竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌2406から集歌2410まで

2021年10月29日 | 新訓 万葉集
集歌2406 狛錦 紐解開 夕戸 不知有命 戀有
試訓 高麗錦(こまにしき)紐(ひも)解(と)き開(あ)けし夕(ゆふへ)戸(と)し知らざる命(みこ)し恋ひつつあらむ
試訳 美しい高麗の錦の紐を解き、夕べには戸を開けておきましょう。今夜、いらっしゃるか判らない貴方様を、私は恋い焦がれていましょう。
注意 原文に「夕戸」の「戸」は一般に「谷」の誤字として「夕だに」と訓みますが、ここでは原文のままに訓んでいます。そこで「不知有命」の「命」を「みこと」と訓んでみました。

集歌2407 百積 船潜納 八占刺 母雖問 其名不謂
訓読 百積(ももつみ)し船隠(かく)り入る八占(やうら)さし母し問ふともその名し告(の)らじ
私訳 沢山の荷を積む大きな船が泊る多くの浦の、その多くの衢で多くの人から辻占をして母が問うても、貴方のその名は告げません。

集歌2408 眉根削 鼻鳴紐解 待哉 何時見 念吾君
訓読 眉根(まよね)削(か)き鼻(はな)ひ紐(ひも)解(と)け待つらむか何時(いつ)しも見むと念(ねが)ふ吾が君
私訳 (あの時と同じように)眉を刮り整へて、甘えた声で下着の紐を解かれる時をいつまで待つのでしょうか。いつ何時でも抱かれたいと思う、私の貴方。

集歌2409 君戀 浦経居 悔 我裏紐 結手徒
訓読 君し恋ひうらぶれ居(を)れば悔(くや)しくも我(わ)が下紐(したひも)し結(ゆ)ふ手いたづら
私訳 貴方を慕って逢えないことを寂しく思っていると、悔しいことに夜着に着替える私の下着を留める下紐を結ぶ手が空しい。

集歌2410 璞之 年者竟杼 敷白之 袖易子少 忘而念哉
訓読 あらたまし年は果(は)つれど敷栲(しきたへ)し袖交(か)へし子し忘れて思へや
私訳 貴女と何もなく今年は終わってしまったけれど、夜寝る床の栲で衣を脱いでお互いの体に掛け合った貴女を、忘れてしまったと思っていますか。
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万葉集 集歌2401から集歌2405まで

2021年10月28日 | 新訓 万葉集
集歌2401 戀死 ゞゞ哉 我妹 吾家門 過行
訓読 恋ひ死なば恋ひも死ぬとや我妹子し吾家(わがへ)し門(かど)し過ぎて行くらむ
私訳 貴女に恋してその恋の苦しみに私が死ねば、やっと、その恋の苦しみも死ぬようだ。私の愛しい貴女が、私の家の前を通り過ぎて行ってしまう。

集歌2402 妹當 遠見者 恠 吾戀 相依無
訓読 妹しあたり遠きし見れば怪(あや)しくも吾(あれ)し恋(こ)ふるも逢ふよしなしに
私訳 私の愛しい貴女の姿を遥か遠くに見ると、どのようにして私は貴女に恋をしていても、もう、逢うことが出来なくなる。

集歌2403 玉久世 清川原 身祓為 齋命 妹為
訓読 玉久世(たまくせ)し清き川原し身秡(みそぎ)して斎(いは)ふ御言し妹しためこそ
私訳 樺井月神社のそばの美しい久世の清らかな川原で禊して祈る御言葉は、愛する貴女のためだけ。

集歌2404 思依 見依 物有 一日間 忘念
訓読 思ひ寄り見ては寄りにしものあらば一日(ひとひ)し間(ほど)も忘れて思へや
私訳 恋い焦がれる思いを寄せ、互いに抱き合って、身も心も貴女に寄せたのですから、一日の間だって貴女のことを忘れたと思いますか。

