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竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉雑記 色眼鏡 二〇九 今週のみそひと歌を振り返る その二九

2017年03月25日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 二〇九 今週のみそひと歌を振り返る その二九

 今回は新嘗祭のような宮中祭礼に関係する歌を取り上げてみました。それが集歌779と集歌780の歌です。集歌777の歌に付けられた標題「大伴宿祢家持更贈紀女郎謌五首」から歌は大伴家持と紀女郎との間で交わされた相聞問答歌の中でのものです。

大伴宿祢家持更贈紀女郎謌五首より二首抜粋
集歌779 板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
訓読 板葺(いたふき)し黒木(くろき)の屋根(やね)は山近し明日(あした)し取りに持ちて参(ま)ゐ来(こ)む
私訳 板葺きの黒木の屋根の新嘗宮のある恭仁(くに)の都は平山(ならやま)に近いので、明日、黒木に因む尾花を取って、佐保の貴女の許に持参しましょう。

集歌780 黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤知氣登 将譽十方不有
訓読 黒樹(くろき)取り草(かや)も刈りつつ仕(つか)へめり勤め知るきと誉(ほ)めむともあらず
私訳 新しい宮殿の新嘗宮で使う黒樹を取り束草(あつかくさ)の麁草(あらくさ)も刈りながら天皇に仕えていますが、(貴女は奈良の家から遠く離れて、私が)力を尽くして働くことをわきまえていると誉めてもくれません。
注意 原文の「勤知氣登」の「知」は一般に「和」の誤記として「勤和氣登」と表記し「勤(いそ)しき奴(わき)と」と訓みます。ここでは原文のままに訓じています。


 確認しますと、この相聞問答歌が交わされた時、家持は久邇京で新たな都の造営工事に従事していますし、一方の紀女郎は奈良の都に住んでいます。久邇京は恭仁京とも表記され、場所は現在の木津川市加茂町例幣です。奈良の都からは直線距離で12kmの位置にあり、無理をすれば3時間弱の徒歩距離です。歌にはこのような距離感がありますし、家持が従事していた職務があります。
 さて、続日本紀には神亀元年(724)11月8日の記事として次のような官布があります。

太政官奏言「上古淳朴、冬穴夏巣。後世聖人代以宮室。亦有京師、帝王為居、万国所朝。非是壮麗、何以表徳。其板屋草舍、中古遺制、難営易破、空殫民財。請仰有司、令五位已上及庶人堪営者搆立瓦舍、塗為赤白」 奏可之。

 紹介しました神亀元年の記事が示すように、都では帝王の王都としてその姿が相応しいように官関係の建物、五位以上の大夫や有力な民間人の自宅は瓦屋根構造の建物を立てることが求められています。建物は現代に見る寺院と同様なものであることが求められたのです。家持が詠う集歌779の歌はこの官布からおよそ二十年もの後のことであり、町並みは官が求めるように整えられた後の世界です。現在に例えるなら高層ビル群が立ち並ぶ官庁・ビジネス街の風景が前提となります。
 ところが、大伴家持が詠う歌で示す建物は瓦葺屋根構造のものではありません。「板屋草舍、中古遺制」と太政官が奏言するように古い習慣を示すものです。すると、家持が示す建物とは官が新造する王都で関与する古い習慣に元づくものと考えられます。目線を変えて状況を例えますと、高層ビル群が立ち並ぶ官庁・ビジネス街の官庁街に純和風の建物を特別に立てる必要はあったのかと云うことです。
 こうした時、延喜式の大嘗祭の規定に、大嘗宮について次のような項目があります。

悠紀院所造正殿一宇、長四丈廣一丈六尺、棟當南北、以北三間為室、以南二間為堂。南開一戸、蔀蓆為扉、甍置堅魚木、八枝著高博風、搆以黒木、葺以青草、以檜竿為天井、席為承塵、壁蔀以草、表裏以席、地敷束草(所謂阿都加)。・・・中略・・・。主基院殿與上相對,五日之内造畢。

 この記事が示すように大嘗祭を執り行う大嘗宮の中の悠紀院は南北に建てられ、内部を二部屋に仕切り、北を「室」、南を「堂」と呼ぶ構造になっています。入り口は南に一箇所だけですから、天皇が大嘗祭の儀式を行なう場所は「室」です。そして、この悠紀院の建物の構造は樹皮のついた丸太そのままの黒木で組上げ、壁を蓆(むしろ)、屋根を青草で葺き、床に束草(あつかくさ)を敷くことになっています。つまり、「板屋草舍、中古遺制」の建物と云うことになります。
 さらに大嘗祭は新嘗祭の行事ですが、天武天皇即位では大王に就任して最初の新嘗祭を大嘗祭と称するようになったようです。およそ、天武天皇の大嘗祭・新嘗祭の祭事整備以前では、新嘗祭と後年に制定された「大嘗祭」とがどれほどの違いがあったかは不明です。
 そうした時、新嘗祭での一貫に行われる行事に忌火炊殿祭と云うものがあり、この忌火炊殿祭に関してつぎのような二つの記事があります。

新嘗祭時、先新造炊殿。依件鎮祭、宮主行事。其舊殿者壞卻給宮主。
又大嘗御竈祭、炊殿鎮等之例、與尋常新嘗會同。

 記事が示しますように、忌火炊殿祭で使用する炊殿は祭事に先だって新造する必要があり、前年に造築した炊殿は解体し宮主に下し渡します。また、大嘗祭で行われる御竈祭で使用する炊殿やその鎮めの祭事は新嘗祭と同じ仕儀次第で行うとも示します。ここに大嘗祭は新嘗祭の大掛かりな発展形と云う姿を見せます。
 逆に見ますと大嘗祭で造築します悠紀院や主基院の構造から新嘗祭などで使用します炊殿などの様子が窺える可能性があります。ここに伊勢神宮の建物だけでなく延喜式に示す祭事規定からも中古遺制が推定できると期待があります。

 集歌779と集歌780の歌の鑑賞では新嘗祭の風景と決め打ちしましたが、その根拠は先に示しました理由からのものです。
 歴史では恭仁京は天平十四年正月の段階では大極殿が未完成などと宮殿の体裁は整ってはいませんが、前年の天平十三年十一月廿一日に大養徳恭仁大宮と云う称号宣言を為していますから、重要行事である新嘗祭は恭仁京に行われたものと思います。ここらから、およそ想定しています歌の風景は、仮小屋に住みながら恭仁京の建設に従事し、中でも重要な新嘗祭の準備に励んでいた家持自身の姿を詠うものと考えています。それが、「勤知氣登 将譽十方不有」と云う表現に現れていると想像しています。

 紹介したものは標準的な解釈とは相当に距離がありますが、このような解釈があるとして御笑納ください。あくまでも白昼夢を見るおっさんが思う酔論であり、与太話です。

 参考として、有名な「万葉集」を訓むから

和歌 板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
訓読 板盖(いたふき)の黒木(くろき)の屋根は山近し明日(あすのひ)取りて持ちて参(まゐ)来(こ)む
意訳 板葺の黒木の屋根でしたら幸い山が近いし明日にでも取って持って上がりましょう

和歌 黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤和氣登 将譽十方不有
訓読 黒樹(くろき)取り草(かや)も苅りつつ仕(つか)へめど勤(いそ)しきわけと譽(ほ)めむとも有(あ)らず
意訳 黒木を伐り萱まで刈って手伝いたいけれど、まめなやつよと褒めてくださるとも思えません
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万葉雑記 色眼鏡 二〇八 今週のみそひと歌を振り返る その二八

2017年03月18日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 二〇八 今週のみそひと歌を振り返る その二八

 今週は次の歌を特別に鑑賞したいと思います。
 歌は大伴家持と坂上大嬢との相聞問答の中のもので、歌の背景には幼い時から家持と付き合いがあった坂上大嬢が成女となった後、初めて夫婦事をした直後での歌の遣り取りです。その歌の遣り取りでも、ある月夜に坂上大嬢が家持に妻問いを願った時の返事となるものです。前後の歌からしますと、家持は躊躇をしたようですが、坂上大嬢を妻問いしています。
 さて、紹介するものは、その躊躇した時の歌です。
 妻問い礼儀は思い付いての突然の訪問ではなく、相手が受け入れの準備が出来るように先駆けの使者を送ります。その先駆けを受け、女方の屋敷では男の為に準備をするわけです。電気もガスや水道も無い時代です。夕餉や朝餉の準備、女の身の清めや寝衣装の準備、さらには寝床の準備も必要です。小川の水や薪からの準備ですと、大変な時間と労力を要します。およそ、従者を連れた貴族階級の妻問いは双方にとって簡単ではないのです。そうしたなか、妻問いを願う坂上大嬢からの使者に対して、躊躇によりその先駆けを送るのが遅れた言い訳として家持は吉凶占を取り出しています。逢いに行きたい、だから、良き方法を占っていたと云うことです。今週に特別に鑑賞するものは、その占に関してです。

又家持和坂上大嬢謌一首
標訓 又、家持の坂上大嬢に和(こた)へたる謌一首
集歌736 月夜尓波 門尓出立 夕占問 足卜乎曽為之 行乎欲焉
訓読 月夜(つくよ)には門(かど)に出で立ち夕占(ゆふけ)問ひ足ト(あしうら)をぞせし行かまくを欲(ほ)り
私訳 貴女が眺めたその月夜には家の門に出て立って夕占いを問い、足占いをしました。貴女の許に行きたいと思って。

 歌は単純ですし、直線的です。良い訳以外、何もありません。一方、万葉集に占と云うものを探しますと次のようなものを見ることが出来ます。ほとんどが夕刻に行う衢占です。他に足卜や石卜がありますが、衢占を確認するような補足的な占いの雰囲気があります。つまり、重要なのは衢占だったようです。

夕衢占問 石卜以而
夕占問 足卜乎曽為之
八占刺
八十衢 夕占問 占正謂
路徃占 占相
夕卜尓毛 占尓毛告有
夜占問 吾袖尓置
門尓出立 足占為而
道尓出立 夕卜乎
八十乃衢毛 占雖問


 ここで、その占いの状況を調べて見ますと、次のような解説を得ることが出来ました。

衢占(まちうら):日本古代の占法の一つ。元々の衢占は、夕方に衢(交差点)に立って、通りすがりの人々が話す言葉の内容を元に占うものであった。この衢占は万葉集などの古典にも登場する。類似のものに、辻(交差点)に立って占う辻占(つじうら)、橋のたもとに立って占う橋占(はしうら)がある。夕方に行うことから夕占(ゆうけ)とも言う。偶然そこを通った人々の言葉を、神の託宣と考えたのである。衢や辻は人だけでなく神も通る場所であり、橋は異界との境をなすと考えられていた。

足卜(あしうら):「あうら」ともいう。日本古代の占法の一つ。目標に向って進みながらかわるがわる吉か凶かを唱え,目標に達したときの言葉のいかんにより占った

石卜(いしうら):日本古代の占法の一つ。石の個数や軽重、また蹴った石の状態などにより、吉凶・豊凶などを占ったもの

水卜(みすうら):日本古代の占法の一つ。詳細は不明、水の増減・清濁、また、水にもみ・豆などを落として沈みぐあいで占うなど、いろいろな方法がある。


 先の家持の詠う集歌736の歌に戻りますと、家持は屋敷の門に立ち「夕占」を行い、さらに「足卜」を行ったとします。実際に占いをしたかどうかは不明ですが、実に念入りです。「貴女に逢いたくて、逢いたくて、このように神の御神託を願いました」と云う言い訳があります。
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古今和歌六帖 原文 第六帖 後半部

