大伴宿祢娉巨勢郎女時謌一首
大伴宿祢、諱曰安麻呂也。難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子。平城朝任大納言兼大将軍薨也
標訓 大伴宿祢の巨勢(こせの)郎女(いらつめ)を娉(よば)ひし時の歌一首
大伴宿祢、諱(いみな)を曰はく「安麻呂」といへり。難波の朝(みかど)の右大臣(みぎのおほまえつきみ)大紫(だいし)大伴長徳(ながとこ)卿(まえつきみ)の第六子なり。平城の朝(みかど)に大納言兼(あはせて)大将軍に任けられ薨(みまか)れり。
集歌一〇一
原文 玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常云 不成樹別尓
訓読 玉(たま)葛(かづら)実(み)成(な)らぬ木にはちはやぶる神ぞ着(つ)くといふならぬ樹ごとに
私訳 美しい藤蔓の花の実の成らない木には恐ろしい神が取り付いていると言いますよ。実の成らない木にはどれも。それと同じように、貴女を抱きたいと云う私の思いを成就させないと貴女に恐ろしい神が取り付きますよ。
巨勢郎女報贈謌一首 即近江朝大納言巨勢人卿之女也
標訓 巨勢郎女の報(こた)へ贈りたる歌一首
即ち近江朝の大納言巨勢(こせの)人(ひとの)卿(まへつきみ)の女(むすめ)なり
集歌一〇二
原文 玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎
訓読 玉(たま)葛(かづら)花のみ咲きに成らざるは誰が恋にあらめ吾(わ)が恋ひ念(も)ふを
私訳 美しい藤蔓の花のような言葉の花だけがたくさんに咲いただけで、実際に恋の実が実らなかったのは誰の恋心でしょうか。私は貴方の私への恋心を感じていましたが。
明日香清御原宮御宇天皇代 天渟名原瀛真人天皇、謚曰天武天皇
標訓 明日香清御原宮に御宇天皇の代(みよ)
天渟名原瀛真人天皇、謚(おくりな)して曰はく天武天皇
天皇賜藤原夫人御謌一首
標訓 天皇(すめらみこと)の藤原(ふじわらの)夫人(ぶにん)に賜(たま)へる御(かた)りし謌一首
集歌一〇三
原文 吾里尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後
訓読 吾(わ)が里に大雪降(ふ)れり大原の古(ふ)りにし里に降らまくは後(のち)
私訳 わが明日香の里に大雪が降っている、遠く離れたお前の里の(明日香の)大原の古びた里に雪が降るのはもっと後だね。
注意 「大原」は現在の明日香村小原一帯の野です。
藤原夫人奉和謌一首
標訓 藤原夫人の和(こた)へ奉(たてまつ)れる謌一首
集歌一〇四
原文 吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武
訓読 吾(わ)が岡し御神(をかみ)に言ひに落(ふ)らしめし雪し摧(くだ)けし其処(そこ)に散りけむ
私訳 私の里にある丘に祭られる御神である竜神に言いつけた、その降らせた雪のかけらが、そちらに散ったのでしょう。
藤原宮御宇天皇
天皇謚曰持統天皇。元年丁亥、十一年譲位軽太子。尊号曰太上天皇也
標訓 藤原宮に御宇天皇の代(みよ)
天皇、謚(おくりな)して曰はく持統天皇。元年丁亥、十一年に位を軽太子に譲りたまへり。尊号を曰はく太上天皇なり。
大津皇子竊下於伊勢神宮上来時、大伯皇女御作謌二首
標訓 大津皇子の竊(ひそ)かに伊勢の神宮に下りて上り来ましし時に、大伯(おおくの)皇女(ひめみこ)の御(かた)りて作(つく)らしし歌二首
集歌一〇五
原文 吾勢枯乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之
訓読 吾が背子を大和へ遣るとさ夜更けに鷄(かけ)鳴(な)く露に吾(われ)立ちそ濡れし