集歌2405 垣廬鳴 人雖云 狛錦 紐解開 公無
訓読 垣(かき)廬(ほ)鳴く人し云へども高麗錦(こまにしき)紐(ひも)解(と)き開(あ)けし君ならなくに
私訳 薦で囲った粗末な小屋を風がざわめき鳴らすように人はあれこれと云いますが、その粗末な私の家で、美しい高麗の錦の紐を解くように、まだ、私の下着の紐を解いた貴方ではないのに。
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万葉集 集歌2396まで集歌2400まで

2021年10月27日 | 新訓 万葉集
集歌2396 玉坂 吾見人 何有 依以 亦一目見
訓読 たまさかし吾(わ)が見し人し如何(いか)ならむ縁(よし)をもちてかまた一目見む
私訳 美しい坂で偶然に私が見かけた人を、どのような縁があって、もう一度逢うことができるでしょうか。

集歌2397 暫 不見戀 吾妹 日ゞ来 事繁
訓読 暫(しまし)くも見ぬば恋ほしき吾妹子(わぎもこ)し日(ひ)し日(け)し来(く)れば事し繁けむ
私訳 少しの間も貴女に会わないと恋しい私の愛しい貴女。その貴女の許に毎日やって来ると、貴女とすることが色々とありますね。
注意 原文の「事繁」の「事」を一般に「言」の当字として「噂話が酷い」と云う意味で解釈しますが、ここでは漢字のままに「物事が重なる・忙しい」ような意味で解釈しています。

集歌2398 年切 及世定 恃 公依 事繁
訓読 年きはる世(よ)までと定め恃(たの)めたる公(きみ)しよりてし事し繁けく
私訳 この世に生きる年を区切り、この世と別れるまでと心に決め、頼りにする貴方に寄り添うと、貴方とすることが色々とありますね。

集歌2399 朱引 秦不経 雖寐 心異 我不念
訓読 朱(あか)らひく膚(はだ)も触れずて寝(い)ぬれども心し異(け)にし我が思はなくに
私訳 羞恥に肌を朱に染めるまだ幼い貴女の体を奪わずに身を引き寄せ抱くだけでしたが、だからと云って、貴女に異心を私は思ってもいません。

集歌2400 伊田何 極太甚 利心 及失 念戀故
訓読 いで如何(いか)しここだはなはだ利心(とごころ)し失(う)するまで思(も)ふ恋ゆゑにこそ
私訳 さあどうなるのだろう。これほどはっきりとした冷静な気持ちを失くしてしまうと思うまで、貴女を抱きたいと思うためでしょう。

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万葉集 集歌2391から集歌2395まで

2021年10月26日 | 新訓 万葉集
集歌2391 玉響 昨夕 見物 今朝 可戀物
訓読 玉(たま)響(とよ)む昨日(きのふ)し夕(ゆふべ)見しものし今日(けふ)し朝(あした)し恋ふべきものを
私訳 美しい玉のような響きの声。昨日の夜に抱いた貴女の姿を思い出すと、後朝の別れの今日の朝にはもう恋しいものです。
注意 原文の「玉響」は諸訓があり、「玉あへば」、「玉ゆらに」、「玉さかに」、「玉かぎる」等がありますが、ここでは「玉とよむ」と原文のままに訓んでいます。

集歌2392 中ゞ 不見有従 相見 戀心 益念
訓読 なかなかし見ずあらましを相見てし恋ほしき心まして思ほゆ
私訳 むしろ、貴女を抱かなければ良かった。貴女と床を共にしてからは、恋しい心がいっそう募って来た。

集歌2393 玉桙 道不行為有者 惻隠 此有戀 不相
訓読 玉桙し道行かずあば惻(いた)隠(こ)もるかかる恋には逢はざらましを
私訳 美しい鉾を立てる官道を行って貴女に出会わなかったら、自分を哀れむ気持ちに包まれる、このような恋をすることもなかったでしょう。
注意 原文の「惻隠」は伝統的に「ねもころ」と訓みますが、その理由は特に無いようです。そのために「ねもころ」と訓む理由が研究テーマになっています。ここでは、原文の漢字の意味のままに訓んでいます。