2017年03月12日 | 古今和歌六帖
古今和歌六帖 第六帖 後半部



歌番4329 いにしへを こふるとりかも ゆつるはの みゐのうへより なきわたりゆく
歌番4330 むらとりの たちにしわかな いまさらに ひとなしむとも しるしあらめや
歌番4331 ふゆやまに ひとりぬるとり よをさむみ ひとはたえける きをそもとむる
歌番4332 とりならは あたりのききに かくれゐて ほれたるこゑに わかなかましを
歌番4333 なつそひく うなかみかたの おきつすに とりはすたけと きみはおともせす
歌番4334 なつかりの たまえのあしを ふみしたき むれゐるとりの たつそらそなき
歌番4335 ゑにかける とりともひとに みてしかな おなしところに つねにとふへく
歌番4336 いもかてを とりこのいけの なみまより とりのねきこゆ あけそしぬらし
歌番4337 はなちとり ゆくへもしらす なりぬれは はなれしことそ くやしかりける
歌番4338 ひなとりの かさきりよわみ とはれねは すこもりなから ねをのみそなく
歌番4339 あけぬとて なにいそくらむ ひなとりの またとくらなる こゑにやはあらぬ
歌番4340 はるののに あさなくひなの つまこふと みをいたつらに なりにけるかな
歌番4341 あしたつの かひこめくつる すこもりの つひにかへらぬ みとやなりなむ
歌番4342 とりのこは かへりてのちそ なかれける みのかひなきを おもひしりつつ
歌番4343 かはかせに なひくあしたつ おのかよを なみとともにや きみはよすらむ
歌番4344 ちとせふと わかきくなへに あしたつの なきわたるなる こゑのはるけさ
歌番4345 あしたつの たてるかはへを ふくかせに よせてかへらぬ なみかとそみる
歌番4346 むれてゐる あしへのたつを わすれつつ みつにもきえぬ ゆきかとそみる
歌番4347 ちとせまて いのちたもてる つるなれは きみかゆききを したふなりけり
歌番4348 あふことの かたにおりゐる あしたつの すになくこゑは きこえやはする
歌番4349 たつのたつ さはへになみや さわくらむ あしのみきはの のとけからぬは
歌番4350 あまくもに はねうちつけて とふたつの たつたつしかも きみきまさねは
歌番4351 たつきなき あしへをさして とひわたり あなたつたつし ひとりさぬれは
歌番4352 あしたつの すむさはにおふる すかのねの ねむころにみる きみはたのます
歌番4353 わかのうらに しほみちくれは かたをなみ あしへをさして たつなきわたる
歌番4354 あしたつの すまふいりえの しらすけの しらすやきみは わかこふらくを
歌番4355 いとはやも なくぬるかりか しらつゆに いろとるききも もみちあへぬに
歌番4356 はるかすみ かすみていにし かりかねは いまそなくなる あききりのうへに
歌番4357 あやしくも きなかぬかりか しらつゆの おきにしあさほ ひさしきものを
歌番4358 あしへなる をきのはそよき あきかせの ふきくるなへに かりなきわたる
歌番4359 あきかせに こゑをほにあけて くるふねは あまのとわたる かりにさりける
歌番4360 ひさかたの あまくもおかす くもかくれ なきそゆくなる はつたかりかね
歌番4361 ことしけき さとにすますは けさなきし かりにたくひて いなましものを
歌番4362 かりかねの たかくなのりし みなれとも あきのこゑとそ ひとはいひてし
歌番4363 あきのやま きりたちわけて くるかりの ちよにかはらす こゑきこゆなり
歌番4364 ともともと おもひきつれと かりかねは おなしさとへも かへらさりけり
歌番4365 ものおもふと つきひのゆくも しらさりつ かりこそなきて あきとわけつれ
歌番4366 ことつけて とふへきものを はつかりの きこゆるこゑは はるかなりけり
歌番4367 はつかりの なきこそわたれ よのなかの ひとのこころの あきしうけれは
歌番4368 はるかすみ とひわけいぬる こゑききて かりきぬなりと ほかはいふらむ
歌番4369 としことに くもちまとはし くるかりは こころつからや あきをしるらむ
歌番4370 あまのはら かりそとわたる とほやまの こすゑはうへそ いろつきにける
歌番4371 ふるさとに かすみとひわけ ゆくかりは たひのそらにや はるをすくらむ
歌番4372 うきことを おもひつらねて かりかねの なきこそわたれ あきのよなよな
歌番4373 はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな
歌番4374 はるかすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる
歌番4375 ひたすらに わかきかなくに くもわけて かりそかりそと つけわたるらむ
歌番4376 あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかり くもかくれつつ
歌番4377 まつひとに あらぬものから はつかりの けさなくこゑの めつらしきかな
歌番4378 なくかりの ねをのみそなく をくらやま きりたちはるる をりしなけれは
歌番4379 はるまけて かりかへるとも あきかせに もみちのやまを こえさらめやは
歌番4380 みよしのの たのむのかりも ひたふるに きみかかたにそ よるとなくなる
歌番4381 わかかたに よるとなくなる みよしのの たのむのかりを いつかわすれむ
歌番4382 つきみれは われてそひとの こひしきに いととくもゐに なきわたるかり
歌番4383 うちなひき はるさりくれは ささのはに をはうちふれて うくひすそなく
歌番4384 くたらのの はきのふるえに はるまつと すみしうくひす なきにけむかも
歌番4385 うめのはな さけるをかへに いへしあれは ともしくもあらす うくひすのこゑ
歌番4386 うちなひき はるさりくれは あをやきの えたくひもちて うくひすなくも
歌番4387 うちきえし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすなきつ
歌番4388 はるのひに かすみたなひき うらかなし このゆふかけに うくひすなくも
歌番4389 うくひすの たにのそこにて なくこゑは みねにこたふる やまひこもなし
歌番4390 ふくかせを なきてうらみよ うくひすは われやははなに てたにふれたる
歌番4391 しるしなき ねをもなくかな うくひすは ことしのみちる はなならなくに
歌番4392 まつひとは こぬものゆゑに うくひすの なきつるえたを をりてけるかな
歌番4393 はるたては はなとやみえむ しらゆきの かかれるえたに うくひすのなく
歌番4394 はなのかを かせのたよりに たくへてそ うくひすさそふ しるへにはする
歌番4395 たのまれぬ はなのこころと おもへはや ちらぬさきより うくひすのなく
歌番4396 うくひすの たによりいつる こゑなくは はるくることを たれかつけまし
歌番4397 うめのはな ちるてふなへに はるさめの ふりてつつなく うくひすのこゑ
歌番4398 たけちかく よとこねはせし うくひすの なくこゑきけは あさいせられす
歌番4399 うくひすの おのかはかせに ちるはなを たれにおほせて ここらなくらむ
歌番4400 はるなから こころもゆかぬ うくひすは はなをみなから ねをのみそなく
歌番4401 うめかえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた ゆきはふりつつ
歌番4402 うめのはな みにこそきつれ うくひすの ひとくひとくと いとひしもをる
歌番4403 うくひすの なきつるこゑに さそはれて はなのもとにそ われはきにける
歌番4404 わかやとに きゐるうくひす はねよわみ とはぬはつらき ものにそありける
歌番4405 ゆきのうちに はるはきにけり うくひすの こほれるなみた いまやとくらむ
歌番4406 はるされは まつなくとりの うくひすの ことさきたてて きみをしまたむ
歌番4407 はるなれは つまをもとむる うくひすの こすゑをつたひ なきわたるかな
歌番4408 ふゆかくれ はるさりくれは あしひきの やまにものにも うくひすなくも
歌番4409 みそのふの たけのはやしに うくひすは しはなかましを ゆきはふりつつ
歌番4410 うくひすの こゑのほのかに きこゆるは いつらのやまに なくやまひこそ
歌番4411 むらむらの こつたふはるに なりぬらし やまのまにまに うくひすなくも
歌番4412 わきもこを うらまちかねつ ほとときす いたくなきかね こひもやむやと
歌番4413 わかことく きみにこふるは ほとときす このよすからに いねかてにする
歌番4414 ほとときす こゑきくをのの あきかせに あさちさけれや おとのともしき
歌番4415 もののふの いはせのもりの ほとときす いまもなかぬか やまのこかけに
歌番4416 ほとときす きなきとよます うのはなのと ともにやこしと とはましものを
歌番4417 たちはなの はなちるさとの ほとときす かたらひしつつ なくひしそおほき
歌番4418 わかやとに つきおしてれり ほとときす こころありこよひ きなきとよませ
歌番4419 ことしけき きみはきまさす ほとときす なれたにきなけ あさとあくへく
歌番4420 かききらし あめふるよるを ほとときす なきていぬなり あはれそのとり
歌番4421 いへにゆきて なにをかたらむ あしひきの やまほとときす ひとこゑもかな
歌番4422 ほとときす はなたちはなの えたにゐて なくはむかしの ひとやこひしき
歌番4423 もののふの いはせのもりの ほとときす いたくななきそ わかこひまさる
歌番4424 ほとときす いたくななきそ なかこゑを さつきのたまに あひぬるまてに
歌番4425 なつのよの ふすかとすれは ほとときす なくひとこゑに あくるしののめ
歌番4426 このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす つねにきくらむ
歌番4427 さみたれの そらもととろに ほとときす なにをうしとか よはになくらむ
歌番4428 あしひきの やまのこすゑし たかけれは なくほとときす こゑはるかなり
歌番4429 むかしより なきふるしつつ ほとときす いくそのなつを こゑにたつらむ
歌番4430 つきをたに あかすおもひて ねぬものを ほとときすさへ なきわたるかな
歌番4431 はなもちり ほとときすさへ いぬるまて きみにもゆかす なりにけるかな
歌番4432 こかくれて さつきまつとも ほとときす はねならはしに えたうつりせよ
歌番4433 ほとときす はつかなるねを ききそめて あらぬもそれと おもほゆるかな
歌番4434 さつきこは なきもふりなむ ほとときす またしきほとの こゑをきかはや
歌番4435 ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
歌番4436 ほとときす われとはなしに うのはなの うきよのなかに なきわたるらむ
歌番4437 くるるかと みれはあけぬる なつのよを あかすとやなく やまほとときす
歌番4438 いそのかみ ふるきみやこの ほとときす こゑはかりこそ むかしなりけれ
歌番4439 ほとときす なくこゑきけは あちきなく ぬしさたまらぬ こひせらるはた
歌番4440 よやくらき みちやまとへる ほとときす わかやとにしも すきかてになく
歌番4441 さみたれに ものおもひをれは ほとときす よふかくなきて いつちゆくらむ
歌番4442 おとはやま けさこえくれは ほとときす こゑをはるかに いまそなくなる
歌番4443 ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに
歌番4444 ふすからに まつそわひしき ほとときす なくひとこゑに あくるよなれは
歌番4445 わかことく ものやかなしき ほとときす ときそともなく よよになくらむ
歌番4446 やよやまて やまほとときす ことつてむ わかよのなかに すみわひぬへし
歌番4447 なつやまに こひしきひとや いりぬらむ こゑふりたてて なくほとときす
歌番4448 つくはねわ わかゆけりとは ほとときす やまひことよみ なきなましとも
歌番4449 ほとときす よふかきこゑは つきまつと おきていもねぬ ひとそききける
歌番4450 たかさとに よかれをしてか ほとときす たたここにのみ ねたるこゑする
歌番4451 あひかたき きみにあへるよ ほとときす ことときよりも いまこそなかめ
歌番4452 さつきまつ やまほとときす うちはふき いまもなかなむ こそのふるこゑ
歌番4453 うちとけて いもねられねは ほとときす よふかきこゑは われのみそきく
歌番4454 みやまには くもゐたなひき あけにけり かはのせことに ちとりしはなく
歌番4455 あきくれは さほのかはらの かはきりに ともまとはせる ちとりなくなり
歌番4456 おほそらに わたるちとりの われならは をふのあたりを いかになかまし
歌番4457 かはちとり すむかはのうへの たつきりの まきれにたにも あひみてしかな
歌番4458 やまかはの いしまかくれに すむちとり ひとしれねはや こゑのきこえぬ
歌番4459 ちとりなく さほのかはらの ささらなみ やむときもなく わかこふらくは
歌番4460 さよなかに ともよふちとり ものおもふと わひつつあるに なきつつあやな
歌番4461 いとといとと ものおもひをれは かはちとり のにもやまにも なきみたれけり
歌番4462 おもひかね いもかりゆけは ふゆのよの かはかせさむみ ちとりなくなり
歌番4463 こたへぬに よるなとよめそ よふことり さほのかはらを のほりくたりに
歌番4464 とことはに きけはくるしき よふことり こゑなつかしき ときにはなりぬ
歌番4465 をちこちの たつきもしらぬ やまなかに おほつかなくも よふことりかな
歌番4466 わかやとの はなにななきそ よふことり なくかひありて きみもこなくに
歌番4467 かみなひの いはせのもりの よふことり いたくななきそ わかこひまさる
歌番4468 たきのうへの みふねのやまの あしへより きなきわたるは たれよふことり
歌番4469 いつしかも こえむとおもふ あしひきの やまになくなる よふことりかも
歌番4470 あさかすみ やへのやまこえし よふことり なくやなかくる やとはあらなくに
歌番4471 あかつきの しきのはねかき ももはかき きみかこぬよは われそかすかく
歌番4472 あさはらに さようちふけて たつしきの はこそしるらめ ひとりぬるよは
歌番4473 あかつきに はねかくしきの うちしきり いくよかいもか きみにこひわたるらむ
歌番4474 あかつきの しきのはねかき ももはかき かきあつめてそ わひしかりける
歌番4475 はるまけて ものかなしきに さよふけて とかはなくしき たかためかなく
歌番4476 あかつきと よからすなけと このやまの こすゑのうへは いまたしつけし
歌番4477 なつのよの こもちからすの さかそかし よふかくなきて きみをやりつる
歌番4478 あさからす いたくななきそ わきもこか あさけのすかた みれはかなしも
歌番4479 からすとふ おほおそとりの まさてにも きまさぬきみを ころくとそなく
歌番4480 たかしまや ゆるきのもりの さきすらも ひとりはねしと あらそふものを
歌番4481 みつまさる よとのかはせに たつさきの たちてもゐても なかぬひそなき
歌番4482 ひるよりも ゆるきのもりに すむさきの やすきいもねす こひあかしつる
歌番4483 みやまきに よるはきてなく はことりの あけはかはらむ ことをこそおもへ
歌番4484 はるたては のへにまつなく はことりの めにもみえすて こゑのかなしき
歌番4485 とりかへす ものにもかもな はことりの あけてくやしき ものをこそおもへ
歌番4486 かほとりの まなくしはなく はるののの くさのねしけき こひもするかな
歌番4487 あさゐてに きなくかほとり なれたにも きみにこふれは ときをへすなく
歌番4488 ゆふされは のへになくてふ かほとりの かほにみえつつ わすられなくに
歌番4489 よやさむき ころもやうすき かささきの ゆきあひのはしに しもやおくらむ
歌番4490 かささきの みねとひこえて なきゆけは なつのよわたる つきそかくるる
歌番4491 はるされは もすのくさくき みえすとも われはみやらむ きみかあたりをは
歌番4492 あきののの をはなかうれに なくもすの こゑききけむか かたきけわきも
歌番4493 くひなたに たたけはあくる なつのよを こころみしかき ひとやかへりし
歌番4494 つはめくる ときになりぬと かりかねは ふるさとこひて くもかくれなく

