竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻二十

2020年10月25日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
者多末幾仁安多留未幾
巻二十

以葉比宇多 加奈之比宇多
慶賀歌(附 哀傷歌)

歌番号一三六八
於无奈也川乃美己毛止由之乃美己乃多女尓与曾乃衣者為之
者部利个留尓幾久乃者奈遠加佐之尓於利天
女八乃美己元良乃美己乃多女尓四十賀之
侍个留尓幾久乃花遠加佐之尓於利天
女八内親王、元良親王のために四十賀し
侍りけるに、菊の花をかざしに折りて

布知八良乃己礼飛良乃安曾无
藤原伊衡朝臣
藤原伊衡朝臣

原文 与呂徒与乃之毛尓毛加礼奴之良幾久遠宇之呂也寸久毛加左之川留可奈
定家 与呂徒世乃霜尓毛加礼奴白菊遠宇之呂也寸久毛加左之川留哉
和歌 よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな
解釈 よろづ世の霜にも枯れぬ白菊をうしろやすくもかざしつるかな

歌番号一三六九
奈以之乃寸个安幾良計以己知々乃左以之与宇乃多女尓衣者為之
者部利个留尓計武知与宇保宇之乃毛加良幾奴々比天徒可
者之多利个礼八
典侍安幾良計以己知々乃宰相乃多女尓賀之
侍个留尓玄朝法師乃毛加良幾奴々比天徒可
者之多利个礼八
典侍明子、父の宰相のために賀し
侍りけるに、玄朝法師の裳、唐衣縫ひてつか
はしたりければ

奈以之乃寸个安幾良計以己
典侍安幾良計以子
典侍あきらけい子(典侍明子)

原文 久毛和久留安万乃者己呂毛宇知幾天者幾美可知止世尓安八左良女也八
定家 雲和久留安万乃羽衣宇知幾天者君可知止世尓安八左良女也八
和歌 くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは
解釈 雲分くる天の羽衣うち着ては君が千歳にあはざらめやは

歌番号一三七〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

於本幾於本以万宇知幾三
太政大臣
太政大臣

原文 己止之与利王加奈尓曽部天於以乃与尓宇礼之幾己止遠川万武止曽於毛不
定家 己止之与利王加奈尓曽部天於以乃与尓宇礼之幾事遠川万武止曽思
和歌 ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ
解釈 今年より若菜に添へて老いの世にうれしき事を摘まむとぞ思ふ

歌番号一三七一
乃利安幾良乃美己加宇不利之个留比安曽比
之者部利个留尓美幾乃於本以万宇知幾三己礼可礼
宇多与万世者部利个留尓
乃利安幾良乃美己加宇不利之个留日安曽比
之侍个留尓右大臣己礼可礼
宇多与万世侍个留尓
章明親王かうぶりしける日、遊び
し侍りけるに、右大臣これかれ
歌よませ侍りけるに

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 己止乃祢毛多个毛知止世乃己恵寸留者飛止乃於毛日尓加与不奈利个利
定家 己止乃祢毛竹毛知止世乃己恵寸留者人乃思日尓加与不奈利个利
和歌 ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり
解釈 琴の音も竹も千歳の声するは人の思ひに通ふなりけり

歌番号一三七二
衣者為乃也宇奈留己止之者部利个留止己呂尓天
賀乃也宇奈留己止之侍个留所尓天
賀のやうなることし侍りける所にて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 毛々止世止以者不遠和礼者幾々奈可良於毛不可多女者安可寸曽安利个留
定家 毛々止世止以者不遠我者幾々奈可良思不可多女者安可寸曽有个留
和歌 ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける
解釈 百年と祝ふを我は聞きながら思ふがためはあかずぞ有りける

歌番号一三七三
比多利乃於本以万宇知幾三乃以部乃遠乃己武寸女己
加宇布利之毛幾者部利个留尓
左大臣乃家乃遠乃己女己
加宇布利之毛幾侍个留尓
左大臣の家の男子女子、
かうぶりし裳着侍りけるに

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 於保者良也遠之本乃也万乃己万川者良者也己太可々礼知与乃可个三武
定家 於保者良也遠之本乃山乃己松原者也己太可々礼知与乃影見武
和歌 おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ
解釈 大原や小塩の山の小松原はや木高かれ千代の影見む

歌番号一三七四
飛止乃加宇不利寸留止己呂尓天布知乃者奈遠加左之天
人乃加宇不利寸留所尓天布知乃花遠加左之天
人のかうぶりする所にて藤の花をかざして

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 宇知与寸留奈美乃者奈己曽佐幾尓个礼知与万川可世也者留可奈留良无
定家 打与寸留浪乃花己曽佐幾尓个礼知与松風也者留可奈留良无
和歌 うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ
解釈 うち寄する浪の花こそ咲きにけれ千代松風や春になるらん

歌番号一三七五
於无奈乃毛止尓川可者之个留
女乃毛止尓川可者之个留
女のもとにつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美可多女万川乃知止世毛徒幾奴部之己礼与利万佐无可美乃与毛可奈
定家 君可多女松乃知止世毛徒幾奴部之己礼与利万佐无神乃世毛哉
和歌 きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな
解釈 君がため松の千歳も尽きぬべしこれよりまさん神の世もがな

歌番号一三七六
祢无曽宇遠己奈不止天於无奈乃堂无於従乃毛止与利春々遠
加利天者部利个礼者久者部天徒可者之个留
年星遠己奈不止天女檀越乃毛止与利春々遠
加利天侍个礼者久者部天徒可者之个留
年星行ふとて、女檀越のもとより数珠を
借りて侍りければ、加へてつかはしける

由以世以保宇之
由以世以法師
ゆいせい法師(惟済法師)

原文 毛々止世尓也曽止世曽部天以乃利久留堂満乃志留之遠幾美々佐良女也
定家 毛々止世尓也曽止世曽部天以乃利久留玉乃志留之遠君見佐良女也
和歌 ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや
解釈 百年に八十年添へて祈り来る玉のしるしを君見ざらめや

歌番号一三七七
比多利乃於本以万宇知幾三乃以部尓遣宇曽久己々呂
左之遠久留止天久者部遣留
左大臣乃家尓遣宇曽久心
左之遠久留止天久者部遣留
左大臣の家に脇足心
ざし贈るとて加へける

曾宇寸尓武計宇
僧都仁教
僧都仁教

原文 遣宇曽具遠々佐部天万佐部与呂川与尓者奈乃佐可利遠己々呂志川可尓
定家 遣宇曽具遠々佐部天万佐部与呂川与尓花乃佐可利遠心志川可尓
和歌 けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに
解釈 脇足を抑へてまさへ万代に花の盛りを心静かに

歌番号一三七八
幾武之也宇曽従乃美己止幾己衣之止幾於本幾於本以万宇知幾三乃
以部尓和多利於者之満之天加部良世堂万不於保无遠久利毛乃尓
於保无保武多天万川留止天
今上帥乃美己止幾己衣之時太政大臣乃
家尓和多利於者之満之天加部良世給御遠久利毛乃尓
御本多天万川留止天
今上、帥親王と聞こえし時、太政大臣の
家に渡りおはしまして、帰らせたまふ、御贈物に
御本たてまつるとて

於本幾於本以万宇知幾三
太政大臣
太政大臣

原文 幾美可多女以者不己々呂乃布可个礼者飛之里乃美与乃安止名良部止曽
定家 君可多女以者不心乃布可个礼者飛之里乃美与乃安止名良部止曽
和歌 きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ
解釈 君がため祝ふ心の深ければ聖の御代の跡ならへとぞ

歌番号一三七九
於保无加部之 
御返之 
御返し

幾武之也宇乃於保美宇多
今上御製
今上御製

原文 遠之部遠久己止多加者寸者由久寸恵乃美知止遠久止毛安止八万止者之
定家 遠之部遠久己止多加者寸者由久寸恵乃道止遠久止毛安止八万止者之
和歌 をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし
解釈 教へ置くこと違はずは行く末の道遠くとも跡はまどはじ

歌番号一三八〇
幾武之也宇武女川本尓於者之末之々止幾
多幾々己良世天多天万川利堂万比个留
今上武女川本尓於者之末之々時
多幾木己良世天多天万川利給个留
今上、梅壺におはしましし時、
薪樵らせてたてまつりたまひける

於本幾於本以万宇知幾三
太政大臣
太政大臣

原文 也万飛止乃己礼留多幾木者幾美可多女於本久乃止之遠川万无止曽於毛布
定家 山人乃己礼留多幾木者君可多女於本久乃(乃&乃)年遠川万无止曽思
和歌 やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ
解釈 山人の樵れる薪は君がため多くの年を摘まんとぞ思ふ

歌番号一三八一
於保无加部之 
御返之 
御返し

於保美宇多
御製
御製

原文 止之乃加寸川万无止寸奈留遠毛尓々波以止々古川个遠己利毛曽部奈无
定家 年乃加寸川万无止寸奈留遠毛尓々波以止々古川个遠己利毛曽部奈无
和歌 としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ
解釈 年の数積まんとすなる重荷にはいとど小付けを樵りも添へなん

歌番号一三八二
止宇久宇乃於満衣尓久礼多个宇部左世多万日个留尓
東宮乃御前尓久礼竹宇部左世多万日个留尓
東宮の御前に呉竹植ゑさせたまひけるに

幾与多々
幾与多々
きよたた(源清正)

原文 幾美可多女宇川之天宇不留久礼多个尓知与毛己毛礼留己々知己曽寸礼
定家 君可多女宇川之天宇不留久礼竹尓知与毛己毛礼留心地己曽寸礼
和歌 きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ
解釈 君がため移して植うる呉竹に千代も籠もれる心地こそすれ

歌番号一三八三
為无乃宇部尓天美也乃於保无可多与利己波武以多左世
多万比个留己以之計乃布多尓
院乃殿上尓天宮乃御方与利碁盤以多左世
多万比个留己以之計乃布多尓
院の殿上にて、宮の方御より碁盤出ださせ
たまひける、碁石笥の蓋に

三与宇布以左幾与幾己
命婦以左幾与幾子
命婦いさきよき子(命婦清子)

原文 於乃々衣乃久知武毛志良寸幾美可与乃徒幾武加幾利者宇知己々呂見与
定家 於乃々衣乃久知武毛志良寸君可世乃徒幾武加幾利者宇知己々呂見与
和歌 をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ
解釈 斧の柄の朽ちむも知らず君が世の尽きむ限りはうち心みよ

歌番号一三八四
尓之乃与无之与宇乃美己乃以部乃也万尓天
於无奈与従乃美己乃毛止尓
西四条乃美己乃家乃山尓天
女四乃美己乃毛止尓
西四条の親王の家の山にて、
女四内親王のもとに

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 奈美多天留万川乃美止利乃衣多和加寸越利川々知与遠多礼止可者美武
定家 奈美多天留松乃緑乃枝和加寸越利川々知与遠誰止可者見武
和歌 なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ
解釈 並み立てる松の緑の枝分かず折りつつ千代を誰れとかは見む

歌番号一三八五
之者寸者可利尓加宇不利寸留止己呂尓天
十二月許尓加宇不利寸留所尓天
十二月はかりに、かうふりする所にて

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 以者不己止安利止奈留部之个不奈礼止止之乃己奈多尓者留毛幾尓个利
定家 以者不己止有止奈留部之个不奈礼止年乃己奈多尓者留毛幾尓个利
和歌 いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり
解釈 祝ふこと有りとなるべし今日なれど年のこなたに春も来にけり


可奈之比乃宇多
哀傷哥

歌番号一三八六
安徒止之可三満可利尓个留遠満多幾可天
阿川満与利武万遠々久利天者部利个礼者
安徒止之可身満可利尓个留遠満多幾可天
阿川満与利馬遠々久利天侍个礼者
敦敏が身まかりにけるを、まだ聞かで、
東より馬を贈りて侍りければ

比多利乃於本以万宇知幾三
左大臣
左大臣

原文 満多志良奴飛止毛安利个留安川万知尓和礼毛由幾天曽寸武部可利个留
定家 満多志良奴人毛有个留安川万知尓我毛行天曽寸武部可利个留
和歌 またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける
解釈 まだ知らぬ人も有りける東路に我も行きてぞ住むべかりける

歌番号一三八七
安尓乃布久尓天以知之与宇尓満可利天
安尓乃布久尓天一条尓満可利天
兄の服にて一条にまかりて

於本幾於本以万宇知幾三
太政大臣
太政大臣

原文 者留乃与乃由女乃奈可尓毛於毛比幾也幾美奈幾也止遠由幾天見武止八
定家 春乃夜乃夢乃奈可尓毛思幾也君奈幾也止遠由幾天見武止八
和歌 はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは
解釈 春の夜の夢の中にも思ひきや君亡き宿を行きて見むとは

歌番号一三八八
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 也止三礼者祢天毛佐女天毛己比之久天由女宇川々止毛和可礼左利个里
定家 也止見礼者祢天毛佐女天毛己比之久天夢宇川々止毛和可礼左利个里
和歌 やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり
解釈 宿見れば寝ても覚めても恋しくて夢うつつとも分かれざりけり

歌番号一三八九
左幾乃美可止於者之万佐天与乃奈可於毛日奈个幾天
徒可者之个留
先帝於者之万佐天世中思日奈个幾天
徒可者之个留
先帝おはしまさで、世の中思ひ嘆きて
つかはしける

左武之与宇乃美幾乃於本以万宇知幾三
三条右大臣
三条右大臣

原文 者可奈久天与尓布留与利者也万之奈乃美也乃久左幾止奈良万之毛乃遠
定家 者可奈久天世尓布留与利者山之奈乃宮乃草木止奈良万之毛乃遠
和歌 はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを
解釈 はかなくて世に経るよりは山科の宮の草木とならましものを

歌番号一三九〇
加部之 
返之 
返し

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 也万之奈乃美也乃久左幾止幾美奈良八和礼者志川久尓奴留者可利奈良利
定家 山之奈乃宮乃草木止君奈良八我者志川久尓奴留許也
和歌 やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり
解釈 山科の宮の草木と君ならば我は雫に濡るばかりなり

歌番号一三九一
止幾毛知乃安曾无三満可利天乃知者天乃己呂知可久奈利天
飛止乃毛止与利以可尓於毛不良武止以飛遠己世多利个礼者
時毛知乃朝臣身満可利天乃知者天乃己呂知可久奈利天
人乃毛止与利以可尓思良武止以飛遠己世多利个礼者
時望朝臣身まかりて後、果てのごろ近くなりて、
人のもとより、いかに思らむ、と言ひおこせたりければ

止幾毛知乃安曾无可女
時望朝臣妻
時望朝臣妻(平時望朝臣妻)

原文 和可礼尓之本止遠者天止毛於毛保衣寸己比之幾己止乃可幾利奈个礼者
定家 和可礼尓之本止遠者天止毛於毛保衣寸己比之幾己止乃限奈个礼者
和歌 わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは
解釈 別れにしほどを果てとも思ほえず恋しきことの限りなければ

歌番号一三九二
於无奈与川乃美己乃布美乃者部利个留尓加幾川个天
奈以之乃加美尓
女四乃美己乃布美乃侍个留尓加幾川个天
内侍乃加美尓
女四内親王の文の侍りけるに、書きつけて
尚侍に

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 堂祢毛奈幾者奈多尓知良奴也止毛安留遠奈止可々多美乃己多尓奈可良
定家 堂祢毛奈幾花多尓知良奴也止毛安留遠奈止可々多美乃己多尓奈可良
和歌 たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ
解釈 種もなき花だに散らぬ宿もあるをなどかかたみの子だになからん

歌番号一三九三
加部之 
返之 
返し

奈以之乃加美
内侍乃可美
内侍のかみ(尚侍)

原文 武寸比遠幾之堂祢奈良祢止毛見留可良尓以止々之乃不乃久左遠川武可奈
定家 結遠幾之堂祢奈良祢止毛見留可良尓以止々忍乃草遠川武哉
和歌 むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな
解釈 結び置きし種ならねども見るからにいとど忍ぶの草を摘むかな

歌番号一三九四
於无奈与川乃美己乃己止止布良比者部利天
女四乃美己乃事止布良比侍天
女四内親王の事弔らひ侍りて

以世
伊勢
伊勢

原文 己々良与遠幾久可奈可尓毛加奈之幾者飛止乃奈美多毛川幾也志奴良无
定家 己々良与遠幾久可中尓毛加奈之幾者人乃涙毛川幾也志奴良无
和歌 ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ
解釈 ここら世を聞くが中にも悲しきは人の涙も尽きやしぬらん

歌番号一三九五
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾久飛止毛安者礼天不奈留王可礼尓者以止々奈美多曽川幾世佐利个留
定家 聞人毛安者礼天不奈留別尓者以止々涙曽川幾世佐利个留
和歌 きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける
解釈 聞く人もあはれてふなる別れにはいとど涙ぞ尽きせざりける

歌番号一三九六
左幾乃美可止於者之万佐天万多乃止之乃
世宇可従川比多知遠久利者部利个留
先帝於者之万佐天又乃年乃
正月一日遠久利侍个留
先帝おはしまさで、又の年の
正月一日贈り侍りける

左武之与宇乃美幾乃於本以万宇知幾三
三条右大臣
三条右大臣

原文 以堂川良尓遣不也久礼奈无安多良之幾者留乃者之女者武可之奈可良尓
定家 以堂川良尓遣不也久礼南安多良之幾春乃始者昔奈可良尓
和歌 いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに
解釈 いたづらに今日や暮れなん新しき春の始めは昔ながらに

歌番号一三九七
加部之 
返之 
返し

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 奈久奈美多布利尓之止之乃己呂毛天者安多良之幾尓毛加者良左利个利
定家 奈久涙布利尓之年乃衣手者安多良之幾尓毛加者良左利个利
和歌 なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり
解釈 泣く涙古りにし年の衣手は新しきにも変らざりけり

歌番号一三九八
加左祢天川可者之个留
加左祢天川可者之个留
重ねてつかはしける

左武之与宇乃美幾乃於本以万宇知幾三
三条右大臣
三条右大臣

原文 飛止乃与乃於毛日尓加奈不毛乃奈良者和可三者幾美尓遠久礼万之也八
定家 人乃世乃思日尓加奈不物奈良者和可身者君尓遠久礼万之也八
和歌 ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは
解釈 人の世の思ひにかなふ物ならば我が身は君に後れましやは

歌番号一三九九
女乃三万可利天乃知寸美者部利个留止己呂乃加部尓
加乃者部利个留止幾加幾川个天者部利个留天遠
三者部利天
女乃身万可利天乃知寸美侍个留所乃加部尓
加乃侍个留時加幾川个天侍个留天遠
見侍天
妻の身まかりて後、住み侍りける所の壁に
かの侍りける時書きつけて侍りけるてを
見侍りて

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 祢奴由女尓无可之乃加部遠三川留与利宇川々尓毛乃曽加奈之可利个留
定家 祢奴夢尓昔乃加部遠見川留与利宇川々尓物曽加奈之可利个留
和歌 ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける
解釈 寝ぬ夢に昔の壁を見つるよりうつつに物ぞ悲しかりける

歌番号一四〇〇
安比之里天者部利个留於无奈乃三満可利尓个留遠
己比者部利个留安比多尓与不个天遠之乃奈幾
者部利个礼八
安比之里天侍个留女乃身満可利尓个留遠
己比侍个留安比多尓与不个天遠之乃奈幾侍个礼八
あひ知りて侍りける女の身まかりにけるを
恋ひ侍りける間に、夜更けて鴛鴦の鳴き
侍りければ

可武為无乃比多利乃於本以万宇知幾三
閑院左大臣
閑院左大臣

原文 由不左礼者祢尓由久遠之乃飛止利之天川万己比寸奈留己衛乃加奈之左
定家 由不左礼者祢尓由久遠之乃飛止利之天川万己比寸奈留己衛乃加奈之左
和歌 ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ
解釈 夕されば寝に行く鴛鴦の一人して妻恋ひすなる声の悲しさ

歌番号一四〇一
布无川幾者可利尓比多利乃於本以万宇知幾三乃
者々三万可利尓个留止幾尓於毛比尓者部利个留安比多
幾左以乃美也与利者幾乃者奈遠於利天多万部利个礼者
七月許尓左大臣乃
者々身万可利尓个留時尓於毛比尓侍个留安比多
幾左以乃宮与利萩乃花遠於利天多万部利个礼者
七月ばかりに、左大臣の
母身まかりにける時に、喪に侍りける間、
后宮より萩の花を折りてたまへりければ

於本幾於本以万宇知幾三
太政大臣
太政大臣

原文 遠美奈部之加礼尓之乃部尓寸武飛止者万川佐久者奈遠万多天止毛美寸
定家 遠美奈部之加礼尓之乃部尓寸武人者万川佐久花遠万多天止毛見寸
和歌 をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす
解釈 女郎花枯れにし野辺に住む人はまづ咲く花をまたでとも見ず

歌番号一四〇二
奈久奈利尓个留飛止乃以部尓万可利天加部利天乃
安之多尓加之己奈留飛止尓川可者之个留
奈久奈利尓个留人乃家尓万可利天加部利天乃
安之多尓加之己奈留人尓川可者之个留
亡くなりにける人の家にまかりて、帰りての
朝に、かしこなる人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 奈幾飛止乃可个多尓美衣奴也利美川乃曽己波奈美多尓奈可之天曽己之
定家 奈幾人乃影多尓見衣奴也利水乃曽己波涙尓奈可之天曽己之
和歌 なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし
解釈 亡き人の影だに見えぬ遣水の底は涙に流してぞ来し

歌番号一四〇三
也満止尓者部利个留者々三満可利天乃知加乃久尓部
万可留止天
也満止尓侍个留母身満可利天乃知加乃久尓部
万可留止天
大和に侍りける母身まかりて後、かの国へ
まかるとて

以世
伊勢
伊勢

原文 飛止利由久己止己曽宇个礼布留左止乃奈良乃奈良日天見之飛止毛奈三
定家 飛止利由久事己曽宇个礼布留左止乃奈良乃奈良日天見之人毛奈三
和歌 ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ
解釈 一人行くことこそ憂けれふるさとの奈良のならびて見し人もなみ

歌番号一四〇四
保宇己宇乃美布久奈利个留止幾尓比以呂乃佐以天尓
加幾天飛止尓遠久利者部利个留
法皇乃御布久奈利个留時尓比以呂乃佐以天尓
加幾天人尓遠久利侍个留
法皇の御服なりける時、鈍色のさいでに
書きて人に送り侍りける

幾与宇己久乃美也春武止己呂
京極御息所
京極御息所

原文 春美曽女乃己幾毛宇寸幾毛美留止幾者加左祢天毛乃曽加奈之加利个留
定家 春美曽女乃己幾毛宇寸幾毛見留時者加左祢天物曽加奈之加利个留
和歌 すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける
解釈 墨染めの濃きも薄きも見る時は重ねて物ぞ悲しかりける

歌番号一四〇五
於无奈与川乃美己乃加久礼者部利尓个留止幾
女四乃美己乃加久礼侍尓个留時
女四内親王のかくれ侍りにける時

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 幾乃不万天知与止知幾利之幾美遠和可志天乃也万知尓多川奴部幾可奈
定家 昨日万天知与止知幾利之君遠和可志天乃山地尓多川奴部幾哉
和歌 きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな
解釈 昨日まで千代と契りし君を我が死出の山路に尋ぬべきかな