集歌2394 朝影 吾身成 玉垣入 風所見 去子故
訓読 朝影(あさかげ)し吾(わ)が身はなりぬ玉(たま)垣(かき)るほのかに見えて去(い)にし子ゆゑに
私訳 光が弱々しい日の出のように私は痩せ細ってしまいました。大宮へ入って行く風のように、ほんの少し姿を見せて行きすぎて行った貴女のために。

集歌2395 行ゞ 不相妹故 久方 天露霜 沽在哉
訓読 行き行きて逢はぬ妹ゆゑひさかたし天(あま)露(つゆ)霜(しも)し沽(とも)しけるかも
私訳 逢いに行っても、なかなか逢えない貴女のために、遥か彼方の天からの清らかな露霜に貴女の家に立つ私はみすぼらしくなりました。
注意 原文の「沽在哉」の「沽」は一般に「沾」の誤字として「沾在哉」と表記して「濡れにけるかも」と訓みます。ここでは「沽」の形容詞の意味を尊重して原文のままに訓んでいます。

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万葉集 集歌2386から集歌2390まで

2021年10月25日 | 新訓 万葉集
集歌2386 石尚 行戀通 建男 戀云事 後悔在
訓読 巌(いはほ)すら行き通(とほ)るべき建男(ますらを)し恋云ふ事し後(のち)悔(くひ)にけり
私訳 邪魔ならば岩であっても蹴散らして通っていくこの丈夫な男も、恋の表し方で後に悔いが残る。

集歌2387 日促 人可知 今日 如千歳 有与鴨
訓読 日し促(せ)ばみ人知りぬべし今(いま)し日し千歳(ちとせ)し如くありこせぬかも
私訳 一日が速く短い。そのうちに人が貴方と私の仲を気づくでしょう。逢う今日の一日は千年の時のように長くならないでしょうか。
注意 原文の「日促」の「促」を一般には「竝」の誤字とし「日竝」と表記し「日ならべば」と訓みます。ここでは原文のままに訓んでいます。ただし、歌意は違います。

集歌2388 立座 熊不知 雖唯念 妹不告 間使不来
訓読 立ちし坐(ゐ)し隈(くま)をも知らず思へども妹し告げねば間使(まつかひ)し来(こ)ず
私訳 立っていても座っていても恋する思いを隠すことなく貴女を慕っていても、貴女にそれを告げなくては、貴女から便りの使いが来ません。
注意 原文の「熊不知」の「熊」は「隈」の当字として訓んでいます。一般に「熊」は「態」の誤字として「たどきも知らに」と訓みます。

集歌2389 烏玉 是夜莫明 朱引 朝行公 待苦
訓読 ぬばたましこの夜な明けそ朱(あか)らひく朝(あさ)行く公(きみ)し待たば苦しも
私訳 漆黒の闇のこの夜よ明けるな、貴方によって私の体を朱に染めている、その朱に染まる朝焼けの早朝に帰って行く貴方を、また次に逢うときまで待つのが辛い。
注意 集歌2399の歌に「朱引秦不経雖寐心異我不念」と詠う歌があり、万葉集でただ二回だけ人麻呂歌集の歌の中で使われる原文の「朱引」を、人麻呂独特の女性の肌を示す言葉とも解釈しています。

集歌2390 戀為 死為物 有 我身千遍 死反
訓読 恋ひしせし死(し)ぬせしものしあらませば我が身し千遍(ちたび)死にかへらまし
私訳 貴方に抱かれる恋の行いをして、そのために死ぬのでしたら、私の体は千遍も死んで生き還りましょう。
注意 隋唐の戀の指南書である「玉房秘訣」に「八淺二深、死往生還、右往左往」なる言葉があるそうです。

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