異本歌

歌番4495 くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき
歌番4496 ひとりねの こもくちめやも あやむしろ をになるまてに きみをしまたむ
歌番4497 たかために これるなけきを うちつけに にほひもしらぬ われにおほする
歌番4498 いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする
歌番4499 はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ
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古今和歌六帖 原文 第六帖 中半部

2017年03月12日 | 古今和歌六帖
古今和歌六帖 第六帖 中半部



歌番3967 あきのよの あくるもしらす なくむしは わかことものや かなしかるらむ
歌番3968 あきかせの ややふきしけは やまさむみ わひしきこゑに むしそなくなる
歌番3969 わかために くるあきにしも あらなくに むしのねきけは ものそかなしき
歌番3970 あきくれは のもせにむしの おりつめる こゑのあやをは たれかきるらむ
歌番3971 あきのよは つゆこそことに さむからし くさむらことに むしのわふれは
歌番3972 あきはやみ せみのなきつつ なけかれぬ つりなきひとの すむやまとほみ
歌番3973 せみのこゑ きけはかなしな なつころも うすくやひとの ならむとすらむ
歌番3974 いしはしる たきもととろに なくせみの こゑをしきけは みやこおもほゆ
歌番3975 さくはなは としにかへねと うつせみの よのためしにも ちるにさりける
歌番3976 いまもなほ われてそひとの うらめしき かかるさなかの なかになかれて
歌番3977 うつせみの むなしきからに なるまてに わすれむとおもふ われならなくに
歌番3978 あはれてふ ひとはなくとも うつせみの からになるまて なかむとそおもふ
歌番3979 たもとより はなれてたまを つつまめや これなむそれと うつせみむかし
歌番3980 なみのうつ せみれはたまそ みたれける ひろははそてに はかなからむや
歌番3981 よひのまも はかなくみゆる なつむしに まとひまされる こひにもあるかな
歌番3982 なつむしを なにかいひけむ こころから われもおもひに もえぬへらなり
歌番3983 まさりては われそもえける なつむしの ひにかかるとて なともときけむ
歌番3984 なつむしの みをいたつらに なすことも ひとつおもひに よりてなりけり
歌番3985 もゆるひに おもひいりにし なつむしは なにしかさらに とひかへるへき
歌番3986 なつむしの しるしるまとふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ
歌番3987 きりきりす いたくななきそ あきのよの なかきおもひは われそまされる
歌番3988 なかために あらせるやとか きりきりす よなかきひとの もとにしもくる
歌番3989 あきかせの ふきつるよひは きりきりす くさむらことに こゑみたりけり
歌番3990 わかことく ものやかなしき きりきりす まくらつとへに よもすからなく
歌番3991 あきかせの ややふきしけは きりきりす うくもよもきの やとをかるるか
歌番3992 あきののの つゆにぬれつつ たれくとか ひとまつむしの ここらなくらむ
歌番3993 こむといひし ほともすきにし あきののに ひとまつむしの こゑのかなしさ
歌番3994 あきののに きやとるひとも おもほえす たれをまつむし ここらなくらむ
歌番3995 ゆふされは ひとまつむしの なくなへに ひとりあるみそ こひまさりける
歌番3996 たきつせの うちにたまつむ しらなみは なかるるみをを をにやぬくらむ
歌番3997 あきののに われまつむしの なくといはは をらてねなから はなはみてまし
歌番3998 きみしのふ くさにやつるる ふるさとは まつむしのねそ かなしかりける
歌番3999 たまさかに けふあひみれは すすむしは むつましなから こゑそきこゆる
歌番4000 ひとのいも かるときくまて をみなへし もとことになく すすむしのこゑ
歌番4001 かりにきて のへにそまとふ すすむしの こゑはさやけき しるへなれとも
歌番4002 ひくらしの きなくゆふへの いくそはく ひとことにきけと あかぬこゑかも
歌番4003 いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく
歌番4004 ひくらしの こゑにやまのは ちかけれは なきつるなへに いりひさしけむ
歌番4005 ひくらしの こゑもいとなく なくなるは あきのゆふへに なれはなりけり
歌番4006 あきかせの いなはそよきて ふくなへに ほのかにしつる ひくらしのこゑ
歌番4007 ひくらしの なきつるなへに ひはくれぬと みえしはやまの かけにそありける
歌番4008 そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひと よるとよむなり
歌番4009 またもあらむ をりもなからむ ひくらしの ものおもふときに なきつつあやな
歌番4010 かくのみし あれはものおもひ なくさむと いてたちきけは きなくひくらし
歌番4011 ゆくほたる くものうへまて いぬへくは あきかせふくと かりにふけこせ
歌番4012 なつのよは ともすほたるの むねのひを をしもたえたる たまとみるかな
歌番4013 ゆふされは ほたるよりけに もゆれとも ひかりみねはや ひとのつれなき
歌番4014 さよふけて わかまつひとや いまくると おとろくまても てらすほたるか
歌番4015 ひるはなき よるはもえてそ なからふる ほたるもせみも わかみなりけり
歌番4016 すみとけむ いほたるへくも みえなくに なとほともなき みをこかすらむ
歌番4017 かりかねの はかせをさむみ はたおりめ くたまくこゑの きりきりとなく
歌番4018 あきくれは はたおるむしの あるなへに からにしきにも みゆるのへかな
歌番4019 いましはと わひにしものを ささかにの ころもにかけて われをたのむる
歌番4020 あきののに おくしらつゆは たまなれや つらぬきとむる くものいとすち
歌番4021 つねならぬ みはささかにの やとなれや あまつそらなる たのみかくらむ
歌番4022 おほえてら これはたれそも よのなかに あたなるてふに みゆるはなかは
歌番4023 いへはえに いはねはさらに あやしくも かけなるいろの てふにもあるかな