歌番号一四〇六
左幾乃保宇々世多万日天乃者留多以布尓川可八之个留
先坊宇世多万日天乃者留大輔尓川可八之个留
先坊失せたまひての春、大輔につかはしける

者留可美乃安曾无乃无寸女
者留可美乃朝臣乃武寸女
はるかみの朝臣のむすめ(藤原玄上朝臣女)

原文 安良多万乃止之己衣久良之川祢毛奈幾者川宇久比寸乃祢尓曽奈可留々
定家 安良多万乃年己衣久良之川祢毛奈幾者川鴬乃祢尓曽奈可留々
和歌 あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる
解釈 あらたまの年越え来らし常もなき初鴬の音にぞ泣かるる

歌番号一四〇七
加部之 
返之 
返し

多以布 
多以布 
大輔

原文 祢尓多天々奈可奴比者奈之宇久比寸乃无可之乃者留遠於毛比也利川
定家 祢尓多天々奈可奴日者奈之鴬乃昔乃春遠思也利川
和歌 ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ
解釈 音に立てて泣かぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ

歌番号一四〇八
於奈之止之乃安幾
於奈之年乃秋
同じ年の秋

者留可美乃安曾无乃无寸女
玄上朝臣女
玄上朝臣女(藤原玄上朝臣女)

原文 毛呂止毛尓越幾為之安幾乃川由者可利加々良无毛乃止於毛日可个幾也
定家 毛呂止毛尓越幾為之秋乃川由許加々良无物止思日可个幾也
和歌 もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや
解釈 もろともに置きゐし秋の露ばかりかからん物と思ひかけきや

歌番号一四〇九
幾与多々加比和乃本以万宇知幾三乃以美尓己毛利天
者部利个留尓川可八之个留
清正加枇杷大臣乃以美尓己毛利天
侍个留尓川可八之个留
清正が枇杷大臣の忌みに籠もりて
侍りけるにつかはしける

布知八良乃毛利布三
藤原守文
藤原守文

原文 与乃奈可乃加奈之幾己止遠幾久乃宇部尓遠久之良川由曽奈美多奈利个留
定家 世中乃加奈之幾事遠菊乃宇部尓遠久白露曽涙奈利个留
和歌 よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける
解釈 世の中の悲しき事を菊の上に置く白露ぞ涙なりける

歌番号一四一〇
加部之 
返之 
返し

幾与多々
幾与多々
きよたた(藤原清正)

原文 幾久尓多尓川由个可留良无飛止乃与遠女尓見之曽天遠於毛比也良奈无
定家 幾久尓多尓川由个可留良无人乃世遠女尓見之袖遠思也良奈无
和歌 きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ
解釈 きくにだに露けかるらん人の世を目に見し袖を思ひやらなん

歌番号一四一一
加祢寸个乃安曾无奈久奈利天乃知止左乃久尓与利
万可利乃本利天加乃安者多乃以部尓天
兼輔朝臣奈久奈利天乃知土左乃久尓与利
万可利乃本利天加乃安者多乃家尓天
兼輔朝臣亡くなりて後、土左の国より
まかり上りて、かの粟田の家にて

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 飛幾宇部之布多八乃万川八安利奈可良幾美可知止世乃奈幾曽可奈良之幾
定家 飛幾宇部之布多八乃松八有奈可良君可知止世乃奈幾曽悲
和歌 ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき
解釈 引き植ゑし双葉の松は有りながら君が千歳のなきぞ悲しき

歌番号一四一二
幾曽乃川以天尓加之己奈留飛止
幾曽乃川以天尓加之己奈留人
そのついでに、かしこなる人

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美万佐天止之者部奴礼止布留左止尓川幾世奴毛乃者奈良美多奈利个利
定家 君万佐天年者部奴礼止布留左止尓川幾世奴物者涙奈利个利
和歌 きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり
解釈 君まさで年は経ぬれどふるさとに尽きせぬ物は涙なりけり

歌番号一四一三
飛止乃止不良日尓満宇天幾多利个留尓者也久奈久奈利尓幾
止以比者部利个礼者加衣天乃毛美知尓加幾川个者部利个留
人乃止不良日尓満宇天幾多利个留尓者也久奈久奈利尓幾
止以比侍个礼者加衣天乃毛美知尓加幾川个侍个留
人の訪ぶらひにまうで来たりけるに、早く亡くなりにき
と言ひ侍りければ、楓の紅葉に書きつけ侍りける

可為世无保宇之
戒仙法師
戒仙法師

原文 春幾尓个留飛止遠安幾之毛止不可良尓曽天者毛美知乃以呂尓己曽奈礼
定家 春幾尓个留人遠秋之毛問可良尓袖者毛美知乃色尓己曽奈礼
和歌 すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ
解釈 過ぎにける人を秋しも問ふからに袖は紅葉の色にこそなれ

歌番号一四一四
奈久奈利天者部利个留飛止乃以美尓己毛利天者部利个留尓
安女乃布留比々止乃止比天者部利个礼八
奈久奈利天侍个留人乃以美尓己毛利天侍个留尓
雨乃布留日比止乃止比天侍个礼八
亡くなりて侍りける人の忌みに籠もりて侍りけるに、
雨の降る日、人の訪ひて侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 曽天加者久止幾奈可利川留和可三尓者布留遠安女止毛於毛者左利个利
定家 袖加者久時奈可利川留和可身尓者布留遠雨止毛於毛者左利个利
和歌 そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり
解釈 袖乾く時なかりつる我が身には降るを雨とも思はざりけり

歌番号一四一五
飛止乃以美者天々毛止乃以部尓加部利个留比
人乃以美者天々毛止乃家尓加部利个留日
人の忌み果ててもとの家に帰りける日

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 布留左止尓幾美者以川良止満知止者々以川礼乃曽良乃可寸美止以者末之
定家 布留左止尓君者以川良止満知止者々以川礼乃曽良乃霞止以者末之
和歌 ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし
解釈 ふるさとに君はいづらと待ち問はばいづれの空の霞と言はまし

歌番号一四一六
安徒多々乃安曾无三満可利天万多乃止之加乃安曾无乃
遠乃奈留以部美武止天己礼可礼万可利天毛乃可多利
之者部利个留川以天尓与三者部利个留
敦忠朝臣身満可利天又乃年加乃朝臣乃
遠乃奈留家見武止天己礼可礼万可利天毛乃可多利之侍个留川以天尓与三侍个留
敦忠朝臣身まかりて、又の年、かの朝臣の
小野なる家見むとてこれかれまかりて、物語
し侍りけるついでによみ侍りける

幾与多々
清正
清正(藤原清正)

原文 幾美可以尓之可多也以徒礼曽之良久毛乃奴之奈幾也止々美留可加奈之左
定家 君可以尓之方也以徒礼曽白雲乃奴之奈幾也止々見留可加奈之左
和歌 きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ
解釈 君がいにし方やいづれぞ白雲の主なき宿と見るが悲しさ

歌番号一四一七
於也乃和左之尓天良尓万宇天幾多利个留遠幾々川个天
毛呂止毛尓満宇天末之物遠止飛止乃以比个礼礼八
於也乃和左之尓寺尓万宇天幾多利个留遠幾々川个天
毛呂止毛尓満宇天末之物遠止人乃以比个礼礼八
親のわざしに寺に詣で来たりけるを聞きつけて、
もろともに詣でましものをと、人の言ひければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和比飛止乃多毛止尓幾美可宇川利世八布知乃者奈止曽以呂者美衣末之
定家 和比人乃多毛止尓君可宇川利世八藤乃花止曽色者見衣末之
和歌 わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし
解釈 わび人の袂に君が移りせば藤の花とぞ色は見えまし

歌番号一四一八
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 与曽尓於留曽天多尓飛知之布知己呂毛奈美多尓者奈毛美衣寸曽安良末之
定家 与曽尓於留袖多尓飛知之藤衣涙尓花毛見衣寸曽安良末之
和歌 よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし
解釈 よそに居る袖だにひちし藤衣涙に花も見えずぞあらまし

歌番号一四一九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 保止毛奈久多礼毛遠久礼奴与奈礼止毛止万留八由久遠加奈之止曽三留
定家 保止毛奈久誰毛遠久礼奴世奈礼止毛止万留八由久遠加奈之止曽見留
和歌 ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる
解釈 ほどもなく誰れも後れぬ世なれども止まるは行くを悲しとぞ見る

歌番号一四二〇
飛止遠奈久奈之天加幾利奈久己比於毛日伊利天祢多留与乃
由女尓美衣个礼者於毛比个留飛止尓加久奈无止以比
徒可者之多利个礼八
人遠奈久奈之天加幾利奈久己比思日伊利天祢多留夜乃
由女尓見衣个礼者於毛比个留人尓加久奈无止以比
徒可者之多利个礼八
人を亡くなして、限りなく恋ひて、思ひ入りて寝たる夜の
夢に見えければ、思ひける人に、かくなんと言ひ
つかはしたりければ

者留可美乃安曾无乃无寸女
玄上朝臣女
玄上朝臣女

原文 止幾乃満毛奈久佐女川良无佐女奴万者由女尓多尓美奴和礼曽加奈之幾
定家 時乃満毛奈久佐女川良无佐女奴万者夢尓多尓見奴和礼曽加奈之幾
和歌 ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき
解釈 時の間もなく覚めつらん覚めぬ間は夢にだに見ぬ我ぞ悲しき

歌番号一四二一
加部之 
返之 
返し

多以布 
多以布 
大輔

原文 加奈之佐乃奈久佐武部久毛安良左利徒由女乃宇知尓毛由女止美由礼八
定家 加奈之佐乃奈久佐武部久毛安良左利徒由女乃宇知尓毛夢止見由礼八
和歌 かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは
解釈 悲しさの慰むべくもあらざりつ夢のうちにも夢と見ゆれば

歌番号一四二二
安利八良乃止之者留可三万可利尓个留遠幾々天
在原止之者留可身万可利尓个留遠幾々天
在原利春が身まかりにけるを聞きて

以世
伊勢
伊勢

原文 加遣天多尓和可三乃宇部止於毛比幾也己武止之者留乃者奈遠美之止八
定家 加遣天多尓和可身乃宇部止思幾也己武年春乃花遠見之止八
和歌 かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは
解釈 かけてだに我が身の上と思ひきや来む年春の花を見じとは

歌番号一四二三
飛止川可比者部利个留徒留乃飛止川可奈久奈利尓个礼者
止万礼留可以多久奈幾者部利个礼八安女乃布利者部利个留尓
飛止川可比侍个留徒留乃飛止川可奈久奈利尓个礼者
止万礼留可以多久奈幾侍个礼八雨乃布利侍个留尓
一つがひ侍りける鶴の一つが亡くなりにければ、
留まれるがいたく鳴き侍りければ雨の降り侍りけるに

以世
伊勢
伊勢

原文 奈久己恵尓曽比天奈美多者乃本良祢止久毛乃宇部与利安女止布留良无
定家 奈久己恵尓曽比天涙者乃本良祢止雲乃宇部与利安女止布留良无
和歌 なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ
解釈 鳴く声に添ひて涙は上らねど雲の上より雨と降るらん

歌番号一四二四
女乃三満可利天乃止之乃志波寸乃川己毛利乃比
布留己止以比者部利个留尓
女乃身満可利天乃止之乃志波寸乃川己毛利乃日
布留己止以比侍个留尓
妻の身まかりての年の師走のつごもりの日、
古事言ひ侍りけるに

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 奈幾飛止乃止毛尓之可部留止之奈良八久礼由久个不者宇礼之可良末之
定家 奈幾人乃止毛尓之帰年奈良八久礼由久个不者宇礼之可良末之
和歌 なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし
解釈 亡き人の共にし帰る年ならば暮れ行く今日はうれしからまし

歌番号一四二五
加部之 
返之 
返し

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 己布留満尓止之乃久礼奈者奈幾飛止乃和可礼也以止々止本久奈利奈无
定家 己布留満尓年乃久礼奈者奈幾人乃別也以止々止本久奈利奈无
和歌 こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
解釈 恋ふる間に年の暮れなば亡き人の別れやいとど遠くなりなん
コメント

後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十九

2020年10月18日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利己々乃末幾仁安多留未幾
巻十九

加礼加礼乃宇多 堂比乃宇多
離別歌(附 羈旅歌)

歌番号一三〇四
美知乃久尓部満可利个留飛止尓比宇知遠徒可者春
止天加幾川計者部利遣流
美知乃久尓部満可利个留人尓火宇知遠徒可者春
止天加幾川計侍遣流
陸奥へまかりける人に、火打ちをつかはす
とて、書きつけ侍りける

従良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 於里/\尓宇知天堂久比乃个不利安良者己々呂左寸可遠志乃部止曽於毛不
定家 於里/\尓打天堂久火乃煙安良者心左寸可遠志乃部止曽思
和歌 をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
解釈 折々に打ちて焚く火の煙あらば心ざす香をしのべとぞ思ふ

歌番号一三〇五
安比之利天者部利个留飛止乃安徒万乃可多部満可利个留
尓佐久良乃者奈乃加多尓奴左遠之天川可八之个累
安比之利天侍个留人乃安徒万乃方部満可利个留
尓佐久良乃花乃加多尓奴左遠之天川可八之个累
あひ知りて侍りける人の東の方へまかりける
に、桜の花の形に幣をしてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安多飛止乃堂武計尓於礼留佐久良者奈安不左可万天者知良寸毛安良奈无
定家 安多人乃堂武計尓於礼留佐久良花相坂万天者知良寸毛安良奈无
和歌 あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
解釈 あだ人の手向けに折れる桜花相坂までは散らずもあらなん

歌番号一三〇六
止遠久満可利个留飛止尓武万乃者奈武計之者部利个留止己呂尓天
止遠久満可利个留人尓餞之侍个留所尓天
遠くまかりける人に餞し侍りける所にて

多知八奈乃奈保止毛
橘直幹
橘直幹

原文 於毛比也留己々呂者可利者左波良之遠奈尓部多川良无美祢乃之良久毛
定家 思也留心許者左波良之遠何部多川良无峯乃白雲
和歌 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
解釈 思ひやる心ばかりは障らじを何隔つらん峯の白雲

歌番号一三〇七
志毛川个尓満可利个留於无奈尓加々美尓曽部天
徒可者之遣流
志毛川个尓満可利个留女尓加々美尓曽部天
徒可者之遣流
下野にまかりける女に鏡に添へて
つかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 布多己也末止毛尓己衣祢止万寸可々美曽己奈留可个遠多久部天曽也留
定家 布多己山止毛尓己衣祢止万寸鏡曽己奈留影遠多久部天曽也留
和歌 ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
解釈 二子山ともに越えねどます鏡そこなる影をたぐへてぞやる

歌番号一三〇八
之奈乃部満可利个留飛止尓多幾毛乃川可者寸止天
之奈乃部満可利个留人尓多幾物川可者寸止天
信濃へまかりける人に焚き物つかはすとて

春留可
春留可
するか(駿河)

原文 志奈乃奈留安佐万乃也末毛々由奈礼者布之乃个不利乃可比也奈可良无
定家 志奈乃奈留安佐万乃山毛々由奈礼者布之乃个不利乃可比也奈可良无
和歌 しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
解釈 信濃なる浅間の山も燃ゆなれば富士の煙のかひやなからん

歌番号一三〇九
止遠幾久尓部満可利个留止毛多知尓飛宇知尓
曽部天川可八之个留
止遠幾久尓部満可利个留止毛多知尓火宇知尓
曽部天川可八之个留
遠き国へまかりける友だちに火打ちに
添へてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己乃多比毛和礼遠和寸礼奴毛乃奈良八宇知美武多比尓於毛比以天奈无
定家 己乃多比毛我遠和寸礼奴物奈良八宇知見武多比尓思以天奈无
和歌 このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ
解釈 このたびも我を忘れぬ物ならばうち見むたびに思ひ出でなん

歌番号一三一〇
美也己尓者部利个留於奈己遠以可奈留己止止可者部利个无
己々呂宇之止天止々女遠幾天伊奈者乃久尓部万可利个礼八
京尓侍个留女子遠以可奈留事可侍个无
心宇之止天止々女遠幾天伊奈者乃久尓部万可利个礼八
京に侍りける女子をいかなる事か侍りけん、
心憂しとて留め置きて因幡国へまかりければ

武寸免
武寸免
むすめ(女)

原文 宇知寸天々幾美之以奈者乃川由乃美者幾衣奴者可利曽安利止多乃武奈
定家 打寸天々君之以奈者乃川由乃身者幾衣奴許曽有止多乃武奈
和歌 うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな
解釈 うち捨てて君し因幡の露の身は消えぬばかりぞ有りと頼むな

歌番号一三一一
以世尓満可利个留飛止止久以奈无止己々呂毛止
奈可留止幾々天堂比乃天宇止奈止々良寸留
物可良堂々武加美尓加幾天止良寸留奈遠八
武万止以比个留尓
伊勢尓満可利个留人止久以奈无止心毛止
奈可留止幾々天堂比乃天宇止奈止々良寸留
物可良堂々武加美尓加幾天止良寸留名遠八
武万止以比个留尓
伊勢にまかりける人、とく往なんと、心もと
なかると聞きて、旅の調度など取らする
ものから、畳紙に書きて取らする、名をば
馬といひけるに

原文 於之止於毛不己々呂者奈久天己乃多比者由久宇万尓武知遠於本世川留可奈
定家 於之止思心者奈久天己乃多比者由久馬尓武知遠於本世川留哉
和歌 をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな
解釈 惜しと思ふ心はなくてこのたびは行く馬に鞭をおほせつるかな

歌番号一三一二
加部之 
返之 
返し

武万
武万
むま(馬)

原文 幾美可手遠加礼由久安幾乃寸恵尓之毛乃可比尓者奈川武万曽加奈之幾
定家 君可手遠加礼由久秋乃寸恵尓之毛乃可比尓者奈川武万曽加奈之幾
和歌 きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき
解釈 君が手をかれ行く秋の末にしも野飼ひに放つ馬ぞ悲しき

歌番号一三一三
於奈之以部尓比左之宇者部利个留於无奈乃美乃々
久尓々於也乃者部利个留止不良日尓万可利个留尓
於奈之家尓比左之宇侍个留女乃美乃々
久尓々於也乃侍个留止不良日尓万可利个留尓
同じ家に久しう侍りける女の、美濃
国に親の侍りける、訪ぶらひにまかりけるに

布知八良乃幾与多々
藤原幾与多々
藤原きよたた(藤原清正)

原文 以末者止天多知可部利由久布留左止乃布和乃世幾知尓美也己和寸留奈
定家 今者止天立帰由久布留左止乃布和乃世幾知尓美也己和寸留奈
和歌 いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな
解釈 今はとて立ち帰り行くふるさとの不破の関路に都忘るな

歌番号一三一四
止遠幾久尓々満可利个留飛止尓多比乃久徒可者之
个留加々美乃波己乃宇良尓加幾川个天川可者之遣留
止遠幾久尓々満可利个留人尓多比乃久徒可者之
个留加々美乃波己乃宇良尓加幾川个天川可者之遣留
遠き国にまかりける人に、旅の具つかはし
ける、鏡の箱の裏に書きつけてつかはしける

於本久本乃能里与之
於本久本乃能里与之
おほくほののりよし(大窪則善)

原文 見遠和久留己止乃加多左尓万寸可々美可个者可利遠曽幾美尓曽部徒留
定家 身遠和久留事乃加多左尓万寸鏡影許遠曽君尓曽部徒留
和歌 みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる
解釈 身を分くる事の難さにます鏡影ばかりをぞ君に添へつる

歌番号一三一五
己乃多比乃以天多知奈无毛乃宇久於本由留止以比个礼八
己乃多比乃以天多知奈无物宇久於本由留止以比个礼八
このたびの出で立ちなん物憂くおぼゆる、と言ひければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者徒可利乃和礼毛曽良奈留本止奈礼者幾美毛々乃宇幾多比尓也安留良无
定家 者徒可利乃我毛曽良奈留本止奈礼者君毛物宇幾多比尓也安留良无
和歌 はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ
解釈 初雁の我も空なるほどなれば君も物憂き旅にやあるらん

歌番号一三一六
安比之利天者部利个留於无奈乃飛止乃久尓々満可利个留尓
徒可者之个留
安比之利天侍个留女乃人乃久尓々満可利个留尓
徒可者之个留
あひ知りて侍りける女の、人の国にまかりけるに
つかはしける

幾美多々乃安曾无
公忠朝臣
公忠朝臣(三統公忠)

原文 以止世女天己比之幾太日乃可良己呂毛本止奈久加部寸飛止毛安良奈无
定家 以止世女天己比之幾太日乃唐衣本止奈久加部寸人毛安良奈无
和歌 いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ
解釈 いとせめて恋しきたびの唐衣ほどなくかへす人もあらなん

歌番号一三一七
加部之 
返之 
返し、

於无奈



原文 可良己呂毛堂川日遠与曽尓幾久飛止者加部寸者可利乃本止毛己比之遠
定家 唐衣堂川日遠与曽尓幾久人者加部寸許乃本止毛己比之遠
和歌 からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを
解釈 唐衣裁つ日をよそに聞く人はかへすばかりのほども恋ひじを

歌番号一三一八
也由比者可利己之乃久尓部満可利个留飛止尓
佐遣太宇比个留川以天尓
三月許己之乃久尓部満可利个留人尓
佐遣太宇比个留川以天尓
三月ばかり、越国へまかりける人に
酒たうびけるついでに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己比之久者己止徒天毛世无加部留左乃加利可祢者万川和可也止尓奈計
定家 己比之久者事徒天毛世无加部留左乃加利可祢者万川和可也止尓奈計
和歌 こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ
解釈 恋しくは事づてもせん帰るさの雁が音はまづ我が宿に鳴け

歌番号一三一九
世武由布保宇之乃以川乃久尓々奈可佐礼者部利个留尓
善祐法師乃伊豆乃久尓々奈可佐礼侍个留尓
善祐法師の伊豆の国に流され侍りけるに

以世
伊勢
伊勢

原文 王可礼天者以川安比身武止於毛布良无可幾利安留与乃以乃知止毛奈之
定家 別天者以川安比見武止思良无限安留与乃以乃知止毛奈之
和歌 わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
解釈 別れてはいつあひ見むと思ふらん限りある世の命ともなし

歌番号一三二〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 曽武可礼奴万川乃知止世乃本止与利毛止毛/\止多尓志多者礼曽世之
定家 曽武可礼奴松乃知止世乃本止与利毛止毛/\止多尓志多者礼曽世之
和歌 そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
解釈 そむかれぬ松の千歳のほどよりもともどもとだに慕はれぞせし

歌番号一三二一
加部之 
返之 
返し

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 止毛/\止志多不奈美多乃曽不美従者以可奈留以呂尓美衣天由久良无
定家 止毛/\止志多不涙乃曽不水者以可奈留色尓見衣天由久良无
和歌 ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
解釈 ともどもと慕ふ涙の添ふ水はいかなる色に見えて行くらん

