓宇美乃川良尓天
以徒美乃久尓々満可利个留尓宇美乃川良尓天
和泉の国にまかりけるに、海の面にて

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 者留布可幾以呂尓毛安留可奈寸美乃江乃曽己毛美止利尓三由留者万末川
定家 者留深幾色尓毛安留哉住乃江乃曽己毛緑尓見由留者万松
和歌 はるふかきいろにもあるかなすみのえのそこもみとりにみゆるはままつ
解釈 春深き色にもあるかな住の江の底も緑に見ゆる浜松


歌番号一一二
遠无奈止毛者奈三武止天乃部尓以天々
女止毛花見武止天乃部尓以天々
女ども花見むとて野辺に出でて

奈以之乃寸个与留可乃安曾无
典侍与留可乃朝臣
典侍よるかの朝臣(典侍因香朝臣)

原文 者留久礼者者奈三尓止於毛布己々呂己曽乃部乃可寸美止々毛尓多知个礼
定家 春久礼者花見尓止思心己曽乃部乃霞止々毛尓多知个礼
和歌 はるくれははなみにとおもふこころこそのへのかすみとともにたちけれ
解釈 春来れば花見にと思ふ心こそ野辺の霞とともに立ちけれ


歌番号一一三
安飛之礼利个留比止乃飛佐之宇止者左利个礼者
者奈左可利尓徒可者之个留
安飛之礼利个留人乃飛佐之宇止者左利个礼者
花左可利尓徒可者之个留
あひ知れりける人の久しう問はざりければ、
花盛りにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 和礼遠己曽止布尓宇可良女者留可須美者奈尓川个天毛多知与良奴哉
定家 我遠己曽止布尓宇可良女春霞花尓川个天毛多知与良奴哉
和歌 われをこそとふにうからめはるかすみはなにつけてもたちよらぬかな
解釈 我をこそ問ふに憂からめ春霞花につけても立ちよらぬかな


歌番号一一四
可部之
返之
返し

美奈毛堂乃幾与可計安曾无
源清蔭朝臣
源清蔭朝臣

原文 堂知与良奴者留乃可須美遠堂乃万礼与者奈乃安堂利止三礼者奈留良无
定家 堂知与良奴春乃霞遠堂乃万礼与花乃安堂利止見礼者奈留良无
和歌 たちよらぬはるのかすみをたのまれよはなのあたりとみれはなるらむ
解釈 立ち寄らぬ春の霞を頼まれよ花のあたりと見ればなるらん


歌番号一一五
也万佐久良遠々利天遠久利者部留止天
山佐久良遠々利天遠久利侍止天
山桜を折りて贈り侍るとて

以世
伊勢
伊勢

原文 幾美三与止多川祢天於礼留也万左久良布利尓之以呂止於毛者左良奈无
定家 君見与止尋天於礼留山左久良布利尓之色止思者左良南
和歌 きみみよとたつねてをれるやまさくらふりにしいろとおもはさらなむ
解釈 君見よと尋ねて折れる山桜ふりにし色と思はざらなん


歌番号一一六
美也徒可部之个留遠无奈乃以曽乃加美止以不止己呂尓
寸三天美也己乃止毛多知乃毛止尓徒可者之个留
宮徒可部之个留女乃以曽乃神止以不所尓
寸三天京乃止毛多知乃毛止尓徒可者之个留
宮仕へしける女の石上といふ所に
住みて、京のともだちのもとにつかはしける

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 加美左比天布利尓之佐止尓寸武比止者美也己尓々保不者奈を多尓三寸
定家 神左比天布利尓之里尓寸武人者都尓々保不花を多尓見寸
和歌 かみさひてふりにしさとにすむひとはみやこににほふはなをたにみす
解釈 神さびて古りにし里に住む人は都に匂ふ花をだに見ず


歌番号一一七
保宇之尓奈良武乃己々呂安利个留比止也末止尓満可
里天保止比左之久者部利天乃知安比之利天者部利个留
比止乃毛止与利川幾己呂者以可尓曽者奈者佐幾尓太
利也止以比天者部利个礼八
法師尓奈良武乃心安利个留人也末止尓満可
里天保止比左之久侍天乃知安比之利天侍个留
人乃毛止与利月己呂者以可尓曽花者佐幾尓太
利也止以比天侍个礼八
法師にならむの心ありける人、大和にまか
りてほど久しく侍りてのち、あひ知りて侍りける
人のもとより、月ごろはいかにぞ花は咲きにた
りやと言ひて侍りければ、