歌番4024 ふゆなれは はるへをこひて うゑしきの みになるまても かたまつわれそ
歌番4025 こととはぬ くさきなれとも うれしとや このあきよりは いはておもふらむ
歌番4026 かれはてぬ うもれきあるを はるはなほ はなのたよりに よくなとそおもふ
歌番4027 さくらはな にほふともなく はるくれは なとかなけきの しけりのみする
歌番4028 たかために これるなけきを うちつけに いままてなとか はなさかすして
歌番4029 はるののх ххххххх ххххх ххххххх ххххххх
歌番4030 あつまちの さやのなかやま しけくとも きみきまさねは おもかけもせし
歌番4031 ゆきかよふ やまのほそみち いかなれは しをりもみえて あとのたゆらむ
歌番4032 なにはつに さくやこのはな ふゆこもり いまははるへと さくやこのはな
歌番4033 ひさかたの ひかりさやけき はるのひに しつこころなく はなのちるらむ
歌番4034 ゆくみつに みたれてはなの ちれるをか きえすなかるる ゆきかとそみる
歌番4035 ちるはなに いへちまとひて このさとに われはよねにそ なかゐしにける
歌番4036 あつさゆみ はるのやまへを こえくれは みちもさりあへす はなそちりける
歌番4037 たちかはの なかれてこすは おもほえす みやまかくれの はなをみましや
歌番4038 あさほらけ したゆくみつは あさけれと ふかくそはなの いろはみえける
歌番4039 はるくれは さくといふことを ぬれきぬに きするはかりの はなにそありける
歌番4040 はなみれは こころさへこそ うつりぬる いろにはいてしと おもひしものを
歌番4041 おきふして をしむかひなく うつつにも ゆめにもはなの ちるをいかにせむ
歌番4042 わかやとの はなみかてらに くるひとは ちりなむのちそ こひしかるへき
歌番4043 ふなをかに はなつむひとの つみはてて さしてゆくらむ かたやいつくそ
歌番4044 うくひすは いたくななきそ にほひかに めててわかつむ はなならなくに
歌番4045 はなみれは うつるこころは いろにいてて あたにやあやな ひとにしらるる
歌番4046 をしめとも はなのちるらむ ひとにくく ものもいはてそ みるへかりける
歌番4047 ひさかたの そらもくもらて ふるゆきは かせにちりくる はなにそありける
歌番4048 こひしくは いかにせよとか かくはかり あたなるはなの もとにねぬらむ
歌番4049 としをへて はなのかかみと なるみつは ちりかかるをや くもるといふらむ
歌番4050 はることに はなのにほひは ありなめと あひみむことそ いのちなりける
歌番4051 ふくかせに あつらへつくる ものならは このひとえたは よきよといはまし
歌番4052 をしとおもふ こころはいとに よられなむ ちるはなことに ぬきてとむへく
歌番4053 こつたへは おのかはかせに ちるはなを たれにおほせて ここらなくらむ
歌番4054 はなのきも いまはりうゑし あちきなく うつろふいろに ひとならひけり
歌番4055 はなのいろを あらはにめては いろめきぬ いさくらやみに をりてとりてむ
歌番4056 はなのこと よのつねならは すくしてし むかしはまたも かへりきなまし
歌番4057 みるひとも なきのへなれは いろことに ほかへうつろふ はなにそありける
歌番4058 やともせに うゑならへてそ われはみる まねくをはなに ひとやとまると
歌番4059 いもかそて まきもくやまの あさきりに しほふもみちの ちらまくをしも
歌番4060 いろもまた みえぬもみちは あしひきの やまみつよりや なかれきつらむ
歌番4061 もみちはの なかるるときは たつたかは みなとよりこそ あきはゆくらめ
歌番4062 こころとて ちらむたにこそ をしからめ なとかもみちを かせのふくらむ
歌番4063 みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみちはよるの にしきなりけり
歌番4064 からにしき たつたのやまの もみちはは くれなゐなから ときはなりけり
歌番4065 やまかせの ふきのまにまに もみちはも おのかちりちり ちりぬへらなり
歌番4066 うちむれて いさわきもこか かかみやま こえてもみちの ちらむかけみむ
歌番4067 ふくかせに ちりぬとおもふを もみちはの なかるるたきの ともにおつらむ
歌番4068 もみちはの ちりしくときは ゆきかよふ あとたにみえぬ やまちなりけり
歌番4069 あしひきの やまかきくもり しくるれと もみちはかりそ てりまさりける
歌番4070 なかれくる もみちはみれは からにしき たきのいとして おれるなりけり
歌番4071 やまちかき ところならすは ゆくみつも もみちせりとそ おとろかれまし
歌番4072 たつたかは あきにしなれは やまちかみ なかるるみつも もみちしにけり
歌番4073 みなそこに かけしうつれは もみちはの いろもふかくや なりまさるらむ
歌番4074 からころも たつたのやまの もみちはは はたものもなき にしきなりけり
歌番4075 あきかせの ふきにしひより おとはやま みねのこすゑも いろつきにけり
歌番4076 もるやまの みねのもみちも ちりにけり はかなきいろの をしくもあるかな
歌番4077 たちとまり みてをわたらむ もみちはは あめはふるとも みつはまさらし
歌番4078 あきのよの なかゐをやせむ はかなくて もみちのかけに ひをくらしつつ
歌番4079 かせにちる ききのもみちは のちつひに あきのみつこそ おとしはてけれ
歌番4080 かせふけは おつるもみちは みつきよみ ちらぬかけさへ そこにみえつつ
歌番4081 をしめとも つひにちりぬる もみちゆゑ ふるあめかせに ものをこそおもへ
歌番4082 しらつゆも しくれもいたく もるやまは したはのこらす もみちしにけり
歌番4083 あきかせに さほやまよりや ちりきつる いろみえぬへき ひかけたつねて
歌番4084 あたなりと われはみなくに もみちはを いろのかはれる あきしなけれは
歌番4085 おそくとく いろつくあきの もみちはは おくれさきたつ つゆやおくらむ
歌番4086 このはちる うらになみたつ あきなれは もみちにはなも さきまかひけり
歌番4087 つれもなく なりゆくひとの ことのはそ あきよりさきの もみちなりける
歌番4088 もみちはの なかれさりせは たつたかは みつのあきをは たれかしらまし
歌番4089 かりかねの なくなるなへに からころも たつたのやまも もみちしにけり
歌番4090 たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし
歌番4091 たてもなく ぬきもさためぬ をとめらか おれるもみちに しもふるなゆめ
歌番4092 さほやまの ははそのもみち ちりぬへみ よるさへみよと てらすつきかけ
歌番4093 やましろの いはたのもりの ははそはら みつつやきみか ひとりこゆらむ
歌番4094 さほやまの ははそのいろは うすけれと あきはふかくも なりにけるかな
歌番4095 あききりは たたすもあらなむ さほやまの ははそのもみち よそなからみむ
歌番4096 うつろふも うれしかりけり わかために ふかきまゆみの いろをみすれは
歌番4097 ひきよせて みれとあかぬは くれなゐに ぬれるまゆみの もみちなりけり
歌番4098 わかやとに もみつるかへて みることに いもをかけつつ こひぬひそなき
歌番4099 いまさらに こころはかへて よはへむと いひしことはに あさむかれつつ
歌番4100 よしのやま きしのもみちし こころあらは まれのみゆきを いろかへてまて
歌番4101 こもちやま わかかへるまて もみつまて ねむとおもふを いもはいかにそ
歌番4102 いくよへし いそのまつそも むかしより たちよるなみそ かすはしるらむ
歌番4103 いろのみそ まさるへらなる いそのまつ かけみるみつも みとりなりけり
歌番4104 われのみや かけとはたのむ しらなみも たえすたちよる きしのひめまつ
歌番4105 はなのいろは ちらぬまはかり ふるさとに つねにはまつの みとりなりけり
歌番4106 よのなかに ひさしきものは ゆきのうちに もとのいろかへぬ まつにそありける
歌番4107 おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ
歌番4108 うちはへて かけとそたのむ みねのまつ いろとるあきの かせにうつるな
歌番4109 ふかみとり ときはのまつの かけにゐて うつろふはなを よそにこそみれ
歌番4110 はるふかき いろにもあるかな すみのえの そこもみとりに みゆるはままつ
歌番4111 たれをかも しるひとにせむ たかさこの まつもむかしの ともならなくに
歌番4112 わかせこか つかひこむかと いてたちし このまつかえを けふかすきなむ
歌番4113 かせふけは なみこすいその そなれまつ ねにあらはれて なきぬへらなり
歌番4114 いろかへぬ かへのはのみそ あきなれと もみちすること ならはさりける
歌番4115 まつかへの ときはににへき こころかは みたれてこひむ あやなかりけり
歌番4116 わかやとの いささむらたけ ふくかせに おとのさやけき このゆふへかな
歌番4117 ちよもたる たけのおひたる やとなれは ちくさのものは ものならなくに
歌番4118 みよしのの やまよりゆきは ふりくれと いつともわかぬ わかやとのたけ
歌番4119 もみちする くさきにもにぬ たけのはそ かはらぬものの ためしなりける
歌番4120 いまさらに なにおひいつらむ たけのねの うきふししけき よとはしらすや
歌番4121 うきふしも あらしとそおもふ なよたけの よをはかなしと おもひにしかは
歌番4122 しくれする おとはすれとも なよたけの なとよとともに いろもかはらぬ
歌番4123 たけのはに ふりかからなむ うめのはな ゆきのうちのを ほるとみるへく
歌番4124 うくひすの したかむなかに うめのはな ちりのこらなむ はるのかたみに
歌番4125 そてたれて いさわかやとへ うくひすの こつたひちらす うめのはなみに
歌番4126 なほさりに おもひつるものを うめのはな こきかにわれや こととしみなむ
歌番4127 うくひすの かさにぬふてふ うめのはな をりてかささむ おいかくるやと
歌番4128 くるとあくと めかれぬものを うめのはな いつのひとまに うつろひにけむ
歌番4129 ことしより はるしりそむる うめのはな ちるてふことは ならはさらなむ
歌番4130 うめのはな さきぬるときは くらふやま やみにこゆれと しるくそありける
歌番4131 うめのはな さくとしらすや みよしのの やまにともまつ ゆきのふるらむ
歌番4132 うめのかの かきりなけれは をるひとの てにもそてにも ちりにけるかな
歌番4133 わかやとに ありといひなから うめのはな あはれとおもふに あくときもなし
歌番4134 うめかえに ふりかかりてそ しらゆきも はなのたよりに をらるへらなる
歌番4135 かそふれは おほつかなきを わかやとの うめこそはるの しるへなりけれ
歌番4136 はるのよの やまはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる
歌番4137 いつれをか わきてをらまし うめのはな えたもとををに ふれるしらゆき
歌番4138 ふるゆきに いろもまかひぬ うめのはな かにこそにたる ものなかりけれ
歌番4139 かをとめて たれをらさらむ うめのはな あやなしかすみ たちなかくしそ
歌番4140 うめのはな さきにけらしな ことしより よろつよふへき はるにあはむと
歌番4141 つきよには それともみえす うめのはな かをたつねてそ しるへかりける
歌番4142 うめのはな をれはこほれぬ わかそてに にほふかうつせ いへつとにせむ
歌番4143 ちるとみて あるへきものを うめのはな うたてにほひの そてにとまれる
歌番4144 よそにのみ あはれとそみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり
歌番4145 さかつきに うめのはなうけ おもふとち のみてののちは ちりぬともよし
歌番4146 おもひいてて みちこさりせは うめのはな たれににほひの かをうつさまし
歌番4147 きみならて たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとそしる
歌番4148 いつしかと このよあけなむ うくひすの こつたひちらす うめのはなみむ
歌番4149 わかやとの うめのそのえに かせふけは にほひはよそに なりやしぬらむ
歌番4150 かすみたつ かすかののへの うめのはな やましたかせに ちりこすなゆめ
歌番4151 ゆきとのみ あやまたれしを うめのはな くれなゐにさへ かよひけるかな
歌番4152 くれなゐと ゆきとはとほき いろなれと うめのはなには なほかよひけり
歌番4153 くれなゐに いろをはかへて うめのはな かそことことに にほはさりける
歌番4154 うくひすの すくへるえたを をりたらは こをはいかてか うまむとすらむ
歌番4155 いなむしろ かはそひやなき みつゆけは おきふしすれと そのねたえせす
歌番4156 いとをのみ たえすよりいたす あをやきを としのをなかき しるしとそおもふ
歌番4157 はることに たえせぬものは あをやきの かせのくりいたす いとにそありける
歌番4158 よるひとも なきあをやきの いとなれは ふきくるかせに かつみたれつつ
歌番4159 あをやきの えたにかかれる しらつゆを いともてぬける たまかとそみる
歌番4160 はるさめの ふりそめしより あをやきの いとのはなたそ いろまさりゆく
歌番4161 めにみえて かせはふけとも あをやきの なひくかたにそ はなはみえける
歌番4162 あをやきの いとよりかくる はるしもそ みたれてはなの ほころひにける
歌番4163 あをやきの いとよりかけて おるはたは いつれのやまの うくひすかきる
歌番4164 はなみにも ゆくへきものを あをやきの いとてにかけて けふはくらしつ
歌番4165 あをやきの えたにかかれる はるさめを いともてぬける たまかとそみる
歌番4166 はるのあめの うちふることに わかやとの やなきのすゑは いろつきにけり
歌番4167 はるくれは したれやなきの とををにも いろかこころに よりにけるかな
歌番4168 みつのうへに かけうちなひく あをやきを なみのあやおる いとかとそみる
歌番4169 いしはしる たきなくもかな さくらはな たをりもてこむ みぬひとのため
歌番4170 わかやとの ものなりなから さくらはな ちるをはえこそ ととめさりけれ
歌番4171 ももちとり こつたひちらす さくらはな いつれのはるか きつつみさらむ
歌番4172 をしみにと きつるかひなく さくらはな みれはかつこそ ちりまさりけれ
歌番4173 たまほこの みちはなほまた とほけれと さくらをみれは なかゐしぬへし
歌番4174 おほかりと おもふものから さくらはな みるところには やすくやはゆく
歌番4175 かつみつつ あかすおもへは さくらはな ちりなむのちそ かねてこひしき
歌番4176 さくらより まさるはななき はるなれは あたしくさはを ものとやはみる
歌番4177 はるたては さとにたなひく しらくもは さけるさくらの とほめなりけり