歌番号一三二二
天為之乃美可止於利為多万宇个留安幾己幾天武乃
加部尓加幾川个々留
亭子乃美可止於利為多万宇个留秋弘徽殿乃
加部尓加幾川个々留
亭子帝下りゐたまうける秋、弘徽殿の
壁に書きつけける

以世
伊勢
伊勢

原文 和可留礼止安比毛於之万奴毛々之幾遠美佐良无己止也奈尓可加奈之幾
定家 和可留礼止安比毛於之万奴毛々之幾遠見佐良无事也奈尓可加奈之幾
和歌 わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
解釈 別るれどあひも惜しまぬ百敷を見ざらん事や何か悲しき

歌番号一三二三
美可止美曽波奈之天於保武可部之
美可止御覧之天御返之
帝御覧じて、御返し

天為之乃美可止
亭子乃美可止
亭子のみかと(亭子帝)

原文 美比止川尓安良奴者可利遠々之奈部天由幾女久利天毛奈止可美左良无
定家 身比止川尓安良奴許遠々之奈部天由幾女久利天毛奈止可見左良无
和歌 みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
解釈 身一つにあらぬばかりをおしなべてゆきめぐりてもなどか見ざらん

歌番号一三二四
三知乃久尓部万可利个留飛止尓安不幾天宇之天
宇多恵尓加々世者部利个留
三知乃久尓部万可利个留人尓安不幾天宇之天
宇多恵尓加々世侍个留
陸奥へまかりける人に、扇調じて、
歌絵に書かせ侍りける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 王可礼由久三知乃久毛為尓奈利由个者止万留己々呂毛曽良尓己曽奈礼
定家 別由久道乃久毛為尓奈利由个者止万留心毛曽良尓己曽奈礼
和歌 わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ
解釈 別れ行く道の雲居になり行けば止まる心も空にこそなれ

歌番号一三二五
武祢由幾乃安曾无乃武寸女美知乃久尓部久多利个留尓
宗于朝臣乃武寸女美知乃久尓部久多利个留尓
宗于朝臣の女、陸奥へ下りけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 以可天奈保加左止利也万尓美遠奈之天川由个幾多比尓曽者武止曽於毛不
定家 以可天猶加左止利山尓身遠奈之天川由个幾多比尓曽者武止曽思
和歌 いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ
解釈 いかでなほ笠取山に身をなして露けき旅に添はむとぞ思ふ

歌番号一三二六
加部之 
返之 
返し

武祢由幾乃安曾无乃武寸女
宗于朝臣乃武寸女
宗于朝臣のむすめ(源宗于朝臣女)

原文 加左止利乃也万止多乃美之幾美遠々幾天奈良美多乃安女尓奴礼川々曽由久
定家 加左止利乃山止多乃美之君遠々幾天涙乃雨尓奴礼川々曽由久
和歌 かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく
解釈 笠取の山と頼みし君を置きて涙の雨に濡れつつぞ行く

歌番号一三二七
越止己乃以世乃久尓部万可利个留尓
越止己乃伊勢乃久尓部万可利个留尓
男の伊勢国へまかりけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美可由久可多尓安利天不奈美多可者満川者曽天尓曽奈可部良奈留
定家 君可由久方尓有天不涙河満川者袖尓曽流部良奈留
和歌 きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる
解釈 君が行く方に有りてふ涙河まづは袖にぞ流るべらなる

歌番号一三二八
堂比尓万可利个留飛止尓佐宇曽久徒加者寸止天
曽部天徒可者之个留
堂比尓万可利个留人尓佐宇曽久徒加者寸止天
曽部天徒可者之个留
旅にまかりける人に装束つかはすとて、
添へてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 曽天奴礼天和可礼者寸止毛可良己呂毛由久止奈以比曽幾多利止遠美武
定家 袖奴礼天別者寸止毛唐衣由久止奈以比曽幾多利止遠見武
和歌 そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ
解釈 袖濡れて別れはすとも唐衣行くとな言ひそ来たりとを見む

歌番号一三二九
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和可礼地者己々呂毛由可寸可良己呂毛幾礼者奈美多曽佐幾尓多知个留
定家 別地者心毛由可寸唐衣幾礼者涙曽佐幾尓多知个留
和歌 わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける
解釈 別路は心も行かず唐衣着れば涙ざ先に立ちける

歌番号一三三〇
堂比尓満可利个留飛止尓於安布幾川可者寸止天
堂比尓満可利个留人尓扇川可者寸止天
旅にまかりける人に扇つかはすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 曽部天也累安布幾乃可世之己々呂安良波和可於毛不飛止乃天遠奈者奈礼曽
定家 曽部天也累扇乃風之心安良波和可思不人乃手遠奈者奈礼曽
和歌 そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ
解釈 添へてやる扇の風し心あらば我が思ふ人の手をな離れそ

歌番号一三三一
止毛乃利可武寸女乃美知乃久尓部万可利个留尓川可者之个留
友則可武寸女乃美知乃久尓部万可利个留尓川可
友則が女の陸奥へまかりけるにつかはしける

布知八良乃之計毛止可武寸女
藤原滋幹可武寸女
藤原滋幹かむすめ(藤原滋幹女)

原文 幾美遠乃美志乃不乃佐止部由久毛乃遠安比川乃也末乃者留个幾也奈曽
定家 君遠乃美志乃不乃佐止部由久物遠安比川乃山乃者留个幾也奈曽
和歌 きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ
解釈 君をのみしのぶの里へ行くものを会津の山のはるけきやなぞ

歌番号一三三二
徒久之部満可留止天幾与以己乃三与宇布尓遠久利个留
徒久之部満可留止天幾与以己乃命婦尓遠久利个留
筑紫へまかるとて、清子命婦に贈りける

遠乃々与之布留乃安曾无
小野好古朝臣
小野好古朝臣

原文 止之遠部天安比三留飛止乃和可礼尓者於之幾毛乃己曽以乃知奈利个礼
定家 年遠部天安比見留人乃別尓者於之幾物己曽以乃知奈利个礼
和歌 としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ
解釈 年を経てあひ見る人の別れには惜しきものこそ命なりけれ

歌番号一三三三
天者与利乃本利个留尓己礼可礼武万乃者那武計
之个留尓加者良遣止利天
出羽与利乃本利个留尓己礼可礼武万乃者那武計
之个留尓加者良遣止利天
出羽より上りけるに、これかれ餞
しけるに、かはらけとりて

美奈毛堂乃和多留
源乃和多留
源のわたる(源済)

原文 由久佐幾遠志良奴奈美多乃可奈之幾八堂々女乃万部尓於川留奈利个利
定家 由久佐幾遠志良奴涙乃悲幾八堂々女乃万部尓於川留奈利个利
和歌 ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり
解釈 行く先を知らぬ涙の悲しきはただ目の前に落つるなりけり

歌番号一三三四
堂比良乃多可止遠可以也之幾奈止利天飛止乃久尓部
満可利个留尓和寸留奈止以部利个礼八太可止遠可
女乃以部留
平乃多可止遠可以也之幾名止利天人乃久尓部
満可利个留尓和寸留奈止以部利个礼八太可止遠可
女乃以部留
平高遠がいやしき名取りて人の国へ
まかりけるに、忘るなと言へりければ、高遠が
妻の言へる

多可止保可女
多可止保可女
たかとほかめ(平高遠妻)

原文 和寸留奈止以不尓奈可留々奈美多可者宇幾奈遠寸々久世止毛奈良奈无
定家 和寸留奈止以不尓奈可留々涙河宇幾奈遠寸々久世止毛奈良奈无
和歌 わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
解釈 忘るなと言ふに泣るる涙河憂き名をすすぐ瀬ともならなん

歌番号一三三五
安比之利天者部利个留飛止乃安可良左万尓己之乃久尓
部万可利个留尓奴左己々呂左寸止天
安比之利天侍个留人乃安可良左万尓己之乃国
部万可利个留尓奴左心左寸止天
あひ知りて侍りける人のあからさまに越の国
へまかりけるに、幣心ざすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和礼遠乃美於毛日川留可乃宇良奈良波加部留乃也末者万止波左良末之
定家 我遠乃美思日川留可乃浦奈良波加部留乃山者万止波左良末之
和歌 われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
解釈 我をのみ思ひ敦賀の浦ならば鹿蒜の山はまどはざらまし

歌番号一三三六
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾美遠乃美以徒者多止於毛比己之奈礼者由幾々乃美知者々留計加良之遠
定家 君遠乃美以徒者多止思己之奈礼者由幾々乃道者々留計加良之遠
和歌 きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
解釈 君をのみ五幡と思ひ来しなれば行き来の道ははるけからしを

歌番号一三三七
安幾堂比満可利个留飛止尓奴左遠毛美知乃衣多
尓川个天徒可者之遣留
秋堂比満可利个留人尓奴左遠毛美知乃枝
尓川个天徒可者之遣留
秋、旅まかりける人に幣を紅葉の枝
につけてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安幾布可久太比由久飛止乃多武計尓八毛美知尓万佐留奴左奈可利个利
定家 秋布可久太比由久人乃多武計尓八毛美知尓万佐留奴左奈可利个利
和歌 あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
解釈 秋深く旅行く人の手向けには紅葉にまさる幣なかりけり

歌番号一三三八
尓之乃与无之与宇乃以川幾の美也乃奈可川幾乃美曽可久多利堂万比个留
止毛奈留飛止尓奴左川可者寸止天
西四条乃斎宮乃九月晦日久多利給个留
止毛奈留人尓奴左川可者寸止天
西四条の斎宮の九月晦日下りたまひける、
供なる人に幣つかはすとて

多以布 
多以布 
大輔

原文 毛美知者遠奴左止多武計天知良之川々安幾止々毛尓也由可武止寸良无
定家 毛美知者遠奴左止多武計天知良之川々秋止々毛尓也由可武止寸良无
和歌 もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
解釈 もみぢ葉を幣と手向けて散らしつつ秋とともにや行かむとすらん

歌番号一三三九
毛乃部万可利个留飛止人尓川可八之个留
毛乃部万可利个留人尓川可八之个留
ものへまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 満知和比天己比之久奈良八堂川奴部久安止奈幾美川乃宇部奈良天由个
定家 満知和比天己比之久奈良八堂川奴部久安止奈幾水乃宇部奈良天由个
和歌 まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ
解釈 待ちわびて恋しくならば訪ぬべく跡なき水の上ならで行け

歌番号一三四〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

於久留於本幾於本以万宇知幾三
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 己武止以比天和可留々多尓毛安留毛乃遠志良礼奴計左乃満之天和比之左
定家 己武止以比天和可留々多尓毛安留物遠志良礼奴計左乃満之天和比之左
和歌 こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき
解釈 来むと言ひて別るるだにもある物を知られぬ今朝のましてわびしさ

歌番号一三四一
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 佐良者与止和可礼之止幾尓以者万世八和礼毛奈美多尓於本々礼奈末之
定家 佐良者与止別之時尓以者万世八我毛涙尓於本々礼奈末之
和歌 さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし
解釈 さらばよと別れし時に言はませば我も涙におぼほれなまし

歌番号一三四二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者留可寸美者可奈久多知天和可留止毛可世与利保可尓多礼可止不部幾
定家 春霞者可奈久多知天和可留止毛風与利外尓多礼可止不部幾
和歌 はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
解釈 春霞はかなく立ちて別るとも風より外に誰れか問ふべき

歌番号一三四三
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 女尓美恵奴可世尓己々呂遠多久部徒々也良八加寸三乃和可礼己曽世女
定家 女尓見恵奴風尓心遠多久部徒々也良八加寸三乃和可礼己曽世女
和歌 めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
解釈 
目に見えぬ風に心をたぐへつつやらば霞の別れこそせめ
歌番号一三四四
加比部万可利个留飛止尓川可八之个留
加比部万可利个留人尓川可八之个留
甲斐へまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 幾美可与者徒留乃己本利尓安恵天幾祢左多女奈幾与乃宇多可比毛奈久
定家 君可世者徒留乃己本利尓安恵天幾祢定奈幾与乃宇多可比毛奈久
和歌 きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく
解釈 君が世は都留の郡にあえて来ね定めなき世の疑ひもなく

歌番号一三四五
布祢尓天毛乃部万可利个留飛止尓川可八之个留
舟尓天物部万可利个留人尓川可八之个留
舟にて物へまかりける人につかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 遠久礼寸曽己々呂尓乃利天己可留部幾奈美尓毛止女与布祢美衣春止毛
定家 遠久礼寸曽心尓乃利天己可留部幾浪尓毛止女与舟見衣春止毛
和歌 おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも
解釈 遅れずぞ心に乗りて漕がるべき浪に求めよ舟見えずとも

歌番号一三四六
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 布祢奈久者安万乃可八万天毛止女天武己幾川々之本乃奈可尓幾衣寸八
定家 舟奈久者安万乃河万天毛止女天武己幾川々之本乃奈可尓幾衣寸八
和歌 ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは
解釈 舟なくは天の河まで求めてむ漕ぎつつ潮の中に消えずは

歌番号一三四七
布祢尓天毛乃部万可利个留飛止
舟尓天物部万可利个留人
舟にて物へまかりける人

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加祢天与利奈美多曽々天遠宇知奴良寸宇可部留布祢尓乃良武止於毛部八
定家 加祢天与利涙曽袖遠宇知奴良寸宇可部留舟尓乃良武止思部八
和歌 かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは
解釈 かねてより涙ぞ袖をうち濡らす浮かべる舟に乗らむと思へば

歌番号一三四八
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 遠左部徒々和礼者曽天尓曽世幾止武留布祢己寸之本尓奈左之止於毛部八
定家 遠左部徒々我者袖尓曽世幾止武留舟己寸之本尓奈左之止於毛部八
和歌 おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは
解釈 押さへつつ我は袖にぞせき止むる舟越す潮になさじと思へば

歌番号一三四九
止遠幾止己呂尓万可留止天於无奈乃毛止尓川可者之个留
止遠幾所尓万可留止天女乃毛止尓川可者之个留
遠き所にまかるとて女のもとにつかはしける

従良由幾
貫之
貫之(紀貫之)

原文 和春礼之止己止尓武寸日天和可留礼者安比美武万天者於毛日三多留奈
定家 和春礼之止己止尓武寸日天和可留礼者安比見武万天者思日見多留奈
和歌 わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな
解釈 忘れじとことに結びて別るればあひ見むまでは思ひ乱るな


多比乃宇多
羇旅歌

歌番号一三五〇
安留飛止以也之幾奈止利天止宇止宇三乃久尓部満可留止天
者川世可者遠和多留止天与美者部利个留
安留人以也之幾名止利天遠江国部満可留止天
者川世河遠和多留止天与美侍个留
ある人いやしき名取りて遠江国へまかるとて
初瀬河を渡るとてよみ侍りける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者川世可者和多留世佐部也尓己留良无与尓寸美可多幾和可三止於毛部者
定家 者川世河和多留世佐部也尓己留良无世尓寸美可多幾和可身止思部者
和歌 はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは
解釈 初瀬河渡る瀬さへや濁るらん世に住みがたき我が身と思へば

歌番号一三五一
多和礼之万遠美天
多和礼之万遠見天
たはれ島を見て

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 奈尓之於者々安多尓曽於毛不堂者礼之万奈美乃奴礼幾奴以久与幾川良无
定家 名尓之於者々安多尓曽思堂者礼之万浪乃奴礼幾奴以久与幾川良无
和歌 なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ
解釈 名にし負はばあだにぞ思ふたはれ島浪の濡衣いく夜着つらん

歌番号一三五二
安徒万部万可利个留尓寸幾奴留可多己比之久於本衣
个留本止尓可者遠和多利个留尓奈美乃多知
遣累遠三天
安徒万部万可利个留尓寸幾奴留方己比之久於本衣
个留本止尓河遠和多利个留尓奈美乃多知
遣累遠見天
東へまかりけるに、過ぎぬる方恋しくおぼえ
けるほどに、河を渡りけるに、浪の立ち
けるを見て

奈利比良乃安曾无
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 伊止々之久寸幾由久可多乃己比之幾尓宇良也末之久毛可部留奈美可奈
定家 伊止々之久寸幾由久方乃己比之幾尓宇良山之久毛帰浪哉
和歌 いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな
解釈 いとどしく過ぎ行く方の恋しきにうら山しくも帰る浪かな

歌番号一三五三
志良也万部万宇天个留尓美知奈可与利多与利乃
飛止尓川个天徒可者之个留
志良山部万宇天个留尓美知中与利多与利乃
人尓川个天徒可者之个留
白山へまうでけるに道中より便りの
人につけてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美也己満天遠止尓布利久留志良也万者由幾川幾可多幾止己呂奈利个利
定家 宮己満天遠止尓布利久留白山者由幾川幾可多幾所奈利个利
和歌 みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり
解釈 都まで音に降り来る白山は行き着きがたき所なりけり

歌番号一三五四
奈可波良乃武祢幾可美乃々久尓部万可利久多利者部利个留
尓美知尓於无奈乃以部尓也止利天以比川幾天佐利可多久
於保衣个礼者布川可美川可者部利天也武己止奈幾己止尓与利
天満可利多知个礼者幾奴遠川々美天曽礼可宇部尓
加幾天遠久利者部利个留
奈可波良乃武祢幾可美乃々久尓部万可利久多利侍个留
尓美知尓女乃家尓也止利天以比川幾天佐利可多久
於保衣个礼者二三日侍天也武己止奈幾事尓与利
天満可利多知个礼者幾奴遠川々美天曽礼可宇部尓
加幾天遠久利侍个留
中原宗興が美濃国へまかり下り侍りける
に道に女の家に宿りて、言ひつきて去りがたく
おぼえければ、二三日侍りてやむごとなき、事により
て、まかりたちければ、絹を包みてそれが上に
書きて贈り侍りける

奈可者良乃武祢幾
中原宗興
中原宗興

原文 也万佐止乃久左者乃川由毛志个可良无美乃之呂己呂毛奴者寸止毛幾与
定家 山佐止乃草者乃川由毛志个可良无美乃之呂衣奴者寸止毛幾与
和歌 やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ
解釈 山里の草葉の露も繁からん蓑代衣縫はずとも着よ

歌番号一三五五
止左与利満可利乃本利个留布祢乃宇知尓天美
者部利个留尓也万乃者奈良天川幾乃奈美乃奈可与利
以徒留也宇尓美衣个礼者武可之安倍乃奈可末呂可
毛呂己之尓天布利左計美礼者止以部留
己止遠於毛比也利天
土左与利満可利乃本利个留舟乃宇知尓天見
侍个留尓山乃者奈良天月乃浪乃奈可与利
以徒留也宇尓見衣个礼者武可之安倍乃奈可末呂可
毛呂己之尓天布利左計見礼者止以部留
己止遠思也利天
土左よりまかり上りける舟のうちにて見
侍りけるに、山の端ならで月の浪の中より
出づるやうに見えければ、昔安倍仲麿が
唐土にて「ふりさけ見れば」と言へる
ことを思ひやりて

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 美也己尓天也万乃者尓美之川幾奈礼止宇美与利以天々宇美尓己曽以礼
定家 宮己尓天山乃者尓見之月奈礼止海与利以天々海尓己曽以礼
和歌 みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ
解釈 都にて山の端に見し月なれど海より出でて海にこそ入れ

歌番号一三五六
保宇己宇乃美也乃多幾止以不止己呂美八曽奈之个留於保武止毛尓天
法皇宮乃多幾止以不所御覧之个留御止毛尓天
法皇、宮の滝といふ所御覧じける御供にて

春可者良乃美幾乃於本以万宇知幾三
菅原右大臣
菅原右大臣

原文 美川比幾乃志良以止者部天遠留波多者多比乃己呂毛尓多知也可左祢无
定家 水比幾乃志良以止者部天遠留波多者旅乃衣尓多知也可左祢无
和歌 みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ
解釈 水引きの白糸はへて織る機は旅の衣に裁ちや重ねん

歌番号一三五七
美知末可利个留川以天尓比久良之乃也万遠万可利者部利天
道末可利个留川以天尓比久良之乃山遠万可利侍天
道まかりけるついてに、ひくらしの山をまかり侍りて

春可者良乃美幾乃於本以万宇知幾三
菅原右大臣
菅原右大臣

原文 飛久良之乃也満知遠久良美左与布遣天己乃寸恵己止尓毛美知天良世留
定家 飛久良之乃山知遠久良美左与布遣天己乃寸恵己止尓毛美知天良世留
和歌 ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる
解釈 ひぐらしの山路を暗み小夜更けて木の末ごとに紅葉照らせる

歌番号一三五八
者徒世部万宇川止天也万乃部止以不和多利尓天与三者部利个留
者徒世部万宇川止天山乃部止以不和多利尓天与三侍个留
初瀬へ詣づとて山の辺といふわたりにてよみ侍りける

以世
伊勢
伊勢

原文 久左万久良堂比止奈利奈者也万乃部尓志良久毛奈良奴和礼也々止良无
定家 草枕堂比止奈利奈者山乃部尓志良久毛奈良奴我也々止良无
和歌 くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ
解釈 草枕旅となりなば山の辺に白雲ならぬ我や宿らん

歌番号一三五九
宇知止乃止以不止己呂遠
宇知止乃止以不所遠
宇治殿といふ所を

以世
伊勢
伊勢

原文 美川毛世尓宇幾奴留止幾者志可良美乃宇知乃止乃止毛美恵奴毛美知八
定家 水毛世尓宇幾奴留時者志可良美乃宇知乃止乃止毛見恵奴毛美知八
和歌 みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは
解釈 水もせに浮きぬる時はしがらみの内の外のとも見えぬもみぢ葉

歌番号一三六〇
宇美乃本止利尓天己礼可礼世宇衣宇之者部利个留川以天尓
海乃本止利尓天己礼可礼世宇衣宇之侍个留川以天尓
海のほとりにて、これかれ逍遥し侍りけるついでに

己末知
己末知
こまち(小野小町)

原文 者奈左幾天美奈良奴毛乃者和多川宇三乃加左之尓左世留於幾川志良奈美
定家 花左幾天美奈良奴物者和多川宇三乃加左之尓左世留於幾川白浪
和歌 はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ
解釈 花咲きて実ならぬ物はわたつうみのかざしに挿せる沖つ白浪

歌番号一三六一
安徒万奈留飛止乃毛止部満可利个留三知尓佐可美乃
阿之可良乃世幾尓天於无奈乃美也己尓万可利乃本利个留
尓安比天
安徒万奈留人乃毛止部満可利个留道尓佐可美乃
阿之可良乃世幾尓天女乃京尓万可利乃本利个留
尓安比天
東なる人のもとへまかりける道に、相模の
足柄の関にて、女の京にまかり上りける
に逢ひて

之无世為保宇之
真静法師
真静法師

原文 安之可良乃世幾乃也万知遠由久飛止者志留止志良奴毛宇止可良奴可奈
定家 安之可良乃世幾乃山地遠由久人者志留止志良奴毛宇止可良奴哉
和歌 あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな
解釈 足柄の関の山路を行く人は知るも知らぬも疎からぬかな