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 三世之乃々与之乃々也万乃佐久良者奈之良久毛止乃見三衣末可日川々
定家 三吉野乃与之乃々山乃桜花白雲止乃見見衣末可日川々
和歌 みよしののよしののやまのさくらはなしらくもとのみみえまかひつつ
解釈 み吉野の吉野の山の桜花白雲とのみ見えまがひつつつ


歌番号一一八
天以之為无乃宇多安和世乃宇多
亭子院哥合乃宇多
亭子院歌合の歌

与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 也万佐久良佐幾奴留止幾者川祢与利毛美祢乃之良久毛多知万佐利个里
定家 山佐久良佐幾奴留時者常与利毛峯乃白雲多知万佐利个里
和歌 やまさくらさきぬるときはつねよりもみねのしらくもたちまさりけり
解釈 山桜咲きぬる時は常よりも峯の白雲立ちまさりけり


歌番号一一九
也万佐久良遠三天
山佐久良遠見天
山桜を見て

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 之良久毛止三衣川留末乃遠佐久良者奈个不者知留止也以呂己止尓奈留
定家 白雲止見衣川留物遠佐久良花个不者知留止也色己止尓奈留
和歌 しらくもとみえつるものをさくらはなけふはちるとやいろことになる
解釈 白雲と見えつるものを桜花今日は散るとや色異になる


歌番号一二〇
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 王可也止乃可个止毛堂乃武布知乃者奈多知与利久止毛奈美尓於良留奈
定家 王可也止乃影止毛堂乃武藤乃花多知与利久止毛浪尓於良留奈
和歌 わかやとのかけともたのむふちのはなたちよりくともなみにをらるな
解釈 我が宿の影とも頼む藤の花立ち寄り来とも浪に折らるな


歌番号一二一
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 者奈左可利満多毛寸幾奴尓与之乃可者可个尓宇川呂不幾之乃也万布幾
定家 花左可利満多毛寸幾奴尓吉野河影尓宇川呂不岸乃山吹
和歌 はなさかりまたもすきぬによしのかはかけにうつろふきしのやまふき
解釈 花盛りまだも過ぎぬに吉野河影に移ろふ岸の山吹


歌番号一二二
比止乃己々呂堂乃美可多久奈利遣礼者也万布幾乃
知利佐之堂留遠己礼三与止天徒可者之遣流
人乃心堂乃美可多久奈利遣礼者山吹乃
知利佐之堂留遠己礼見与止天徒可者之遣流
人の心頼みがたくなりければ、山吹の
散りさしたるを、これ見よとてつかはしける

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 志乃飛加祢奈幾天加者川乃遠之无遠毛志良寸宇川呂不也万布幾乃者奈
定家 志乃飛加祢奈幾天加者川乃惜遠毛志良寸宇川呂不山吹乃花
和歌 しのひかねなきてかはつのをしむをもしらすうつろふやまふきのはな
解釈 しのびかね鳴きて蛙の惜しむをも知らず移ろふ山吹の花


歌番号一二三
也与比者可利乃者奈乃佐可利尓美知万可利个留尓
也与比許乃花乃佐可利尓美知万可利个留尓
弥生ばかりの花の盛りに、道まかりけるに

曽宇志也宇部无世宇
僧正遍昭
僧正遍昭

原文 遠利川礼者堂不左尓計可留太天奈可良三与乃保止个尓者奈多天万川留
定家 折川礼者堂不左尓計可留太天奈可良三与乃仏尓花多天万川留
和歌 をりつれはたふさにけかるたてなからみよのほとけにはなたてまつる
解釈 折りつればたぶさにけがる立てながら三世の仏に花たてまつる


歌番号一二四
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 美奈曽己乃以呂左部布可幾末川可衣尓知止世遠加祢天左个留布知奈美
定家 美奈曽己乃色左部深幾松可衣尓知止世遠加祢天左个留藤波
和歌 みなそこのいろさへふかきまつかえにちとせをかねてさけるふちなみ
解釈 水底の色さへ深き松が枝に千歳をかねて咲ける藤波


