歌番号 524
詞書 歌合のあはせすなりにけるに/この歌詠人 つらゆきか集にあり
詠人 よみ人しらす
原文 美川野安者也 多祢止奈留良无 宇幾久左乃 満久比止奈美乃 宇部尓於不礼八
和歌 みつのあわや たねとなるらむ うきくさの まくひとなみの うへにおふれは
読下 水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれは
解釈 水面に浮かぶ泡、それが種となるのでしょうか、浮草の種を蒔く人もいないのに、水面に生えているからには。
歌番号 525 拾遺抄記載
詞書 草合し侍りける所に
詠人 恵慶法師
原文 堂祢奈久天 奈幾毛乃久左者 於以尓个利 万久天不己止者 安良之止曽遠毛飛
和歌 たねなくて なきものくさは おひにけり まくてふことは あらしとそおもふ
読下 たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらしとそ思ふ
解釈 種もないのに、なきもの草は生えて来ました、それならば、種を蒔くと言う努力はしないでもいいと思いました。
注意 「なきもの草」は未詳です。勝手自然に生えた草の総称とも考えられています。
歌番号 526 拾遺抄記載
詞書 なそなそものかたりしける所に
詠人 そねのよしたた
原文 和可己止者 恵毛以者之呂乃 武須比万川 知止世遠布止毛 多礼可止久部幾
和歌 わかことは えもいはしろの むすひまつ ちとせをふとも たれかとくへき
読下 わか事はえもいはしろの結松ちとせをふともたれかとくへき
解釈 我々の謎問答の答えはあなた方では答えられないでしょう、岩代の結松ではないが、千歳の年月を経ても、さて、誰が答えられるでしょうか。
注意 天元四年の謎歌合わせの宴の口切の歌です。相対する側の歌が「おくて稲の今はさ苗と生ひ立ちてまくてふ種もあらじとぞ思ふ」となっています。
歌番号 527
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 安之飛幾乃 也万乃己天良尓 寸武比止者 和可以不己止毛 加奈者左利个利
和歌 あしひきの やまのこてらに すむひとは わかいふことも かなはさりけり
読下 あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり
解釈 葦や檜の生える山深い山の小寺に住む人(僧侶)は、己の現世で願うことも適わなかったことだ。
歌番号 528
詞書 健守法師、仏名の、のふしにてまかりいてて侍りけるとし、いひつかはしける
詠人 源経房朝臣
原文 也万奈良奴 須美可安満多尓 幾久比止乃 々布之尓止久毛 奈利尓个留可奈
和歌 やまならぬ すみかあまたに きくひとの のふしにとくも なりにけるかな
読下 山ならぬすみかあまたにきく人の野ふしにとくも成りにけるかな
解釈 山ではなく、他に住処がたくさんあると聞く人は、山伏ではなく、野に宿をとるとの言葉の響きのような、野伏に早くもなってしまったのか。
注意 野に臥す=里の娘を抱くの寓意があります。