歌番号一三六二
保宇己宇止遠幾止己呂尓也万布美之多末宇天美也己尓
加部利多万不尓多比也止利之太末宇天於保武止毛
尓佐布良不堂宇曽久宇多与万世堂万比个留尓
法皇止遠幾所尓山布美之多末宇天京尓
加部利多万不尓多比也止利之太末宇天御止毛
尓佐布良不道俗宇多与万世給个留尓
法皇、遠き所に山踏みしたまうて京に
帰りたまふに、旅宿りしたまうて、御供
にさぶらふ道俗歌よませ給ひけるに

之也宇世以之也宇保宇
僧正聖宝
僧正聖宝

原文 飛止己止尓遣不/\止乃美己比良留々美也己知可久毛奈利尓个留可奈
定家 人己止尓遣不/\止乃美己比良留々宮己知可久毛成尓个留哉
和歌 ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな
解釈 人ごとに今日今日とのみ恋ひらるる都近くもなりにけるかな

歌番号一三六三
止左与利尓武者天々乃本利者部利个留尓布祢乃宇知尓天
川幾遠美天
土左与利任者天々乃本利侍个留尓舟乃宇知尓天
月遠見天
土左より任果てて上り侍りけるに、舟のうちにて
月を見て

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 天累川幾乃奈可留々美礼者安満乃可八以川留三那止者宇美尓曽安利个留
定家 天累月乃奈可留々見礼者安満乃河以川留三那止者海尓曽有个留
和歌 てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける
解釈 照る月の流るる見れば天の河出づる港は海にぞ有りける

歌番号一三六四
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

天以之為无乃於保美宇多
亭子院御製
亭子院御製

原文 久差万久良毛美知武之呂尓加部多良波己々呂遠久多久毛乃奈良万之也
定家 草枕紅葉武之呂尓加部多良波心遠久多久物奈良万之也
和歌 くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
解釈 草枕紅葉むしろに代へたらば心を砕く物ならましや

歌番号一三六五
美也己尓於毛不飛止者部利天止遠幾止己呂与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天奈可川幾者可利尓
京尓思不人侍天止遠幾所与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天九月許尓
京に思ふ人侍りて、遠き所より帰りまうで来
ける道に留まりて、九月ばかりに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於毛不飛止安利天加部礼者以川之可乃川万々川与為乃己衛曽可奈之幾
定家 思不人安利天加部礼者以川之可乃川万々川与為乃己衛曽可奈之幾
和歌 おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
解釈 思ふ人ありて帰ればいつしかの妻待つ宵の声ぞ悲しき

歌番号一三六六
美也己尓於毛不飛止者部利天止遠幾止己呂与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天奈可川幾者可利尓
京尓思不人侍天止遠幾所与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天九月許尓
京に思ふ人侍りて、遠き所より帰りまうで来
ける道に留まりて、九月ばかりに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 久左万久良由不天者可利八奈尓奈礼也徒由毛奈美多毛越幾可部利川々
定家 草枕由不天許八奈尓奈礼也徒由毛奈美多毛越幾可部利川々
和歌 くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
解釈 草枕結ふてばかりは何なれや露も涙も置きかへりつつ

歌番号一三六七
美也乃多幾止以不止己呂尓保宇己宇於者之末之多利
个留尓於保世己止安利天
宮乃多幾止以不所尓法皇於者之末之多利
个留尓於保世己止安利天
宮の滝といふ所に法皇おはしましたり
けるに仰せ言ありて

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 安幾也万尓万止不己々呂遠見也多幾乃堂幾乃志良安和尓計知也者天々武
定家 秋山尓万止不心遠見也多幾乃堂幾乃志良安和尓計知也者天々武
和歌 あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
解釈 秋山にまどふ心を宮滝の滝の白泡に消ちや果ててむ

コメント

後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十八

2020年10月11日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利也末幾仁安多留未幾
巻十八

久左久左乃宇多与川
雑歌四

歌番号一二五〇
加者徒遠幾々天
加者徒遠幾々天
蛙を聞きて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和可也止尓安飛也止利之天春武加者徒与留尓奈礼者也毛乃八加奈良之幾
定家 和可也止尓安飛也止利之天春武加者徒与留尓奈礼者也物八悲幾
和歌 わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき
解釈 我が宿にあひ宿りして住む蛙夜になればや物は悲しき

歌番号一二五一
飛止/\安満多志利天者部利个留於无奈乃毛止尓止毛多知乃毛止
与利己乃己呂者於毛比佐多女多留奈女利堂乃毛之幾
己止奈利止堂者布礼遠己世天者部利个礼者
飛止/\安満多志利天侍个留女乃毛止尓友多知乃毛止
与利己乃己呂者思定多留奈女利堂乃毛之幾
事也止堂者布礼遠己世天侍个礼者
人々あまた知りて侍りける女のもとに、友だちのもと
より、このごろは思ひ定めたるなめり。
頼もしき事なり、と戯れおこせて侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂満衣己具安之加利遠不祢左之和个天多礼遠多礼止可和礼者さ多女无
定家 玉江己具安之加利遠舟左之和个天誰遠多礼止可我者定女无
和歌 たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ
解釈 玉江漕ぐ葦刈小舟さし分けて誰れを誰れとか我は定めん

歌番号一二五二
越止己乃者之女以可尓於毛部留左満尓可安利个武
於无奈乃遣之幾毛己々呂止个奴遠三天安也之久
於毛者奴左万奈留己止々以比者部利个礼八
越止己乃者之女以可尓於毛部留左満尓可有个武
女乃遣之幾毛心止个奴遠見天安也之久
於毛者奴左万奈留己止々以比侍个礼八
男の、初めいかに思へるさまにか有りけむ
女の気色も心解けぬを見て、あやしく
思はぬさまなること、と言ひ侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美知乃久乃於布知乃己満毛乃可不尓八安礼己曽万左礼奈川久毛乃可八
定家 美知乃久乃於布知乃己満毛乃可不尓八安礼己曽万左礼奈川久毛乃可八
和歌 みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは
解釈 陸奥のおぶちの駒ものがふには荒れこそまされなつくものかは

歌番号一二五三
知宇之与宇尓天宇知尓佐布良比个留止幾安比之利多利
遣留於无奈久良宇止乃佐宇之尓川本也奈久比於以
加个遠也止之遠幾天者部利个留遠尓八可尓己止
安利天止遠幾止己呂尓満可利者部利个利己乃於无奈乃毛止
与利己乃於以加个遠々己世天安者礼奈留己止
奈止以比天者部利个留可部之己止尓
中将尓天内尓佐布良比个留時安比之利多利
遣留女蔵人乃佐宇之尓川本也奈久比於以
加个遠也止之遠幾天侍个留遠尓八可尓事
安利天止遠幾所尓満可利侍个利己乃女乃毛止
与利己乃於以加个遠々己世天安者礼奈留事
奈止以比天侍个留返事尓
中将にて内裏にさぶらひける時、相知りたり
ける女蔵人の曹司に壺やなぐひ、
老懸を宿し置きて侍りけるを、にはかに事
ありて、遠き所にまかり侍りけり。この女のもと
よりこの老懸をおこせて、あはれなる事
など言ひて侍りける返事に

美奈毛堂乃与之乃々安曾无
源善朝臣
源善朝臣

原文 伊徒久止天多川祢天幾徒良无多万加川良和礼者无可之乃和礼奈良奈久尓
定家 伊徒久止天尋幾徒覧玉加川良我者昔乃我奈良奈久尓
和歌 いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに
解釈 いづくとて尋ね来つらん玉葛我は昔の我ならなくに

歌番号一二五四
堂与利尓川幾天飛止乃久尓乃加多尓者部利天美也己尓
比佐之宇満可利乃本良左利个留止幾尓止毛多知尓
徒可者之遣留
堂与利尓川幾天人乃久尓乃方尓侍天京尓
比佐之宇満可利乃本良左利个留時尓止毛多知尓
徒可者之遣留
便りにつきて、人の国の方に侍りて、京に
久しうまかり上らざりける時に、友だちに
つかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安佐己止尓三之美也己地乃多衣奴礼者己止安也万利尓止不飛止毛奈之
定家 安佐己止尓見之宮己地乃多衣奴礼者事安也万利尓止不人毛奈之
和歌 あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし
解釈 朝ごとに見し都路の絶えぬれば事誤りに問ふ人もなし

歌番号一二五五
止遠幾久尓々者部利个留飛止遠美也己尓乃本利多利止
幾々天安比末川尓万宇天幾奈可良止者左利个礼八
止遠幾久尓々侍个留人遠京尓乃本利多利止
幾々天安比末川尓万宇天幾奈可良止者左利个礼八
遠き国に侍りける人を、京に上りたりと
聞きてあひ待つに、まうで来ながら訪はざりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊川之可止満川知乃也末乃左久良者奈万知天毛与曽尓幾久可々奈之左
定家 伊川之可止満川知乃山乃桜花万知天毛与曽尓幾久可々奈之左
和歌 いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ
解釈 いつしかと待乳の山の桜花待ちてもよそに聞くが悲しさ

歌番号一二五六
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 以世和多留可者々曽天与利奈可留礼止々布尓止者礼奴三者宇幾奴女利
定家 以世和多留河者袖与利奈可留礼止々布尓止者礼奴身者宇幾奴女利
和歌 いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり
解釈 いせ渡る河は袖より流るれど問ふに問はれぬ身は浮きぬめり

歌番号一二五七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

幾多乃部乃比多利乃於本以万宇知幾三
北辺左大臣
北辺左大臣

原文 飛止女多尓美衣奴也末知尓堂川久毛遠多礼寸三可万乃計无利止以不良无
定家 人女多尓見衣奴山地尓立雲遠多礼寸三可万乃煙止以不良无
和歌 ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ
解釈 人めだに見えぬ山路に立つ雲を誰れすみがまの煙といふらん

歌番号一二五八
越止己乃飛止尓毛安万多止部和礼也安多奈留
己々呂安留止以部利个礼者
越止己乃人尓毛安万多止部我也安多奈留
心安留止以部利个礼者
男の人にもあまた問へ。我やあだなる
心あると言へりければ

以世
伊勢
伊勢

原文 安寸可々者布知世尓加者留己々呂止者美奈加美之毛乃飛止毛以不女利
定家 安寸可河淵世尓加者留心止者美奈加美之毛乃人毛以不女利
和歌 あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり
解釈 飛鳥河淵瀬に変る心とはみな上下の人も言ふめり

歌番号一二五九
飛止乃武己乃以末満宇天己武止以比天満可利尓
个留可布美遠己寸留飛止安利止幾々天比左之宇
満宇天己佐利个礼者安止宇加多利乃己々呂遠
止利天加久奈武毛宇寸女留止以比川可者之个留
人乃武己乃今満宇天己武止以比天満可利尓
个留可布美遠己寸留人安利止幾々天比左之宇
満宇天己佐利个礼者安止宇加多利乃心遠
止利天加久奈武申女留止以比川可者之个留
人の婿の「今まうで来む」と言ひてまかりに
けるが、文おこする人ありと聞きて、久しう
まうで来ざりければ、あとうがたりの心を
とりて、かくなむ申すめると言ひつかはしける

武寸女乃波々
女乃波々
女のはは(女母)

原文 以末己武止以比之者可利遠以乃知尓天満川尓遣奴部之佐久左女乃止之
定家 今己武止以比之許遠以乃知尓天満川尓遣奴部之佐久左女乃止之
和歌 いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし
解釈 今来むと言ひしばかりを命にて待つに消ぬべしさくさめの刀自

歌番号一二六〇
加部之 
返之 
返し

武己
武己
むこ(婿)

原文 加寸奈良奴三乃美毛乃宇久於毛本衣天満多留々万天毛奈利尓个留可奈
定家 加寸奈良奴身乃美物宇久於毛本衣天満多留々万天毛奈利尓个留哉
和歌 かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな
解釈 数ならぬ身のみ物憂く思ほえて待たるるまでもなりにけるかな

歌番号一二六一
徒祢尓久止天宇留佐可利天加久礼个礼八川可八之个留
徒祢尓久止天宇留佐可利天加久礼个礼八川可八之个留
常に来とて、うるさがりて隠れければ、つかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安利止幾久遠止者乃也末乃保止々幾寸奈尓加久留良无奈久己恵者之天
定家 有止聞遠止者乃山乃郭公何加久留良无奈久己恵者之天
和歌 ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして
解釈 有りと聞く音羽の山の郭公何に隠るらん鳴く声はして

歌番号一二六二
毛乃尓己毛利多留尓志利多留飛止乃川本祢奈良部天
世宇可川遠己奈比天以徒留安可川幾尓以止幾多奈計
奈留之多宇川遠於止之多利个留遠止利天
徒可者寸止天
物尓己毛利多留尓志利多留人乃川本祢奈良部天
正月遠己奈比天以徒留暁尓以止幾多奈計
奈留之多宇川遠於止之多利个留遠止利天
徒可者寸止天
物に籠もりたるに知りたる人の局並べて、
正月行ひて出づる暁に、いと汚げ
なる下沓を落としたりけるを、取りて
つかはすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安之乃宇良乃以止幾多奈久毛三由留可奈々美者与利天毛安良八左利个利
定家 安之乃宇良乃以止幾多奈久毛見由留哉浪者与利天毛安良八左利个利
和歌 あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり
解釈 足の裏のいと汚くも見ゆるかな浪は寄りても洗はざりけり

歌番号一二六三
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 飛止己々呂堂止部天三礼者之良川由乃幾由留万毛奈保比左之可利个利
定家 人心堂止部天見礼者白露乃幾由留万毛猶比左之可利个利
和歌 ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり
解釈 人心たとへて見れば白露の消ゆる間もなほ久しかりけり

歌番号一二六四
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 与乃奈可止以比川留毛乃可加遣呂不乃安留可奈幾可乃本止尓曽安利个留
定家 世中止以比川留物可加遣呂不乃安留可奈幾可乃本止尓曽有个留
和歌 よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける
解釈 世の中と言ひつるものかかげろふのあるかなきかのほどにぞ有りける

歌番号一二六五
止毛多知尓者部利个留於无奈乃止之比左之久多乃三天
者部利个留於止己尓止者礼寸者部利个礼八毛呂止毛尓奈个幾天
友多知尓侍个留女乃止之比左之久多乃三天
侍个留於止己尓止者礼寸侍个礼八毛呂止毛尓奈个幾天
友だちに侍りける女の、年久しく頼みて
侍りける男に訪はれず侍りければ、もとろもに嘆きて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加久者可利和可礼乃也寸幾与乃奈可尓川祢止多乃女留和礼曽者可那幾
定家 加久許別乃也寸幾世中尓川祢止多乃女留我曽者可那幾
和歌 かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき
解釈 かくばかり別れのやすき世の中に常と頼める我ぞはかなき

歌番号一二六六
徒祢尓奈幾奈多知者部利个礼八
徒祢尓奈幾奈多知侍个礼八
常になき名立ち侍はりければ

以世
伊勢
伊勢

原文 知里尓堂川和可奈幾与女无毛々之幾乃飛止乃己々呂遠万久良止毛可奈
定家 知里尓立和可奈幾与女无毛々之幾乃人乃心遠万久良止毛哉
和歌 ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな
解釈 塵に立つ我が名清めん百敷の人の心を枕ともがな

歌番号一二六七
安多奈留奈多知天以比左者可礼个留己呂安留
於止己保乃可尓幾々天安者礼以可尓曽止々比
者部利个礼者
安多奈留名多知天以比左者可礼个留己呂安留
於止己保乃可尓幾々天安者礼以可尓曽止々比
侍个礼者
あだなる名立ちて言ひ騒がれけるころ、ある
男ほのかに聞きて、あはれいかにぞ、と問ひ
侍りければ

己万知可武万己
己万知可武万己
こまちかむまこ(小町孫)

原文 宇幾己止遠志乃不留安女乃志多尓之天和可奴礼幾奴者本世止加者可寸
定家 宇幾事遠志乃不留雨乃志多尓之天和可奴礼幾奴者本世止加者可寸
和歌 うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす
解釈 憂き事をしのぶる雨の下にして我が濡衣は干せど乾かず

歌番号一二六八
止奈利奈利个留己止遠加利天加部寸川以天尓
止奈利奈利个留己止遠加利天加部寸川以天尓
隣なりける琴を借りて、返すついでに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安不己止乃加多美乃己恵乃堂可个礼者和可奈久祢止毛飛止者幾可奈无
定家 逢事乃加多美乃己恵乃堂可个礼者和可奈久祢止毛人者幾可奈无
和歌 あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ
解釈 逢ふ事のかたみの声の高ければ我が泣く音とも人は聞かなん

歌番号一二六九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 奈良美多乃美志留見乃宇佐毛加多留部久奈計久己々呂遠万久良尓毛可奈
定家 涙乃美志留身乃宇佐毛加多留部久奈計久心遠万久良尓毛哉
和歌 なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな
解釈 涙のみ知る身の憂さも語るべく嘆く心を枕にもがな

歌番号一二七〇
毛乃於毛比个留己呂
物思个留己呂
物思ひけるころ

以世
伊勢
伊勢

原文 安比尓安日天毛乃於毛不己呂乃和可曽天者也止留川幾左部奴留々可本奈留
定家 安比尓安日天物思己呂乃和可袖者也止留月左部奴留々可本奈留
和歌 あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる
解釈 逢ひに逢ひて物思ふころの我が袖は宿る月さへ濡るる顔なる

歌番号一二七一
安留止己呂尓春乃満部尓加礼己礼毛乃可多利之
者部利个留遠幾々天宇知与利於无奈乃己恵尓天安也
之久毛乃乃安者礼志利可本奈留於幾奈可奈止
以不遠幾々天
安留所尓春乃満部尓加礼己礼物可多利之
侍个留遠幾々天宇知与利女乃己恵尓天安也
之久物乃安者礼志利可本奈留於幾奈可奈止
以不遠幾々天
ある所に、簾の前にかれこれ物語りし
侍りけるを聞きて、内より女の声にて、あや
しく物のあはれ知り顔なる翁かなと
言ふを聞きて

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 安者礼天不己止尓志留之者奈个礼止毛以者天者衣己曽安良奴毛乃奈礼
定家 安者礼天不事尓志留之者奈个礼止毛以者天者衣己曽安良奴物奈礼
和歌 あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ
解釈 あはれてふ事にしるしはなけれども言はではえこそあらぬ物なれ

歌番号一二七二
於无奈止毛多知乃川祢尓以比加者之个累遠比左之久
遠止川礼左利个礼者可无奈川幾者可利尓安多飛止乃
於毛不止以比之己止乃者々止以不々留己止遠以比加者之
多利个礼者多个乃者尓加幾川个天徒可者
之个留
女止毛多知乃川祢尓以比加者之个累遠比左之久
遠止川礼左利个礼者十月許尓安多人乃
思不止以比之事乃者々止以不々留己止遠以比加者之
多利个礼者竹乃者尓加幾川个天徒可者
之个留
女友だちの常に言ひ交しけるを、久しく
訪れざりければ、十月ばかりに、あだ人の
思ふと言ひし言の葉は、といふ古言を言ひ交し
たりければ、竹の葉に書きつけてつかは
しける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 宇徒呂者奴奈尓奈可礼多留加者多个乃以川礼乃与尓可安幾遠之留部幾
定家 宇徒呂者奴奈尓奈可礼多留加者竹乃以川礼乃世尓可秋遠之留部幾
和歌 うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき
解釈 移ろはぬ名に流れたる川竹のいづれの世にか秋を知るべき

歌番号一二七三
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

於久留於本幾於本以万宇知幾三
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 布可幾於毛日曽女川止以比之己止乃八々伊川可安幾加世布幾天知利奴留
定家 布可幾思日曽女川止以比之事乃八々伊川可秋風布幾天知利奴留
和歌 ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
解釈 深き思ひ染めつと言ひし言の葉はいつか秋風吹きて散りぬる

歌番号一二七四
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 己々呂奈幾美者久左幾尓毛安良奈久尓安幾久留可世尓宇多加八留良无
定家 心奈幾身者草木尓毛安良奈久尓秋久留風尓宇多加八留良无
和歌 こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
解釈 心なき身は草木にもあらなくに秋来る風に疑はるらん

歌番号一二七五
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 美乃宇幾遠志礼者々之多尓奈利奴部美於毛部八武祢乃己可礼乃三寸留
定家 身乃宇幾遠志礼者々之多尓奈利奴部美於毛部八武祢乃己可礼乃三寸留
和歌 みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする
解釈 身の憂きを知ればはしたになりぬべみ思ひは胸の焦がれのみする

歌番号一二七六
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 久毛知遠毛志良奴和礼左部毛呂己恵尓个不者可利止曽奈幾加部利奴留
定家 雲地遠毛志良奴我左部毛呂己恵尓个不許止曽奈幾加部利奴留
和歌 くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる
解釈 雲路をも知らぬ我さへもろ声に今日ばかりとぞ泣きかへりぬる

歌番号一二七七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 満多幾加良於毛比己幾以呂尓曽女武止也和可武良左幾乃祢遠多川奴良无
定家 満多幾加良於毛比己幾以呂尓曽女武止也和可武良左幾乃祢遠多川奴良无
和歌 またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ
解釈 まだきから思ひ濃き色に染めむとや若紫の根を尋ぬらん

歌番号一二七八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 美衣毛世奴布可幾己々呂遠加多利天八飛止尓加知奴止於毛不毛乃可八
定家 見衣毛世奴深幾心遠加多利天八人尓加知奴止思不毛乃可八
和歌 みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは
解釈 見えもせぬ深き心を語りては人に勝ちぬと思ふものかは

歌番号一二七九
天為之為无尓左不良比个留尓於保武止幾乃於呂之
多末者世多利个礼者
亭子院尓左不良比个留尓御止幾乃於呂之
多末者世多利个礼者
亭子院にさぶらひけるに、御斎の下し
たまはせたりければ

以世
伊勢
伊勢

原文 以世乃宇美尓止之部天寸美之安万奈礼止加々留美留女者可部留左利之遠
定家 伊勢乃海尓年部天寸美之安万奈礼止加々留美留女者可部留左利之遠
和歌 いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを
解釈 伊勢の海に年経て住みし海人なれどかかるみるめはかづかざりしを

歌番号一二八〇
安波多乃以部尓天飛止尓川可八之个留
栗田乃家尓天人尓川可八之个留
粟田の家にて人につかはしける

加祢寸个乃安曾无
加祢寸个乃朝臣
かねすけの朝臣(藤原兼輔)

原文 安之比幾乃也末乃也万止利加比毛奈之美祢乃之良久毛多知之与良祢八
定家 安之比幾乃山乃山鳥加比毛奈之峯乃白雲多知之与良祢八
和歌 あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは
解釈 あしひきの山の山鳥かひもなし峯の白雲立ちし寄らねば

歌番号一二八一
比多利乃於本以万宇知幾三乃以部尓天加礼己礼堂為遠左久利天
宇多与美个留尓川由止以不毛之遠衣者部利天
左大臣乃家尓天加礼己礼題遠左久利天
哥与美个留尓川由止以不毛之遠衣侍天
左大臣の家にてかれこれ題を探りて
歌よみけるに、露といふ文字を得侍りて

布知八良乃多々久尓
布知八良乃多々久尓
ふちはらのたたくに(藤原忠国)

原文 和礼奈良奴久左波毛々乃者於毛比个利曽天与利保可尓遠个留之良川由
定家 我奈良奴草葉毛々乃者思个利袖与利外尓遠个留之良川由
和歌 われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ
解釈 我ならぬ草葉も物は思けり袖より外に置ける白露