歌番号一二五
也与比乃志毛乃曾止乃比者可利尓左无天宇乃美幾乃於保以末宇知幾美
加祢寸个乃安曾无乃以部尓満可利天者部利个留尓布知乃者奈
佐遣累也利三川乃保止利尓天加礼己礼於本美幾堂宇部个留川以天尓
也与比乃志毛乃十日許尓三条右大臣
加祢寸个乃朝臣乃家尓満可利天侍个留尓布知乃花
佐遣累也利水乃保止利尓天加礼己礼於本美幾堂宇部个留川以天尓
弥生の下の十日ばかりに、三条右大臣、
兼輔朝臣の家にまかりて侍りけるに、藤の花
咲ける遣水のほとりにて、かれこれ大御酒たうべけるついでに

左无天宇乃美幾乃於保以末宇知幾美
三条右大臣
三条右大臣

原文 可幾利奈幾奈尓於不々知乃者奈々礼者曽己為毛志良奴以呂乃布可佐可
定家 限奈幾名尓於不々知乃花奈礼者曽己為毛志良奴色乃布可佐可
和歌 かきりなきなにおふふちのはななれはそこひもしらぬいろのふかさか
解釈 限りなき名に負ふ藤の花なれば底ひも知らぬ色の深さか


歌番号一二六
加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔朝臣)

原文 以呂布可久尓保比之己止者布知奈美乃堂知毛加部良天幾美止万礼止可
定家 色深久尓保比之事者藤浪乃堂知毛加部良天君止万礼止可
和歌 いろふかくにほひしことはふちなみのたちもかへらてきみとまれとか
解釈 色深く匂ひし事は藤浪の立ちも帰らで君と止まれとか


歌番号一二七
川良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 佐本左世止布可佐毛志良奴布知奈礼者以呂遠者比止毛志良之止曽於毛布
定家 佐本左世止布可佐毛志良奴布知奈礼者色遠者人毛志良之止曽思
和歌 さをさせとふかさもしらぬふちなれはいろをはひともしらしとそおもふ
解釈 棹させど深さも知らぬ淵なれば色をば人も知らじとぞ思ふ


歌番号一二八
己止布衣奈止之天安曽比毛乃可多利奈止之者部利
个留本止尓与布遣尓个礼者満可利止万利天
己止布衣奈止之天安曽比物可多利奈止之侍
个留本止尓夜布遣尓个礼者満可利止万利天
琴笛などして遊び、物語りなどし侍り
けるほどに、夜更けにければ、まかりとまりて

左无天宇乃美幾乃於保以末宇知幾美
三条右大臣
三条右大臣

原文 幾乃布三之者奈乃可保止天遣左三礼者祢天己曽佐良尓以呂万佐利个礼
定家 昨日見之花乃可保止天遣左見礼者祢天己曽佐良尓色万佐利个礼
和歌 きのふみしはなのかほとてけさみれはねてこそさらにいろまさりけれ
解釈 昨日見し花の顔とて今朝見れば寝てこそさらに色まさりけれ


歌番号一二九
加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔朝臣)

原文 飛止与乃美祢天之加部良者布知乃者奈己々呂止遣多留以呂三世无也波
定家 飛止夜乃美祢天之加部良者藤乃花心止遣多留色見世无也波
和歌 ひとよのみねてしかへらはふちのはなこころとけたるいろみせむやは
解釈 一夜のみ寝てし帰らば藤の花心とけたる色見せんやは


歌番号一三〇
川良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 安佐本良遣志多由久三川者安佐个礼止布可久曽者奈乃以呂者三衣个留
定家 安佐本良遣志多由久水者安佐个礼止深久曽花乃色者見衣个留
和歌 あさほらけしたゆくみつはあさけれとふかくそはなのいろはみえける
解釈 あさぼらけ下行く水は浅けれど深くぞ花の色は見えける


歌番号一三一
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 宇久比春乃以止尓与累天不多末也奈幾布幾奈美多利曽者留乃也万可世
定家 鴬乃糸尓与累天不玉柳布幾奈美多利曽春乃山可世
和歌 うくひすのいとによるてふたまやなきふきなみたりそはるのやまかせ
解釈 鴬の糸に撚るてふ玉柳吹きな乱りそ春の山風


歌番号一三二
佐久良乃者奈乃知留遠三天
佐久良乃花乃知留遠見天
桜の花の散るを見て

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 伊川乃満尓知利者天奴覧佐久良者奈於毛加个尓乃美以呂遠三世川々
定家 伊川乃満尓知利者天奴覧桜花於毛加个尓乃美色遠見世川々
和歌 いつのまにちりはてぬらむさくらはなおもかけにのみいろをみせつつ
解釈 いつのまに散りはてぬらん桜花おもかげにのみ色を見せつつつ