歌番4178 さくらはな ふるにふるとも みるひとの ころもぬるへき ゆきならなくに
歌番4179 ことならは さかすやはあらぬ さくらはな みるわれさへに しつこころなし
歌番4180 ひとをよふ ものならなくに さくらはな さけるをみれは こころこそゆけ
歌番4181 しらくもと みえつるものを さくらはな いまはちるとや いろことになる
歌番4182 さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける
歌番4183 ちるかうへに またもちるかな さくらはな かくてそこその はるもすきにし
歌番4184 そかことく ちりしまかへは さくらはな ふりにしゆきの かたみとそみる
歌番4185 さくらには こころのみこそ くるしけれ あきてちらせる はるしなけれは
歌番4186 いままてに ちらすはあれと さくらはな なきものとのみ おもほゆるかな
歌番4187 いつのまに ちりはてにけむ さくらはな おもかけにのみ いろをみせつつ
歌番4188 さくらはな わかやとにのみ ありとみは なきものくさは おもはさらまし
歌番4189 ゆきとのみ ふるたにあるを さくらはな いかにせよとか かせのふくらむ
歌番4190 かせふかぬ ほとにをりてむ さくらはな わかてからこそ ちらはちらさめ
歌番4191 うつつには さらにもいはし さくらはな ゆめにもちると みえはうからむ
歌番4192 をしみすは わかおいらくは さくらはな かさしてのちそ おいわすれける
歌番4193 わかことや ひともみるらむ さくらはな あくことしらぬ いろにもあるかな
歌番4194 さくらはな よのまちりなむ のちやいかに けふこそゆきて をらはをりてめ
歌番4195 いろもかも むかしなからに さくらめと としふるひとそ あらたまりける
歌番4196 ひさかたの ひかりさやけき はるのひに しつこころなく はなのちるらむ
歌番4197 まてといふに ちらてしとまる ものならは なにをさくらに おもひまさまし
歌番4198 いささくら われもちりなむ ひとさかり ありなはひとに うきめみえなむ
歌番4199 みてのみや ひとにかたらむ さくらはな てことにをりて いへつとにせむ
歌番4200 さくらいろに ころもはふかく そめてきむ はなのちりなむ のちのかたみに
歌番4201 さくらはな ちらはちらなむ ちらすとも ふるさとひとの きてもみなくに
歌番4202 はるかすみ なにかくすらむ さくらはな ちるまをたにも みるへきものを
歌番4203 たれこめて はるのゆくへも しらぬまに まちしさくらは うつろひにけり
歌番4204 えたにても あたにちりぬる はななれは おちてもみつの あわとこそなれ
歌番4205 はるさめの ふるはなみたか さくらはな ちるををしまぬ ひとしなけれは
歌番4206 さくらはな はるくははれる としたにも ひとのこころに あかれやはせぬ
歌番4207 みるひとも なきやまさとの さくらはな ほかのちりなむ のちそさかまし
歌番4208 ほともなく ちりなむものを さくらはな ここらひささも またせつるかな
歌番4209 かせさへも もてさわくかな さくらはな こころにたにも はるをまかせて
歌番4210 けふこすは あすはゆきとそ ふりなまし きえすはありとも はなとみましや
歌番4211 さくらはな こつたひちらす うくひすの うつしこころも わかおもはなくに
歌番4212 はるかすみ たなひくやまの さくらはな うつろはむとや いろかはりゆく
歌番4213 よのなかに たえてさくらの さかさらは はるのこころは のとけからまし
歌番4214 いもかなに かけたるさくら はなちらは つねにやこひむ いやとしのはに
歌番4215 はなさくら いまさかりなり おもひこし かさしにしては ちらはちるとも
歌番4216 かつけとも なみのなかには さくられて かせふくことに うきしつむたま
歌番4217 はなさくら いかてかひとの おもてみぬ のちこそまさる いろもいてこめ
歌番4218 はなさくら をるにたもとの ひちぬれは つゆにかかれる いろにそありける
歌番4219 はるさめに あれひてさける さくらはな つねにちらさて みるよしもかも
歌番4220 やまもよに さけるさくらの にくからぬ いもにあひみて こふるころかも
歌番4221 さくらはな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも
歌番4222 やまたかみ みつつわかゆく さくらはな かせはこころに まかすへらなり
歌番4223 たれしかも とめてをりつる はるかすみ たちかくすらむ やまのさくらを
歌番4224 こえぬまは よしののやまの さくらはな ひとつてにのみ ききわたるかな
歌番4225 ちるとのみ みてやかへらむ やまさくら はなのおもはむ こころあるものを
歌番4226 やまさくら ふきくるかせの ぬれきぬは はなのこころを しるひとそほす
歌番4227 ちるにたに あはましものを やまさくら またぬははなの つらきなりけり
歌番4228 みよしのの やまへにさける さくらはな しらくもとのみ あやまたれつつ
歌番4229 わかこひに くらふのやまの さくらはな まなくちるとも かすはまさらし
歌番4230 いそのかみ ふるのやまへの さくらはな うゑけむときを しるひとそなき
歌番4231 やまもりは いははいはなむ たかさこの をのへのさくら をりてかささむ
歌番4232 やまたかみ くもゐにみゆる さくらはな こころのゆきて をらぬひそなき
歌番4233 あしひきの やまさくらはな ひならへて かくさきたらは いとこひめやは
歌番4234 あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ
歌番4235 あつさゆみ はるのやまへに けふりたち もゆともみえぬ ひさくらのはな
歌番4236 わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いまやきなかむ
歌番4237 こひしくは かたみにもせむ わかせこか うゑしふちなみ はなさきにけり
歌番4238 ふちなみの かけなるうみの そこきよみ しつむいしをも はなとこそみれ
歌番4239 たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため
歌番4240 みなそこに かけをうつして こむらさき そめてかけたる きしのふちなみ
歌番4241 うつろはぬ まつのなたてに あやなくも やとなるふちの さきてちるかな
歌番4242 みつにさへ はるやくるると たちかへり いけのふちなみ をりつつそみる
歌番4243 ふちのはな もとよりみすは むらさきに さけるまつとそ おとろかれまし
歌番4244 みとりなる まつにかかれる ふちなれと おのかころとそ はなはさきける
歌番4245 かけてのみ みつつそしのふ からころも うすむらさきに さけるふちなみ
歌番4246 よにもにす たれかさけてふ むらさきの いろゆゑにこそ はなもさきけれ
歌番4247 わかやとに さけるふちなみ たちかへり すきかてにのみ ひとのみるらむ
歌番4248 よそにみて かへらむひとに ふちのはな はひまつはれよ とかむまをたに
歌番4249 わかやとの かけともたのむ ふちのはな たちよりくとも なみにをらるな
歌番4250 たちはなは みさへはなさへ そのはさへ えたにしもふれと はやときはのき
歌番4251 ときはなる はなとおもへはや ほとときす はなたちはなに こゑのかはらぬ
歌番4252 としことに きつつこゑする ほとときす はなたちはなや つまにはあらむ
歌番4253 ほとときす なとかきなかぬ わかやとの はなたちはなの みになるまてに
歌番4254 もとくたち きよきつきよに わきもこか みせむとおもひし やとのたちはな
歌番4255 さつきまつ はなたちはなの かをかけは むかしのひとの そてのかそする
歌番4256 やとりせし はなたちはなも かれなくに なとほとときす きなかさるらむ
歌番4257 けさきなき いまたたひなる ほとときす はなたちはなに やとはからなむ
歌番4258 たちはなの もとにかけふむ やとまたに ものをそおもふ ひとにしられす
歌番4259 われこそは にくくもあらめ わかやとの はなたちはなを みにはこしとや
歌番4260 わきもこに あはてひさしく うましたの あへたちはなの こけおふるまてに
歌番4261 かたをかの むかひのみねに しひまくは ことしのなつの かけにせむかも
歌番4262 ххはせむ きみをはまたむ むかへをの しひのхххх ххххххх
歌番4263 わかやとに きみこししひの なかたえて つみのむくひや あひみさるらむ
歌番4264 あしさきの やまさくろさく やみねこえ しかまつきみは いはひまつかも
歌番4265 をふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならすも ねてかたらはむ
歌番4266 もみちはの にほひはしけし しかはあれと まつなしのきを をりてかささむ
歌番4267 つゆしもの さむきゆふへに たへかねて うつろひにけり つまなしのきは
歌番4268 よのなかを うしといひても いつこにか みをはかくさむ やまなしのはな
歌番4269 わかやとの けもものしたの つきよさし したこころよし うたてこのころ
歌番4270 はしきやし わかいへのけもも とししけみ なにのみさきて ならさらめやも
歌番4271 はるのその くれなゐにほふ もものはな したてるみちに いてたてるいも
歌番4272 わかそのの すもものはなか にはにちる はたれのいまた のこりたるかも
歌番4273 いまいくか はるしなけれは うくひすも ものはなかめて おもふへらなり
歌番4274 あふからも ものはなほこそ かなしけれ わかれむことを かねておもへは
歌番4275 うくひすに はなしられけは なけれとも はるくるみちの ものにそありける
歌番4276 わかいほは みわのやまもと こひしくは とふとふきませ すきたてるかと
歌番4277 いつれをか しるへともせむ みわのやま みえとみゆるは すきにさりける
歌番4278 わすれすは たつねもしてむ みわのやま しるしにうゑし すきはなくとも
歌番4279 いそのかみ ふるのかみすき かみさひて われやさらさら こひにあひにける
歌番4280 かみなひの かみのよりいたに するすきの おもひもすきす こひのしけきに
歌番4281 わかせこを みやこへやりて まちしたひ あしからやまの すきのこのまか
歌番4282 いはやとに ねはふむろのき なれみれは むかしのひとを あひみるかこと
歌番4283 はなれいそに たてるむろのき うたかたも ひさしきときを すきにけらしも
歌番4284 うちなひき はるさりくらし やまのへの まきのこすゑの さきゆくみれは
歌番4285 ちとりなく さほのかはきり たちぬらし まきのこすゑも いろつきにけり
歌番4286 あたへゆく をしほのやまの まきのはも ひさしくみれは こけおひにけり
歌番4287 はるかすみ たなひきにけり ひさかたの つきのかつらも いまやさくらむ
歌番4288 めにはみて てにはとられぬ つきのうちの かつらのことき いもにもあるかな
歌番4289 ひるはさき よるはこひぬる かふくわのき きみのみみむや わけさへにみよ
歌番4290 わきもこか かたみのかふくわ はなにのみ さきてけたしも みにならぬかも
歌番4291 わかやとに あふちのはなは さきたれと なにしもおはぬ ものにそありける
歌番4292 さみたれに こひすといふなは たたはたて きみにあふちの はなしさきなは
歌番4293 さみたれと ことなしみつる ときしもそ ひとにあふちの はなはさきける
歌番4294 わきもこに あふちのはなは ちりすきて いまいまさける ことあらむいもかも
歌番4295 あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも
歌番4296 しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまとふへき
歌番4297 さほかはの きしにおひたる わかくぬき それなかりそね ありつつも きみかきまさは たちかくるかね
歌番4298 あなしやま つはきさきたる やへをこえ しかまつきみか いはひつまかも
歌番4299 かはかみの つらつらつはき つらつらに みれともあかす こせのはるのは
歌番4300 おくやまの やへをのつはき つはらかに けふはくらさね ますらをのとも
歌番4301 あしひきの やへらのつはき つらつらに みともあかめや うゑてけるきみ
歌番4302 いなみのの あからかしはの ときはあれと きみにこひせぬ ときはさねなし
歌番4303 ならやまの このてかしはの ふたおもて とにもかくにも ねちけひとかも
歌番4304 いそのかみ ふるからをのの もとかしは ものとこころは わすられなくに
歌番4305 わかせこか ささけてもたる ほほかしは あたにもにるか あをきかさには
歌番4306 すめらきの とほにみよみよ はやふせり さけのむといふそ このほほかしは
歌番4307 ひとこふる なかめかしはは ふるさとの うきねにのみそ しけくみえける
歌番4308 たまもかる おほくのうらの うらかせに つつしのはなは ちりぬらむかも
歌番4309 ほそひれの さきさかやまの しらつつし われににほはせ いもにしめさむ
歌番4310 たきはしる をしひのやまの いはつつし いはまをわけて いやめつらしに
歌番4311 やまこえて とほつのはまの いはつつし わかくるまくに ふふみてありまて
歌番4312 たねしあれは おひにけらしな いはつつし はなさくはるに あはむとやみし
歌番4313 なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ いもにあはすて
歌番4314 こそさきし ひさきいまさら いたつらに つちにやおちむ みるひとなしに
歌番4315 たらちねの おやのそのふの くはもなほ ねかへはきみに つくといふものを
歌番4316 ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや
歌番4317 わかこひは みやまにおふる はたつもり つもりにけらし あふよしもなし
歌番4318 おくやまの しきみのはなの なのことや しらしらきみに こひわたりなむ
歌番4319 かはつなく よしののかはの たきのうへの あせみのはなそ てなふれそゆめ
歌番4320 わかせこに わかこふらくは おくやまの あせみのはなの いまさかりなり
歌番4321 はるやまの あせみのはなの にくからぬ きみにはしゑや よりぬともよし
歌番4322 いきのをに おひつるわれを やまちさの はなにかきみか うつろひにけむ
歌番4323 やまちさの しらつゆおもみ うらふれて こころにふかき わかこひやます
歌番4324 わかことく ひとめまれらに おもふらし しらくもふかく やまちさのはな
歌番4325 あとおもへか あしくまやまの ゆつるはの ふくまるときに かせふかすかも
歌番4326 もののふの やそをとめらか ふみとよむ てらゐのうへの かたかしのはな
歌番4327 いはのうへの つままをみれは ねをはひて としふかくらし かみさひにけり
歌番4328 あをやきの さねきのはなは いまもかも きみみたるらむ みるひとなしに