歌番号一二八二
飛止乃毛止尓徒可者之个留
人乃毛止尓徒可者之个留
人のもとにつかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 飛止己々呂安良之乃加世乃左武个礼者己乃女毛美衣寸衣多曽志本留々
定家 人心嵐乃風乃左武个礼者己乃女毛見衣寸枝曽志本留々
和歌 ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる
解釈 人心嵐の風の寒ければ木の芽も見えず枝ぞしほるる

歌番号一二八三
己止飛止遠安比可多良不止幾々天川可八之个留
己止人遠安比可多良不止幾々天川可八之个留
異人をあひ語らふと聞きてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 宇幾奈可良飛止遠和寸礼武己止可多三和可己々呂己曽加八良左利个礼
定家 宇幾奈可良人遠和寸礼武事可多三和可心己曽加八良左利个礼
和歌 うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ
解釈 憂きながら人を忘れむ事かたみ我が心こそ変らざりけれ

歌番号一二八四
安留保宇之乃美奈毛止乃比止之乃安曾无乃以部尓
万可利天寸々乃寸可利遠於止之遠个留遠安之多尓
遠久留止天
安留法師乃源乃比止之乃朝臣乃家尓
万可利天寸々乃寸可利遠於止之遠个留遠安之多尓
遠久留止天
ある法師の源等の朝臣の家にまかりて、
数珠のすがりを落としをけるを、朝に
贈るとて

美奈毛堂乃比止之乃安曾无
源乃比止之乃朝臣
源のひとしの朝臣(源等)

原文 宇多々祢乃止己尓止万礼留之良多万八幾び可遠幾个留川由尓也安留良无
定家 宇多々祢乃止己尓止万礼留白玉八君可遠幾个留川由尓也安留良无
和歌 うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ
解釈 うたたねの床にとまれる白玉は君が置きける露にやあるらん

歌番号一二八五
加部之 
返之 
返し

安留保宇之
安留法師
ある法師

原文 加比毛奈幾幾左乃末久良尓遠久川由乃奈尓々幾衣奈天於知止万利个武
定家 加比毛奈幾草乃枕尓遠久川由乃何尓幾衣奈天於知止万利个武
和歌 かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ
解釈 かひもなき草の枕に置く露の何に消えなで落ちとまりけむ

歌番号一二八六
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於毛比也留可多毛志良礼春久留之幾八己々呂万止日乃川祢尓也安留良武
定家 思也留方毛志良礼春久留之幾八心万止日乃川祢尓也安留良武
和歌 おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ
解釈 思ひやる方も知られず苦しきは心まどひの常にやあるらむ

歌番号一二八七
武可之遠於毛比以天々武良乃己乃奈以之尓川可八之个留
武可之遠思以天々武良乃己乃内侍尓川可八之个留
昔を思ひ出でてむらのこの内侍につかはしける

比多利乃於本以万宇知幾三
左大臣
左大臣

原文 寸々无之尓於止良奴祢己曽奈可礼个礼无可之乃安幾遠於毛比也利川々
定家 鈴虫尓於止良奴祢己曽奈可礼个礼昔乃秋遠思也利川々
和歌 すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ
解釈 鈴虫に劣らぬ音こそ泣かれけれ昔の秋を思ひやりつつ

歌番号一二八八
飛止利者部利个留己呂飛止乃毛止与利以可尓曽止々不良比天
者部利个礼者安左可本乃者奈尓川个天川可
者之个留
飛止利侍个留己呂人乃毛止与利以可尓曽止々不良比天
侍个礼者安左可本乃花尓川个天川可
者之个留
一人侍りけるころ、人のもとよりいかにぞ、と訪ぶらひて
侍りければ、朝顔の花につけてつか
はしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 遊不久礼乃左比之幾毛乃者安左可本乃者奈遠多乃女留也止尓曽安利个留
定家 遊不久礼乃左比之幾物者槿乃花遠多乃女留也止尓曽安利个留
和歌 ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける
解釈 夕暮れのさびしき物は朝顔の花を頼める宿にぞありける

歌番号一二八九
比多利乃於本以万宇知幾三乃加々世者部利个留佐宇之乃
於久尓加幾川計者部利个留
左大臣乃加々世侍个留佐宇之乃
於久尓加幾川計侍个留
左大臣の書かせ侍りける冊子の
奥に書きつけ侍りける

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 者々曽也万美祢乃安良之乃加世遠以多美布留己止乃者遠加幾曽安川武留
定家 者々曽山峯乃嵐乃風遠以多美布留己止乃者遠加幾曽安川武留
和歌 ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる
解釈 ははそ山峯の嵐の風をいたみふる言の葉をかきぞ集むる

歌番号一二九〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

己万知可々安祢
己万知可々安祢
こまちかあね(小野小町姉)

原文 与乃奈可遠以止比天安満乃寸武可多毛宇幾女乃美己曽美衣和多利个礼
定家 世中遠以止比天安満乃寸武方毛宇幾女乃美己曽見衣和多利个礼
和歌 よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ
解釈 世の中を厭ひて海人の住む方も憂き目のみこそ見えわたりけれ

歌番号一二九一
武可之安比之利天者部利个留飛止乃宇知尓左不良日
个留可毛止尓徒可者之个留
武可之安比之利天侍个留人乃内尓左不良日
个留可毛止尓徒可者之个留
昔あひ知りて侍りける人の、内裏にさぶらひ
けるがもとにつかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 也万可者乃遠止尓乃美幾久毛々之幾遠美遠者也奈可良美留与之毛可奈
定家 山河乃遠止尓乃美幾久毛々之幾遠身遠者也奈可良見留与之毛哉
和歌 やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな
解釈 山河の音にのみ聞く百敷を身をはやながら見るよしもがな

歌番号一二九二
飛止尓和寸良礼多利止幾久於无奈良乃毛止尓川可八之个留
人尓和寸良礼多利止幾久女乃毛止尓川可八之个留
人に忘られたりと聞く女のもとにつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 由乃奈可者以可尓也以可尓可世乃遠止遠幾久尓毛以末者毛乃也加奈之幾
定家 世中者以可尓也以可尓風乃遠止遠幾久尓毛今者毛乃也加奈之幾
和歌 よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき
解釈 世の中はいかにやいかに風の音を聞くにも今はものや悲しき

歌番号一二九三
加部之 
返之 
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 与乃奈可者以左止毛以左也可世乃遠止者安幾尓安幾曽不己々知己曽寸礼
定家 与乃奈可者以左止毛以左也風乃遠止者秋尓秋曽不心地己曽寸礼
和歌 よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
解釈 世の中はいさともいさや風の音は秋に秋そふ心地こそすれ

歌番号一二九四
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 堂止部久留徒由止比止之幾見尓之安良波和可於毛日尓毛幾衣无止也春留
定家 堂止部久留徒由止比止之幾身尓之安良波和可思日尓毛幾衣无止也春留
和歌 たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする
解釈 たとへくる露と等しき身にしあらば我が思ひにも消えんとやする

歌番号一二九五
川良加利个留越止己乃者良可良乃毛止尓川可八之个留
川良加利个留越止己乃者良可良乃毛止尓川可八之个留
つらかりける男のはらからのもとにつかはしける

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 佐々加尓乃曽良尓寸可个留以止与利毛己々呂本曽之也多衣奴止於毛部八
定家 佐々加尓乃曽良尓寸可个留以止与利毛心本曽之也多衣奴止於毛部八
和歌 ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは
解釈 ささがにの空に巣がける糸よりも心細しや絶えぬと思へば

歌番号一二九六
加部之 
返之 
返し

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 可世布遣者多衣奴止三由留久毛乃以毛万多加幾川可天也武止也八幾久
定家 風布遣者多衣奴止見由留久毛乃以毛又加幾川可天也武止也八幾久
和歌 かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく
解釈 風吹けば絶えぬと見ゆる蜘蛛の網も又かき継がでやむとやは聞く

歌番号一二九七
布之美止以不止己呂尓天
布之美止以不所尓天
伏見といふ所にて

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 奈尓多知天婦之美乃佐止々以不己止者毛美知遠止己尓之个八奈利个利
定家 名尓多知天婦之美乃佐止々以不事者毛美知遠止己尓之个八奈利个利
和歌 なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり
解釈 名に立ちて伏見の里といふ事は紅葉を床に敷けばなりけり

歌番号一二九八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

比止之幾乃美己
比止之幾乃美己
ひとしきこのみこ(均子内親王)

原文 和礼毛於毛不飛止毛和寸留奈安利曽宇美乃宇良不久可世乃也武止幾毛奈久
定家 我毛思不人毛和寸留奈安利曽海乃浦吹風乃也武時毛奈久
和歌 われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく
解釈 我も思ふ人も忘るな有磯海の浦吹く風の止む時もなく

歌番号一二九九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

也万多乃保宇之
山田法師
山田法師

原文 安之比幾乃也末志多止与美奈久止利毛和可己止多衣寸毛乃於毛不良女也
定家 安之比幾乃山志多止与美奈久止利毛和可己止多衣寸物思良女也
和歌 あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや
解釈 あしひきの山下響み鳴く鳥も我がごと絶えず物思ふらめや

歌番号一三〇〇
可武奈川幾乃川以多知己呂女乃美曽可越止己之多利
个留遠美徒个天以比奈止之天徒止女天
神奈月乃川以多知己呂女乃美曽可越止己之多利
个留遠見徒个天以比奈止之天徒止女天
神無月のついたちごろ、妻のみそか男したり
けるを見つけて、言ひなどして、翌朝

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 以末者止天安幾者天良礼之見奈礼止毛幾利多知飛止遠衣也八王寸留々
定家 今者止天秋者天良礼之身奈礼止毛幾利多知人遠衣也八王寸留々
和歌 いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる
解釈 今はとて秋果てられし身なれども霧立ち人をえやは忘るる

歌番号一三〇一
可武奈川幾者可利於毛之呂加利之止己呂奈礼八止天
幾多乃也万乃本止利尓己礼可礼安曽日者部利个留川以天尓
十月許於毛之呂加利之所奈礼八止天
北山のほとりにこれかれあそひ侍りけるついてに
十月ばかり、おもしろかりし所なればとて
北山のほとりにこれかれ遊び侍りけるついでに

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 於毛比以天々幾川留毛志留久毛美知者乃以呂八无可之尓加者良左利个利
定家 思以天々幾川留毛志留久毛美知者乃色八昔尓加者良左利个利
和歌 おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり
解釈 思ひ出でて来つるもしるくもみぢ葉の色は昔に変らざりけり

歌番号一三〇二
於奈之己々呂遠
於奈之心遠
同じ心を

佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上是則
坂上是則

原文 美祢多可美由幾天毛美部幾毛美知者遠和可為奈可良毛加左之徒留可奈
定家 峯高美行天毛見部幾毛美知者遠和可為奈可良毛加左之徒留哉
和歌 みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな
解釈 峯高み行きても見べきもみぢ葉を我がゐながらもかざしつるかな

歌番号一三〇三
志波寸者可利尓安川万与利満宇天幾个留於止己乃
毛止与利美也己尓安比之利天者部利个留於无奈乃毛止尓
世宇可川々以多知万天遠止川礼寸者部利个礼八
志波寸許尓安川万与利満宇天幾个留於止己乃
毛止与利京尓安比之利天侍个留女乃毛
止尓正月川以多知万天遠止川礼寸侍个礼八
師走ばかりに、東よりまうで来ける男の、
もとより京にあひ知りて侍りける女のもとに
正月ついたちまで訪れず侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 満川飛止者幾奴止幾个止毛安良多万乃止之乃美己由留安不左可乃世幾
定家 満川人者幾奴止幾个止毛安良多万乃止之乃美己由留安不左可乃世幾
和歌 まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき
解釈 待つ人は来ぬと聞けどもあらたまの年のみ越ゆる相坂の関

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十七

2020年10月04日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利奈々末幾仁安多留未幾
巻十七

久左久左乃宇多美川
雑歌三

歌番号一一九五
伊曽乃加美止以不天良尓満宇天々比乃久礼尓个礼者
与安个天満可利可部良武止天止々末利天己乃
天良尓部无世宇者部利止飛止乃徒遣者部利个礼者
毛乃以比己々呂三武止天以比者部利个留
伊曽乃神止以不天良尓満宇天々日乃久礼尓个礼者
夜安个天満可利可部良武止天止々末利天己乃
寺尓遍昭侍利止人乃徒遣侍个礼者
毛乃以比心見武止天以比侍个留
石の上といふ寺に詣でて日の暮れにければ、
夜明けてまかり帰らむとてとどまりて、この
寺に遍昭侍りと人の告げ侍りければ
物言ひ心見むとて言ひ侍りける

遠乃々己万知
小野小町
小野小町

原文 以者乃宇部尓多比祢遠寸礼者以止左武之己个乃己呂毛遠和礼尓加左奈无
定家 以者乃宇部尓旅祢遠寸礼者以止左武之苔乃衣遠我尓加左奈无
和歌 いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ
解釈 岩の上に旅寝をすればいと寒し苔の衣を我に貸さなん

歌番号一一九六
加部之 
返之 
返し

部无世宇
遍昭
遍昭

原文 与遠曽武久己个乃己呂毛者堂々比止部加左祢者宇止之以左布多利祢无
定家 世遠曽武久苔乃衣者堂々比止部加左祢者宇止之以左布多利祢无
和歌 よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ
解釈 世を背く苔の衣はただ一重貸さねば疎しいざ二人寝ん

歌番号一一九七
保武己宇加部利美多末飛个留遠乃知/\者止幾於止呂部天
安利之也宇尓毛安良寸奈利尓个礼八佐止尓乃美
者部利天多天万川良世个留
法皇加部利見多末飛个留遠乃知/\者時於止呂部天
有之也宇尓毛安良寸奈利尓个礼八佐止尓乃美
侍天多天万川良世个留
法皇かへり見たまひけるを、後々は時衰へて
有りしやうにもあらずなりにければ、里にのみ
侍りてたてまつらせける

世可為乃幾美
世可為乃幾美
せかゐのきみ(清和院君)

原文 安不己止乃止之幾利志奴留奈个木尓八美乃加寸奈良奴毛乃尓曽安利个留
定家 逢事乃年幾利志奴留奈个木尓八身乃加寸奈良奴物尓曽有个留
和歌 あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける
解釈 逢ふ事の年ぎりしぬるなげ木には身の数ならぬ物にぞ有りける

歌番号一一九八
於无奈乃毛止与利安多尓幾己由留己止奈止以日天者部利个礼八
女乃毛止与利安多尓幾己由留己止奈止以日天侍个礼八
女のもとよりあだに聞こゆることなど言ひて侍りければ

比多利乃於本以万宇知幾三
左大臣
左大臣

原文 安多飛止毛奈幾尓八安良寸安利奈可良和可三尓八満多幾々曽奈良八奴
定家 安多人毛奈幾尓八安良寸有奈可良和可身尓八満多幾々曽奈良八奴
和歌 あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ
解釈 あだ人もなきにはあらず有りながら我が身にはまだ聞きぞならはぬ

歌番号一一九九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 美也飛止止奈良万本之幾遠美奈部之乃部与利幾利乃多知以天々曽久留
定家 宮人止奈良万本之幾遠女郎花乃部与利幾利乃多知以天々曽久留
和歌 みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる
解釈 宮人とならまほしきを女郎花野辺より霧の立ち出でてぞ来る

歌番号一二〇〇
加之己満留己止者部利天佐止尓者部利个留遠志乃比天
佐宇之尓万以礼利个留遠於本以万宇知幾三乃
奈止可遠止毛世奴奈止宇良美者部利个礼八
加之己満留事侍天佐止尓侍个留遠志乃比天
佐宇之尓万以礼利个留遠於本以万宇知幾三乃
奈止可遠止毛世奴奈止宇良美侍个礼八
かしこまる事侍りて里に侍りけるを、忍びて
曹司に参れりけるを、大臣の
などか、音もせぬなど恨み侍りければ

多以布 
多以布 
大輔

原文 和可美尓毛安良奴和可美乃加奈之幾尓己々呂毛己止仁奈利也志尓个无
定家 和可身尓毛安良奴和可身乃悲幾尓心毛己止仁成也志尓个无
和歌 わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ
解釈 我が身にもあらぬ我が身の悲しきに心もことになりやしにけん

歌番号一二〇一
飛止乃武寸女尓奈多知者部利天
人乃武寸女尓名多知侍天
人の女に名立ち侍りて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 与乃奈可遠志良寸奈可良毛川乃久尓乃奈尓八多知奴留毛乃尓曽安利个留
定家 世中遠志良寸奈可良毛川乃久尓乃奈尓八立奴留物尓曽有个留
和歌 よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける
解釈 世中を知らずながらも津の国の名には立ちぬる物にぞ有りける

歌番号一二〇二
奈幾奈多知者部利个留己呂
奈幾奈多知侍个留己呂
なき名立たち侍りけるころ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 世止々毛尓和可奴礼幾奴止奈留毛乃八和不留奈美多乃幾寸留奈利个利
定家 世止々毛尓和可奴礼幾奴止奈留物八和不留涙乃幾寸留奈利个利
和歌 よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり
解釈 世とともに我が濡衣となる物はわぶる涙の着するなりけり

歌番号一二〇三
左幾乃保宇於者之満左寸奈利天乃己呂己世知乃曽従
乃毛止尓川可八之个留
前坊於者之満左寸奈利天乃己呂五節乃師
乃毛止尓川可八之个留
前坊おはしまさずなりてのころ、五節の師
の許につかはしける

多以布 
多以布 
大輔

原文 宇遣礼止毛加奈之幾毛乃遠比多不留尓和礼遠也飛止乃於毛比寸川良无
定家 宇遣礼止毛悲幾物遠比多不留尓我遠也人乃思寸川良无
和歌 うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ
解釈 憂けれども悲しきものをひたぶるに我をや人の思ひ捨つらん

歌番号一二〇四
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加奈之幾毛宇幾毛志利尓之比止川奈遠多礼遠和久止可於毛比寸川部幾
定家 悲幾毛宇幾毛志利尓之比止川名遠多礼遠和久止可思寸川部幾
和歌 かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき
解釈 悲しきも憂きも知りにし一つ名を誰れを分くとか思ひ捨つべき

歌番号一二〇五
多以布可佐宇之尓安徒多々乃安曾无乃毛止部徒可八
之个留布美遠毛天多可部多利个礼八川可八之个留
大輔可佐宇之尓安徒多々乃朝臣乃毛止部徒可八
之个留布美遠毛天多可部多利个礼八川可八之个留
大輔が曹司に、敦忠朝臣のもとへつかは
しける文を持て違へたりければ、つかはしける

多以布 
多以布 
大輔

原文 三知志良奴毛乃奈良奈久尓安之比幾乃也末布三万与不飛止毛安利个利
定家 道志良奴物奈良奈久尓安之比幾乃山布三迷人毛安利个利
和歌 みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり
解釈 道知らぬ物ならなくにあしひきの山踏みまどふ人もありけり

歌番号一二〇六
加部之 
返之 
返し

安徒多々乃安曾无
敦忠朝臣
敦忠朝臣(藤原敦忠)

原文 志良可之乃由幾毛幾衣尓之安之比幾乃也末知遠多礼可布三万与不部幾
定家 志良可之乃雪毛幾衣尓之葦引乃山地遠誰可布三迷部幾
和歌 しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき
解釈 白橿の雪も消えにしあしひきの山路を誰れか踏みまどふべき

歌番号一二〇七
以飛知起利天乃知己止飛止尓川幾奴止幾々天
以飛知起利天乃知己止人尓川幾奴止幾々天
言ひ契りて後、異人につきぬと聞きて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊不己止乃堂可八奴毛乃尓安良万世八乃知宇幾己止々幾己江左良末之
定家 伊不事乃堂可八奴物尓安良万世八後宇幾事止幾己江左良末之
和歌 いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし
解釈 言ふ事の違はぬ物にあらませば後憂き事と聞こえざらまし

歌番号一二〇八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 於毛加个遠安飛三之加寸尓奈春止幾者己々呂乃美己曽志川女良礼个連
定家 於毛影遠安飛見之加寸尓奈春時者心乃美己曽志川女良礼个連
和歌 おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ
解釈 面影を逢ひ見し数になす時は心のみこそ静められけれ

歌番号一二〇九
加之良志呂加利个留於无奈遠三天
加之良志呂加利个留女遠見天
頭白かりける女を見て

以世
伊勢
伊勢

原文 奴幾止女奴加美乃寸知毛天安也之久毛部尓个留止之乃加寸遠之留可那
定家 奴幾止女奴加美乃寸知毛天安也之久毛部尓个留年乃加寸遠之留可那
和歌 ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな
解釈 抜きとめぬ髪の筋もてあやしくも経にける年の数を知るかな

歌番号一二一〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 奈美加寸尓安良奴三奈礼八寸美与之乃幾之尓毛与良寸奈利也者天奈无
定家 浪加寸尓安良奴身奈礼八住吉乃岸尓毛与良寸奈利也者天奈无
和歌 なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ
解釈 浪数にあらぬ身なれば住吉の岸にも寄らずなりや果てなん

歌番号一二一一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 徒幾毛世寸宇幾己止乃者乃於本可留遠者也久安良之乃加世毛布可奈无
定家 徒幾毛世寸宇幾事乃者乃於本可留遠者也久嵐乃風毛布可奈无
和歌 つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ
解釈 つきもせず憂き言の端の多かるを早く嵐の風も吹かなん

歌番号一二一二
以止志乃比天加多良比个留於无奈乃毛止尓川可八志个留
布美遠己々呂尓毛安良天於止之多利个留遠三川个天
徒可者之个留
以止志乃比天加多良比个留女乃毛止尓川可八志个留
布美遠心尓毛安良天於止之多利个留遠見川个天
徒可者之个留
いと忍びて語らひける女の許につかはしける
文を、心にもあらで落したりけるを見つけて
つかはしける

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 之末加久礼安利曽尓加与不安之多川乃布美遠久安止八奈美毛个多奈无
定家 嶋加久礼有曽尓加与不安之多川乃布美遠久跡八浪毛个多奈无
和歌 しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ
解釈 島隠れ有磯に通ふ葦田鶴の踏み置く跡は浪も消たなん

歌番号一二一三
武可之於奈之止己呂尓美也川可部之个留飛止止之己呂
以可尓曽奈止々比遠己世天者部利个礼八川可者之个留
武可之於奈之所尓美也川可部之个留人年己呂
以可尓曽奈止々比遠己世天侍个礼八川可者之个留
昔同じ所に宮仕へしける人、年ごろ、
いかにぞ、など問ひおこせて侍りければ、つかはしける

以世
伊勢
伊勢

原文 三者々也久奈幾毛乃々己止奈利尓之遠幾衣世奴毛乃八己々呂奈利个利
定家 身者々也久奈幾物乃己止成尓之遠幾衣世奴物八心奈利个利
和歌 みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり
解釈 身は早くなき物のごとなりにしを消えせぬ物は心なりけり