歌番号一三三
安徒美乃美己乃花見侍个留所尓天
安徒美乃美己乃花見侍个留所尓天
敦実の親王の花見侍りける所にて

美奈毛堂乃奈可乃布安曾无
源仲宣朝臣
源仲宣朝臣

原文 知累己止乃宇幾毛和春礼天安者礼天不己止遠佐久良尓也止之川留可奈
定家 知累己止乃宇幾毛和春礼天安者礼天不事遠佐久良尓也止之川留哉
和歌 ちることのうきもわすれてあはれてふことをさくらにやとしつるかな
解釈 散ることの憂きも忘れてあはれてふ事を桜に宿しつるかな


歌番号一三四
佐久良乃知留遠三天
佐久良乃知留遠見天
桜の散るを見て

与三比止之良寸
与三人之良寸
詠み人知らず

原文 佐久良以呂尓幾多留己呂毛乃布可遣礼者寸久留者留比毛於之个久毛奈之
定家 桜色尓幾多留衣乃布可遣礼者寸久留春日毛於之个久毛奈之
和歌 さくらいろにきたるころものふかけれはすくるはるひもをしけくもなし
解釈 桜色に着たる衣の深ければ過ぐる春日も惜しけくもなし


歌番号一三五
也与比尓宇留不川幾安留止之徒可左女之乃己呂
毛宇之布美尓曽部天飛多利乃於保以末宇知幾美乃
以部尓徒可者之个留
也与比尓宇留不月安留年徒可左女之乃己呂
申文尓曽部天左大臣乃
家尓徒可者之个留
弥生に閏月ある年、司召のころ
申文にそへて、左大臣の
家につかはしける

川良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 安満里佐部安利天由久部幾止之多尓毛者留尓加奈良寸安不与之毛可奈
定家 安満里佐部安利天由久部幾年多尓毛春尓加奈良寸安不与之毛哉
和歌 あまりさへありてゆくへきとしたにもはるにかならすあふよしもかな
解釈 あまりさへありて行くべき年だにも春にかならずあふよしもはな


歌番号一三六
可部之
返之
返し

飛多利乃於保以末宇知幾美
左太臣
左大臣

原文 徒祢与利毛乃止遣可留部幾者留奈礼者飛可利尓比止乃安者佐良女也者
定家 徒祢与利毛乃止遣可留部幾春奈礼者飛可利尓人乃安者佐良女也者
和歌 つねよりものとけかるへきはるなれはひかりにひとのあはさらめやは
解釈 常よりものどけかるべき春なれば光に人のあはざらめやは


歌番号一三七
徒祢尓満宇天幾加与比遣留止己呂尓佐者留己止者部利天
飛佐之久万天幾安者寸之天止之加部利尓个里
安久留者留也与比乃川己毛利尓徒可者之个留
徒祢尓満宇天幾加与比遣留所尓佐者留事侍天
飛佐之久万天幾安者寸之天年加部利尓个里
安久留也与比乃川己毛利尓徒可者之个留
常にまうで来かよひける所に、障る事侍りて、
久しくまで来逢はずして年かへりにけり。
あくる春弥生のつごもりにつかはしける

布知八良乃万佐多々
藤原雅正
藤原雅正

原文 幾美己春天止之者久礼尓幾多知加部利者留佐部个不尓奈利尓个留可奈
定家 君己春天年者久礼尓幾立加部利春佐部个不尓成尓个留哉
和歌 きみこすてとしはくれにきたちかへりはるさへけふになりにけるかな
解釈 君来ずて年は暮れにき立かへり春さへ今日になりにけるかな


歌番号一三八
原文 止毛尓己曽者奈遠毛三女止満川比止乃己奴毛乃由部尓於之幾者留可那
定家 止毛尓己曽花遠毛見女止満川人乃己奴物由部尓於之幾者留可那
和歌 ともにこそはなをもみめとまつひとのこぬものゆゑにをしきはるかな
解釈 ともにこそ花をも見めと待つ人の来ぬものゆゑに惜しき春かな


歌番号一三九
可部之
返之
返し

徒良由幾
徒良由幾つらゆき(紀貫之)

原文 幾美尓多仁止者礼天布礼者布知乃者奈多曽可礼止幾毛志良春曽安利个留
定家 幾美尓多仁止者礼天布礼者藤乃花多曽可礼時毛志良春曽有个留
和歌 きみにたにとはれてふれはふちのはなたそかれときもしらすそありける
解釈 君にだに訪はれでふれば藤の花たそがれ時も知らずぞありける


