集歌一〇九八
原文 木道尓社 妹山在云櫛上 二上山母 妹許曽有来
訓読 紀道(きぢ)にこそ妹山(いもやま)ありいふ櫛(くし)上(かみ)し二上山も妹こそありけれ
私訳 紀国への道には妹山があると云うが、丸い櫛の形をした二上山も雄岳と雌岳の二山があり、同じようにここにも妹山があります。
詠岳
標訓 岳を詠める
集歌一〇九九
原文 片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将比疑
訓読 片岡(かたおか)しこの向(むこ)つ峯(を)に椎(しひ)蒔(ま)かば今年し夏し蔭(かげ)に比疑(なそ)へむ
私訳 片側が切り立った丘の、この向こうの峰に椎を今、蒔いたならば、きっと若芽が育ち、それを今年の夏の面影(=思い出)としましょう。
注意 原文の「陰尓将比疑」を、標準解釈では「陰尓将化疑」と校訂して「陰(かげ)にならむか」と訓じます。歌を比喩を見ますと「椎蒔」は乙女への恋の芽生えとなりますが、標準解釈では表記そのままに植林の歌とします。
詠河
標訓 河を詠める
集歌一一〇〇
原文 巻向之 病足之川由 往水之 絶事無 又反将見
訓読 巻向し痛足し川ゆ往く水し絶ゆること無くまたかへり見む
私訳 巻向の痛足川を流れ往く水が絶えることがないように、なんどもなんども、その痛足川を振り返り眺めましょう。
集歌一一〇一
原文 黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
訓読 ぬばたまし夜さり来れば巻向し川音(かはと)高しも嵐かも疾き
私訳 星明かりも隠す漆黒の闇夜がやって来るからか、巻向の川音が高いようだ。嵐かのように風足が疾い。
左注 右二首、柿本朝臣人麿之謌集出
注訓 右の二首は、柿本朝臣人麿の歌集に出づ。
集歌一一〇二
原文 大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也
訓読 大王(おほきみ)し三笠し山し帯(おび)にせる細谷川(ほそたにかわ)し音の清(さや)けさ
私訳 大王がお使いになる御笠のような、その三笠山を取り巻く帯のような細谷川のせせらぎの音のさやけさよ。
原文 木道尓社 妹山在云櫛上 二上山母 妹許曽有来
訓読 紀道(きぢ)にこそ妹山(いもやま)ありいふ櫛(くし)上(かみ)し二上山も妹こそありけれ
私訳 紀国への道には妹山があると云うが、丸い櫛の形をした二上山も雄岳と雌岳の二山があり、同じようにここにも妹山があります。
詠岳
標訓 岳を詠める
集歌一〇九九
原文 片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将比疑
訓読 片岡(かたおか)しこの向(むこ)つ峯(を)に椎(しひ)蒔(ま)かば今年し夏し蔭(かげ)に比疑(なそ)へむ
私訳 片側が切り立った丘の、この向こうの峰に椎を今、蒔いたならば、きっと若芽が育ち、それを今年の夏の面影(=思い出)としましょう。
注意 原文の「陰尓将比疑」を、標準解釈では「陰尓将化疑」と校訂して「陰(かげ)にならむか」と訓じます。歌を比喩を見ますと「椎蒔」は乙女への恋の芽生えとなりますが、標準解釈では表記そのままに植林の歌とします。
詠河
標訓 河を詠める
集歌一一〇〇
原文 巻向之 病足之川由 往水之 絶事無 又反将見
訓読 巻向し痛足し川ゆ往く水し絶ゆること無くまたかへり見む
私訳 巻向の痛足川を流れ往く水が絶えることがないように、なんどもなんども、その痛足川を振り返り眺めましょう。
集歌一一〇一
原文 黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
訓読 ぬばたまし夜さり来れば巻向し川音(かはと)高しも嵐かも疾き
私訳 星明かりも隠す漆黒の闇夜がやって来るからか、巻向の川音が高いようだ。嵐かのように風足が疾い。
左注 右二首、柿本朝臣人麿之謌集出
注訓 右の二首は、柿本朝臣人麿の歌集に出づ。
集歌一一〇二
原文 大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也
訓読 大王(おほきみ)し三笠し山し帯(おび)にせる細谷川(ほそたにかわ)し音の清(さや)けさ
私訳 大王がお使いになる御笠のような、その三笠山を取り巻く帯のような細谷川のせせらぎの音のさやけさよ。