歌番号一二一四
者良可良乃奈可尓以可奈留己止可安利个无川祢奈良奴
左万尓三衣者部利个礼八
者良可良乃奈可尓以可奈留事可安利个无川祢奈良奴
左万尓見衣侍个礼八
はらからの中に、いかなる事かありけん、常ならぬ
さまに見え侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 武徒万之幾以毛世乃也末乃奈可尓佐部々多川留久毛乃者礼寸毛安留可奈
定家 武徒万之幾以毛世乃山乃中尓佐部々多川留雲乃者礼寸毛安留哉
和歌 むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな
解釈 むつましき妹背の山の中にさへ隔つる雲の晴れずもあるかな

歌番号一二一五
於无奈乃以止久良部可多久者部利个留遠安比者奈礼
尓計累可己止飛止尓武可部良礼奴止幾々天
越止己乃川可者之个留
女乃以止久良部可多久侍个留遠安比者奈礼
尓計累可己止人尓武可部良礼奴止幾々天
越止己乃川可者之个留
女のいと比べがたく侍りけるを、あひ離れ
にけるが異人に迎へられぬと聞きて
男のつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和可多女尓遠幾尓久加利之者之多可乃飛止乃天尓安利止幾久八末己止可
定家 和可多女尓遠幾尓久加利之者之多可乃人乃天尓有止幾久八末己止可
和歌 わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか
解釈 我がためにをきにくかりしはし鷹の人の手に有りと聞くはまことか

歌番号一二一六
久知奈之安留止己呂尓己比尓川可者之多留尓
以呂乃以止安之加利个礼八
久知奈之安留所尓己比尓川可者之多留尓
以呂乃以止安之加利个礼八
くちなしある所に乞ひにつかはしたるに、
色のいと悪しかりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己衣尓多天々以者祢止志留之久知奈之乃以呂八和可多女宇寸幾奈利个利
定家 声尓多天々以者祢止志留之久知奈之乃色八和可多女宇寸幾奈利个利
和歌 こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり
解釈 声に立てて言はねどしるしくちなしの色は我がため薄きなりけり

歌番号一二一七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂幾川世乃者也加良奴遠曽宇良三川留見寸止毛遠止尓幾可武止於毛部八
定家 堂幾川世乃者也加良奴遠曽怨川留見寸止毛遠止尓幾可武止於毛部八
和歌 たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは
解釈 たきつ瀬の早からぬをぞ恨みつる見ずとも音に聞かむと思へば

歌番号一二一八
飛止乃毛止尓布美徒可者之个留於止己飛止尓
三世个利止幾々天川可波之遣類
人乃毛止尓布美徒可者之个留於止己人尓
見世个利止幾々天川可波之遣類
人の許に文つかはしける男、人に
見せけりと聞きてつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美奈飛止尓布美々世个利奈美那世可者曽乃和多利己曽万川者安左个礼
定家 美奈人尓布美々世个利奈美那世河曽乃渡己曽万川者安左个礼
和歌 みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ
解釈 みな人に文見せけりな水無瀬河その渡こそまづは浅けれ

歌番号一二一九
徒久之乃志良加波止以不止己呂尓寸美者部利个留尓
堂以尓乃不知者良乃於幾乃利乃安曾无乃満可利王多留川以天尓
美川堂部武止天宇知与利天己比者部利个礼者
美川遠毛天以天々与美者部利个留
徒久之乃志良加波止以不所尓寸美侍个留尓
大弐藤原於幾乃利乃朝臣乃満可利王多留川以天尓
水堂部武止天宇知与利天己比侍个礼者
水遠毛天以天々与美侍个留
筑紫の白河といふ所に住み侍りけるに、
大弐藤原興範朝臣のまかり渡るついでに、
水たべむとてうち寄りて、乞ひ侍りければ、
水を持て出でて、詠み侍りける

飛可幾乃遠宇奈
飛可幾乃嫗
ひかきの嫗(檜垣嫗)

原文 止之布礼者和可久呂加美毛志良可者乃美川者久武万天遠以尓个留可奈
定家 年布礼者和可久呂加美毛志良河乃美川者久武万天老尓个留哉
和歌 としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな
解釈 年経れば我が黒髪も白河のみづはくむまで老いにけるかな

加之己尓奈多可久己止己乃武於无奈尓奈无者部利个留
加之己尓名多可久事己乃武女尓奈无侍个留
かしこに名高く事好む女になん侍りける

歌番号一二二〇
志曽久尓者部利个留於无奈乃於止己尓奈多知天加々累
己止奈无安留飛止尓以比左者久止以比者部利个礼八
志曽久尓侍个留女乃於止己尓奈多知天加々累
事奈无安留人尓以比左者久止以比侍个礼八
親族に侍りける女の、男に名立ちて、かかる
事なんある。人に言ひ騒げ、と言ひ侍りければ

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 加左寸止毛堂知止多知奈无奈幾奈遠八己止奈之久左乃加比也奈可良无
定家 加左寸止毛堂知止多知奈无奈幾奈遠八事奈之草乃加比也奈可良无
和歌 かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ
解釈 かざすとも立ちと立ちなんなき名をば事なし草のかひやなからん

歌番号一二二一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 加部利久累三知尓曽計左者万与不良无己礼尓奈寸良不者奈々幾毛乃遠
定家 帰久累道尓曽計左者迷良无己礼尓奈寸良不花奈幾物遠
和歌 かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを
解釈 帰り来る道にぞ今朝はまどふらんこれになずらふ花なきものを

歌番号一二二二
於无奈乃毛止尓布美徒加者之个留遠可部之己止毛
世寸之天乃知/\者布美遠三毛世天止利
奈无遠久止飛止乃徒遣々礼八
女乃毛止尓布美徒加者之个留遠返事毛
世寸之天乃知/\者布美遠見毛世天止利
奈无遠久止人乃徒遣々礼八
女の許に文つかはしけるを、返事も
せずして後々は、文を見もせで取り
なん置く、と人の告げければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於保曽良尓由幾可不止利乃久毛知遠曽飛止乃布美々奴毛乃止以不奈留
定家 於保曽良尓行可不鳥乃雲地遠曽人乃布美々奴物止以不奈留
和歌 おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる
解釈 大空に行き交ふ鳥の雲路をぞ人の文見ぬものと言ふなる

歌番号一二二三
幾乃寸个尓者部利个留於止己乃満可利加与者寸奈利尓个礼八
加能於止己乃安祢乃毛止尓宇礼部遠己世天者部利遣連者
以止己々呂宇幾己止可那止以比川可八之多利个留可部之己止尓
幾乃寸个尓侍个留於止己乃満可利加与者寸奈利尓个礼八
加能於止己乃安祢乃毛止尓宇礼部遠己世天侍遣連者
以止心宇幾己止可那止以比川可八之多利个留返事尓
紀伊介に侍りける男のまかり通はずなりにければ、
かの男の姉のもとに愁へおこせて侍りければ、
いと心憂きことかなと言ひつかはしたりける返事に

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 幾乃久尓乃奈久左乃者万八幾美奈礼也己止乃以不可比安利止幾々川留
定家 幾乃久尓乃奈久左乃者万八君奈礼也事乃以不可比有止幾々川留
和歌 きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる
解釈 紀伊国の名草の浜は君なれや事の言ふかひ有りと聞きつる

歌番号一二二四
春美者部利个留於无奈美也川可部之者部利个留遠止毛多知奈利个留
於无奈於奈之久留万尓天川良由幾可以部尓万宇天幾多利
个里徒良由幾可女満良宇止尓安留之世无止天
万可利於利天者部利个留本止尓加乃於无奈遠於毛比可个天者部利
遣礼者志乃日天久留万尓以礼者部利遣留
春美侍个留女宮川可部之侍个留遠止毛多知奈利个留
女於奈之久留万尓天川良由幾可家尓万宇天幾多利
个里徒良由幾可女満良宇止尓安留之世无止天
万可利於利天侍个留本止尓加乃女遠思可个天侍
遣礼者志乃日天久留万尓以礼侍遣留
住み侍りける女、宮仕へし侍りけるを友だちなりける
女、同じ車にて貫之が家にまうで来きたり
けり。貫之が妻、客に饗応せんとて、
まかり下りて侍りけるほどに、かの女を思ひかけて侍り
ければ、忍びて車に入れ侍りける


従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 奈美尓乃美奴礼川留物遠布久加世乃堂与利宇礼之幾安万乃川利布祢
定家 浪尓乃美奴礼川留物遠吹風乃堂与利宇礼之幾安万乃川利舟
和歌 なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね
解釈 浪にのみ濡れつるものを吹く風の便りうれしき海人の釣舟

歌番号一二二五
越止己乃毛乃尓万可利天布多止世許安利天万宇天
幾多利个留遠本止部天乃知尓己止奈之比尓
己止飛止尓奈多川止幾々之波末己止奈利个利止
以部利个礼者
越止己乃物尓万可利天布多止世許有天万宇天
幾多利个留遠本止部天乃知尓己止奈之比尓
己止人尓奈多川止幾々之波末己止奈利个利止
以部利个礼者
男の物にまかりて、二年ばかり有りてまうで
来たりけるを、ほど経て後に、ことなしびに
異人に名立つと聞きしはまことなりけりと
言へりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 美止利奈留万川本止寸幾者以可天可者志多波者可利毛々美知世左良无
定家 緑奈留松本止寸幾者以可天可者志多波許毛々美知世左良无
和歌 みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
解釈 緑なる松ほど過ぎばいかでかは下葉ばかりも紅葉せざらん

歌番号一二二六
奈幾於无奈与従乃美己乃々知乃和左世武止
天本多以之乃寸々遠奈无美幾乃於本以万宇知幾三毛止女者部留止
幾々天己乃寸々遠々久留止天久者部者部利个留
故女四乃美己乃々知乃和左世武止天
本多以之乃寸々遠奈无右大臣毛止女侍止
幾々天己乃寸々遠々久留止天久者部侍个留
故女四内親王の後のわざせむとて、
菩提寺の数珠をなん右大臣求め侍ると
聞きて、この数珠を贈るとて、加へ侍りける

志无衣无保宇之
真延法師
真延法師

原文 於毛比以天乃个无利也万佐武奈幾飛止乃本止个尓奈礼留己乃美々波幾美
定家 思以天乃煙也万佐武奈幾人乃本止个尓奈礼留己乃美々波君
和歌 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
解釈 思ひ出での煙やまさむ亡き人の仏になれるこのみ見ば君

歌番号一二二七
加部之 
返之 
返し

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 美知奈礼留己乃美堂従祢天己々呂左之安利止美留尓曽祢遠者満之个留
定家 道奈礼留己乃身尋天心左之有止見留尓曽祢遠者満之个留
和歌 みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
解釈 道なれるこの身尋ねて心ざし有りと見るにぞ音をばましける

歌番号一二二八
佐多女多留女毛者部良寸比止利布之遠乃美寸止
於无奈止毛多知乃毛止与利堂者不礼天者部利个礼者
佐多女多留女毛侍良寸比止利布之遠乃美寸止
女止毛多知乃毛止与利堂者不礼天侍个礼者
定めたる妻も侍らず、一人臥しをのみすと、
女友だちの許より戯れて侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊川己尓毛三遠者々奈礼奴可个之安礼者布春止己々止尓比止利也者奴留
定家 伊川己尓毛身遠者々奈礼奴影之安礼者布春止己々止尓比止利也者奴留
和歌 いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
解釈 いづこにも身をば離れぬ影しあれば臥す床ごとに一人やはぬる

歌番号一二二九
世武左為乃奈可尓寸呂乃幾於以天者部利止幾々天
由幾安幾良乃美己乃毛止与利比止幾己比尓
川可八之多礼者久波部天川可者之个留
前栽乃奈可尓寸呂乃木於以天侍止幾々天
由幾安幾良乃美己乃毛止与利比止木己比尓
川可八之多礼者久波部天川可者之个留
前栽の中に棕櫚の木生ひてはべると聞きて
行明親王のもとより一木乞ひに
つかはしたれば、加へてつかはしける

志无衣无保宇之
真延法師
真延法師

原文 加世之毛尓以呂毛己々呂毛加者良祢八安留之尓々多留宇部幾奈利个利
定家 風霜尓色毛心毛加者良祢八安留之尓々多留宇部木奈利个利
和歌 かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
解釈 風霜に色も心も変らねばあ主人に似たる植ゑ木なりけり

歌番号一二三〇
加部之 
返之 
返し

由幾安幾良乃美己
行明乃美己
行明のみこ(行明親王)

原文 也万布可美安留之尓々太留宇部幾遠者美衣奴以呂止曽以不部可利个留
定家 山深美安留之尓々太留宇部木遠者見衣奴色止曽以不部可利个留
和歌 やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
解釈 山深み主人に似たる植ゑ木をば見えぬ色とぞ言ふべかりける

歌番号一二三一
於保為奈留止己呂尓天飛止/\佐遣多宇部个留川以天尓
大井奈留所尓天人/\佐遣多宇部个留川以天尓
大井なる所にて人々酒たうべけるついでに

奈利比良乃安曾无
奈利比良乃朝臣
なりひらの朝臣(在原業平)

原文 於保為可者宇可部留不祢乃加々利飛尓遠久良乃也万毛奈乃三奈利个利
定家 大井河宇可部留舟乃加々利火尓遠久良乃山毛名乃三奈利个利
和歌 おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
解釈 大井河浮かべる舟の篝火に小倉の山も名のみなりけり

歌番号一二三二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 安春可々八和可三比止川乃布知世由部奈部天乃与遠毛宇良美川留可奈
定家 明日河和可身比止川乃布知世由部奈部天乃世遠毛怨川留哉
和歌 あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
解釈 飛鳥河我が身一つの淵瀬ゆゑなべての世をも恨みつるかな

歌番号一二三三
於毛不己止者部利个留己呂之可尓万宇天々
思事侍个留己呂志賀尓万宇天々
思ふ事侍りけるころ、志賀に詣でて

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 与乃奈可遠以止比可天良尓己之加止毛宇幾三奈可良乃也末尓曽安利个留
定家 世中遠以止比可天良尓己之加止毛宇幾身奈可良乃山尓曽有个留
和歌 よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
解釈 世の中を厭ひがてらに来しかども憂き身ながらの山にぞ有りける

歌番号一二三四
知々波々者部利个留飛止乃武寸女尓志乃比天加与比者部利个留遠
幾々川个天加宇之世良礼者部利个留遠川幾比部天加久礼和多利計連止
安女布利天衣万可利以天者部良天己毛利為天者部利个留遠
知々波々幾々川个天以可々者世武止天
由留春与之以比天者部利个礼者
知々波々侍个留人乃武寸女尓志乃比天加与比侍个留遠
幾々川个天加宇之世良礼侍个留遠月日部天加久礼和多利計連止
雨布利天衣万可利以天侍良天己毛利為天侍个留遠
知々波々幾々川个天以可々者世武止天
由留春与之以比天侍个礼者
父母侍りける人の女に忍びて通ひ侍りけるを
聞きつけて、勘事せられ侍りけるを月日経て隠れ渡りけれど、
雨降りてえまかり出で侍らで、籠もりゐて侍りけるを、
父母聞きつけて、いかがはせむとて、
許すよし言ひて侍りければ

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 志多尓乃美者比和多利川留安之乃祢乃宇礼之幾安女尓安良八留々加奈
定家 志多尓乃美者比渡川留安之乃祢乃宇礼之幾雨尓安良八留々哉
和歌 したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
解釈 下にのみはひ渡りつる葦の根のうれしき雨にあらはるるかな

歌番号一二三五
飛止乃以部尓満可利多利个留尓也利美川尓多幾以止
於毛之呂可利个礼者加部利天川可者之个留
人乃家尓満可利多利个留尓也利水尓多幾以止
於毛之呂可利个礼者加部利天川可者之个留
人の家にまかりたりけるに、遣水に滝いと
おもしろかりければ、帰りてつかはしける

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 堂幾川世尓多礼之良多万遠美多利个无比呂不止世之尓曽天八比知尓幾
定家 堂幾川世尓誰白玉遠美多利个无比呂不止世之尓袖八比知尓幾
和歌 たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき
解釈 滝つ瀬に誰れ白玉を乱りけん拾ふとせしに袖はひちにき

歌番号一二三六
保武己宇与之乃々多幾美曽葉奈之个留於保武止毛尓天
法皇与之乃々多幾御覧之个留御止毛尓天
法皇吉野の滝御覧じける御供にて

美奈毛堂乃々保留乃安曾无
源昇朝臣
源昇朝臣

原文 以徒乃万尓布利川毛留良无三与之乃々也万乃可比与利久川礼於川留由幾
定家 以徒乃万尓布利川毛留良无三与之乃々山乃可比与利久川礼於川留雪
和歌 いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき
解釈 いつの間に降り積もるらんみ吉野の山の峡より崩れ落つる雪

歌番号一二三七
保武己宇与之乃々多幾美曽葉奈之个留於保武止毛尓天
法皇与之乃々多幾御覧之个留御止毛尓天
法皇吉野の滝御覧じける御供にて

保武己宇乃於保美宇堂
法皇御製
法皇御製

原文 美也乃太幾武部毛奈尓於比天幾己衣个利於川留志良安和乃堂満止比々計八
定家 宮乃太幾武部毛名尓於比天幾己衣个利於川留志良安和乃玉止比々計八
和歌 みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは
解釈 宮の滝むべも名におひて聞こえけり落つる白泡の玉と響けば

歌番号一二三八
也万布美之波之女个留止幾
山布美之波之女个留時
山踏みし始めける時

曽宇志也宇部无世宇
僧正遍昭
僧正遍昭

原文 以万左良尓和礼者加部良之太幾三川々与部止幾加寸止々波々己多部与
定家 今更尓我者加部良之太幾見川々与部止幾加寸止々波々己多部与
和歌 いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ
解釈 今更に我は帰らじ滝見つつ呼べど聞かずと問はば答へよ

歌番号一二三九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛 
与美人毛 
よみ人も

原文 堂幾川世乃宇徒万幾己止尓止女久礼止奈保多川祢久留与乃宇幾女か奈
定家 瀧川世乃宇徒万幾己止尓止女久礼止猶尋久留世乃宇幾女哉
和歌 たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな
解釈 滝つ瀬の渦巻ごとにとめ来れどなほ尋ねくる世の憂きめかな

歌番号一二四〇
者之女天加之良於呂之者部利个留止幾毛乃尓加幾
徒遣者部利个留
者之女天加之良於呂之侍个留時毛乃尓加幾
徒遣侍个留
初めて頭下ろし侍りける時、物に書き
つけ侍りける

部无世宇
遍昭
遍昭

原文 堂良知女者加々礼止天之毛武者多万乃和可久呂可美遠奈天寸也安利个无
定家 堂良知女者加々礼止天之毛武者多万乃和可久呂可美遠奈天寸也有个无
和歌 たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
解釈 たらちめはかかれとてしもむばたまの我が黒髪を撫でずや有りけん

歌番号一二四一
美知乃久尓乃加美尓満可利久多礼利个留尓堂計久満乃
末川乃加礼天者部利个留遠三天己末川遠宇部徒
加世者部利天尓武者天々乃知万多於奈之久尓々万可利
奈利天加乃左幾乃尓武尓宇部之末川松遠美者部利天
美知乃久尓乃加美尓満可利久多礼利个留尓堂計久満乃
松乃加礼天侍个留遠見天己末川遠宇部徒
加世侍天任者天々乃知又於奈之久尓々万可利
奈利天加乃左幾乃任尓宇部之松遠見侍天
陸奥守にまかり下れりけるに、武隈の
松の枯れて侍りけるを見て、小松を植ゑつ
かせ侍りて、任果てて後、又同じ国にまかり
なりて、かの前の任に植ゑし松を見侍りて

布知八良乃毛止与之乃安曾无
藤原毛止与之乃朝臣
藤原もとよしの朝臣(藤原元善)

原文 宇部之止幾知幾利也志个无多計久万乃末川遠布多々比安日美川留可奈
定家 栽之時契也志釼多計久万乃松遠布多々比安日見川留哉
和歌 うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
解釈 植ゑし時契りやしけん武隈の松を再び逢ひ見つるかな

歌番号一二四二
布之美止以不止己呂尓天曽乃己々呂遠己礼可礼与三个留尓
布之美止以不所尓天曽乃心遠己礼可礼与三个留尓
伏見といふ所にて、その心をこれかれ詠みけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 寸可者良也布之美乃久礼尓三和多世八加寸美尓満可不遠者川世乃也末
定家 菅原也伏見乃久礼尓見和多世八霞尓満可不遠者川世乃山
和歌 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
解釈 菅原や伏見の暮に見わたせば霞にまがふ小初瀬の山

歌番号一二四三
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 己止乃者毛奈久天部尓个留止之川幾尓己乃者留多尓毛者奈八佐可奈无
定家 事乃者毛奈久天部尓个留年月尓己乃春多尓毛花八佐可奈无
和歌 ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
解釈 言の葉もなくて経にける年月にこの春だにも花は咲かなん

歌番号一二四四
三乃宇礼部者部利个留止幾徒乃久尓々満可利天寸三
者之女者部利个留尓
身乃宇礼部侍个留時徒乃久尓々満可利天寸三
者之女侍个留尓
身の愁へ侍りける時、津国にまかりて住み
始め侍りけるに

奈利比良乃安曾无
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 奈尓者徒遠遣不己曽美川乃宇良己止尓己礼也己乃与遠宇三和多留布祢
定家 奈尓者徒遠遣不己曽美川乃浦己止尓己礼也己乃世遠宇三和多留舟
和歌 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
解釈 難波津を今日こそ御津の浦ごとにこれやこの世を憂みわたる舟

歌番号一二四五
止幾尓安者寸之天三遠宇良美天己毛利者部利个留止幾
時尓安者寸之天身遠宇良美天己毛利侍个留時
時に遇はずして身を恨みて籠もり侍りける時

布无也乃也寸比天
文室康秀
文屋康秀

原文 之良久毛乃幾也止留美祢乃己末川者良恵多志个々礼也日乃比可利美奴
定家 白雲乃幾也止留峯乃己松原枝志个々礼也日乃比可利見奴
和歌 しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ
解釈 白雲の来宿る峯の小松原枝繁けれや日の光見ぬ

歌番号一二四六
己々呂尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃於保幾尓
加幾川計者部利个留
心尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃扇尓
加幾川計侍个留
心にもあらぬことを言ふころ、男の扇に
書きつけ侍りける


止左
土佐
土左

原文 三尓左武久安良奴毛乃可良和比之幾者飛止乃己々呂乃安良之奈利个利
定家 身尓左武久安良奴物可良和比之幾者人乃心乃嵐奈利个利
和歌 みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり
解釈 身に寒くあらぬものからわびしきは人の心の嵐なりけり

歌番号一二四七
己々呂尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃於保幾尓
加幾川計者部利个留
心尓毛安良奴己止遠以不己呂於止己乃扇尓
加幾川計侍个留
心にもあらぬことを言ふころ、男の扇に
書きつけ侍りける

止左
土佐
土左

原文 奈可良部八飛止乃己々呂毛三留部幾遠川由乃以乃知曽加奈之可利个累
定家 奈可良部八人乃心毛見留部幾遠川由乃以乃知曽加奈之可利个累
和歌 なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける
解釈 ながらへば人の心も見るべきを露の命ぞ悲しかりける