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古今和歌六帖 原文 第六帖 前半部

2017年03月12日 | 古今和歌六帖
古今和歌六帖 第六帖 前半部

 字欠歌について、その歌が先行する歌集に載る歌と同じと推定されるものについては先行する歌集の歌で校訂しています。ただし、校訂時の操作ミスから作業データを失い、ためにその校訂部分に対する注記を行っていません。一方、字欠歌を集載する歌集が見つからなかったものは、校訂を行うことなくそのままとなっています。なお、この第六帖では歌番4029と歌番4262の歌が字欠歌となっています。



歌番3544 はるくさの しけきわかこひ おほうみの かたゆくなみの ちへにつもりぬ
歌番3545 のへみれは わかなつみけり うへしこそ かきねのくさも はるめきにけり
歌番3546 いまははや かれはてなまし くさのねの もえてもつひに はるにあへるかも
歌番3547 かすかのの ゆきまをわけて おひてくる くさのはつかに みえしきみかも
歌番3548 うらわかみ ねよけにみゆる わかくさの ひとのむすはむ ことをしそおもふ
歌番3549 はるくれは のへのまにまに おひしける ちくさにものを おもふころかな
歌番3550 やかすとも くさはもえなむ かすかのを たたはるのひに まかせたらなむ
歌番3551 ひとことは なつののくさの しけくとも いもとわれとし たつさはりなは
歌番3552 このころの こひのしけくて なつくさの かりそくれとも おひしくかこと
歌番3553 あしひきの やまもとしけき なつくさの ふかくもきみを おもふころかな
歌番3554 しけさのみ ひことにまさる なつくさの かりそめにたに とふひとのなき
歌番3555 かれはてむ ことをはしらて なつくさの ふかくもひとを たのみけるかな
歌番3556 ひとしれぬ われよりほかに なつくさの しけりあふこそ みれはねたけれ
歌番3557 なつくさの うへにしけれる ぬまみつの ゆくかたもなき わかこころかな
歌番3558 つれつれと なかめせしまに なつくさの あはれややとに しけりあひにけり
歌番3559 なつくさは むすふはかりに なりにけり のかひしこまも あくかれにけむ
歌番3560 なつくさの かりのよひとは わひしくも われにあきかせ ふきそめつるか
歌番3561 ちちははに しらせぬこゆゑ みやけちの なつののくさを なつみくるかも
歌番3562 いそのかみ ふるののくさも あきはなほ いろことにこそ あらたまりけれ
歌番3563 こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはれぬる
歌番3564 いつれをか わきてしのはむ あきののに うつろはむとて いろかはるくさ
歌番3565 あきののの ちくさにさける はなのいろの みたれてものを おもふころかな
歌番3566 かみさふと ゆかすはあらし あきくさの むすひしひもを とくはかなしも
歌番3567 おもふとち あるたにあきは わひしきを くさのかれかれ なるそかなしき
歌番3568 くさかれの のへをはうしと おもへはや ふゆののくさと ひとのかるらむ
歌番3569 わかまたぬ としはきぬれと ふゆくさの かれにしひとは おとつれもせす
歌番3570 やまさとは ふゆそわひしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへは
歌番3571 わすられぬ こころのうちは ふゆくさの かれにしひとを こふるなりけり
歌番3572 わかやとの のきのしたくさ おふれとも こひわすれくさ みれとまたおひす
歌番3573 かしはきの もりのしたくさ としふとも ひかりをいつか みむとたのみし
歌番3574 おほあらきの もりのしたくさ おひぬれは こまもすさへす かるひともなし
歌番3575 わかやとの ゆふかけくさの しらつゆの けぬかにもとな おもほゆるかな
歌番3576 ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは
歌番3577 さくらをの をふのしたくさ つゆしあらは あかしてゆかむ おやはしるとも
歌番3578 こといたく さたににもせむ いはしろの をかのしたくさ われしかりては
歌番3579 いくしかを とむるかはへの にこくさの みわかきかうへに さねしことはも
歌番3580 あしかきの なかのにこくさ にこよかに われとよみして ひとにしらるな
歌番3581 あきかせに なひくかはへの にこくさの にこよかにしも おもほゆるかな
歌番3582 しほみては いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき
歌番3583 わかよよも ちよにあらめや ねなしくさ たはれやせまし よのわかいとき
歌番3584 ちちははか いへのしりへの ももよくさ ももよいてませ わかいたるまて
歌番3585 しらなみの はままつのきの たむけくさ いくよまてにか としのへぬらむ
歌番3586 あちきなや いふきのやまの さしもくさ おのかおもひに みをこかしつつ
歌番3587 ちきりけむ こころからこそ さしもくさ おのかおもひに もえわたりけれ
歌番3588 なほさりに いふきのやまの さしもくさ さしもおもはぬ ことにやはあらぬ
歌番3589 しもつけや しめつのはらの さしもくさ おのかおもひに みをややくらむ
歌番3590 かみつけの いならのぬまの おほゐくさ よそにみよりは いまこそまされ
歌番3591 うかりける みきはかくれの かくもくさ はすゑもみえす ゆきかくれなむ
歌番3592 としをへて なにたのみけむ かつまたの いけにおふてふ つれなしのくさ
歌番3593 しほあしに ましれるくさの しりくさの みなひとしりぬ わかしたおもひは
歌番3594 しはつきの みうらさきなる ねつらくさ あひみさりせは われこひめやも
歌番3595 くれなゐの あさはののたに かるくさの つかのあひたも われをわするな
歌番3596 いまもかも さきにほふらむ たちはなの こしまのさきの やまふきのはな
歌番3597 やまふきは あやなくさきそ はなみむと うゑてしきみか かよひこなくに
歌番3598 ちはやふる かみなひかはに かけみえて いまやさくらむ やまふきのはな
歌番3599 をりてもみ をらすてもみむ よしのかは みなそこてりて さけるやまふき
歌番3600 うつるかけ ありとおもはすは みなそこに はるとそみまし やまふきのはな
歌番3601 かはつなく ゐてのやまふき ちりにけり はなのさかりに あはましものを
歌番3602 やへなから あたなるみれは やまふきの したにこそなけ ゐてのかはつは
歌番3603 なかれくる かはつなくなり あしひきの やまふきのはな にほふへらなり
歌番3604 ゆかりとも きこえぬものを やまふきの かはつかこゑに にほひけるかな
歌番3605 やまふきの はなはちとせも さくへきを くれぬるはるの をしくもあるかな
歌番3606 よしのかは きしのやまふき ふくかせに そこのかけさへ うつろひにけり
歌番3607 はるふかみ えたさしひちて かみなひの かはへにさける やまふきのはな
歌番3608 あしひきの やまのやまふき やまならは さくさかりには あふひともあらし
歌番3609 はるふかき いろはなけれと やまふきの はなにこころを まつそそめつる
歌番3610 ひとりのみ みつつそしのふ やまふきの はなのさかりに あふひともなし
歌番3611 いかてわか あはむとおもひし やまふきの はなのさかりに あひにけるかな
歌番3612 もろともに ゐてのさとこそ こひしけれ ひとりをりうき やまふきのはな
歌番3613 わかやとの やへやまふきの ちるをみて はるすきゆくと みるそかなしき
歌番3614 はるのあめに にほへるいろも あかなくに かさへなつかし やまふきのはな
歌番3615 なにしおへは やへやまふきそ うかりける へたててをれる きみかつらさに
歌番3616 やまふきの それにあくひと なくしあらは ひとのしるへく わかこひめやは
歌番3617 わかやとの なてしこのはな さきにけり たをりてひとに みせむこもかも
歌番3618 わかやとに さきしなてしこ いつしかも はなにさかなむ よそへつつみむ
歌番3619 わかやとの なてしこのはな ちらめやは いやはつはなの さきまさるとも
歌番3620 なてしこの そのはなにもか あさなさな てにをりもちて こふるひなけむ
歌番3621 とこなつの はなをしみれは うちはへて すくすつきひの かすもしられす
歌番3622 なかけくの いろをそめつつ はるあきを しらてのみさく とこなつのはな
歌番3623 かはるとき なきやとなれと はなといへは とこなつをのみ うゑてこそみめ
歌番3624 われのみや あはれとはおもふ きりきりす なくゆふかけの やまとなてしこ
歌番3625 ちりをたに すゑしとそおもふ うゑしより いもとわかぬる とこなつのはな
歌番3626 いもとわれと ぬるとこなつの はななれは なへてひとには みせむともせす
歌番3627 いつこにも さきはすらめと わかやとの やまとなてしこ たれにみせまし
歌番3628 こきかきり ことはつみいれて なてしこに うつれるそての いろそみせまし
歌番3629 わかそてに うつらはうつれ てもやめす つみやいれまし なてしこのはな
歌番3630 あなこひし いまもみてしか やまかつの かきほにさける やまとなてしこ
歌番3631 すすしやと くさむらことに たちよれは あつさそまさる とこなつのはな
歌番3632 うつくしと みるたひことに なてしこの はなのなこりは めくしやはあらぬ
歌番3633 あきはきの はなさきにけり たかさこの をのへのしかは いまやなくらむ
歌番3634 しろたへの なみかもたつと みるまてに みたれてさける やまのはきかな
歌番3635 あきはきの したはにつけて めにちかく よそなるひとの こころをそしる
歌番3636 わかやとの はきのはなさく ゆふひかけ いたしていもを みるよしもかな
歌番3637 わかやとの ひとむらはきを おもふこに みせてほとほと ちらしつるかも
歌番3638 たまにぬく けたてたはらむ あきはきの うへわくらかに おけるしらつゆ
歌番3639 よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはも いろつきにけり
歌番3640 はきのつゆ たまにぬかむと とれはけぬ みむひとはなほ よそなからみよ
歌番3641 はなのいろは あまたみゆれと ひとしれぬ はきのしたはそ なかめられける
歌番3642 つまこふる しかのなみたや あきはきの したはもみつる つゆとなるらむ
歌番3643 あきはきを みつつけふこそ くらしつれ したははこひの つまにそありける
歌番3644 さをしかの いかかいひけむ あきはきの にほふときしも ひとのこひしき
歌番3645 おくものは ひさしきものを あきはきの したはのつゆの ほともなきかな
歌番3646 あきはきの ふるえにさける はなみれは もとのこころは かはらさりけり
歌番3647 わきもこに こひつつあらすは あきはきの さきてちりぬる はなならましを
歌番3648 いもかめを みそめのやまの あきはきは このつきころは おくらすなゆめ
歌番3649 いくよへて のちかわすれむ ちりぬへき のへのあきはき みたるへきよを
歌番3650 みやきのの もとあらのこはき つゆをおもみ かせをまつこと きみをこそまて
歌番3651 しらつゆは うへよりおくを いかなれは はきのしたはの まつもみつらむ
歌番3652 さをしかの しからみふする あきはきは したはやうへに なりかへるらむ
歌番3653 あきはきの したはかくれて なくしかの なみたやなにの いろをそむらむ
歌番3654 あきはきは まつさすはより もみつるを つゆのこころの わけるとなみそ
歌番3655 あきはきの したはよりしも もみつるは もとよりものそ おもふへらなる
歌番3656 あきはきの にはへるえたに めてたらは いとうつせみに ひとやおもはむ
歌番3657 うつろはむ ことたにをしき あきはきに をれぬはかりも おけるつゆかな
歌番3658 てにとれは そてさへにほふ をみなへし このしたつゆに ちらまくをしも
歌番3659 あきののに なまめきたてる をみなへし あなかしかまし はなもひととき
歌番3660 をみなへし あきののかせに うちなひき こころひとつを たれによすらむ
歌番3661 あきののに やとりはすへし をみなへし なをむつましみ たひならなくに
歌番3662 あきならて あふことかたき をみなへし あまのかはらに おひぬものゆゑ
歌番3663 をみなへし おほかるのへに やとりせは あやなくあたの なをやたちなむ
歌番3664 をみなへし うつろめたくも みゆるかな あれたるやとに ひとりたてれは
歌番3665 なにめてて をれるはかりそ をみなへし われおちにきと ひとにかたるな
歌番3666 をみなへし おひたるあきの むさしのは つねよりもなほ むつましきかな
歌番3667 たかあきに あらぬものから をみなへし なといろにいてて またきうつろふ
歌番3668 なにしおはは しひてたのまむ をみなへし はなのこころの あきはうくとも
歌番3669 しろたへの ころもかたしき をみなへし さけるのへにそ こよひねにける
歌番3670 をみなへし うつろひかたに なるときは かりにのみこそ ひとはとひつれ
歌番3671 かりにのみ ひとのみゆれは をみなへし いろのたもとそ つゆけかりける
歌番3672 をみなへし にほひをそてに うつしては あやなくわれを ひとやとかめむ
歌番3673 をみなへし ひともとゆゑに あきののの ちくさなからに はなをおもふかな
歌番3674 をみなへし ふきすきてくる あきかせは めにはみえすて かこそしるけれ
歌番3675 つまこふる しかそなくなる をみなへし おのかすむのの はなとしらすや
歌番3676 たなはたに にたるはなかな をみなへし あきよりほかに あふことかたし
歌番3677 あけぬれは つきなくなりぬ をみなへし ひとしれすこそ つまむとはおもへ
歌番3678 ひとのみる ことやくるしき をみなへし きりのまかきに たちかくるらむ
歌番3679 をるからに わかなはたちぬ をみなへし いさおなしくは はななからみむ
歌番3680 はなにあかて なにかへるらむ をみなへし おほかるのへに ねなましものを