歌番号一四〇
徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 也部武久良己々呂乃宇知尓布可遣礼者々奈三尓由可武以天多知毛世春
定家 也部武久良心乃内尓布可遣礼者花見尓由可武以天多多知毛世春
和歌 やへむくらこころのうちにふかけれははなみにゆかむいてたちもせす
解釈 八重葎心の内に深ければ花見に行かむ出で立ちもせず


歌番号一四一
多以之良寸
題之良寸
題知らず

与美比止毛
与美人毛
詠み人も

原文 於之免止毛者留乃可幾利乃个不乃末多由不久礼尓左部奈利尓个留可奈
定家 於之免止毛春乃限乃个不乃又由不久礼尓左部奈利尓个留哉
和歌 をしめともはるのかきりのけふのまたゆふくれにさへなりにけるかな
解釈 惜しめども春の限りの今日の又夕暮れにさへなりにけるかな


歌番号一四二
多以之良寸
題之良寸
題知らず

美徒祢
美徒祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 由久左幾遠々之見之者留乃安寸与利者幾尓之可多尓毛奈利奴部幾可奈
定家 由久左幾遠々之見之春乃安寸与利者幾尓之方尓毛奈利奴部幾哉
和歌 ゆくさきををしみしはるのあすよりはきにしかたにもなりぬへきかな
解釈 行く先を惜しみし春の明日よりは来にし方にもなりぬべきかな


歌番号一四三
也与比乃徒己毛利
也与比乃徒己毛利
弥生のつごもり

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 遊久佐幾尓奈利毛也寸留止堂乃三之遠者留乃可幾利者个不尓曽安利个留
定家 遊久佐幾尓奈利毛也寸留止堂乃三之遠春乃限者个不尓曽有个留
和歌 ゆくさきになりもやするとたのみしをはるのかきりはけふにそありける
解釈 行く先になりもやすると頼みしを春の限りは今日にぞありける


歌番号一四四
与美比止之良寸
与美人之良寸
詠み人知らず

原文 者奈之安良波奈尓可者々留乃於之可良无久留止毛遣不者奈个可左良万之
定家 花之安良波何可者々留乃於之可良无久留止毛遣不者奈个可左良万之
和歌 はなしあらはなにかははるのをしからむくるともけふはなけかさらまし
解釈 花しあらば何かは春の惜しからん来るとも今日は嘆かざらまし


歌番号一四五
美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 久礼天末多安寸止多尓奈幾者累乃日遠者奈乃可个尓天个不者久良左武
定家 久礼天又安寸止多尓奈幾者累乃日遠花乃影尓天个不者久良左武
和歌 くれてまたあすとたになきはるのひをはなのかけにてけふはくらさむ
解釈 暮れて又明日とだになき春の日を花の影にて今日は暮らさむ


歌番号一四六
也与飛乃徒己毛利乃比飛佐之宇万宇天己奴
与之以飛天者部留布美乃於久尓加幾川个
者部利个留
也与飛乃徒己毛利乃日飛佐之宇万宇天己奴
与之以飛天侍布美乃於久尓加幾川个
侍个留
弥生のつごもりの日、久しうまうで来ぬよし
言ひて侍る文の奥に書きつけ
侍りける

徒良由幾
徒良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 末多毛己武止幾曽止於毛部止堂乃万礼奴和可三尓之安礼者於之幾者留可奈
定家 又毛己武時曽止於毛部止堂乃万礼奴和可身尓之安礼者於之幾者留哉
和歌 またもこむときそとおもへとたのまれぬわかみにしあれはをしきはるかな
解釈 又も来む時ぞと思へど頼まれぬ我が身にしあれば惜しき春かな

徒良由幾加久天於奈之止之尓奈无三万可利尓个留
徒良由幾加久天於奈之年尓奈无身万可利尓个留
貫之かくて同じ年になん身まかりにける
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万葉集 集歌654から集歌658まで

2020年06月26日 | 新訓 万葉集
集歌六五四 
原文 相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳
訓読 相見ては月も経(へ)なくに恋(こひ)云へばをそろと吾を念(おも)ほさむかも
私訳 貴女に逢ってから一月も経ってないのに、貴女を恋い慕っていると云うと「気が軽い」と私のことを思われるでしょうか。

集歌六五五 
原文 不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變
訓読 念(おも)はぬを思ふと云はば天地し神祇(かみ)も知るさむ邑(さと)し礼(いや)さへ
私訳 慕ってもいないのに慕っていると云うと、天地の神々にもばれるでしょう。お愛想で慕っていると云うのが里の習いとしても。