歌番号一二四八
飛止乃毛止与利比左之宇己々知和川良日天本止/\
之久奈无安利川留止以比天者部利个礼八
人乃毛止与利比左之宇心地和川良日天本止/\
之久奈无安利川留止以比天侍个礼八
人の許より、「久しう心地わづらひて、ほとほと
しくなんありつる」と言ひて侍りければ

加武為无乃於保幾美
閑院大君
閑院大君

原文 毛呂止毛尓以左止者以者天志天乃也末以可天可比止利己衣无止者世之
定家 毛呂止毛尓以左止者以者天志天乃山以可天可比止利己衣无止者世之
和歌 もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし
解釈 もろともにいざとは言はで死出の山いかでか一人越えんとはせし

歌番号一二四九
川幾与尓加礼己礼之天
月夜尓加礼己礼之天
月夜にかれこれして

加武川計乃美祢於
加武川計乃美祢於
かむつけのみねを(上野峯雄)

原文 遠之奈部天美祢毛多比良尓奈利奈々无也末乃者奈久八川幾毛加具礼之
定家 遠之奈部天峯毛多比良尓奈利奈々无山乃者奈久八月毛加具礼之
和歌 おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし
解釈 おしなべて峯も平らになりななん山の端なくは月も隠れじ

コメント

後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十六

2020年09月27日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利武末幾仁安多留未幾
巻十六

久左久左乃宇多二
雑歌二

歌番号一一二五
於毛不止己呂安利天左幾乃於本幾於本以万宇知幾三尓与世天者部利个留
於毛不所安利天前太政大臣尓与世天侍个留
思ふ所ありて、前太政大臣に寄せて侍りける

安利八良乃奈利比良乃安曾无
在原業平朝臣
在原業平朝臣

原文 堂乃満礼奴宇幾与乃奈可遠奈計幾川々日加計尓於不留三遠如何世无
定家 堂乃満礼奴宇幾世中遠歎川々日加計尓於不留身遠如何世无
和歌 たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ
解釈 頼まれぬ憂き世の中を嘆きつつ日蔭に生ふる身をいかにせん

歌番号一一二六
也満比之者部利天安不美乃世幾天良尓己毛利天者部利个留尓
末部乃美知与利可无為无乃己以之也末尓満宇天个留遠
多々以万奈无行寸幾奴留止人乃川計侍个礼八
越日天徒可者之个留
也満比之侍天安不美乃関寺尓己毛利天侍个留尓
末部乃美知与利閑院乃己石山尓満宇天个留遠
多々以万奈无由幾寸幾奴留止飛止乃川計者部利个礼八
越日天徒可者之个留
病し侍りて近江の関寺に籠もりて侍りけるに、
前の道より閑院の御、石山に詣でけるを、
ただ今なん行き過ぎぬると人の告げ侍りければ、
追ひてつかはしける

止之由幾乃安曾无
止之由幾乃朝臣
としゆきの朝臣(藤原敏行)

原文 安不左可乃由不川个尓奈久止利乃祢越幾々止可女寸曽由幾寸幾尓个留
定家 相坂乃由不川个尓奈久鳥乃祢越幾々止可女寸曽行寸幾尓个留
和歌 あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける
解釈 相坂の夕つけになく鳥の音を聞きとがめずぞ行き過ぎにける

歌番号一一二七
左幾乃知宇具宇乃世武之於久留於本幾於本以万宇知幾三乃以部与利
満可利以天々安留尓加乃以部尓己止尓布礼天比久良之止以不己止
奈无者部利个留
前中宮宣旨贈太政大臣乃家与利
満可利以天々安留尓加乃家尓事尓布礼天比久良之止以不事
奈无侍个留
前中宮宣旨、贈太政大臣の家より
まかり出でてあるに、かの家に、事にふれて日暗しといふ事
なん侍りける

世武之
宣旨
宣旨

原文 美也万与利飛々幾起己由留飛久良之乃己恵遠己比之美以末毛計奴部之
定家 美山与利飛々幾起己由留飛久良之乃声遠己比之美今毛計奴部之
和歌 みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし
解釈 深山より響き聞こゆるひぐらしの声を恋しみ今も消ぬべし

歌番号一一二八
加部之 
返之 
返し

於久留於本幾於本以万宇知幾三
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 飛久良之乃己恵遠己比之美遣奴部久八美也万止本利尓者也毛幾祢可之
定家 飛久良之乃声遠恋之美遣奴部久八美山止本利尓者也毛幾祢可之
和歌 ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし
解釈 ひぐらしの声を恋しみ消ぬべくは深山とほりにはやも来ねかし

歌番号一一二九
可者良尓以天々波良部之者部利个留尓於保以万宇知幾美毛
伊天安比天者部利个礼者
河原尓以天々波良部之侍个留尓於保以万宇知幾美毛
伊天安比天侍个礼者
河原に出でて祓へし侍りけるに、大臣も
出であひて侍りければ

安徒多々乃安曾无乃者々
安徒多々乃朝臣乃母
あつたたの朝臣の母(藤原敦忠朝臣母)

原文 知可者礼之加毛乃可者良尓己万止女天志波之美川可部可計遠多尓三武
定家 知可者礼之加毛乃河原尓駒止女天志波之水可部影遠多尓見武
和歌 ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ
解釈 誓はれし賀茂の河原に駒とめてしばし水かへ影をだに見む

歌番号一一三〇
飛止乃宇之遠加利天者部利个留尓之尓者部利个礼者以比川可者
之个留
人乃牛遠加利天侍个留尓之尓侍个礼者以比川可者
之个留
人の牛を借りて侍りけるに、死に侍りければ言ひつかは
しける

可武為无乃己
閑院乃己
閑院のこ(閑院御)

原文 和可乃里之己止遠宇之止也幾衣尓个无久左者尓加々留川由乃以乃知八
定家 和可乃里之事遠宇之止也幾衣尓个无草者尓加々留露乃命八
和歌 わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは
解釈 我が乗りし事を憂しとや消えにけん草葉にかかる露の命は

歌番号一一三一
恵武幾乃於保武止幾加毛乃利无之乃万川利乃比於武万部尓天
左可川幾止利天
延喜御時賀茂臨時祭乃日御前尓天
左可川幾止利天
延喜御時、賀茂臨時祭の日、御前にて盃取りて

左武之与宇乃美幾乃於本以万宇知幾三
三条右大臣
三条右大臣

原文 加久天乃美也武部幾毛乃可知者也布留加毛乃也之呂乃与呂川世遠美武
定家 加久天乃美也武部幾物可知者也布留加毛乃社乃与呂川世遠見武
和歌 かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ
解釈 かくてのみやむべき物かちはやぶる賀茂の社のよろづ世を見む

歌番号一一三二
於奈之於保无止幾々多乃々美由幾尓美己之遠可仁天
於奈之御時幾多乃々行幸尓美己之遠可仁天
同じ御時、北野の行幸にみこし岡にて

比和乃比多利乃於本以万宇知幾三
枇杷左大臣
枇杷左大臣

原文 美己之遠加以久曽乃世々尓止之遠部天个不乃美由幾遠万知天美川良无
定家 美己之遠加以久曽乃世々尓年遠部天个不乃美行遠万知天見川良无
和歌 みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ
解釈 みこし岡いくその世々に年を経て今日の御幸を待ちて見つらん

歌番号一一三三
可武世无可布可幾也万天良尓己毛利者部利个留尓
己止保宇之万宇天幾天安女尓布利己女良礼天者部利个留尓
戒仙可布可幾山天良尓己毛利侍个留尓
己止法師万宇天幾天雨尓布利己女良礼天侍个留尓
戒仙か深き山寺に籠もり侍りけるに
異法師まうで来て、雨に降りこめられて侍りけるに

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊川礼遠可安女止毛和可武也万布之乃於川留奈美多毛布利尓己曽布礼
定家 伊川礼遠可雨止毛和可武山布之乃於川留涙毛布利尓己曽布礼
和歌 いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ
解釈 いづれをか雨とも分かむ山伏の落つる涙も降りにこそ降れ

歌番号一一三四
己礼可礼安比天与毛寸可良毛乃可多利之天川止女天
遠久利者部利个留
己礼可礼安比天与毛寸可良物可多利之天川止女天
遠久利侍个留
これかれ逢ひてよもすがら物語りしてつとめて
送り侍りける

布知八良乃於幾可世
藤原於幾可世
藤原おきかせ(藤原興風)

原文 於毛日尓者幾由留毛乃曽止志利奈可良計左之毛越幾天奈尓々幾川良无
定家 思日尓者幾由留物曽止志利奈可良計左之毛越幾天奈尓々幾川良无
和歌 おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ
解釈 思ひには消ゆる物ぞと知りながら今朝しも起きて何に来つらん

歌番号一一三五
和可宇者部利个留止幾者志加尓川祢尓満宇天个留遠
止之於以天八万以利者部利良左利个留尓万以利者部利天
和可宇侍个留時者志加尓川祢尓満宇天个留遠
年於以天八万以利侍良左利个留尓万以利侍天
若う侍りける時は、志賀に常にまうでけるを、
年老いては参り侍らざりけるに参り侍りて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 女川良之也无可之奈可良乃也万乃為者志川女留可个曽久知者天尓个留
定家 女川良之也昔奈可良乃山乃井者志川女留影曽久知者天尓个留
和歌 めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける
解釈 めづらしや昔ながらの山の井は沈める影ぞ朽ち果てにける

歌番号一一三六
宇知乃安之呂尓志礼留飛止乃者部利个礼八万可利天
宇治乃安之呂尓志礼留人乃侍个礼八万可利天
宇治の網代に、知れる人の侍りければ、まかりて

於保衣乃於幾止之
大江興俊
大江興俊

原文 宇知可者乃奈美尓美奈礼之幾美万世八和礼毛安之呂尓与利奴部幾加奈
定家 宇知河乃浪尓美奈礼之君万世八我毛安之呂尓与利奴部幾哉
和歌 うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな
解釈 宇治河の浪にみなれし君ませば我も網代に寄りぬべきかな

歌番号一一三七
為无乃美可止宇知尓於者之末之々止幾飛止/\尓於布幾天宇世
左世多万日个留多天万川留止天
院乃美可止内尓於者之末之々時人/\尓扇天宇世
左世多万日个留多天万川留止天
院の帝、内裏におはしましし時、人々に扇調ぜ
させたまひける、たてまつるとて

之也宇尓乃女乃止
小弐乃女乃止
小弐のめのと(小弐乳母)

原文 布幾以川留祢止己呂堂可久幾己由奈利者川安幾加世者以左天奈良佐之
定家 吹以川留祢所堂可久幾己由奈利者川秋風者以左天奈良佐之
和歌 ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし
解釈 吹き出づる音所高く聞こゆなり初秋風はいざ手ならさじ

歌番号一一三八
加部之 
返之 
返し

多以布 
多以布 
大輔

原文 己々呂之天万礼尓布幾川留安幾加世遠也万於呂之尓八奈佐之止曽於毛不
定家 心之天万礼尓吹川留秋風遠山於呂之尓八奈佐之止曽思
和歌 こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ
解釈 心してまれに吹きつる秋風を山下ろしにはなさじとぞ思ふ

歌番号一一三九
於止己乃布美於本久加幾天止以比个礼者
於止己乃布美於本久加幾天止以比个礼者
男の、文多く書きてと言ひければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 者可奈久天堂衣奈无久毛乃以止由部尓奈尓尓可於本久加々无止曽於毛不
定家 者可奈久天堂衣南久毛乃以止由部尓何尓可於本久加々无止曽思
和歌 はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ
解釈 はかなくて絶えなん雲の糸ゆゑに何にか多く書かんとぞ思ふ

歌番号一一四〇
久良万乃佐可遠与留己由止天与美者部利个留
久良万乃佐可遠与留己由止天与美侍个留
鞍馬の坂を夜越ゆとてよみ侍りける

天武之為无尓以万安己止女之个留人
亭子院尓以万安己止女之个留人
亭子院にいまあことめしける人

原文 武可之与利久良万乃也万止以比个留八和可己止飛止毛与留也己衣个无
定家 昔与利久良万乃山止以比个留八和可己止人毛与留也己衣个无
和歌 むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ
解釈 昔より鞍馬の山と言ひけるは我がごと人も夜や越えけん

歌番号一一四一
越止己尓川个天美知乃久尓部武寸女遠徒可者之
多利个留可曽乃於止己己々呂加者利尓多利止幾々天
己々呂宇之止於也乃以比川可者之多利个礼八
越止己尓川个天美知乃久尓部武寸女遠徒可者之
多利个留可曽乃於止己心加者利尓多利止幾々天
心宇之止於也乃以比川可者之多利个礼八
男につけて陸奥へ女をつかはし
たりけるが、その男心変りにたりと聞きて、
心憂しと親の言ひつかはしたりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 久毛為地乃者留个幾本止乃曽良己止者以可奈留可世乃不幾天川遣个无
定家 雲井地乃者留个幾本止乃曽良事者以可奈留風乃吹天川遣个无
和歌 くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ
解釈 雲居路のはるけきほどの空事はいかなる風の吹きて告げけん

歌番号一一四二
加部之 
返之 
返し

武寸女乃者々
女乃者々
女のはは(女母)

原文 安満久毛乃宇幾堂留己止々幾々之可止奈保曽己々呂者曽良尓奈利尓之
定家 安満雲乃宇幾堂留己止々幾々之可止猶曽心者曽良尓奈利尓之
和歌 あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし
解釈 天雲の浮きたることと聞きしかどなほぞ心は空になりにし

歌番号一一四三
堂満左可尓加与部留布美遠己比加部之个礼八
曽乃布美尓久之天川可八之个留
堂満左可尓加与部留布美遠己比加部之个礼八
曽乃布美尓久之天川可八之个留
たまさかに通へる文を乞ひ返しければ、
その文に具してつかはしける

毛止与之乃美己
毛止与之乃美己
もとよしのみこ(元良親王)

原文 也礼者於之也良祢者飛止尓三衣奴部之奈久/\毛奈保加部寸万佐礼利
定家 也礼者於之也良祢者人尓見衣奴部之奈久/\毛猶加部寸万佐礼利
和歌 やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり
解釈 やれば惜しやらねば人に見えぬべし泣く泣くもなほ返すまされり

歌番号一一四四
恵武幾乃於保无止幾美武万遠徒可者之天者也久万以留部幾
与之於保世徒可者之多利个礼者寸奈者知万以利天
於本世己止宇个太万者礼留飛止尓川可八之个留
延喜御時御武万遠徒可者之天者也久万以留部幾
与之於保世徒可者之多利个礼者寸奈者知万以利天
於本世己止宇个太万者礼留人尓川可八之个留
延喜御時御、馬をつかはして早く参るべき
よし仰せつかはしたりければ、すなはち参りて
仰せ事承れる人につかはしける

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 毛知川幾乃己満与利遠曽久以天川礼者多止留/\曽也万者己衣川留
定家 毛知月乃己満与利遠曽久以天川礼者多止留/\曽山者己衣川留
和歌 もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
解釈 望月の駒より遅く出でつればたどるたどるぞ山は越えつる

歌番号一一四五
也末比之天己々呂本曽之止天多以布尓川可八之个留
也末比之天心本曽之止天大輔尓川可八之个留
病して心細しとて、大輔につかはしける

布知八良乃安徒止之
藤原敦敏
藤原敦敏

原文 与呂徒与遠知幾利之己止乃以多川良尓飛止和良部尓毛奈利奴部幾加奈
定家 与呂徒世遠契之事乃以多川良尓人和良部尓毛奈利奴部幾哉
和歌 よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな
解釈 よろづ世を契りし事のいたづらに人笑へにもなりぬべきかな

歌番号一一四六
加部之 
返之 
返し

多以布 
多以布 
大輔

原文 加遣天以部者由々之幾毛乃遠与呂川与止知幾利之己止也加奈者佐留部幾
定家 加遣天以部者由々之幾物遠万代止契之事也加奈者佐留部幾
和歌 かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき
解釈 かけて言へばゆゆしき物を万代と契りし事やかなはざるべき

歌番号一一四七
安良礼乃布留遠曽天尓宇个天幾衣个留遠
宇美乃本止利尓天
安良礼乃布留遠曽天尓宇个天幾衣个留遠
宇美乃本止利尓天
霰の降るを袖に受けて消えけるを、
海のほとりにて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 知留止三天曽天尓宇久礼止多万良奴八奈礼多留奈美乃者奈尓曽安利个留
定家 知留止見天曽天尓宇久礼止多万良奴八奈(奈$安)礼多留浪乃花尓曽有个留
和歌 ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける
解釈 散ると見て袖に受くれどたまらぬは荒れたる浪の花にぞ有りける

歌番号一一四八
安留止己呂乃和良波於女己世知美尓奈武天无尓左布良日天
久川遠宇之奈比天个利寸計武止乃安曾无久良宇止尓天
久徒遠加之天者部利个留遠加部寸止天
安留所乃和良波女五節見尓南殿尓左布良日天
久川遠宇之奈比天个利寸計武止乃朝臣蔵人尓天
久徒遠加之天侍个留遠加部寸止天
ある所の童女、五節見に南殿にさぶらひて
沓を失ひてけり。扶幹朝臣、蔵人にて
沓を貸して侍りけるを、返すとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂知左波久奈美万遠和个天加川幾天之於幾乃毛久川遠以川可和寸礼无
定家 堂知左波久浪万遠和个天加川幾天之於幾乃毛久川遠以川可和寸礼无
和歌 たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ
解釈 立ち騒ぐ浪間を分けてかづきてし沖の藻屑をいつか忘れん

歌番号一一四九
加部之 
返之 
返し

寸計武止乃安曾无
輔臣朝臣
輔臣朝臣(藤原輔臣、ある本に藤原扶幹)

原文 加徒幾以天之於幾乃毛久川遠和寸礼寸八曽己乃見留女遠和礼尓加良世与
定家 加徒幾以天之於幾乃毛久川遠和寸礼寸八曽己乃見留女遠我尓加良世与
和歌 かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ
解釈 かづき出でし沖の藻屑を忘れずは底のみるめを我に刈らせよ

歌番号一一五〇
飛止乃毛遠奴者世者部利尓奴日天川可者寸止天
人乃毛遠奴者世侍尓奴日天川可者寸止天
人の裳を縫はせ侍るに、縫ひてつかはすとて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 可幾利奈久於毛不己々呂者徒久者祢乃己乃毛也以可々安良武止寸良无
定家 限奈久思心者徒久者祢乃己乃毛也以可々安良武止寸良无
和歌 かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ
解釈 限りなく思ふ心は筑波嶺のこのもやいかがあらむとすらん

歌番号一一五一
於止己乃也末比之个留遠止不良者天安利/\天
也美加多尓止部利个礼八
於止己乃也末比之个留遠止不良者天安利/\天
也美加多尓止部利个礼八
男の病しけるを訪ぶらはでありありて
やみがたに訪へりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 於毛日以天々止不己止乃者遠堂礼三末之三乃之良久毛止奈利奈万之可八
定家 思日以天々止不事乃者遠堂礼見末之身乃白雲止成奈万之可八
和歌 おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは
解釈 思ひ出でて訪ふ言の葉を誰れ見まし身の白雲となりなましかば

歌番号一一五二
美曽可越止己之多留於无奈遠安良久者以者天止部止
毛乃毛以者左利个礼八
美曽可越止己之多留女遠安良久者以者天止部止
毛乃毛以者左利个礼八
みそか男したる女を、荒くは言はで問へど
物も言はざりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和寸礼奈无止於毛不己々呂乃徒久可良尓己止乃者佐部也以部者由々之幾
定家 和寸礼南止思心乃徒久可良尓事乃者佐部也以部者由々之幾
和歌 わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき
解釈 忘れなんと思ふ心のつくからに言の葉さへや言へばゆゆしき

歌番号一一五三
於止己乃加久礼天於无奈遠三多利个礼者川可八之个留
於止己乃加久礼天女遠見多利个礼者川可八之个留
男の隠れて女を見たりければ、つかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加久礼為天和可宇幾左万遠美川乃宇部乃安和止毛者也久於毛日幾衣奈无
定家 加久礼為天和可宇幾左万遠水乃宇部乃安和止毛者也久思日幾衣奈无
和歌 かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ
解釈 隠れゐて我が憂きさまを水の上の泡とも早く思ひ消えなん

歌番号一一五四
与乃奈可遠止可久於毛日和川良日者部利个留本止尓於无奈止毛多知
奈留飛止奈保和可以者无己止尓川幾祢止加太良日者部利个礼八
世中遠止可久思日和川良日侍个留本止尓女止毛多知
奈留人猶和可以者无事尓川幾祢止加太良日侍个礼八
世の中をとかく思ひわづらひ侍りけるほどに、女友だち
なる人、なほ、我が言はん事につきねと語らひ侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 飛止己々呂以左也志良奈美堂可个礼八与良武奈幾左曽加根天可奈之幾
定家 人心以左也志良浪堂可个礼八与良武奈幾左曽加根天可奈之幾
和歌 ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき
解釈 人心いさや白浪高ければ寄らむ渚ぞかねて悲しき

歌番号一一五五
以多久己止己乃武与之遠止幾乃飛止以不止幾々天
以多久事己乃武与之遠時乃人以不止幾々天
いたく事好むよしを時の人言ふと聞きて

多可従乃美己
高津内親王
高津内親王

原文 奈本幾々尓満可礼留衣多毛安留毛乃遠計遠布幾々寸遠以不可和利奈左
定家 奈本幾木尓満可礼留枝毛安留物遠計遠布幾々寸遠以不可和利奈左
和歌 なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ
解釈 直き木に曲がれる枝もあるものを毛を吹き疵を言ふがわりなさ

歌番号一一五六
美可止尓堂天万川利多万日个留
美可止尓堂天万川利多万日个留
帝にたてまつりたまひける

佐加乃幾佐為
嵯峨后
嵯峨后

原文 宇徒呂者奴己々呂乃布可久安利个礼者己々良知留者奈者留尓安部留己止
定家 宇徒呂者奴心乃布可久有个礼者己々良知留花春尓安部留己止
和歌 うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること
解釈 移ろはぬ心の深く有りければここら散る花春に逢へるごと

歌番号一一五七
己礼可礼於无奈乃毛止尓満可利天毛乃以比奈止之家留尓
於无奈乃安奈左武乃加世也止毛宇之个礼者
己礼可礼女乃毛止尓満可利天物以比奈止之家留尓
女乃安奈左武乃風也止申个礼者
これかれ女のもとにまかりて物言ひなどしけるに、
女のあな寒の風やと申しければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂万多礼乃安美女乃満与利布久加世乃左武久者曽部天以礼武於毛日遠
定家 玉多礼乃安美女乃満与利布久風乃左武久者曽部天以礼武思日遠
和歌 たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを
解釈 玉垂れのあみ目の間より吹く風の寒くはそへて入れむ思ひを

歌番号一一五八
於止己乃毛乃以比个留遠左波幾个礼者加部利天
安之多尓川可者之个留
於止己乃物以比个留遠左波幾个礼者加部利天
安之多尓川可者之个留
男の物言ひけるを騒ぎければ、帰りて
朝につかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 之良奈美乃宇知左者可礼天多知之可八三遠宇之本尓曽々天者奴礼尓之
定家 白浪乃宇知左者可礼天多知之可八身遠宇之本尓曽袖者奴礼尓之
和歌 しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし
解釈 白浪のうち騒がれて立ちしかば身を潮にぞ袖は濡れにし