歌番3681 をみなへし いろにもあるか まつむしを したにやとして たれをよふらむ
歌番3682 えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため
歌番3683 をみなへし をりけるえたの ふしことに すきにしきみは おもひいてやせし
歌番3684 をみなへし をりもをらすも いにしへは さらにとふへき ことならぬかな
歌番3685 わかやとに いまさくはなの をみなへし たえぬこころに なほこひにけり
歌番3686 をみなへし うしとみつつそ ゆきすくる をとこやまにし たてりとおもへは
歌番3687 しらつゆの おけるあしたの をみなへし はなにもはにも たまそかかれる
歌番3688 をくらやま みねたちならし なくしかの へにけむあきを しるひとそなき
歌番3689 あきののの つゆにおかるる をみなへし はらふひとなみ ぬれつつやへむ
歌番3690 をみなへし はなのこころの あたなれは あきにのみこそ あひわたりけれ
歌番3691 さをしかの いるののすすき はつをはな いつしかきみに たまくらをせむ
歌番3692 わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか
歌番3693 いかこやま のへにさきたる はなみれは きみかいへなる をはなおもほゆ
歌番3694 のへみれは おふるすすきの あきわかみ またほにいてぬ こひもするかな
歌番3695 はなすすき ほにはおけとも はつしもの いろはみえすて きえぬへらなり
歌番3696 ととめてそ みるへかりける はなすすき まねくかたにや あきのいぬらむ
歌番3697 まねくとて きつるかひなく はなすすき ほにいててかせの かはるなりけり
歌番3698 いつとても ひとやはからす はなすすき なとかあきしも ほにはいつらむ
歌番3699 すきかてに のへはへぬへし はなすすき これかれまねく そてのみゆれは
歌番3700 きみとはむ ひとにはあはて あきかせに なひくをはなを みてやかへらむ
歌番3701 あきののの くさのたもとか はなすすき ほにいててまねく そてとみゆらむ
歌番3702 あきののに いてぬとならは はなすすき はかなきそらを まねきたててむ
歌番3703 はなすすき われこそしたに たのみしか ほにいててひとに むすはれにけり
歌番3704 きみかうゑし ひとむらすすき むしのねの しけきのへとも なりにけるかな
歌番3705 いかはかり かせのつらさに はなすすき ふきくるかたを まつそむくらむ
歌番3706 をくらやま ふもとののへの はなすすき ほのかにみゆる あきのゆふくれ
歌番3707 はなすすき かせになひきて みたるるは むすひおきてし つゆやとくらむ
歌番3708 いまよりは うゑてたにみし はなすすき ほにいつるあきは わひしかりけり
歌番3709 あきつけは をはなかうへに おくつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
歌番3710 めつらしき きみかいへなる しのすすき ほにいててあきの すくらくをしも
歌番3711 いもかりと わかかよひちの しのすすき われしかよはは なひけしのはら
歌番3712 としふとも われわすれめや あふさかの しののをすすき おいはてぬとも
歌番3713 あきかせの ややふくのへの しのすすき ほにいてぬこひは くるしかりけり
歌番3714 しのすすき ほにいてすとも ゆくあきを まねくといはは そよとこたへよ
歌番3715 いつもきく かせとはきけと をきのはの そよくおとにそ あきはきにける
歌番3716 をきのはの そよくおとこそ あきかせの ひとにしらるる はしめなりけれ
歌番3717 をきのはに ふきくるかせそ あききぬと ひとにしらるる はしめなりけれ
歌番3718 あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし
歌番3719 あさゆふに なてておほしし くさなれは おひてみゆるそ わかやとのをき
歌番3720 ことわりや うらむることも あきかせの そよそよをきの はにそおとろく
歌番3721 いととしく ものおもふやとの をきのはに あきとつけつる かせのわひしさ
歌番3722 あきかせの をきのはをふく おときけは いよいよわれも ものをこそおもへ
歌番3723 みなひとの そのかににほふ ふちはかま きみのみのたを わたるけふかな
歌番3724 をるひとの こころのままに ふちはかま うへもいろこく さきてみえけり
歌番3725 なにひとか きてぬきかけし ふちはかま くるあきことに のへをにほはす
歌番3726 やとりせし ひとのかたみか ふちはかま わすられかたき かはにほひつつ
歌番3727 ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに たかぬきかけし ふちはかまそも
歌番3728 をみなへし なかふちはかま おりつれは あきのもみちを そめつけにして
歌番3729 あきかせに ほころひぬらし ふちはかま つつりさせてふ きりきりすなく
歌番3730 ぬれてほす やまちのきくの つゆのまに いかてちとせを われはへにけむ
歌番3731 うゑしうゑは あきなきときや さかさらむ はなこそちらめ ねさへかれめや
歌番3732 ひさかたの くものうへにて みるきくは あまつほしとそ あやまたれける
歌番3733 あきかせの ふきあけにたてる しらきくは はなかあらぬか なみのよするか
歌番3734 ふるさとを わかれてさける きくのはな たひらかにこそ にほふへらなれ
歌番3735 さきそめし やとのかはれは きくのはな いろさへにこそ うつろひにけれ
歌番3736 つきかけも はなもひとつに みゆるよは いつれをわきて をらむとそおもふ
歌番3737 いろそむる ものならねとも つきかけに うつれるやとの しらきくのはな
歌番3738 うつろふと みゆるものから きくのはな さけりしえたそ かはらさりける
歌番3739 いつれをか はなとはわかむ なかつきの ありあけのつきに まかふしらきく
歌番3740 うすくこく いろそみえける きくのはな つゆやこころを わきておくらむ
歌番3741 おくしもの そめまとはせる きくのはな いつれかもとの いろにはあるらむ
歌番3742 みつにさへ なかれてふかき わかやとの きくのふちとそ なりぬへらなる
歌番3743 ををよりて ぬくものにもか あさことに きくのうへなる つゆのしらたま
歌番3744 こころあてに をらはやをらむ はつしもの おきまとはせる しらきくのはな
歌番3745 きくのはな ときもおそきも いままてに しものおかすは いろをみましや
歌番3746 はつしくれ ふりそめしより きくのはな なかりしえたそ またそはりける
歌番3747 つきかけに いろわきかたく しらきくは をりてもをらぬ ここちこそすれ
歌番3748 あさことに つゆはおけとも きくのはな ひとのよはひは くれすそありける
歌番3749 きくのはな ちくさのいろを みるひとの こころさへにそ うつろひぬへき
歌番3750 もとよりの いろにはあれと きくのはな かたえはうつす ところからかも
歌番3751 なみとのみ うちこそみつれ すみのえの きしにのこれる しらきくのはな
歌番3752 ひともとと おもひしきくを おほさはの いけのそこにも たれかうゑけむ
歌番3753 うゑしとき はなまちとほに ありしきく うつろふあきに あはむとやみし
歌番3754 あきをおきて ときこそありけれ きくのはな うつろふからに いろのまされは
歌番3755 なにしきく いろそめかへし にほふらむ はなもてはやす きみもこなくに
歌番3756 あきのよも ふかくなるやと きくのはな かけさへとひて きみにみゆらむ
歌番3757 きくならぬ きくこそわれは おもほゆる きみにあひつく ひとしなけれは
歌番3758 けふひきて くもゐにうつす きくのはな あまつほしとや あすよりはみむ
歌番3759 あたらしき ものにさりける かみなつき しくれふりにし きくにそあれとも
歌番3760 きくのはな ふゆののかせに ちりもせて けふまてとてや しもはおくらむ
歌番3761 わきもこか ひもゆふくれの きくのはな あかすそあきの いろはみえける
歌番3762 ひとくさに さけはかひなし ももしきに うつしてのちは いろかふなきく
歌番3763 かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ
歌番3764 にほひけむ さかりはみねと きくのはな なこりをしくも おもほゆるかな
歌番3765 いろもかも にほふきくとも なりてしか われよりはまた あらしとおもはむ
歌番3766 しらくもの うへにしうつる きくなれは いたくをにほへ はなとみるへく
歌番3767 いろかはる あきのきくをは ひととせに ふたたひにほふ はなとこそみれ
歌番3768 くさのかう いろかはりぬる しらつゆは こころおきても おもふへきかな
歌番3769 あきちかう のはなりにけり しらつゆの おけるくさはも いろかはりゆく
歌番3770 あきのつき ちかうてらすと みえつるは つゆにうつろふ ひかりなりけり
歌番3771 わかやとの はなふみちらす とりうたむ のはなけれはや ここにしもくる
歌番3772 はなしあらは かつきてをらむ あきかせに なみたちかへり うたふなかにも
歌番3773 いろふかき つゆのかきりう たむれとも むらさきふかき あきのはなかな
歌番3774 かせさむみ なくかりかねの こゑにより うたむころもを まつやからまし
歌番3775 あきののに くさはをひとも をりきしを にしきのことも みえわたるかな
歌番3776 ちりぬとも みつるいろをは わすれしを にはかにうつる はなのいろかも
歌番3777 うけたむる そてをしをにて ぬきとめは なみたのたきの かすはみてまし
歌番3778 さきはてて いまはあらしと おもひしを にはかくれても にほひけるかな
歌番3779 きくもなほ さきいてぬれは ことはなは それにあらしを にほひけるかな
歌番3780 ふりはへて いさふるさとの はなみむと こしをにほひそ うつろひにける
歌番3781 むらさきの はなゆひしつと つけしをに おもひはふかく むすひこめてき
歌番3782 ちりぬれは あとはあくたに なるはなを おもひしらすも まとふてふかな
歌番3783 みなかみを やまにておつる たきつせの しつくのたえす そそくたにかけ
歌番3784 われはけさ うひにそみつる はなのいろを あたなるものと いふへかりけり
歌番3785 まめなれと よきなもたたす かるかやの いさみたれなむ しとろもとろに
歌番3786 あきかせに みたれそめにし かるかやを われそつかねて ゆふきくれみし
歌番3787 かるかやの ほにいててものを いはねとも なひくくさはに あはれとそみし
歌番3788 かはかみの ねしろたかかや あやにあやに さねゐねてこそ ことにいてにしか
歌番3789 かやののへ いともかるるか みねのうへの まつかえともに ひさしきものを
歌番3790 なぬかかる かやはわかみの うへなれや ひとにおもひを つけてやみぬる
歌番3791 ひさかたの あめもふらぬか はちすはに たまれるみつの たまににむみむ
歌番3792 はちすはに いてゐるつゆの たまみつは うかへるひとの こころとそみる
歌番3793 みとりなりと おもふはかりに はちすはの かはみにさへも しみにけるかな
歌番3794 にこりえは かたふかくこそ あせにけれ みをはちすさへ みれはおいけり
歌番3795 はちすはの にこりにしまぬ こころもて なにかはつゆを たまとあさむく
歌番3796 ふくかせは かをのみそふる わかやとの いけのはちすを とりなつくしそ
歌番3797 つゆをたに たまとなしつる はちすはに おもふこころを いれてみせはや
歌番3798 すみのえの あささはをのの かきつはた きぬにすりつけ きむひしらすも
歌番3799 いひそめし むかしのひとの かきつはた いろはかりこそ かたみなりけれ
歌番3800 われのみや かくこひすらむ かきつはた にほへるいもは いかにかあらむ
歌番3801 かきつはた にほへるいもを いさなみに おもひいてつつ なけきけるかも
歌番3802 きみかやと わかやとわける かきつはた うつろはむとき みむひともかな
歌番3803 むつましく かこひへたてぬ かきつはた たかかたちかは うつろひぬへき
歌番3804 たたちにて きみかこえけむ かきつはた かせをはかりて うつろひぬへし
歌番3805 つねならぬ ひとくるやまの あきつのの かきつはたをし ゆめにみえつつ
歌番3806 からころも きつつなれにし つましあれは はるはるきぬる たひをしそおもふ
歌番3807 わきもこに こひつつあらすは かりこもの おもひみたれて しぬへきものを
歌番3808 はるこまの あさるさはへの まこもくさ まことにわれを おもふやはきみ
歌番3809 わかきみか おゆるかをしさ さたのいけの こもにもかもや かりあけはやさむ
歌番3810 こもまくら たかせのよとに かるこもの かるともわれは しらてたのまむ
歌番3811 わきもこに かけてないひそ かりこもの みたれておもふ きみかあたりそ
歌番3812 こまちかふ さはのわかこも かりにきて いかてよとのの ことをしりけむ
歌番3813 みくまのの かるやみこもの あみかけて ゆふてにおもふ われならなくに
歌番3814 さつきまつ ぬまにおひたる わかこもの そよそよわれも いかてとそおもふ
歌番3815 をみなへし さくさはにおふる はなかつみ みやこもしらぬ こひもするかな
歌番3816 きみかをる やへやまふきの はなかつみ かつみるひとそ こひしかりける
歌番3817 みちのくの あさかのぬまの はなかつみ かつみるひとの こひしきやなそ
歌番3818 あしつのの おひてしときに あめつちと ひととのしなは さたまりにけり
歌番3819 つのくにの なにはのあしの めもはるに しけきわかこひ ひとしるらめや
歌番3820 ひとしれす ものおもふときは なにはなる あしのしらねの しらねやはする
歌番3821 しらなみの よすれはなひく あしのねの うきよのなかは みしかからなむ
歌番3822 おしてるや なにはほりえの あしへには かりそねたらし しものふれるに
歌番3823 なにはめの ころもほすとて かりてたく あしひのけふり たたぬひそなき