私訳 私の愛しい貴方を大和へと見送ろうと思うと、二人の夜はいつしか深けてしまった、その鶏が鳴く早朝に去って往く貴方を見送る私は朝露にも立ち濡れてしまいました。
大伴宿祢、諱曰安麻呂也。難波朝右大臣大紫大伴長徳卿之第六子。平城朝任大納言兼大将軍薨也
標訓 大伴宿祢の巨勢(こせの)郎女(いらつめ)を娉(よば)ひし時の歌一首
大伴宿祢、諱(いみな)を曰はく「安麻呂」といへり。難波の朝(みかど)の右大臣(みぎのおほまえつきみ)大紫(だいし)大伴長徳(ながとこ)卿(まえつきみ)の第六子なり。平城の朝(みかど)に大納言兼(あはせて)大将軍に任けられ薨(みまか)れり。
集歌一〇一
原文 玉葛 實不成樹尓波 千磐破 神曽著常云 不成樹別尓
訓読 玉(たま)葛(かづら)実(み)成(な)らぬ木にはちはやぶる神ぞ着(つ)くといふならぬ樹ごとに
私訳 美しい藤蔓の花の実の成らない木には恐ろしい神が取り付いていると言いますよ。実の成らない木にはどれも。それと同じように、貴女を抱きたいと云う私の思いを成就させないと貴女に恐ろしい神が取り付きますよ。
巨勢郎女報贈謌一首 即近江朝大納言巨勢人卿之女也
標訓 巨勢郎女の報(こた)へ贈りたる歌一首
即ち近江朝の大納言巨勢(こせの)人(ひとの)卿(まへつきみ)の女(むすめ)なり
集歌一〇二
原文 玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀尓有目 吾孤悲念乎
訓読 玉(たま)葛(かづら)花のみ咲きに成らざるは誰が恋にあらめ吾(わ)が恋ひ念(も)ふを
私訳 美しい藤蔓の花のような言葉の花だけがたくさんに咲いただけで、実際に恋の実が実らなかったのは誰の恋心でしょうか。私は貴方の私への恋心を感じていましたが。
明日香清御原宮御宇天皇代 天渟名原瀛真人天皇、謚曰天武天皇
標訓 明日香清御原宮に御宇天皇の代(みよ)
天渟名原瀛真人天皇、謚(おくりな)して曰はく天武天皇
天皇賜藤原夫人御謌一首
標訓 天皇(すめらみこと)の藤原(ふじわらの)夫人(ぶにん)に賜(たま)へる御(かた)りし謌一首
集歌一〇三
原文 吾里尓 大雪落有 大原乃 古尓之郷尓 落巻者後
訓読 吾(わ)が里に大雪降(ふ)れり大原の古(ふ)りにし里に降らまくは後(のち)
私訳 わが明日香の里に大雪が降っている、遠く離れたお前の里の(明日香の)大原の古びた里に雪が降るのはもっと後だね。
注意 「大原」は現在の明日香村小原一帯の野です。
藤原夫人奉和謌一首
標訓 藤原夫人の和(こた)へ奉(たてまつ)れる謌一首
集歌一〇四
原文 吾岡之 於可美尓言而 令落 雪之摧之 彼所尓塵家武
訓読 吾(わ)が岡し御神(をかみ)に言ひに落(ふ)らしめし雪し摧(くだ)けし其処(そこ)に散りけむ
私訳 私の里にある丘に祭られる御神である竜神に言いつけた、その降らせた雪のかけらが、そちらに散ったのでしょう。
藤原宮御宇天皇
天皇謚曰持統天皇。元年丁亥、十一年譲位軽太子。尊号曰太上天皇也
標訓 藤原宮に御宇天皇の代(みよ)
天皇、謚(おくりな)して曰はく持統天皇。元年丁亥、十一年に位を軽太子に譲りたまへり。尊号を曰はく太上天皇なり。
大津皇子竊下於伊勢神宮上来時、大伯皇女御作謌二首
標訓 大津皇子の竊(ひそ)かに伊勢の神宮に下りて上り来ましし時に、大伯(おおくの)皇女(ひめみこ)の御(かた)りて作(つく)らしし歌二首
集歌一〇五
原文 吾勢枯乎 倭邊遺登 佐夜深而 鷄鳴露尓 吾立所霑之
訓読 吾が背子を大和へ遣るとさ夜更けに鷄(かけ)鳴(な)く露に吾(われ)立ちそ濡れし
私訳 私の愛しい貴方を大和へと見送ろうと思うと、二人の夜はいつしか深けてしまった、その鶏が鳴く早朝に去って往く貴方を見送る私は朝露にも立ち濡れてしまいました。
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