歌番号一一五九
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 止利毛安部寸堂知佐者可礼之安多奈美尓安也奈久奈尓々曽天乃奴礼个无
定家 止利毛安部寸堂知佐者可礼之安多浪尓安也奈久何尓袖乃奴礼个无
和歌 とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ
解釈 とりもあへず立ち騒がれしあだ浪にあやなく何に袖の濡れけん

歌番号一一六〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 堂々地止毛堂乃万佐良奈无三尓知可幾己呂毛乃世幾毛安利止以不奈利
定家 堂々地止毛堂乃万佐良南身尓知可幾衣乃関毛安利止以不奈利
和歌 たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり
解釈 たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり

歌番号一一六一
止毛多知乃比左之久安者佐利个留尓万可利安日天
与三者部利个留
止毛多知乃比左之久安者佐利个留尓万可利安日天
与三侍个留
友だちの久しく逢はざりけるに、まかりあひて
よみ侍りける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安者奴万尓己比之幾三知毛志利尓之遠奈止宇礼之幾尓万与不己々呂曽
定家 安者奴万尓己比之幾道毛志利尓之遠奈止宇礼之幾尓迷心曽
和歌 あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ
解釈 逢はぬ間に恋しき道も知りにしをなどうれしきにまどふ心ぞ

歌番号一一六二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 伊可奈利之布之尓可以止乃美多礼个无志日天久礼止毛止个寸三由留八
定家 伊可奈利之布之尓可以止乃美多礼个无志日天久礼止毛止个寸見由留八
和歌 いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは
解釈 いかなりし節にか糸の乱れけん強ひて繰れども解けず見ゆるは

歌番号一一六三
飛止乃女尓加与比个留三川个良礼者部利天
人乃女尓加与比个留見川个良礼侍天
人の妻に通ひける、見つけられ侍りて

可天宇保宇之
賀朝法師
賀朝法師

原文 三奈久止毛飛止尓志良礼之与乃奈可尓志良礼奴也万遠志留与之毛可奈
定家 身奈久止毛人尓志良礼之世中尓志良礼奴山遠志留与之毛哉
和歌 みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな
解釈 身投ぐとも人に知られじ世の中に知られぬ山を知るよしもがな

歌番号一一六四
加部之 
返之 
返し

毛止乃於止己
毛止乃於止己
もとのをとこ(元の男)

原文 与乃奈可尓志良礼奴也万尓三奈久止毛多尓乃己々呂也以者天於毛者武
定家 世中尓志良礼奴山尓身奈久止毛谷乃心也以者天於毛者武
和歌 よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ
解釈 世の中に知られぬ山に身投ぐとも谷の心や言はで思はむ

歌番号一一六五
也末乃為乃幾美尓徒可者之遣留
山乃井乃幾美尓徒可者之遣留
山の井の君につかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 遠止尓乃三幾々天八也末之安佐久止毛以左久美々天无也末乃為乃美川
定家 遠止尓乃三幾々天八也末之安佐久止毛以左久美々天无山乃為乃水
和歌 おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ
解釈 音にのみ聞きてはやまじ浅くともいざ汲みみてん山の井の水

歌番号一一六六
也末比之个留遠加良宇之天遠己多礼利止幾々天
也末比之个留遠加良宇之天遠己多礼利止幾々天
病しけるを、からうじておこたれりと聞きて

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 志天乃也末多止留/\毛己衣奈々天宇幾与乃奈可尓奈尓加部利个无
定家 志天乃山多止留/\毛己衣奈々天宇幾世中尓奈尓加部利个无
和歌 してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ
解釈 死出の山たどるたどるも越えななで憂き世の中になに帰りけん

歌番号一一六七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加寸奈良奴三遠毛知尓々天与之乃也末多可幾奈計幾遠於毛比己利奴留
定家 加寸奈良奴身遠毛知尓々天吉野山高幾歎遠思己利奴留
和歌 かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる
解釈 数ならぬ身を持荷にて吉野山高き嘆きを思ひ懲りぬる

歌番号一一六八
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 与之乃也末己衣无己止己曽加多可良女己良武奈个幾乃加寸者之利奈无
定家 吉野山己衣无事己曽加多可良女己良武歎乃加寸者之利奈无
和歌 よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ
解釈 吉野山越えん事こそ難からめ樵らむ嘆きの数は知りなん

歌番号一一六九
与宇世為无乃美可止々幾/\止乃為尓佐不良八世太末宇个留遠
飛左之宇女之奈可利个礼八多天万川利个留
陽成院乃美可止時/\止乃為尓佐不良八世太末宇个留遠
飛左之宇女之奈可利个礼八多天万川利个留
陽成院の帝、時々宿直にさぶらはせたまうけるを、
久しう召しなかりければ、たてまつりける

无左之
武蔵
武蔵

原文 加寸奈良奴三尓遠久与為乃之良堂万者飛可利三衣左寸毛乃尓曽安利个留
定家 加寸奈良奴身尓遠久与為乃白玉者光見衣左寸物尓曽有个留
和歌 かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける
解釈 数ならぬ身に置く宵の白玉は光見えさす物にぞ有りける

歌番号一一七〇
満可利加与比个留於无奈乃己々呂止計寸乃美三衣者部利个礼八
止之川幾毛部奴留遠以万左部加々留己止々以比川可者
之多利个礼八
満可利加与比个留女乃心止計寸乃美見衣侍个礼八
年月毛部奴留遠今左部加々留己止々以比川可者
之多利个礼八
まかり通ひける女の心解けずのみ見え侍りければ、
年月も経ぬるを、今さへかかること、と言ひつかは
したりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 奈尓者可多美幾者乃安之乃於以可与尓宇良三天曽布留飛止乃己々呂遠
定家 奈尓者可多美幾者乃安之乃於以可与尓怨天曽布留人乃己々呂遠
和歌 なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを
解釈 難波潟汀の葦の追い風に恨みてぞ経る人の心を

歌番号一一七一
於无奈乃毛止与利宇良三遠己世天者部利个留可部之己止尓
女乃毛止与利怨遠己世天侍个留返事尓
女の許より恨みおこせて侍りける返事に

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 和寸留止八宇良三左良奈无者之多可乃止可部留也末乃之為八毛三知寸
定家 和寸留止八怨左良南者之多可乃止可部留山乃之為八毛三知寸
和歌 わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす
解釈 忘るとは恨みざらなんはし鷹のとかへる山の椎はもみぢす

歌番号一一七二
武可之於奈之止呂尓美也徒可部之者部利个留於无奈乃於止己尓
徒幾天飛止乃久尓々於知為多利遣留遠幾々川个天
己々呂安利个留飛止奈礼者以比川可八之个留
武可之於奈之所尓宮徒可部之侍个留女乃於止己尓
徒幾天人乃久尓々於知為多利遣留遠幾々川个天
心安利个留人奈礼者以比川可八之个留
昔同じ所に宮仕へし侍りける女の、男に
つきて人の国に落ちゐたりけるを聞きつけて
心ありける人なれば、言ひつかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 遠知己知乃飛止女万礼奈留也末左止尓以部為世无止八於毛比幾也幾美
定家 遠知己知乃人女万礼奈留山里尓家為世无止八思幾也君
和歌 をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ
解釈 遠近の人目まれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君

歌番号一一七三
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 三遠宇之止飛止之礼奴与遠多川祢己之久毛乃也部堂川也末尓也八安良奴
定家 身遠宇之止人之礼奴世遠尋己之雲乃也部立山尓也八安良奴
和歌 みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ
解釈 身を憂しと人知れぬ世を尋ね来し雲の八重立つ山にやはあらぬ

歌番号一一七四
於止己奈止者部良寸之天止之己呂也末左止尓己毛利
者部利个留於无奈遠武可之安比之利天者部利个留飛止
美知満可利个留徒以天尓飛佐之宇幾己衣佐利川留遠
己々尓奈利个利止以比以礼天者部利个礼者
於止己奈止侍良寸之天止之己呂山里尓己毛利
侍个留女遠武可之安比之利天侍个留人
美知満可利个留徒以天尓飛佐之宇幾己衣佐利川留遠
己々尓奈利个利止以比以礼天侍个礼者
男など侍らずして年ごろ山里に籠もり
侍りける女を、昔あひ知りて侍りける人、
道まかりけるついでに、久しう聞こえざりつるを、
ここになりけりと言ひ入れて侍りけれは

土左
土左
土左

原文 安佐奈个尓与乃宇幾己止遠志乃比川々奈可女世之万尓止之者部尓个利
定家 安佐奈个尓世乃宇幾己止遠志乃比川々奈可女世之万尓年者部尓个利
和歌 あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり
解釈 朝なけに世の憂きことをしのびつつながめせしまに年は経にけり

歌番号一一七五
也末左止尓者部利个留尓武可之安比之礼留飛止乃
以川与利己々尓者寸武曽止々飛个礼八
山里尓侍个留尓武可之安比之礼留人乃
以川与利己々尓者寸武曽止々飛个礼八
山里に侍りけるに、昔あひ知れる人の、
いつよりここには住むぞと問ひければ

可武為无
閑院
閑院

原文 者留也己之安幾也由幾个无於本川可奈加个乃久知幾止与遠寸久寸三八
定家 春也己之秋也由幾个无於本川可奈影乃朽木止世遠寸久寸身八
和歌 はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは
解釈 春や来し秋や行きけんおぼつかな蔭の朽木と世を過ぐす身は

歌番号一一七六
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 与乃奈可者宇幾毛乃奈礼也飛止己止乃止尓毛加久尓毛幾己衣久留之幾
定家 世中者宇幾物奈礼也人己止乃止尓毛加久尓毛幾己衣久留之幾
和歌 よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき
解釈 世の中は憂きものなれや人言のとにもかくにも聞こえ苦しき

歌番号一一七七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 武差之乃者曽天比川者可利和个之可止和可武良左幾八多川根和比尓起
定家 武蔵野者袖比川許和个之可止和可紫八多川根和比尓起
和歌 むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき
解釈 武蔵野は袖ひつばかり分けしかと若紫は尋ねわびにき

歌番号一一七八
以止万尓天己毛利為天者部利个留己呂飛止乃止八寸者部利个礼者
以止万尓天己毛利為天侍个留己呂人乃止八寸侍个礼者
暇にてこもりゐて侍りけるころ、人の訪はず侍りければ

美不乃多々三祢
壬生忠岑
壬生忠岑

原文 於保安良幾乃毛利乃久左止也奈利尓个无加利尓多尓幾天止不飛止乃奈幾
定家 於保安良幾乃毛利乃草止也奈利尓个无加利尓多尓幾天止不人乃奈幾
和歌 おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき
解釈 大荒木の森の草とやなりにけん刈りにだに来て訪ふ人のなき

歌番号一一七九
安留止己呂尓美也川可部之者部利个留於无奈乃安多奈多知个留加毛止与利
遠乃礼可宇部八曽己尓奈无久知乃者尓可个天以者留奈留止
宇良美天者部利个礼八
安留所尓宮川可部之侍个留女乃安多奈多知个留加毛止与利
遠乃礼可宇部八曽己尓奈无久知乃者尓可个天以者留奈留止
宇良美天侍个礼八
ある所に宮仕へし侍りける女の、あだ名立ちけるがもとより、
己れが上は、そこになん口の端にかけて言はるなると
恨みて侍りければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 安者礼天不己止己曽川根乃久知乃波尓加々留也飛止遠於毛不奈留良无
定家 安者礼天不事己曽川根乃久知乃波尓加々留也人遠思奈留良无
和歌 あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ
解釈 あはれてふ事こそ常の口の端にかかるや人を思ふなるらん

歌番号一一八〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

以世
伊勢
伊勢

原文 布久加世乃志多乃知利尓毛安良奈久尓佐毛太知也寸幾和可奈幾奈可奈
定家 吹風乃志多乃知利尓毛安良奈久尓佐毛太知也寸幾和可奈幾奈哉
和歌 ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな
解釈 吹く風の下の塵にもあらなくにさも立ちやすき我がなき名かな

歌番号一一八一
加春可仁満宇天个留三知尓左本可者乃本止利尓
者川世与利加部留於无奈久留万乃安比天者部利个留可寸多礼乃
安幾多留与利者川可尓美以礼个礼者安比之利天
者部利个留於无奈乃己々呂左之不可久於毛比加者之奈可良
者々可留己止者部利天安比者奈礼天无川奈々止之者可利尓
奈利者部利尓个留於无奈尓者部利个礼者加乃久留万尓以比
以礼者部利个留
加春可仁満宇天个留道尓左本河乃本止利尓
者川世与利加部留女久留万乃安比天侍个留可寸多礼乃
安幾多留与利者川可尓見以礼个礼者安比之利天
侍个留女乃心左之不可久思加者之奈可良
者々可留事侍天安比者奈礼天六七年(六七年=武止世<朱>)許尓
奈利侍尓个留女尓侍个礼者加乃久留万尓以比
以礼侍个留
春日に詣でける道に、佐保河のほとりに、
初瀬より帰る女車の逢ひて侍りけるが、簾の
開きたるよりはつかに見入れければ、相知りて
侍りける女の心ざし深く思ひ交しながら、
はばかる事侍りて、あひ離れて六七年ばかりに
なり侍りにける女に侍りければかの車に言ひ
入れ侍りける

可武為无乃比多利乃於本以万宇知幾三
閑院左大臣
閑院左大臣

原文 布留佐止乃佐本乃可者美川个不毛奈保加久天安不世八宇礼之可利个利
定家 布留佐止乃佐本乃河水个不毛猶加久天安不世八宇礼之可利个利
和歌 ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり
解釈 古里の佐保の河水今日もなほかくて逢瀬はうれしかりけり

歌番号一一八二
飛者乃比多利乃於本以万宇知幾三与宇者部利天奈良乃波遠毛止女
者部利个礼者知可奴可安比之利天者部利个留以部尓止利
尓徒可者之多利个礼八
枇杷左大臣与宇侍天奈良乃波遠毛止女
侍个礼者知可奴可安比之利天侍个留家尓止利
尓徒可者之多利个礼八
枇杷左大臣、用侍りて楢の葉をもとめ
侍りければ、千兼があひ知りて侍りける家に取り
につかはしたりければ

止之己
俊子
俊子

原文 和可也止遠以徒奈良之天可奈良乃者遠奈良之加本尓八於利尓遠己春留
定家 和可也止遠以徒奈良之天可奈良乃者遠奈良之加本尓八於利尓遠己春留
和歌 わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする
解釈 我が宿をいつ馴らしてか楢の葉を馴らし顔には折りにおこする

歌番号一一八三
加部之 
返之 
返し

飛者乃比多利乃於本以万宇知幾三
枇杷左大臣
枇杷左大臣

原文 奈良乃葉乃者毛利乃加美乃末之个留遠志良天曽於里之多々利奈左留奈
定家 奈良乃葉乃者毛利乃神乃末之个留遠志良天曽於里之多々利奈左留奈
和歌 ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな
解釈 楢の葉の葉守の神のましけるを知らでぞ折りしたたりなさるな

歌番号一一八四
止毛多知乃毛止尓満可利天佐可川幾安万多々比尓
奈里尓个礼者尓遣天満可利个留遠止々女和川良日
天毛天者部利个留布衣遠止利止々女天万多乃安之多
尓川可八之个留
止毛多知乃毛止尓満可利天佐可川幾安万多々比尓
奈里尓个礼者尓遣天満可利个留遠止々女和川良日
天毛天侍个留布衣遠止利止々女天又乃安之多
尓川可八之个留
友だちのもとにまかりて、盃あまた度に
なりにければ、逃げてまかりけるを、とどめわつらひ
て持て侍りける笛を取りとどめて、又の朝
につかはしける

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 加部利天者己恵也堂可者武布衣多計乃川良幾比止与乃加多美止於毛部八
定家 帰天者声也堂可者武布衣竹乃川良幾比止与乃加多美止思部八
和歌 かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは
解釈 帰りては声や違はむ笛竹のつらき一夜のかたみと思へば

歌番号一一八五
加部之 
返之 
返し

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 飛止布之尓宇良美奈者天曽布衣多計乃己恵乃宇知尓毛於毛不己々呂安利
定家 飛止布之尓怨奈者天曽笛竹乃己恵乃内尓毛思不心安利
和歌 ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり
解釈 一節に恨みな果てそ笛竹の声の内にも思ふ心あり

歌番号一一八六
毛止与利止毛多知尓者部利个礼八川良由幾尓安比可
多良日天加祢寸个乃安曾无乃以部尓奈川幾遠徒多部
左世者部利个留尓曽乃奈川幾尓久者部天川良由幾
尓遠久利个累
毛止与利友多知尓侍个礼八川良由幾尓安比可
多良日天兼輔朝臣乃家尓名川幾遠徒多部
左世侍个留尓曽乃奈川幾尓久者部天川良由幾
尓遠久利个累
もとより友だちに侍りければ、貫之にあひ
語らひて、兼輔朝臣の家に名づきを伝へ
させ侍りけるに、その名づきに加へて貫之
に送りける

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 飛止尓徒久多与利多尓奈之於本安良幾乃毛利乃志多奈留久左乃三奈礼八
定家 人尓徒久多与利多尓奈之於本安良幾乃毛利乃志多奈留草乃身奈礼八
和歌 ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは
解釈 人につくたよりだになし大荒木の森の下なる草の身なれば

歌番号一一八七
加祢多々乃安曾无可者々三万可利尓遣礼者加祢多々遠波
奈幾飛者乃比多利乃於本以万宇知幾三乃以部尓武寸女遠者
幾左以乃美也尓佐不良者世武止安比左多女天
布多利奈可良万川飛者乃以部尓和多之遠久留止
天久者部天者部利个留
兼忠朝臣母身万可利尓遣礼者兼忠遠波
故枇杷左大臣乃家尓武寸女遠者
幾左以乃宮尓佐不良者世武止安比左多女天
布多利奈可良万川枇杷乃家尓和多之遠久留止
天久者部天侍个留
兼忠朝臣の母、身まかりにければ、兼忠をば
故枇杷左大臣の家に、女をば
后の宮にさぶらはせむと相定めて、
二人ながらまづ枇杷の家に渡し送ると
て、加へて侍りける

加祢多々乃安曾无可者々乃女乃止
兼忠朝臣母乃女乃止
兼忠朝臣母のめのと(源兼忠朝臣母乳母)

原文 武寸比遠幾之加多美乃己多尓奈可利世者奈尓々志乃不乃久左遠川万々之
定家 結遠幾之加多美乃己多尓奈可利世者何尓忍乃草遠川万々之
和歌 むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし
解釈 結び置きしかたみのこだになかりせば何に忍の草を摘ままし

歌番号一一八八
毛乃於毛日者部利个留己呂也武己止奈幾堂可幾止己呂
与利止者世多末部利个礼八
毛乃思日侍个留己呂也武己止奈幾堂可幾所
与利止者世多末部利个礼八
物思ひ侍りけるころ、やむごとなき高き所
より問はせたまへりければ

与美飛止之良寸 
与美人之良寸 
よみ人しらす

原文 宇礼之幾毛宇幾毛己々呂者日止川尓天和可礼奴毛乃者奈美多奈利个利
定家 宇礼之幾毛宇幾毛心者日止川尓天和可礼奴物者涙奈利个利
和歌 うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり
解釈 うれしきも憂きも心は一つにて分かれぬ物は涙なりけり

歌番号一一八九
与乃奈可乃己々呂尓加奈者奴己止毛宇之个留川以天尓
世中乃心尓加奈者奴事申个留川以天尓
世の中の心にかなはぬ事申しけるついでに

従良由幾 
従良由幾 
つらゆき(紀貫之)

原文 於之可良天加奈之幾毛乃者三奈利个利宇幾与曽武可无可多遠之良祢八
定家 於之可良天加奈之幾物者身奈利个利宇幾世曽武可无方遠之良祢八
和歌 をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは
解釈 惜しからで悲しき物は身なりけり憂き世背かん方を知らねば

歌番号一一九〇
於毛不己止者部利个留己呂飛止尓川可者之个留
於毛不己止侍个留己呂人尓川可者之个留
思ふこと侍りけるころ、人につかはしける

与三飛止之良寸 
与三人之良寸 
よみひとしらす

原文 於毛比以川留止幾曽加奈之幾与乃奈可者曽良由久々毛乃者天遠之良祢八
定家 思以川留時曽加奈之幾世中者曽良行雲乃者天遠之良祢八
和歌 おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは
解釈 思ひ出づる時ぞ悲しき世の中は空行く雲の果てを知らねば

歌番号一一九一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与三飛止之良寸 
与三人之良寸 
よみひとしらす

原文 安者礼止毛宇之止毛以者之加遣呂不乃安留可奈幾可尓个奴留与奈礼者
定家 安者礼止毛宇之止毛以者之加遣呂不乃安留可奈幾可尓个奴留与奈礼者
和歌 あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは
解釈 あはれとも憂しとも言はじかげろふのあるかなきかに消ぬる世なれば

歌番号一一九二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与三飛止之良寸 
与三人之良寸 
よみひとしらす

原文 阿八礼天不己止尓奈久左武与乃奈可遠奈止可无可之止以比天寸久良无
定家 阿八礼天不事尓奈久左武世中遠奈止可昔止以比天寸久良无
和歌 あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ
解釈 あはれてふ事に慰む世の中をなどか昔と言ひて過ぐらん

歌番号一一九三
者利万乃久尓々堂可々堂止以不止己呂尓於毛之呂幾
以部毛知天者部利个留遠美也己尓天者々加毛尓天
飛左之宇万可良天加乃多可々多尓者部利个留飛止
尓以比川可八之个留
者利万乃久尓々堂可々堂止以不所尓於毛之呂幾
家毛知天侍个留遠京尓天者々加毛尓天
飛左之宇万可良天加乃多可々多尓侍个留人
尓以比川可八之个留
播磨国にたかがたといふ所におもしろき
家持ちて侍りけるを、京にて母が喪にて
久しうまからで、かのたかがたに侍りける人
に言ひつかはしける

与三飛止之良寸 
与三人之良寸 
よみひとしらす

原文 毛乃於毛不止由幾天毛三祢者多可々多乃安万乃止万也八久知也之奴良无
定家 物思止行天毛見祢者多可々多乃安万乃止万也八久知也之奴良无
和歌 ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ
解釈 物思ふと行きても見ねばたかがたの海人の苫屋は朽ちやしぬらん

歌番号一一九四
恵武幾乃於本武止幾止幾乃久良武止乃毛止尓曽宇之毛
勢与止於保之久天徒可者之遣留
延喜御時止幾乃蔵人乃毛止尓曽宇之毛
延喜御時、時の蔵人の許に、奏しも
せよとおぼしくてつかはしける

身川祢
身川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 由女尓多仁宇礼之止毛三者宇徒々尓天王飛之幾与利者奈保万佐利奈无
定家 夢尓多仁宇礼之止毛見者宇徒々尓天王飛之幾与利者猶万佐利奈无
和歌 ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ
解釈 夢にだにうれしとも見ばうつつにてわびしきよりはなほまさりなん
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