歌番3824 きみかため うきぬのいけに ひしとると わかそめそての ぬれにけるかも
歌番3825 あすへては こころほそみの いけにおふる ひしのしたねの なかれこそすれ
歌番3826 とよくにの きくのいけなる ひしのうれを とるとやいもか みそてぬるらむ
歌番3827 わかこころ ゆたのたゆたに うきぬなは へにもおきにも よりやかねまし
歌番3828 こりすまの こもりえにおふる うきぬなは うきみにものを おもふころかな
歌番3829 かくれぬの そこよりおふる ねぬなはの ねぬなはたてし くるないとひそ
歌番3830 くれはつる ことやおそきと ねぬなはの ねぬれはひとの くるもしられす
歌番3831 やまみつに きみはおひねと ねぬなはの くるまにまにも おもひますかな
歌番3832 こひをのみ ますたのいけの ねぬなはの くれはそものの みたれともなる
歌番3833 みるからに おもひますたの いけにおふる あささのうきて よをはへよとや
歌番3834 とききぬの おもひみたれて うきくさの うきてもわれは ありわたるかな
歌番3835 ねをたえて みつにうかへる うきくさは いけのふかきを たのむなるへし
歌番3836 わひぬれは みをうきくさの ねをたえて さそふみつあらは いなむとそおもふ
歌番3837 みつのおもに おふるさつきの うきくさの なみのうへにや たねをまきけむ
歌番3838 こもりえに ひまなくうける うきくさの まなくそひとは こひしかりける
歌番3839 つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてのいろは うつろひぬとも
歌番3840 つきくさの いたつらにある こころかな わかおもふひとの こともつけこぬ
歌番3841 むかしより うちみるひとに つきくさの はなこころとは きみをこそみれ
歌番3842 つきくさの うつろふいろに おもひせは いままてきみを またましものか
歌番3843 つきくさに ころもいろとり すらすとも うつろふいろと きくかくるしさ
歌番3844 よのなかの ひとのこころは つきくさの うつろひやすき いろにそありける
歌番3845 つとにさき ゆふへはきゆる つきくさの けぬへきこひも われはするかな
歌番3846 あさゆふに さきすさひたる つきくさの ひくたへともに けぬへくおほゆ
歌番3847 みちしらは つみにもゆかむ すみのえの きしにおふてふ こひわすれくさ
歌番3848 すみのえに おふとそききし わすれくさ ひとのこころに いかておひけむ
歌番3849 すみのえに ふねさしよせよ わすれくさ しるしありやと つみにゆくへく
歌番3850 うちしのひ いさすみのえへ わすれくさ わすれてひとの またやつまぬと
歌番3851 すみよしと あまはいふとも なかゐすな ひとわすれくさ きしにおふてふ
歌番3852 わかためは みるもかひなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは
歌番3853 わすれくさ たねのかきりは はてななむ ひとのこころに まかせさるへく
歌番3854 ひとりのみ なかめふるやの つまなれは ひとをしのふの くさそおひける
歌番3855 はなすすき ほにいてほにいてす なきやとは むかししのふの くさをこそみれ
歌番3856 こひしとも いはてふるやの しのふくさ しけさまされは いまそほにいつる
歌番3857 やまたかみ みねのあらしの ふくさとは にほひもあへす はなそちりける
歌番3858 くりこまの まつにはいとと としふれは ことなしくさそ おひそはりける
歌番3859 ひとにのみ いはれのいけの あやなくは ことなしくさの やとにさそはむ
歌番3860 きみみてし ほとのふるやの ひさしには あふことなしの くさそおひける
歌番3861 あかねさす ひるはたたにて ぬはたまの よるのいとまに つめるせりこれ
歌番3862 ますらをと おもへるものを たちはきて かきわのたゐに せりそつみける
歌番3863 ひとしれぬ ぬまにおふてふ ふかせりの わりたにひかは ねもみさらめや
歌番3864 はるさめの ふりはへてゆく ひとよりは われまつつまむ やせかはのせり
歌番3865 かすみたつ かすかのさとに うゑしなき なつなりといひし えはさしにけり
歌番3866 なはしろの こなきかはなを きぬにすり なるるまにまに あせかくかなしき
歌番3867 かみつけの いかほのぬまに うゑしなき かくこひむとや たねもまきけむ
歌番3868 わかやとの ほたてふるとも とりうゑし みちなるまてに きみをしまたむ
歌番3869 みなつきの かはらにおもふ やほたての からしやひとに あはぬこころは
歌番3870 むくらはふ いやしきやとも おほきみの こむとしりせは たましかましを
歌番3871 なにしにか かしこきいもか むくらふの けかしきやとに いりまさるらむ
歌番3872 やへむくら こころのうちに しけけれは はなみにゆかむ いてたちもせす
歌番3873 やへむくら しけくのみこそ なりまされ ひとめそやとの くさにならまし
歌番3874 なにせむに たまのうてなも やへむくら いつらむなかに ふたりこそねめ
歌番3875 むくらおひて あれたるやとの こひしきに たまとつくれる やともわすれぬ
歌番3876 たまかつら かつらきやまの もみちはの おもかけにのみ みえわたるかな
歌番3877 かけておもふ ひともなけれと ゆふされは おもかけたえぬ たまかつらかな
歌番3878 いかさまに おふるものそと たまかつら いかてしのひに ねもみてしかな
歌番3879 あきかせに ふきかへさるる くすのはの うらみてもなほ うらめしきかな
歌番3880 あしひきの やましたしけく はふくすの たつねてこふる われとしらすや
歌番3881 ちはやふる かみのいかきに はふくすも あきにはあへす いろつきにけり
歌番3882 かれかねて しもにうつろふ くすのはの うらみやせまし かせにつけつつ
歌番3883 かせはやみ みねのくすはの ともすれは あやかりやすき きみかこころか
歌番3884 わかやとの くすはひことに いろつきぬ きまさぬきみは なにこころそも
歌番3885 をみなへし おふるさはへの まくすはら いつかもくりて わかきぬにきむ
歌番3886 あしからの はこねのやまに はふくすの ひかはよりこね したなほなほに
歌番3887 たまくしけ みまとのやまの さねかつら さねすはつひに ありとてまたむ
歌番3888 なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな
歌番3889 なきなのみ たつたのやまの さねかつら くるひとありと たれかいふらむ
歌番3890 つれなきを おもひしらねの さねかつら はてはくるをも いとふへらなり
歌番3891 やまたかみ たにへにはへる あをつつら たゆるときなく あふよしもかな
歌番3892 やまかつの かきほにはへる あをつつら たつねくれとも あふよしもなし
歌番3893 たえねとは いひてしものを あをつつら またくりかへし やまひとのうさ
歌番3894 かすかのの のへのあさかほ おもかけに みえつついもは わすれかねつも
歌番3895 おほつかな たれとかしらむ あききりの たえまにみゆる あさかほのはな
歌番3896 あさかほは あさつゆおきて さくといへと ゆふかけにこそ さきまさりけれ
歌番3897 このやまの もとにもあらし あさかほの はなをのみみて われやかへらむ
歌番3898 あさちふの をののしのはら しのふとも いまはしらしな とふひとなしに
歌番3899 けさなきて ゆきしかりかね さむみかも このころあさち いろつきにけり
歌番3900 けさのあさけ あきかせさむく ききしなへ のへのあさちは いろつきにけり
歌番3901 やまたかみ ゆふひかくれの あさちはら のちみむためと しめゆはましを
歌番3902 おもふより いかにせよとか あきかせに なひくあさちの いろことになる
歌番3903 しくれのみ まなくしふれは かすかのの あさちのいろも うつろひにけり
歌番3904 あきはきは さきぬへからし わかやとの あさちかはなの いろつくみれは
歌番3905 まくすはふ をののあさちを こころより ひとひかめやも われならなくに
歌番3906 きみかため わかてもすまに はるののに ぬけるつはなそ くひてこえませ
歌番3907 わかきみに けぬはこふらし たまひたる つはなをくへと いややせにやす
歌番3908 つはなつむ あさちかはらの つほすみれ いまさかりなり わかこふらくは
歌番3909 わたつうみの おきなかにひの はなれいてて もゆとみゆるは あまのいさりひ
歌番3910 かたをかに ひのはるはるに みえつるは このもかのもに たれかつけけむ
歌番3911 あちさゐの やへさくことく やへよにも いませわかせこ みつつしのはむ
歌番3912 あかねさす ひるはうちたし あちさゐの はなのよひらに あひみてしかな
歌番3913 はるはきて きのふはかりを あさみとり いろはけさこく のはなりにけり
歌番3914 はるさめに しへゆるむらし はなのくさ こくのはなへて さきみちにけり
歌番3915 あきののは ねこしにこして もてぬとも いはほのたねは のこしやはせぬ
歌番3916 はるののに すみれつみにと こしわれそ のをなつかしみ ひとよねにける
歌番3917 わかやとに すみれのはなの おほかれは きやとるひとや あるとまつかな
歌番3918 やまふきの さきたるのへの つほすみれ このはるさめに さかりなりけり
歌番3919 かすかのに けふりたつみゆ をとめこし はるののをはき つみてくるらし
歌番3920 みよしのの やまのかすみを けさみれは わらひのもゆる けふりなりけり
歌番3921 わかために なけきこるとも しらなくに なににわらひを たきてつけまし
歌番3922 けふりたち もゆともみえぬ くさのはを たれかわらひと なつけそめけむ
歌番3923 あしひきの やまたのさはに ゑくつむと ゆきけのみつに ものすそぬらす
歌番3924 あしひきの やまさはゑくを ともにひかむ ひたにもあはむ おやはせむとも
歌番3925 なつののの しけみにさける ひめゆりの しられぬこひは くるしかりけり
歌番3926 みちのへの くさふかゆりの のちにてふ いまてふことを われはしらめや
歌番3927 みちのへの くさふかゆりの はなゆゑに ゑみせしからに つまといはましや
歌番3928 ひとしれす こひはしぬとも みそのふの からゐのはなの いろにいてめや
歌番3929 すめらきの かみのみやひと まさきつら いやとらしきに われかへりみむ
歌番3930 あしひきの やましたひかけ かつらける ううへにやさらに うめをしのはむ
歌番3931 をとめこか ひかけのうへに ふるゆきは はなのかさしに いつれたかへり
歌番3932 ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ
歌番3933 ひとしれぬ こころをきみに おくやまの おもひかけてふ くさにおひけり
歌番3934 あさひかけ にほへるやまに てるつきの うつくしつまを やまこしにおきて
歌番3935 わかこひを しのひかねては あしひきの やまたちはなの いろにいてぬへし
歌番3936 けのこりの ゆきにあひたる あしひきの やまたちはなを つとにつめらな
歌番3937 あしひきの やまたちはなの いろにいてて わかこひなむを やめむかたなし
歌番3938 みよしのの みくまかすけを あまゐるに かりのみかりて みたれなむとや
歌番3939 あしひきの やまにおひたる すかのねの ねむころみまく ほしききみかな
歌番3940 をみなへし さくのにおふる しらすけの しらぬこともて いはれしわかせ
歌番3941 しほのねに ねさすこすけの しのひすて きみにこひすて あはてへむとも
歌番3942 みわたせは みもろのやまの いはほすけ しのひにわれは かたおもひそする
歌番3943 おほみやの みかさにぬへる ありますけ ありつつみれと ことなきわきもこ
歌番3944 すかのねの ねむころいもに こひむかも うらおもふこころ おもほえぬかも
歌番3945 おくやまの いはもとすけの ねふかくも おもほゆるかも わかおもひつまは
歌番3946 おくやまの いはかけにおふる すかのねの ねむころわれも あひおもはさらむや
歌番3947 いもかため すかのみとると ゆくわれは やまちまよひて このひくらしつ
歌番3948 みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはさらめやは
歌番3949 ささのはも さえつるなへに あしひきの やまにはゆきそ ふりつみにける
歌番3950 たまささの はわきにおける しらつゆの いまいくよへむ われならなくに
歌番3951 ちはやふる かみのうつきに なりにけり いさうちむれて あふひかささむ
歌番3952 おもふなか さけにゑひにし われなれは あふひならては やむくすりなし
歌番3953 あふことの かたはみくさも つまなくに なとわかそての ここらつゆけき
歌番3954 つくまえに おふるみくりの みつはやみ またねもみぬに ひとのこひしき
歌番3955 こひすてふ さやまのいけの みくりこそ ひけはたえすれ われやねたゆる
歌番3956 われもふり よもきもやとに しけりにし かとにおとする ひとはたれそも
歌番3957 ふるさとと なるそわひしき なつころも よもきのうへの つゆみることに
歌番3958 あきかせや よもきのやとに ふきぬらむ こゑなつかしく なくきりきりす
歌番3959 ときはなる まつにかかれる こけみれは としのをなかき しるへとそおもふ
歌番3960 いしのうへに おひいつるこけの ねもいらす よなよなものを おもふころかな
歌番3961 おくやまの いはほのこけの としひさに みれともあかぬ きみにもあるかな
歌番3962 あふことを いつかそのひと まつのきの こけのみたれて こふるこのころ
歌番3963 みちのへの いちしのはなの いちしろく ひとみなしりぬ いもにこひすと
歌番3964 おほはらの このいちしはの いつしかと わかおもふいもに こよひあへるかも
歌番3965 たたみえむ へたてあむかすに かよひせは みちのしはくさ おひさらましを
歌番3966 みちのへの いつしははらの いつもいつも ひとのゆるさむ ときをしまたむ



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