大伴坂上郎女謌六首
標訓 大伴坂上郎女の謌六首
集歌六五六 
原文 吾耳曽 君尓者戀流 吾背子之 戀云事波 言乃名具左曽
訓読 吾しみぞ君には恋ふる吾が背子し恋(こひ)云ふ事(こと)は言(こと)の慰(なぐさ)ぞ
私訳 私だけが貴方をお慕いしているのです。私の愛しい貴方よ。「慕っている」とただ云うだけは、うわべの言葉だけの気休めです。

集歌六五七 
原文 不念常 日手師物乎 翼酢色之 變安寸 吾意可聞
訓読 念(おも)はじと言ひてしものを朱華(はねず)色(いろ)し変(うつろ)ひやすき吾し意(こころ)かも
私訳 貴方をお慕いすまいと誓ってみたものを、はねず色のようにすぐに変わってしまう私の気持ちです。

集歌六五八 
原文 雖念 知僧裳無跡 知物乎 奈何幾許 吾戀渡
訓読 念(おも)へども験(しるし)も無しと知るものを何か幾許(ここだく)吾が恋ひ渡る
私訳 貴方をお慕いしても甲斐がないことと知っていはいるのですが、なぜかこれほど私は貴方に恋い慕ってしまう。

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万葉集 集歌649から集歌653まで

2020年06月25日 | 新訓 万葉集
大伴坂上郎女謌一首
標訓 大伴坂上郎女の謌一首
集歌六四九 
原文 夏葛之 不絶使乃 不通者 言下有如 念鶴鴨
訓読 夏(なつ)葛(ふぢ)し絶えぬ使(つかひ)のよどめれば言(こと)しもあるごと念(おも)ひつるかも
私訳 夏の藤蔓のように絶えることなくやって来た使いも滞ると、貴方が他の女性に愛を誓ったのだろうと確信してしまいます。
左注 右坂上郎女者、佐保大納言卿之女也。駿河麿、此高市大卿之孫也。兩卿兄弟之家、女孫姑姪之族。是以、題謌送答、相問起居。
注訓 右の坂上郎女は、佐保大納言卿の女(むすめ)なり。駿河麿は、この高市大卿の孫なり。兩卿は兄弟の家、女孫は姑(をば)姪(をひ)の族(うから)。ここを以ちて、謌(うた)を題(しる)し送り答へ、起居を相(あひ)問(と)へり

大伴宿祢三依離復相歡謌一首
標訓 大伴宿祢三依の離(さ)りてまた相(あ)ふを歡(よろこ)べる謌一首
集歌六五〇 
原文 吾妹兒者 常世國尓 住家郎思 昔見従 變若益尓家利
訓読 吾妹児(わぎもこ)は常世(とこよ)し国に住みけろし昔見しより変若(を)ちましにけり
私訳 私の愛しい貴女は、不老不死の常世の国住んでいた乙女のように思えます。昔に逢った時より一層若かえったように感じます。

大伴坂上郎女謌二首
標訓 大伴坂上郎女の謌二首
集歌六五一 
原文 久堅乃 天露霜 置二家里 宅有人毛 待戀奴濫
訓読 ひさかたの天し露(つゆ)霜(しも)置きにけり宅(いへ)なる人も待ち恋ひぬらむ
私訳 遥か彼方の空からの露霜を置く季節になりました。家に居る娘(ひと)も貴方を待って恋い慕っているでしょう。

集歌六五二 
原文 玉主尓 珠者授而 勝且毛 枕与吾者 率二将宿
訓読 玉(たま)主(ぬし)に珠は授(さづ)けにかつがつも枕(まくら)と吾はいざ二人寝(ね)む
私訳 玉の主(あるじ)に珠を授けてしまって、ともかくも、昔、娘と寝たのだが、今は枕と私だけで、さあ、枕と二人として寝ましょう。

大伴宿祢駿河麿謌三首
標訓 大伴宿祢駿河麿の謌三首
集歌六五三 
原文 情者 不忘物乎 儻 不見日數多 月曽經去来
訓読 情(こころ)には忘れぬものをたまさかに見ぬ日(ひ)数多(まね)きて月ぞ経(へ)にける
私訳 心の底では貴女を忘れるはずがないのですが、たまたま逢わない日々が重なって月が経ってしまいました。

コメント
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